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転生の旅  作者: mattsu
22/38

第21話 上級指揮官




 クリンとエンドーラの魔術研究は、フィの助言を得ながら順調に進んでいた。

クリンとエンドーラの魔術構成に関する理解も深まって、既に念話魔法の魔術構成の下書きのような物は出来ていた。


 健介は後2ヶ月もあれば終わると予測した。

転移魔法に比べてもずっと単純な魔法だし、クリンとエンドーラも十分に理解しているようだった。

もう健介がサポートに出ることも無いだろう。


 そう思っていたら、1ヶ月を過ぎた辺りで完成させてしまった。

魔術構成をいじくるのはクリンとエンドーラの方が向いているのかもしれない。


 念話魔法は慣れが無いと使いにくいものだったが、有用性が高い事は明らかである。

視認できる相手、距離は使用する術者によるが凡そ20〜200メートルの者と意思疎通が出来る。

一度相手をロックオンしておけば、間に遮蔽物があろうと電話と同じように話す事が出来る。

同時に複数の人間と話せないのが、トランシーバーと異なる。

望遠鏡と手旗信号or光信号の組み合わとは、適用範囲と用途の住み分けも出来る。


 この国は望遠鏡と念話魔法という情報ツールと、転移魔法と言う移動手段を手に入れたわけだ。

その全てがリアチームから出た訳で、この意味が判るものがこの国に居ればどうなる事か?

いまさらに健介は不安を感じていたが、それは杞憂に終わった。


 地位、名誉、権威、金、そういったモノが判断基準の上層貴族達は、個人の資質やチームワークと言うものを軽視する傾向がある。

一部の貴族には見る目のある者も居るが、目の届く範囲は限られている。

特に軍部と言うのは閉鎖的であるため、軍に介入出来る程上層にいる貴族で無ければ、リアチームの情報を詳細に知ることは出来ない。


 望遠鏡、念話魔法、転移魔法は軍の機密であり、それがリアチームの作成したものだと言う情報も機密事項である。

よって、健介が心配するような貴族にもそれが知られる事は無かった。

尤も、望遠鏡の存在自体はキスリン教官が売り込んだ為に、上層貴族全体にその存在を知られる事になったが。

それもキスリン教官の復習のようなものだったのだろう。

聞く所によれば、キスリン教官は大分蔑ろにされていた様だったから。



 ともあれ、クリンとエンドーラが卒業資格を得たところで、4人揃って学校を卒業する事にした。

卒業と言っても卒業式があるわけでなく、校長室で認定証書を受取っただけだ。

実にさっぱりしている。


 上級士官学校に入ってからほぼ4年。

健介がこっちの世界のリアの身体に入ってから8年弱。

改めてリア、フィ、クリン、エンドーラを見た。


(この子達も、成長したな。)


 感慨に浸る健介だった。



 

