第25話 次の戦の始まり
しばらくして、クリン達の恋愛と結婚に関する悩みは、考える余裕を無くす事になった。
ショミル王国方面からペステンに魔物の大群が侵入したのである。
その魔物の中にはドラゴンも居ると言う事で、城の中は大騒ぎであった。
無論、健介では無い事は直に釈明したが、それとは別にドラゴンにはドラゴンと言う事で出撃を命じられた。
魔物の大群がどの程度のものか、詳しい情報が入って来ない。
情報部員も魔物に食われたらしい。
今は小さな村が襲われただけのようだが、早急に対処しなければならない。
近隣の領の兵士は自領の村や町を守るので手一杯だ。
他の部隊の出撃を待たずに、シーリア部隊は先行して出撃した。
シーリア部隊は人数が少なく、小回りが効くのだ。
ショミル方面へと2日掛けて行軍し、シーリア部隊は魔物の大群と戦闘状態に入った。
魔物達はシーリア部隊を見つけると、ワラワラと襲い掛かってきた。
数は凡そ3百弱といった所だろうが、殆どは雑魚だ。
ハルカントが見えるが5匹しかいない。
「一般兵は方陣隊形!
魔術戦士は分散遊撃!」
リアが号令を叫ぶ。
長い隊列の中で一般兵が4角の隊形をとり、剣を突き出す。
魔術戦士はその周囲に展開して、個別に魔物と戦い、一般兵の援護に魔法を放つ。
遠くの方に大きな影を見る事が出来た。
健介にはそれがドラゴンである事がわかった。
「リア!
俺はドラゴンをやる!」
健介は叫び、ドラゴンへと姿を変えた。
押し寄せる魔物の真ん中を突っ切って魔法とブレスを撒き散らして援護しつつ、相手のドラゴンへと近寄った。
そして、言葉を交わす事無く、ドラゴン同士の戦闘が始まった。
健介はドラゴンのブレスと魔法攻撃を半分浴びる形でかわし、その返礼としてそのドラゴンの頭部に尻尾を叩きつけた。
健介の身体半分は少し焦げているが、表面だけであり、大したダメージでは無い。
相手のドラゴンは、ドラゴンとの戦闘経験が無い事が判った。
自分もドラゴンでありながら、相手に効果の薄い炎の攻撃をしている。
相手のドラゴンは後ろへと倒れて脳震盪でも起したのか、じたばたと足掻いている。
健介は少し距離を開けて、増幅魔法に続けて氷結魔法を放った。
ドラゴンの身体が凍結し始めると、ドラゴンはブレスを自身へと放ち、凍結を防いだ。
(そう簡単には行かんな)
健介は直に雷撃魔法に切り替え、ドラゴンに雷撃を浴びせる。
ドラゴンが怯んでいる内に接近し頭部を殴りつけ、離脱する際に尻尾を身体に叩きつけた。
尻尾についている棘が、ドラゴンの身体に突き刺さり、血が流れ出す。
相手のドラゴンは既に動きが大分鈍っていた。
健介はドラゴンの目の前で魔法の爆発を起して目眩ましにし、一気に近寄って豪腕をアッパーの要領でドラゴンの腹部へと叩き込む。
豪腕の爪が腹部を切り裂き、心臓へ突き刺さった。
ドラゴンはその衝撃で身動きが取れなくなって、そのまま絶命した。
健介はドラゴンの腹から腕を引き抜いた。
(このドラゴンは俺が出会ったばかりのランと同程度の奴だな。
当然か・・・)
振り返って、魔物の大群との戦いの様子を見ると、粗方片付いていた。
ハルカントもリア達が出るまでも無く、部下の魔術戦士達が仕留めていた。
(なかなか優秀だ。
鍛えた甲斐があったな。)
周囲を見回して、探査魔法を使う。
他に魔物はいないようだった。
人型へと戻って、リア達と合流せずに近くに見えた村へと向かった。
あれだけ魔物が居たのだ、生存者は居ないだろうが、可能性はゼロでは無い。
村に入って、歩きながら様子を見ていく。
村の様子は悲惨であった。
魔物に食い散らされた村人達が倒れている。
仰向けに倒れ、ポッカリ開いた腹部には内臓が無かった。
腕や足も引き千切られ、彼方此方に肉が食い千切られた腕や足が転がっている。
その中に、チラホラと焼け焦げの後があった。
放射状になっているところを見ると、ドラゴンのブレスで焼かれたようだ。
「どう?
