エピローグ
10年後、ペステンの街道をヴァージル領へと向かって2人の子供と1人の青年が歩いていた。
子供は2人とも腰には双剣をぶら下げている。
子供の癖に魔術を使い、剣の腕も立つという。
通りがかった村や町で、魔物や盗賊を退治していた。
男の子はアグノバラウ、女の子はアノリスクァートラ、青年はファシスと名乗っていたと言う。
無論、男の子は健介、女の子はシーリア、青年はドラゴンの人型だ。
名付け親はソナックである。
長ったらしい名前だが、約10年その名前で呼ばれているので、健介とリアは慣れてしまった。
ファシスはソナックが臨時に手配してくれた、ドラゴン用の魂と精神を注入してある。
人型の仕様も変更してくれていた。
シーリアと同時にランも手配されているだろうから、顔を変え、髪と目の色を変えてある。
以前よりも柔和な感じの顔になり、黒髪、黒目になった。
まだ子供の身体だが、リアが両親を心配していたので、訓練もそこそこに研究所を出てヴァージル領へと向かっているのだ。
通りがかった村や町の噂で、ヴァージル領の現状が凡そ判った。
ヘインツとミレーヌは健在でヴァージル領をしっかり切り盛りしているらしい。
10年前のあの一件の嫌疑は晴れていた。
テルバの主教ナナロムを健介が砲撃で殺した後で、ナナロムに支配されていた者達が正気に戻ったらしい。
ナナロムにはそう言う特殊な能力があると、被害者が話していたそうだ。
そして、この10年で宗教組織テルバは解体消滅した。
しかし、シーリアの本当の肉体は、既に存在しない。
だが、これで良かったのだ。
シーリアと言う存在はちょっと目立ち過ぎた。
思えば、健介がこの世界に来た時から、リアはこの運命に翻弄されていたのだ。
健介は結構楽しんでいたが、リアはどうだろうか?
「子供の身体を手に入れたし、これからはリアに付き合うか。」
健介としては、以前からリアの為に動いていたつもりだったが、その結果目立ち過ぎてこうなったとも言える。
(これからは控えめに行動しよう。)
健介の今の姿は、結構な美少年だった。
金髪碧眼で白磁の肌、まだ子供の可愛らしい顔。
正にこれが美少年という代物だ。
その手の趣味の者なら、涎モノのだろう。
ソナック達、1万年前の生き残りの研究員達は、能力だけでなく外見にも気を使っていた様だ。
研究所からばら撒かれる子供達の親の素体は皆、美男美女が多かった。
魔物と違って人間の調整は何世代も掛かって大変で難しいらしい。
それで納得した事があった。
フィレイ、クリン、エンドーラを始め、優秀な人間はいい女、いい男揃いだった事だ。
健介はやり過ぎだと突っ込んでおいたが。
「ん?
何か言った?」
リアは道端に咲いている花を摘んでいる。
今の彼女は、綺麗な黒髪で乳白の肌、クリクリの大きな目に茶色の瞳で、可愛らしい女の子だった。
こちらも、これが美少女だと、美少女の見本があればこれだと言う感じである。
鎖鎧など着ていなければ、何処かの貴族の深窓の御令嬢と見られるだろう。
将来、美人になる事間違いなしだ。(親の素体も見ているし・・・)
これで魔族を超える才能と素質を持っている因子の持ち主なのだ。
健介とリアで、その因子をばら撒く事を、ソナックと約束している。
それがソナック達の唯一の望みであり、人間の身体を提供してもらう取引だった。
だが、まだまだ子供の身体、子作りには早過ぎる。
「いや、何でもない。」
リアと共に人生をやり直す。
もう少し大人になったら、子作りに励むのも良い。
(と言うか、励まなきゃならん。
リアには悪いが、妾を何人か作るか。)
リアだけに何人も産ませる訳には行かないだろう。
男はともかく、女は危険と隣り合わせだ。
ソナックの話では安産になるような調整をしているらしいが・・・
「まずはリアの両親に会って、養子にしてもらわないとな。」
「そうね。
心苦しいけど・・・仕方ないわね。」
リアの表情は少し暗い。
両親にはシーリアは死んだと話さなければならない。
そして、アグノバラウ(健介)とアノリスクァートラ(リア)が、シーリアの養子の様な存在だったとするのだ。
シーリアの遺言として、ヴァージル領のヘインツとミレーヌを頼る事にする。
ヘインツとミレーヌを騙すのは、健介も心苦しいのだが、色々な意味でこの方法が一番良いと判断した。
まだヴァージル領を狙う者は居り、養子を押し付けようとしていると聞く。
シーリアが消えた今、跡継ぎが居ない為、養子を取るのは必須だ。
しかし、未だにヘインツは養子を取っていない。
リアの父親だから、何故かは何となく判る。
今でもシーリアを待っているのだろう。
アグノバラウ(健介)とアノリスクァートラ(リア)のどちらかでも養子にしてもらえれば、ヴァージル領を守る事が出来る。
可能性は半々と健介は考えている。
アノリスクァートラは10年前に持っていた双剣を所持している。
双剣の使い方を見れば、ヘインツとミレーヌ、或は、ハモや配下の魔術戦士ならば、シーリアと関係のある者と判るだろう。
シーリアに育てられ、剣と魔術を学んだと言えば十分な説得力がある。
シーリアの養子と聞けば、ヘインツとミレーヌも放っては置けまい。
養子は無理でも、多少の便宜を図ってくれるだろう。
「ま、悩んでも仕方ない。
俺達の人生のやり直しだ。」
「そうね。
私達の人生のやり直しね!」
リアは嬉しそうに言って笑った。
ここまでお読み頂き有難う御座います。
素人ゆえ、色々苦労しましたが、何とか書き上げました。
まずは一安心です。(^^)
皆様に少しでも楽しんで頂けていれば幸いです。