 卒業した4人は、そのまま王国軍特務部隊へと配属された。


 4人は王都の近くにある軍の施設に入った。

4人とも高級指揮官だが、階級が同じという訳では無い。


 高級指揮官は3階級ある。

上から順に、将軍、准将、大佐である。

その下は、少尉、兵長、一等兵がある。

魔術戦士は基本、少尉となる。


 魔術の使えない一般兵は、兵長止まりが通例である。

また、義勇兵を募る場合があり、その場合の階級は二等兵となる。

さらに、傭兵の場合には、その時々によって異なる。

傭兵団の場合はその隊長を少尉や、場合によっては大佐待遇にする場合もある。

実力や規模によるのだ。



 リアを准将として、その配下にフィ、クリン、エンドーラが大佐として入る事になった。

さらに、魔術学校の卒業生が30人ほどと通常の兵士100人弱が配下に入る。


 ちなみに、上級士官学校のチームが一緒の部隊になるのは、チームで卒業した場合には普通らしい。

その方がチームワークを期待出来ると言う事なのだろう。

個別に卒業すると、個別に隊への配属が決まるらしい。


「チームで卒業してよかったね!」


 クリンは嬉しそうだった。




 とりあえず、待機期間という休みが得られた。

今は特務部隊の宿舎でリアと2人である。


「いきなりの大世帯だね。」


 と健介。


 リアは高級指揮官であるから、結構広い1人部屋である。

使用人用の部屋があるため、そこに健介も泊まる事になっている。

他の3人の部屋も、そこそこ広いからフィやクリンの部屋でも良かったのだが、リアの部屋に泊まることになった。


 ドラゴンを下僕にしている事は上官も配下も知っているが、リアがその筆頭と思われているし、その方が良いと判断していたからだ。

実際にはドラゴンの中身は健介であり、盟約による制限は受けていないので、下僕では無いのだが。


「本当ね。

 いきなり130人以上の人の命を預かる立場になっちゃった。」


 リアの階級からすると130人はまだ少ないのだが、今まで仲間しか居なかった所から130人を任されるのだ。

多少は不安になって当然である。

しかし、今後はさらに増えていくだろう。


「元々リアは伯爵令嬢だ。

 上級指揮官にならなくても、多くの人の命を左右する決断を下す立場になった事は同じ。

 その覚悟は有ったんだろう?」


 健介はリアに窘め半分、励まし半分に言う。


「そうね。

 そう言う意味では変わらないか。

 より直接的に関るようになっただけね。」


 リアが微笑んで頷く。


「ああ。

 リアならどんな任務でも、立派にやり遂げるさ。

 フィとクリンとエンドーラ、そして、俺も側にいるのだから。」


 健介はリアの肩に手を置いて励ました。


 シーリアは知識と経験さえ伴えば、健介よりもずっと優秀なはずだ。

シーリアの身体の中に居た健介にはそれが判る。

気になる事があるとすれば、シーリアの性格が若干引っ込み思案気味であることだ。

それが良いか悪いか、判断はしかねるが。


「ありがとう。」


 リアが嬉しそうに微笑む。


「お前達4人は色々忙しいだろうから、俺が魔術戦士達を鍛え直しておくよ。

 いざと言うときに、魔術戦士が使えないと困るからな。」


 健介が提案した。

フィ、クリン、エンドーラは側近として部隊運営に関るから、一々訓練に関る暇は無いだろう。

少なくとも最初の内は。

健介はドラゴンとして飼われているだけだから、暇なのだ。


「そうね。

 お願いするわ。

 一般兵の方は、どうしましょう?」


 リアが思案しながら言う。


「訓練は彼らの中から何人か適当な人を見つけて、訓練を指導させるようにしよう。」


「うん。

 判ったわ。

 ミコト、あなたが居てくれると助かるわ。」


 リアが少し態度を軟化させて、甘えたように言う。

最近は2人きりになると、以前教えた偽名で呼んでくる。

本名を名乗るタイミングを完全に逸していた。


「ああ、当然だろう?」


 健介がニヤッと笑う。


「それと、俺は部隊の部外特別戦力となっているから、直接の指揮権がないんだよ。

 だから、命令書を書いてくれ。

 俺が魔術戦士達と兵士達に命令を出せるように。」


 健介が思い出して催促する。


「ああ、そうだったわ。

 今すぐ書くわね。」


 リアが机に向って書類を書き始めた。


 人間の軍の組織内で、下僕のドラゴンが命令を下すなど、前代未聞の話だろう。

命令書なしでは従う訳がない。

脅しても良いが、いきなり問題を起こす事は無い。


「はい、命令書。

 余り苛めちゃだめよ。」


 リアがからかうように言った。


「苛めるなど人聞きの悪い。」


 健介が苦笑する。


「あなたの訓練は厳しいから。」


 リアは少し寂しそうだ。

まだ卒業して間もないのに、あの頃が懐かしいのだ。

これからは、いつも一緒と言う訳に行かない。


「それは、実戦で命を落とさないようにする為だよ。

 俺達はドラゴンや魔族にだって勝っただろう?」


 健介は寂しそうに顔を伏せるリアの頭を撫でた。


「ええ、そうね。

 あの頃が懐かしいわ。」


 リアは笑顔を見せたが、ちょっと涙目だった。




 リア達は上級指揮官として、貴族や他の上級指揮官との会合に参加していた。

新米であり女性であるリア達は、しかし、ドラゴンを使役する天才として知られており、からかう者は居なかった。


(もう少し貴族の名前を覚えておくんだった。)