何かあった?」
リアが健介の方へと走って来て言う。
「いや、生存者は居ないようだな。
酷い有様だ。」
と健介。
2人で歩いて行くと、健介は泣き声を聞て立ち止まる。
小さく弱々しい泣き声だった。
「どうしたの?」
「静かに!」
健介は耳を澄まして、泣き声の方向を探る。
その泣き声は、幼児くらいだと予想した。
「こっちだ。」
健介は声のする方へと小走りする。
たどり着いた先には、2つの焼け焦げた死体があった。
折り重なる様にして並ぶ死体の下。
そこから泣き声が聞こえていた。
健介が死体を退かすと、その下に2歳くらいの幼児がいた。
抱上げて様子を見たが、足に軽い火傷がある以外は外傷は見当たらない。
だが、衰弱しているようで、ぐったりとして弱々しく泣いている。
恐らく、両親と思われる死体が焼け焦げているせいで、幼児の臭いが誤魔化せたのだろう。
だから、魔物に食われなくて済んだのだ。
「水を、それと直に粥を作ってくれ。」
健介はリアに言いつつ、治癒魔法で火傷を癒す。
リアは頷いて補給部隊へと走り出した。
健介も幼児を抱きかかえながら、ゆっくり走って後を追う。
水袋を持って戻ってきたリアから水袋を受取り、幼児に少しずつ水を飲ませる。
「湯も沸かしてくれ。
村の方で水は確保出来るだろう。」
健介がリアに言う。
リアが幼児の様子を見て頷き、補給部隊に指示し、兵士達に周囲の警備を指示した。
フィとエンドーラも周囲を警戒しに走り出した。
「その子、生き残り?」
クリンが心配そうに見ている。
「ああ、大分衰弱しているが、多分大丈夫だ。
クリン、この子に粥を食わせてくれ。
冷ましてゆっくりと食わせるんだぞ。」
健介はクリンに幼児を渡す。
「う、うん。」
クリンは幼児を受取ってあやす。
健介はクリンに幼児を渡してから、クリンが医術を学んでいる事を思い出した。
(衰弱した者の看病くらい知ってるか。)
幼児には水分補給とエネルギー補給の為の糖分補給が必要だ。
ブドウ糖の点滴など無いし、ビタミン剤も無い。
貧しい村には砂糖なんてないし、シーリア部隊は軍だからそんな贅沢品など無い。
家畜も魔物にやられているからミルクも無いし、果物などすぐに見つからないから、選択肢は1つしかない。
ドロドロに溶かした粥を食わせる事だ。
健介はまた村へ行って、他の生き残りが居ないか探したが、もう居なかった。
クリンの居る補給部隊のほうへ戻ると、クリンとリアが幼児に粥を食わせていた。
幼児は先程よりも血色が良くなったように見える。
後は身体を清潔にして、休ませれば問題なかろう。
「生存者はその子だけだ。」
健介が幼児を見ながら言う。
「それにしてもおかしいわね。
魔物が、それも複数種類の魔物が、大挙して襲ってくるなんて。」
とリア。
魔物は通常、群れを成すにしても単種で群れる。
複数種類の魔物が群れる事などまず有り得ないのだが、今回はそれが起こっている。
群れない魔物の最たるものであるドラゴンも居たのだ。
「何かおかしいな。
雑魚はともかく、ドラゴンまでいるとは。」
健介も腕を組んで考える。
(嫌な予感がする・・・)
ドラゴンとなった健介自身が一番この異常事態に懸念を持っていた。
翌日、幼児の容態が安定した事を確認し、城へと移動を開始した。
幼児は孤児院に入れる事になるだろう。
城に帰還して魔物の事を報告すると、事態の不可解さに色々な噂が飛び交った。
しかし、その噂も1つの切欠で収まることになる。
王の勅命によって、准将以上の軍人が召集された。
その場で、明らかにされた事は、召集された者達を驚愕の渦へと陥れた。
リアが戻ってきて、その内容を仲間の面々に話す。
情報源はショミルから亡命してきた魔術師であるという。
その魔術師はショミルである研究に携わっていて、その成果が今回の魔物の襲撃に繋がった事。
ショミルのダンジョンの最深部には魔物を生成する魔法装置があり、それをショミルの魔術師達が修理して使い始めたと言う事だった。
