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転生の旅  作者: mattsu
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第02話 出会い


 シーリア(健介)が目を覚まして起き上がる。


「シーリア!」


 母ミレーヌが抱き付いて来た。

良い香りと、豊かな胸の暖かい感触にドギマギして硬直してしまう。


「気分はどうなの?

 何だか顔が赤いわ。」


 母ミレーヌはシーリアを見てオロオロしている。


「だ、大丈夫よ、お母様。

 お母様がいきなり抱きつくから恥ずかしくて。」


 健介はシーリアの語群からミレーヌを安心させる言い訳をした。


「そうなの?

 もういつも抱きついてくるのはシーリアの方なのに。」


 とミレーヌは優しい笑顔でまた抱き締めてきた。

健介はシーリアの記憶から確かにその通りである事を悟る。


(というか、夢じゃなかったんだな・・・)


 健介は今更にこの異常事態を噛み締めていた。

シーリアの記憶のお陰で、言葉も理解出来るし対応も問題は無い。

問題があるとすれば、少女の中に健介というオッサンがいることだ。


(俺がこのシーリアの身体に居るって事は、俺の身体はどうなってるんだ?

 シーリアって子が入ったのかな?)


 健介はミレーヌの対応をしつつ考える。

シーリアの記憶にある魔術の基礎知識で、起きた事が大まかに理解出来ていた。


(はた迷惑な話だが、ちょっと面白いな。

 戻り方も判らないし、しばらくは様子見だな。)


 健介はシーリアとして過す覚悟を決めた。


 朝食の席で父親にも心配されたが、母ミレーヌの様に抱きついたりはして来なかった。

まあ、父親とはそう言うものだろう。

健介としても、男に抱きつかれるのは遠慮したいので問題は無かった。


 シーリアの毎日は、いわばお稽古の毎日だ。

伯爵令嬢というのも大変である。

シーリアの記憶を持つ健介は、大した労力も無く稽古に付いていく事が出来た。

健介の経験と知識が加わって、更に磨きがかかったと言っても良い。

芸術以外だけだが。


 稽古の合間に、庭を散歩していると門の所に1人の少女を見つけた。

少女はシーリア(健介)を見て手招きしている。

健介は興味を持って門に駆け寄った。


「何ですか?」


 と健介。

しっかりシーリアを演じて令嬢っぽく振舞っている。


 門にいた少女はシーリアをじっと見た。

健介は少女に見つめられ、思わず赤面して困ってしまう。


「ええと、何か御用ですか?」


 と健介は改めて問いかける。


「私はシーリアです。

 貴方は誰ですか?」


 と少女は唐突に質問してきた。


 少女と健介は無言で見詰め合う。


 健介は少し迷った。

面倒事は御免だが、ここで突き放すのは可哀想である。

目の前の少女の中身は、この身体シーリアの中身らしいのだから。


「ちょっと待ってて。」


 健介は返事も訊かずに、屋敷へ駆け戻った。


 屋敷のリビングルームらしい場所で、お茶を飲みながら使用人と話をしているミレーヌを見つけた。


「お母様!」


 と健介が呼びかける。


「あら、シーリア。

 お稽古はどうしたの?」


 とミレーヌ。


「それが大切なお友達が来て、今日はお稽古お休みにしたいの。」


 と健介はシーリアの甘える声で言う。


「お友達と遊ぶのはまた今度にしなさい。」


 とミレーヌは取り付く島も無い。


「お母様!

 お友達を大切にしなさいってお母様が言ったのよ!

 それに1日くらいお稽古休んでも、私なら平気でしょ?」


 と健介。

ミレーヌから以前言われていた記憶と、シーリアの出来の良さを褒める評判から、口説き文句を考えた。


「それはそうかもしれないけど。」


 とミレーヌは困った顔をした。


(もう一息だ)


「お母様、私、お父様とお母様の言うとおり、今までいい子にしていましたわ。

 でも、大切なお友達が居なくなったら、いい子ではいられなくなりますわ。」


 と健介は脅してみる。


「ええ?!

 シーリア、我侭言わないで、お母さん困っちゃうわ。」


 とミレーヌはオロオロしている。

シーリアに反抗らしい反抗をされたのは初めてなのだ。


「お母様、お友達とお稽古、どちらが大切なのですか?」


 健介はミレーヌを真っ直ぐ見つめて訊く。


「も、もう、判りましたわ。

 今日だけですよ。」


 ミレーヌが折れて、疲れたようにため息をつく。


「ありがとう、お母様。

 大好き!」


 と健介はシーリアの記憶にある愛情表現を行使する。

ミレーヌにキスして、赤面しつつ門に走って戻った。

照れくさいが、子供がいきなり冷たくなったら親も心配になるだろう。

ミレーヌを泣かせたくなかったと言うのが、理由である。


 門に戻ると、例の少女が待っていた。


「お待たせ、そっちから入って。」


 と門の脇にある鉄格子のドアを指す。


「大丈夫、知ってるわ。」


 と少女。


(ああ、そりゃ本人だもんな。)


 健介は納得して屋敷に連れて行く。

取り敢えず、2人きりで話せるようにシーリアの部屋へ移動した。


 子供部屋にしては広い部屋に、小さなテーブルと2つの椅子が用意されている。

さすが、伯爵令嬢の部屋だ。

そのテーブルに2人がつく。

直に使用人がやってきて、香りの良い紅茶を置いていった。


 少女を良く見ると、結構可愛い。

シーリアの身体よりは、目の前の少女の方が好みであった。


(って、何考えてんだ俺は?)