 リアは少し後悔していた。

上級指揮官や貴族の名前を訊いても、それがどこの貴族なのか殆ど判らなかった。

大抵の場合、問題にはならないが、やはり貴族社会ではちょっとした事が命取りになりかねない。


 救いはエンドーラだ。

彼女は一応、貴族の名前と勢力を大まかには把握していた。

クリンはリア同様に、他の貴族には疎かった。

フィは平民出身であり、今の中身は元ドラゴンのランであるから、訊くまでもない。


 リアはエンドーラに小声で貴族の説明を聞きながら、会合で話をしていた。

貴族社会でのこうした会合は、一般的にはパーティー形式で行われる。

ここは軍なので、パーティーと言うほど華やかなものでは無いが、堅い会議と言う感じではない。

ちょっとした立食パーティーのようなものである。


 今は平時であり、話題の半分は盗賊と治安に関して、もう半分は世間話である。

盗賊団はその土地の貴族が相手をするが、以前、ヴァージル領に出現した大きい盗賊団などの場合には、王国軍に応援要請が来る場合がある。

王国軍には上級指揮官が指揮を取らない、通常の兵団があり、大抵はその兵団が応援に駆けつける。

それでも解決しない、手に負えない相手であれば、上級指揮官が指揮を取る特務部隊が出撃する。

つまり、リアの参加している会合は、単なる定期報告会みたいなもので、必要ではあるが退屈なものだった。


 ちなみに、この会合は軍人が出席する為のもので、政治を動かすパーティーとは異なる。

上層貴族が政治の為に行うパーティーに参加出来るのは、将軍のみである。

准将以下は特別な理由が無い限り参加は許可されない。



 健介は命令書を持って、まずは一般兵の兵長達を集めた。

彼ら一般兵は年齢が様々だ。

志願した者と徴兵された者。

その中で兵長は、数年以上の経験があるベテランがなる事が多い。



 兵長は8人。

それぞれ10人前後の兵を纏めているリーダーだ。


「私はシーリア准将の命を受け、兵士の訓練の指揮を取る事になった。

 兵長諸君には、各々配下の兵士の訓練を指揮してもらう。

 訓練方法は私が指示した方法で行ってもらう。」


 と健介は説明し、一旦言葉を止める。


 兵長達の反応は様々だ。

真摯に頷いて聞いている者。

嫌そうな顔をしている者。

まともにこちらを見ていない者。

相手が下僕のドラゴンだと思って舐めているのだろう。


「定期的に兵長率いるグループ模擬戦を行う。

 模擬戦で無様な戦いをしたグループの兵長には罰則があるからそのつもりで。」


 と健介が説明を追加する。

すると、まともに聞いていなかった者も、健介を見た。

罰則があるとなれば訊かずには居られないだろう。


 健介は兵長達を訓練場へと連れて行った。


「まず、これから兵長であるお前達に訓練を施す。

 それを持って、お前達が配下の兵に訓練を施すのだ。」


 健介は兵長を見回す。


 兵長の中には明らかに運動不足の者が居て、規律の乱れに繋がりかねない。

兵長も下っ端だから前線に赴くのである。

運動不足では話にならない。

しかも、健介に抗議をして逆らおうとするものが居た。


「命令違反をするのか?」


 健介が問い睨みつける。

睨まれた兵長は黙り込む。


「勘違いしているようだから教えてやる。

 命令違反は例え訓練中とは言え厳罰に処する。

 ここは軍であり、子供の遊び場では無い事を思い出せ。」


 健介が兵長全員を見渡して言う。

健介はここに来る前に軍内部の訓練時の罰則などを調べてみたが、特別な規定は無かった。