魔法装置は魔物を生成し、地上へと転送出来るらしい。
そして、魔物には簡単な指令なら出来るようになっていると言う事だった。
恐ろしい事に、その魔法装置でドラゴンをも生成出来ると言う。
だが、ドラゴン程の魔物になると、1匹生成するのに3ヶ月は掛かるらしい。
「とんでもない話ですわね。
信じられます?」
エンドーラが難しい顔をする。
信じて良いのか判らないという表情だ。
「恐らく、その魔術師の話は本当だろう。
俺も魔物は生物兵器では無いかと疑っていた所だ。」
健介が皆の顔を見渡して言った。
健介の予想が当っていたようだ。
「生物兵器?」
クリンが首をかしげる。
「簡単に言えば、兵器となる生き物を作り上げ、その生き物で相手を攻撃する。
これが生物兵器だ。
魔物も生物だからな。」
健介が簡単に説明する。
「ダンジョン内の魔物も魔法装置によって転送されてきたのね。
一体何処から入ってきたのかと思うような魔物も居るから、不思議に思っていたのよね。」
リアが納得する。
それはダンジョンに入った事の有る者の誰もが一度は思うことだった。
「亡命魔術師の言う事が本当なら、ショミルは魔物を生成して我が国を攻撃し始めたと言う事ですわね。」
とエンドーラ。
信じる信じないは後回しにしたようだ。
「ええ、王も軍上層部もそう判断したみたい。」
とリア。
「始まったのね、戦争が。」
クリンの言葉が重く部屋に響いた。
ショミル王国の王の執務室で、ショミル国王は怒りと焦燥に身を焦がしていた。
「一体何をやって居るのか!?」
ショミル国王が叫ぶ。
戦力として生産させた魔物が、制御しきれずに勝手にペステンの村を襲い始め、その魔物たちはペステンの軍に殲滅されたという。
まだ軍備もろくに準備していない段階で、ショミルと戦端を開く事になってしまう。
そこに、新たな伝令がやって来た。
その報告を聞いたショミル国王は、椅子に座ってしばし呆然としていた。
ダンジョン地下の魔物生産をする魔法装置の研究員の魔術師が逃亡、ペステンへ亡命を果たしたという。
これでは言い逃れも出来ない。
外交で時間稼ぎも出来ない状況。
非常に不味い事態だった。
「至急軍を動員させろ!
魔物を可能な限り生産して、ペステンから我が国の間の適当な場所に配置しろ。
そこで時間を稼げ!」
ショミル国王は今出来る事をとにかく指示した。
ショミル軍が完全に揃えば、ペステンを上回る戦力である事は事実だ。
問題はその時間を稼げるかどうかである。
魔物を戦力として扱う事はまだ実験段階であり、魔物がペステンの村を襲った事は事故であった。
だが、ショミルの村が襲われないように、ペステンの国境近くに魔物を出現させた事自体、侵略行為と見なされても文句は言えない。
どちらにしても、魔物の制御が確実になれば、結局はその魔物で襲わせる事になったのだから、遅いか早いかの違いでしかないのだが。
ショミル軍の動員は、かなりの時間を要する事が予想された。
原因は内紛である。
ペステンよりも大きな国土と勢力を誇るが、その反面、前回のペステン攻略に失敗した事で内部分裂が起こったのだ。
その内部分裂も修復されたのだが、まだ一枚岩と言うには程遠い。
一致団結して事に当れるかどうかはこれから試す事になる。
そう言う状況だからこそ、魔物を戦力にしようとしたのだが、裏目に出てしまった。
魔物を戦力にする事を嫌っている派閥もあり、支援を受けられるかどうかも怪しい状況だ。
ショミルとペステン、時間との競争が始まっていた。
リアも参加している軍事会議では、議論が紛糾していた。
ショミル王国は攻めるには遠い国だ。
軍が行軍していけば、障害が無くても20日は掛かる。
しかも、ペステン王国よりも規模が大きく、当然戦力はあちらが上だ。
以前の戦争では、その距離が味方になってくれたが、今度は逆である。
さらに、時間も余りかけられない。
相手は魔物を生成する魔法装置を持っている。
3ヶ月と言う長い時間を掛ければ、ドラゴンさえ作り出せるのだ。