 健介は自分で突っ込みを入れていると、少女が話しかけてきた。


「あなたは誰なの?」


「・・・言いたく無いわ。」


 と健介。

相手のシーリアの為にも、言わない方が良いだろう。

42歳のオヤジがシーリアの身体を使っているなどと聞いたら、貴族のお嬢様は卒倒しかねない。


「な?!

 名前くらい名乗りなさいよ。」


 と少女シーリアが膨れる。


「まあまあ、落ち着いて。

 大切なお友達と言う事になってるのだから。

 会って早々喧嘩などしたら、怪しまれてしまうわ。」


 と健介がなだめる。


「そ、そうですわね。」


 とシーリアはお茶のカップを手にとって香りを嗅いで飲む。

見かけは平民の少女でも、中身はお嬢様だ。


「まあ、呼び名が欲しければ、ミコトと呼んで。」


 と健介は偽名を使う。


「ミコトね。

 判ったわ。」


 とシーリア。


「ところで、あなたの名前は?

 身体の方の。」


 と健介が聞く。

彼女をシーリアと呼ぶわけにはいかない。


「え、ああ、そうね。

 フィレイよ。」


 とシーリア。


「そう、ならこれからフィと呼ぶわね。

 大切な親友だもの。」


 と健介。


「そうね、じゃあ私もリアと呼ぶわ。」


 とシーリア。

自分の愛称を言うのは気恥ずかしいようだった。


 フィことシーリアと色々と話をした。

だが、シーリアの知っている事はシーリアの使っている身体、フィレイが転生に使われる為に一時誘拐されたことくらい。

犯人の目星は判らないし、判ったとしても今の状況が変わる訳ではない。

また、下手に騒ぎ立ててヴァージル伯爵家に汚名がつくのは困るとシーリアが言う。


「フィ、なら2人で軍属魔術学校に行きましょうか?」


 と健介。


 軍属魔術学校は、その名の通り魔術を中心に勉強する学校である。

軍属なのは、優秀な人間を国が欲している為に、魔術学校は全て軍属になっているのだ。

また、魔術学校の近くには必ずダンジョンがあり、その管理をしているのも魔術学校で、直近くに軍の駐屯地もあったりする。


「そこで魔術を勉強して2人で転生を行おうと言う事ね?」


 フィも直に察したようだ。


「そう言うこと。

 今の状態の事は2人の秘密。

 私はどちらでも良いけど、フィは早く自分の身体に戻りたいでしょう?」


 と健介。

フィは真面目な顔で頷く。


「ミコト、あなたは自分の身体に戻りたくないの?」


 とフィは不安げに訊く。

健介は首を振る。


「多分、私の身体はもう死んでる。

 根拠は無いけどね。」


 と健介。


 シーリアの知識から考えると、異世界の人間である健介の魂と精神がこっちの世界に引っ張り込まれたのは、本当に稀なことだ。

こっちの世界の誰かの魂と精神があっちの世界の身体に入ったとは思えなかった。

例えて言うなら、併走する大きな船でキャッチボールしていたら、向こうの船からこっちの船にボールが上手い事飛んできてキャッチされたと言う事だ。

だが、こっちの船から向うの船に飛んだボールが、同じように上手くキャッチされたとは思えない。

移動距離が遠ければ遠いほど失敗する可能性が高い、異世界なら天文学的な確立になるだろう。

奇跡は2度起きない。

つまり、健介の元の身体は死んだと見て良い。


「そう。」


 フィも何となく察した様だ。


「それで、どうする?

 私はこの身体を交換するのは構わないわよ。」


 と健介が気を取り直して言う。


(そう、俺にとってはどっちでも良い。)


「そうね。

 でも、この身体の両親はそれ程裕福ではないのよ。」


 とフィ。


「そんなの問題にならないわ。

 シーリアの両親はヴァージル伯爵家よ。

 私がお父様に頼んでみるわ。」


 と健介。


「大丈夫かしら、お父様は厳しい人よ。」


「大丈夫よ。

 シーリアのお父様は厳しいけど、優秀な人だから。」


 と健介。

シーリアには厳しい事しか目に付いていないようだが、健介には優秀な人間に見えていた。

人の使い方を知っている者、優秀な人間が得難いと言う事を知っている者。

そう言う人物だと思っている。


「そうなんだ。」


 とフィは嬉しそうに笑った。


 夕方になるまで、フィと話し合った。


「それじゃ、お父様に話をしておくから、あなたもそっちの両親に話をしておいてね。」


 健介は魔術学校の件を言う。


「ええ、判ったわ。

 お父様の説得頼みましたわ。」


 とフィ。


「まかせて。」


 と健介。


(1日で、大分少女の思考になれてきたな。

 男としては哀しいが。)



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