健介としては訓練中は鉄拳制裁で済ませるつもりでいたが、それを厳罰と評してしまえば、相手も迂闊な事は出来まい。


 大人しくなった兵長達を、健介は扱いた。

準備運動から始まり、剣を持って走らせ、剣の型に沿った素振りをさせ、模擬戦を行わせる。

決して難解でなく、特別でもない訓練だ。

極普通の兵士の訓練である。

ただ1つ、模擬戦の真実度、つまり、どこまで本気でやるかと言う度合いは、普通の兵士達の訓練とは違った。

より実戦に近い、殆ど殺し合いの戦いを模擬戦で行わせる。


「死なない限り、魔法で治療してやる。

 もっと本気で戦え!」


 健介が怒鳴る。

ドラゴンである健介に怒鳴られて、兵士たちは怯えつつ従っていた。


 彼等のような一般兵は魔法が使えない為、ここまでの訓練はしないのだ。

魔術戦士でもここまでの訓練をする者は少ない。

兵長達の配下の訓練時は、魔術戦士の中から治療の為の人員を派遣する予定である。


 一通りの訓練が終了すると、兵長の半数は訓練場に倒れて荒い息をしていた。


「これから1日おきにこの訓練を行う。

 兵長から配下の兵士へ訓練をするのは、1月後からとする。

 次回は明後日だ。

 昼過ぎに、この訓練場に集まる事。」


 と健介が訓練場を去る。




 次の日、魔術戦士の者達を同じ訓練場に集めた。

この訓練場は、一応、上級指揮官シーリアの兵団専用である。

彼ら魔術戦士達は、魔術学校からの卒業生でベテランは居ない。

故に、年齢も全員15〜18歳と若い。


「私はシーリア准将の命を受け、兵士の訓練の指揮を取る事になった。

 まずはグループ分けからする。

 2つのグループに分かれてくれ。」


 健介が軽く挨拶し、指示する。

魔術戦士の者達は、兵長よりも素直に従った。

ダンジョンに潜って魔物と戦って、一般兵よりも魔物に接しているからだろうか。

或は、リア、フィ、クリン、エンドーラが同じ魔術戦士であるから、その下僕のドラゴンであるから敬意を払っているのか。



 2つのグループに別けたのは、一般兵の治療組みと訓練組みに別ける為だ。

1日おきに治療組みと訓練組みを交代する。

これで、一般兵も模擬戦でより実戦に近い訓練が出来る。


 魔術兵士の訓練内容も、基本は一般兵と同じである。

1つ違うのは剣での修行以外に、魔術だけの修行もある事だ。

魔術兵士なら魔術戦も訓練しなければならない。


 少数の魔術兵士で戦う場合には、魔術による魔法の行使が行われる事は無い。

魔法を使うよりも、走りよって剣を振った方が速いのだ。

だが、多人数で戦う場合には、魔法の援護射撃を上手く出来るかどうかが戦局を左右する。

以前ダンジョンでドラゴンと戦った際に使用した魔術付加した札も、魔法の援護射撃と同等のものである。

札の使用は、魔術を使うよりも若干速い。

魔法によって1〜数秒ほどの差がでる。

その差がドラゴンとの戦いでは致命的な差になるのだ。

魔術戦士同士の戦いとなれば同じ事が言えるが、クリンやエンドーラレベル以上になると札さえ使う暇が無い。

ドラゴン相手の場合、数人居るから札が使えるのだ。


 ともかく、健介の指導で魔術戦士のメンバーを訓練する。

彼らは健介の見たところ、魔術学校では中の下程度の実力だった者達だ。

中の中以上の者達は他の部隊へと回されたのだろう。


(やる事が汚いな。)


 健介はそう思いながらも、それ程気にした訳ではない。

魔術学校の状況は知っていた。

中の下であっても、大半は素質がないのではない。

やる気の無さが問題なのだ。


(ならば、やる気が出るようにしてやるまで。)