これほどの脅威はない。
不利でありながらも、攻勢に出なければならない。
そんな状況なのだ。
その日の軍事会議を終えて、宿舎に戻ったリアはフィ、クリン、エンドーラと参謀の4人を交えて会議をした。
皆に軍事会議の内容を話した後、意見を聞く。
「どうにも戦力が足りないですね。
人の戦力だけでも不利なのに、向うは魔物を使う事が出来る。」
クリンは困った顔で腕組みしている。
「現状では一方的にやられてしまいますわね。」
エンドーラはクリンの意見に頷き、悩んでいる。
「参謀の意見は?」
健介が参謀に意見を求める。
彼らは意見を交換して、レグクムが発言する。
「少なくとも、現状戦力で攻勢に出ても勝ち目は無いと考えます。
ツガノに援軍を要請しても、恐らく焼け石に水でしょう。
彼の国の軍の質は余り高くはありませんから。
ショミル軍と魔物を退ける為には、一般兵の戦力を魔術戦士程度に上げる必要があります。
相手のドラゴンはラン殿に任せるとして、他の魔物は一般兵に、ショミル軍は魔術戦士に
それぞれ別けて戦うように仕向ける事が出来れば、勝機はあります。」
とレグクムが説明した。
「一般兵の戦力を上げる。
難しいですわね。」
エンドーラは額に手を当てる。
「確かに、一般兵の実力が底上げできれば、戦局は一気に良くなりますが。
それが出来れば既にやっていますからね。」
クリンも腕組みして考えている。
「他に策は無いの?」
とリア。
「無い事は無いですが、時間が掛かるので相手の出方が不透明になり、確実性が下がります。
敢えて言うなら、ショミルの全軍をペステンに引き付けておいて、別働隊をショミルへ向かわせます。
そこで魔法装置を破壊し、ショミルの王都を占拠する。
さらに、ペステンに侵攻してきた魔物とショミル軍を撃退する。
2正面作戦ですが、ショミルへ行く軍は少数で良いので、勝機はあります。
ただ、先ほども言いましたが、この作戦は時間が掛かる上、相手の動きが読みにくいので、確実性が下がります。」
とレグクム。
「全軍を引き付けると言うのは危険ですわね。
そこで負ければ、ショミルを占拠できても帰る場所がなくなりますわ。」
とエンドーラ。
「そもそも全軍を引き付ける事が出来るかどうかも怪しいわ。
ショミルは魔物が使えるのですから、自国の守りも余裕を持って軍を割けるはずです。」
とクリン。
結局、戦略的な不利は免れない事は決定事項のようだった。
参謀達も経験が少なく、少ない情報と少ない戦力では有効な作戦を立てられそうに無い。
健介は悩んでいた。
自分の知識を何処まで彼らに教えてやって良いのか?
参謀達の出した案は、健介の知識を用いれば2案とも恐らく可能だ。
だが、その為にはこっちの世界に健介の世界の兵器を持ち込む事になる。
例えその製造に時間が掛かろうと、不利を覆せてしまう。
余り良い考えとは言えない気がした。
健介が相手のドラゴンと対峙する事自体は何の問題も無かった。
健介自身のドラゴンの身体の重要な秘密の1つを解き明かしていたから。
その元栓とも言えるリミッターである。
健介はその存在を発見し調べた結果、そのリミッターは健介には解けるものだったが、ランには不可能なものだった。
ランはその存在自体を気付きもしなかったのである。
そして、推測を立てた。
ランは人工知能の様な存在なのだろう。
ドラゴンの身体を管理し操作する人工知能。
恐らく、本来は外からの命令か何かで、このリミッターを外すのだろうが、健介は自身で外す事が出来た。
ランにそう言う制限があったのだと推測できる。
このリミッターを外すと、今まで見つけても使えなかったドラゴンの身体に隠された兵器が使えるようになるはずだ。
まだ試した事は無いが・・・
ドラゴンの体内に眠る膨大な魔力は、普通に戦ったり魔法を使ったりする分には、膨大すぎて使い切れるものではないのだ。
その事自体、少しは不思議に思っていたが、その理由がこれだった。