 健介はにやりと笑う。




 夕方、リア達幹部と健介が食事をしている時、兵士達の状況を説明した。


「一般兵はともかく、魔術戦士が中の下以下と言うのは、私達、舐められているのかしら?」


 エンドーラが堅い声で言う。


「私達も新人ですからね。」


 クリンは特に気にしていないようだ。


「それで、何とかなりそうなの?」


 リアが健介に問う。


「問題ない。

 ざっと見たところ、素質は上の下〜中の上程度はあると思う。

 これから扱き上げる。」


 健介は何でも無い様に言う。


「そう、なら私も訓練に参加して指導しようかしら。」


 エンドーラが燃え始めた。


「いや、まだエンドーラの出る幕ではない。

 今は彼らの実力を底上げするだけで精一杯だ。

 エンドーラに限らず、主達のようなエリートとの模擬戦は、彼らに自信を失わせるだけだ。

 今は、私の指導が主達の命令であると言う事にして置いてくれるだけで良い。」


 健介はエンドーラが来るのを阻止する。

今はまだ健介の扱きだけで、魔術戦士達は苦しいだろうから。


「それは問題ないわ。

 今日早速、問い合わせが来たわよ。

 魔物が訓練指導しているのはどう言う事だ? ってね。

 私が指示したから問題ないと言っておいたわ。」


 リアは笑う。


 その後、リア達幹部は会合での内容を反芻し、意見交換をした。

今のところ、国内では大きな問題は無く、隣国がその向うの国と戦争状態に成りそうだと言う事だけが懸念事項だった。


「パレノルがツガノを落としたら、我が国も狙われるわね。」


 エンドーラは腕組みしながら難しい顔をしている。


 ツガノは隣国、パレノルはツガノを挟んで反対にある国だ。

一応、ツガノとは通商同盟は結んでおり、友好関係にある。


「戦力的にはパレネルの方が大きいけど、ツガノの要塞があるからそう簡単には抜かれないでしょう。

 いずれツガノの要塞も落ちるでしょうけど。

 問題は、我が国に援助要請が来るかどうかよね。」


 リアが地図を睨みながら言う。


「援助要請が来たとして、いつ来るかも問題よ。

 行ってみたらツガノは陥落なんて事になっていたら洒落にならないわ。」


 クリンは戦争の話に不安そうだ。


「援軍派遣でもう1つ問題は、その規模よ。

 我が国も、距離が離れているとは言えショミルとは15年前までは戦争していたのだし、

 戦争は終わったと言っても、協定も同盟も結ばれていないのよ?

 いつ襲われるか判らないから、援軍の規模も抑える必要がある。」


 とリア。


 ショミルとは少し離れた隣国。

15年前まで戦争をしていた相手国。

リア達にとっては、あまり記憶に残らないほど小さかった頃に終わった戦争の話だ。


「そうよね。

 この15年で要塞でも作って置けばよかったのに。」


 エンドーラが少し憤慨したように言う。


 それまでの戦争で国が疲弊していた為、そんな余裕が無かったのが実情である。

逆に言えば、ショミルより国力の回復が遅ければ、次は陥落の危険もある。


 だが、それが判っていても、貴族は腐敗するもの。

魔術学校や上級士官学校などは存続させていたが、質は低下している。

軍の規律も乱れつつあり、軍部内でも利権争いが水面下で行われている。

その1つの結果が、シーリア部隊への魔術兵士の割り当てに影響しているのだ。


「無い物は仕方ないわ。

 今は自分達の仕事をしっかりやりましょう。」


 リアがそう締めくくって、解散とした。


 リア達幹部の仕事は、国内外の情報収集と戦略立案、そして、盗賊狩りなどの応援がたまにあるくらいだ。

と言っても、独自の情報網は無いので、軍の情報部から情報を得るしかない。

それ以外の時間は、自主訓練と言う事になる。



 夜、リアと健介が部屋で2人になると、健介が提案する。


「リア、今いる一般兵100人の中から、参謀を育てる必要があると思う。」


 健介はこの国の軍の現状を見て、ちょっと不安になったのだ。

つまらない戦争でリア達を死なせたくない。


「参謀ね。

 でも、参謀は幹部がなる事になってるんだけど。」


 リアが人差し指を唇に当てながら言う。


「そんな規則に足を引っ張られていたら、勝てる戦も勝てないぞ。

 優秀な参謀が1人いるだけで、戦の展開は大きく変わる場合もある。

 お前たちは勇将として見栄えは良いがな。

 参謀が居た方が色々便利だぞ。」


 健介が頭の固さを指摘し、助言する。


「そうね。

 言いたい事は判るわ。」


 リアは記憶を掘り返し、シーリアの身体に健介が入っていた時の記憶を見る。

それは、用兵の模擬戦での出来事。

用兵の教官をリアだった健介が見事な戦術で打ち破ったのだ。

戦はただ真正面から戦えば良いのではない。

相手の策に乗せられれば、死ぬのは自分なのだ。


「なら、参謀の希望者を募ってみるか?

 5人くらいは候補として取り立てて、最終的には2人に絞るのが良いだろう。

 無論、それ以上に優秀な者が居れば、3人でも4人でも良いがな。」


 健介が考えていたの事を提案する。


「ええ、参謀の最初の選出は任せるわ。

 他に何かある?」


 リアがまだ何か言いたそうな健介を見る。


「1つ。

 軍の情報部にコネを作ってくれ。

 1人で良いから。」


 と健介。


「情報部?

 困ったわ、難しそうね。」


 とリアが困り顔だ。

情報部は色々噂されているし、ガードが固い。


「まあ頑張れ。

 これからはそうやって人材を引っ張り込んだり、コネを作ったりする必要が増えるだろうから、今の内に慣れた方が良い。

 それにリアは実力、名声共にしっかりしているから、意外と簡単に捉まるかもしれないぞ。」


 と健介。


「う〜ん、頑張ってみる。」


 リアは自信なさげに答えた。

リアの名声の大半は、健介が中にいた時の話だから自信が無いのは仕方ない。


「大丈夫だ

 リアなら出来るよ。」


 健介が励ました。




 リアは頻繁に情報部へと顔を出し、情報部員との接触を取ろうとしたが、そう簡単にはいかなかった。

仮にも諜報部員が簡単に発見されたら、それはそれで問題がある。

リアは悩んだ。

そんな時、ふと気配を感じた。

町中では探査魔法はあまり使わないから、つけられても殺気が無いと判らない。

だが、明らかに自分を注視している人物が居る事に気付いた。


 リアは気付かない振りをして町中を歩いた。

意識すると確かにその気配はついて来る事が判った。

何者か?

軍情報部の側でつけられるなど、ちょっと考えにくい事だが、敵なら捕まえて目的を吐かせなければ成らない。

リアは町中を散歩するように歩きながら、公園へと向かった。


 昼間の公園は、町の人が散歩をしたり、子供が遊んだりしている。

リアは公園の出店で、焼き菓子を買って食べながら歩く。

公園の中を兵舎へと向かって歩き、途中の林を抜ける。

後ろの気配は・・・1つだけ。

木に隠れながらついて来ていた。


(ここで捕まえる。)


 リアは気配からざっと距離を把握して、振り返って一気に距離を詰めた。

走り出した時には両手に双剣を握っている。

後ろに居た男は慌てて逃げ出した。

その男は町中では目立たないようにフード付のマントを被っていた。

魔術が使えないらしく、走る速度は普通の人よりも若干速い程度。

すぐにリアに追い抜かれて道を塞がれる。


「何者だ!?」


 リアが剣を突き付ける。


「ま、待て、味方だ!」

 

 男が両手を目の前で振って言う。


「味方?