ドラゴンの身体にある兵器の為に、膨大な魔力があるのだ。
しかし、健介はこの兵器を使いたくなかった。
これだけ膨大な魔力を使う兵器である。
とんでもない破壊力を持っているに違いない。
敵国の兵士を殺す事に躊躇は無い。
いや、あるにはあるが仕方ないと割り切れる。
問題は兵器を使った後だ。
そんな兵器の存在が知られれば、色々な意味でどうなるか判ったものではない。
危険だと言う事で殺されるか、他の国を侵略する為に使おうとするか。
厄介ごとに巻き込まれるのが目に見えている。
リミッターを外すだけでも、普通のドラゴンには楽に勝てるほど、ドラゴンの身体の性能が向上するはずだ。
しかし、外すだけ外して終わりと言うわけにはいかないだろう。
多数の魔術戦士にワラワラと攻撃されるのは、いかにドラゴンでも厄介なのだ。
その為の兵器なのだが、しかし・・・
あーでも無いこーでも無いと、悩み続ける健介だった。
夜、リアと部屋で2人になった時、健介は幾つかの事を教える事にした。
それは兵器の知識ではなく、こちらの世界ではまだ無い戦術の知識である。
「野戦築城?」
リアが首をかしげる。
こっちの世界では魔術戦士が居る為、堀やバリケードをちょっと作ったくらいでは意味が無いと思われている。
だが、それもやり方次第である。
「基本的には守りの為の戦術だが、侵攻している最中にも野戦築城をしておけば、有利に事を運べる。」
健介は説明を始めた。
一通り説明を終えると、リアは納得したようだった。
そもそも、城には堀や防壁や柵があるのだから、それを野戦で応用するのだと判れば理解は早い。
例え魔術戦士であったとしても、障害物を飛び越えたり、魔法攻撃しようとしても隙がうまれるのだ。
その間に槍で突くなり弓を放つなりすれば、一般兵でも魔術戦士を殺せる可能性はある。
無論、そこで一般兵に頼る訳ではなく、魔術戦士に対応させる。
「そんな戦術があったのね。
あなたの世界ではそれが普通なの?」
リアがしきりに関心している。
「まあ、そうだな。
戦術の基本とも言える知識だ。」
「他にも何かあるんじゃない?」
「あるけど教えない。」
「どうして?」
「俺の世界の知識を、無闇に持って来てはいけない。
下手すると戦争を拡大する事に繋がる。
俺は平和な国で育ったから平和主義者なんだ。」
健介は軽く冗談めかして言った。
「そう、そんなに危ないものならいいわ。
ごめんなさい。」
リアは健介にそっと抱きついた。
「戦争は無くならないかも知れないが、せめて血を流すのは兵士だけにして貰いたいものだよ。」
健介はリアを抱きとめて、頭を撫でながら考える。
少しして、
「リア・・・粒子魔法・・・使うしかないかもしれないな。」
健介は躊躇いがちに言う。
粒子魔法、分解と結合でそれぞれ魔法がある。
分解魔法は大軍を相手にしては余り用を成さないが、結合魔法は威力を発揮するだろう。
「あの魔法を使うの?」
リアは少し不安そうに聞く。
粒子魔法は健介が使用を極力控えるように要請していた。
破壊力が大きい為、あまり知られたくなかった。
知られれば、それを使った他国への侵攻計画が出て来そうである。
健介の我侭とも言えるが、自分が改修した粒子魔法で戦争が拡大するのは避けたいのだ。
リアもその意見には賛成してくれていた。
「使いたくは無い。
野戦築城だけで済めば良いのだが。」
健介は希望を述べた。
健介の中では、更に別の葛藤もある。
いざとなった時、粒子魔法を使うべきか?
それともドラゴンのリミッターを外して隠された兵器を使うべきか?
難しい問題だ。
その後、更に一般兵の為に楯と槍を用いた戦法を教えた。
集団で楯の壁を作り、槍と楯で防御陣を作る戦法は一般兵の生存率を上げるはずだ。
一見、魔術戦士の魔法の餌食になりそうだが、それは味方の魔術戦士が牽制すれば良いだけの話。
それに防御陣の後ろは安全地帯であり、味方の魔術戦士が安全に魔法を放つ格好の場所になる。
これも兵士を使った一種の野戦築城と言える。