 まあいい、そこに伏せろ。

 早くしろ!」


 リアが男を地面に伏せさせる。

後ろから男の手を後ろで縛り上げた。


 リアはその男を近くの情報部へ連行した。

尋問は情報部の得意分野だし、リアを尾行すると言う事は上級指揮官を狙ったと言う事だ。

他にも仲間がいる可能性がある。


「不審者を見つけた。

 尋問を頼む。」


 リアは受付の情報部の女性に言う。


「はい、あ・・・」


 受付の女性隊員は驚いて言葉を途切らせる。


「やあ、はははは」


 リアに後ろから押えられている男が情けないく笑う。


「えっと、シーリア殿、その人はうちの諜報部員です。」


 驚きから立ち直った女性隊員がリアに言う。


「は?」


 今度はリアが驚き顔で声を上げる。


「だから、味方だって言ったじゃない。」


 男が振り返って言う。


「黙れ!」


 リアは男を押さえつけるてに力を込めた。

男は溜まらず前のめりになる。


「こいつがここの諜報部員なのは本当なのか?」


 リアは女性隊員を見て言う。


「はい、私もここに居る隊員は皆知っています。」


 女性隊員が顔を引きつらせている。

仲間の隊員が捕まったのは面白いが、この状況は笑えない。

シーリアがマジ過ぎる。

そんな感じだ。


「では、何故私を尾行していた?」


 リアが当然の事を問質す。


「それは私が説明しよう。」


 女性隊員の後ろに中年の男性が現れた。


「あなたは?」


 リアはその男を観察するように見詰める。


「王国軍諜報部第1隊隊長ミュシーだ。

 君の尾行は私の指示だ。」


 ミュシーが面白そうにリアに押えられている男を見ている。

リアは上級指揮官である為、ミュシーより格上だ。


「理由をお聞かせ願えますか?」


 リアが困惑顔で問う。

尾行される言われはない。

リアは一応貴族だから、目上の者、年上の者には丁寧に話した。


「なに、大した意味はない。

 訓練ついでに噂に名高いシーリア殿の実力を試そうと思ってね。

 その男はうちの古株なんだが、さすがシーリア殿。

 簡単に見つけられましたな。」


 ミュシーはざっくばらんに話す。

リアは深くため息をついた。

はた迷惑な話である。


「ちょっと、そろそろ放してくれない?」


 男が苦しそうに言う。

リアは手を放した。

男は背筋を伸ばして息を吐く。


「随分惨めな格好だな? ゼンディ

 今日はお前の奢りだぞ。」


 ミュシーがニヤニヤしながら男に言う。

どうやら賭けをしていたらしい。


「判ってる。

 早く解いてくれ。」


 ゼンディが女性隊員に言う。

女性隊員が苦笑しつつ縄を解きに掛かる。


「ミュシー殿、二度とこの様な事の無い様にお願いします。

 場合によっては殺していたかもしれませんので。

 では、失礼します。」


 リアはまだニヤついているミュシーを睨んで言う。

返事を待たずに情報部を出た。




 健介の兵士達の訓練は、大体順調に進んでいる。

ドラゴンに訓練を指導されるという不満は徐々に無くなって来ている。

少しは職業軍人意識があるのだろう。


 参謀に成りたい者を募集して、9人の応募者が集まった。

健介は9人に試験をする事にした。


 1人ずつ部屋に呼び、質問をする。

インタビューという訳では無い。

戦略や戦術に関する知識から、具体的に戦場の状況を説明して、そこで何をすべきかを質問した。

その問答の内容で適正を見るのだ。


 それで残ったのは4人だけ。

他の者は参謀と言うものを甞めているとしか言い様の無い答えだった。

教え込めば、多少は使えるのかもしれないが、教えなくても才能だけでそれなりの答えを返した者が4人居たのだ。

その4人を慎重に育てれば良いだろう。



 夕食の席で、リアが昼間の事を皆に話した。

フィとクリンは笑い、エンドーラは怒っている。


「エンドーラ、落ち着きなさい。

 今回はあれで決着した事です。」


 リアも苦笑しつつ、エンドーラを窘める。


「リア、あなたは甘いのよ。

 私達、新人だからって甞められてますのよ?」


 エンドーラの目が釣りあがっている。


「新人は甞められるものですよ。エンドーラ」


 クリンにしては大人らしい意見を言う。

言われたエンドーラはちょっと悔しがった。


「今後は皆気を付けた方が良いな。

 リア以外も尾行されるかもしれない。」


 健介は警告した。


「見つかったのに、また尾行するかな?」


 とフィ。


「するでしょうね。

 何が目的か知らないけど、その目的が達成されるまでは。」


 リアは情報部が意味も無く尾行をするとは思えなかった。


「それでは、尾行を捕まえて縛り上げて送り返して差し上げましょう。

 ふふふふ」


 エンドーラが怖い顔で不敵に笑う。

リアとクリンは苦笑し、フィは面白そうにエンドーラを見ている。

フィは意外と大物かもしれない、中身がドラゴンだけに。



 健介は紙の束を出す。


「これを見てくれ、参謀候補を4人選んだ。

 俺が見る限り、参謀としての素質がある者達だと思う。」


 健介は紙の束を渡して皆に回覧させる。


 ハモ、ネヒル、ジューム、レグクムの4人。

皆、一般兵からの抜擢である。


 回覧し終わると


「今後はその4人に用兵を教えて、大規模な模擬戦でもして経験を積ませれば良いと思う。」


 健介が今後の予定を提案する。


「それは私達も同じね。」


 リアも同意する。


「そうですわね。

 大人数を指揮した事、無いですものね。」


 エンドーラも頷いて同意した。


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