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転生の旅  作者: mattsu
21/38

第20話 召喚状と武闘大会


 召喚状がやって来た。

事実上、リア宛であった。


 王女の誕生際に急遽、武闘大会を開く事にしたらしい。

その参加者として、ダンジョンで魔族8人を倒したチームの代表者を指定したのだ。

チームの代表者は当然シーリアである。


「う〜ん」


「如何したんですの、シーリア?」


 乗り気の無さそうなシーリアにエンドーラが訊ねる。

エンドーラなら意気揚々と参加するだろう。


「私こういうの興味ないのよねぇ。」


 リアが困ったように言う。

王族からの召喚状であり、断るならそれなりの理由が必要だが、それなりの理由が思いつかない状況だった。

出来るならエンドーラに変わってやりたいのだ。

エンドーラだって参加したいだろう。

今は何も言わないが、参加できるのがシーリアだけと知って非常に残念がっていた。


「選ばれたなら仕方ありませんわ。

 潔く参加しなさい。」


 エンドーラはリアに忠告した。


「私達も応援に行くからね!」


 クリンはリアを励ますように両手を握った。


「私とクリンは駄目よ?」


 エンドーラがクリンに水を差す。


「え〜どうして〜?」


 クリンが口を尖らせる。


「私とクリンは念話魔法の研究があるでしょう?

 武闘大会を見に行く暇はありませんわ。」


 最近、クリンの躾け担当はエンドーラになっていた。

担当を決めている訳ではないが。


 出会った最初の頃に「腰巾着」と言ってしまったのを気に病んでいた彼女は、その後、チームメイトになってもクリンに対してはちょっと引け目を感じていたのだ。

プライドの高いエンドーラらしい一面である。

しかしその後、クリンの小動物的な態度がエンドーラを刺激し、エンドーラの突っ込みと言う形で躾するようになった。

エンドーラはちょっと厳しいのだが、今回はまだ優しい方だった。

健介から見れば、厳しいお姉さんと甘えん坊の妹がじゃれ合っている様にしか見えないのだが・・・



 武闘大会は予選と本選があり、予選は5日後から10日間。

本選は20日後から始まる。

シーリアは本選からの参加となるが、本選は1人1日1試合と言う前提で、5日掛けて行われる。

本選参加者は16人、その1人名がシーリアに決定されている。

他の参加者についての情報は無い。


 武闘大会などが開かれれば、街道は混雑するだろう。

王都までの往復で8日は見て置く必要がある。

そして、本選試合が5日。

学校から観戦に行くだけでも大体13日の日程になる。


 リアは少なくとも本選前日には行く必要があるし、試合終了後も場合によっては滞在する可能性もある。

例えば、上位入賞したりしたら、王族からのパーティーへの招待と言う事も考えられるのだ。


(適当に負けちゃおうかな・・・)


 リアは不埒な事を考えていた。



 本選7日前、宿舎の部屋でリアと健介が荷物を纏めていた。

フィ、クリン、エンドーラは留守番である。


 フィには転生魔法から転移魔法を構築した時の知識があるため、クリンとエンドーラに助言が出来る。

その為、留守番させる事になった。

健介が留守番しても、助言するのは難しい。

クリンとエンドーラは研究中は殆ど一緒に居る為、宿舎に戻らないとそう言う話は出来ないのだ。


 それに王都へフィを連れて行くのは、何となく憚られる。

それはリアも同様のようで、意見が一致した。



 今、健介はエンドーラが部屋に来たので定位置であるベッド脇に立っていた。

エンドーラはドラゴンの中身が人間に入れ替わっている事を知らないし、この事を健介達は知らせるつもりはなかった。

クリンは何となく巻き込んでしまったが、良く考えれば禁書を使った犯罪者にしてしまったのだ。

なので、エンドーラを巻きこまない為、秘密を漏らさない為、話すことは無い。


 それはともかく、健介は彼女らへの想い、自分の気持ちが急に判った気がした。

目の前で旅の荷物を見ながらワイワイ騒いでいる彼女達。


 リアは健介がこっちの世界に来てからずっと一緒に居た。

クリンは少しだけ出会いが遅かったに過ぎない。

その後、いつも一緒に居ながら彼女達に色々と指導してきた。


 言い換えれば、彼女達を育てたと言っても良い。

親と言うほどのものでは無いが、師の様なものであり、彼女達は愛弟子と言えた。


 エンドーラもリアとクリンに良い影響を与えてくれる良い弟子だった。


(常に一緒に行動していた上に、肉体と精神の性別と年齢が一致しなかったから混乱したのだろう。)


 健介は自分の精神状態を分析した。

肉体と精神の性別が一致しないのは今も同じだが、ドラゴンの身体では性別による精神の混乱は起きない。

平たく言えば、色恋沙汰の情動と言うものが無い為、そう言う方面では冷静な判断が出来る。


 無論、精神的には男である健介は、彼女達を魅力的に感じている事を否定出来ない。

ただ、それが恋愛と言う性的な情動へと変わらないだけだ。


 だから、リアとクリンがラン(健介)が男と知った後、着替えをする時に


「後ろ向いて!」


 と言われるようになったのは、何気にショックで、とても悲しかった。

それ以前は一緒に裸になった仲なのに・・・

部屋を追い出されないのがせめてもの救いだ。


(パンツを一緒に洗ってくれない父親の切なさって、こういうものか?)


 と意味不明なことを考えてしまう健介だった。

精神的ダメージが大きかったらしい。




 クリン、エンドーラ、フィに見送られて学校を船で出発し、町からは馬車で王都まで移動した。

王都までの街道は、武闘大会の為に馬車の往来が多かった。


 王都に着くと道が更に混雑している為、馬車を降りて歩く事にした。

王都と言ってもそれほど道が整備されている訳ではないようだった。


 途中、幾つもの傭兵団の旗を見かけた。

彼らも武闘大会に出場するのだろう。


 傭兵団には腕の立つ魔術戦士が居る。

個人の傭兵では模擬戦で鍛錬が出来ない為、傭兵団の魔術戦士の方が一般的には錬度が高い。

個人で傭兵をしている魔術戦士は、実力に余程の自信があるか、バカな者だけと言われている。

その為、大抵は傭兵団に入るか、数人のチームを組むのが普通だ。


 傭兵団は王国から認定されると、専用の紋章とその旗を賜る事が出来る。

無論、認定には審査があり安くは無い金も掛かる。

しかし、あると無いとでは活動範囲に大きな差が出る。


 この様な武闘大会に出場できるのも、公認の傭兵団だからだ。

そうでなければ、盗賊集団と見分けが付かない。


 少なくとも、公認の傭兵団の傭兵は行儀が良い。

下手な騒ぎを起せば認定が取り消され、最悪の場合、盗賊扱いされて討伐されるのだ。

逆にそう言う立場であるから、下手な王国軍の兵士より人当たりが良く、人気があったりする。


 健介が想像していた傭兵団のイメージとは大分違っていた。

周囲の状況によって、人の活動と言うのは変わっていくのだろう。


 ヴァージル領での例の大盗賊団の際にも、リアの父ヘインツが近場に居る公認の傭兵団を探していたらしい。

大盗賊団もヴァージル伯が傭兵を雇った事を知れば、逃げ出していたに違いない。

傭兵団を雇う前に、当時のリア(健介)、フィ(リア)、クリンが討伐してしまったが。



 王城の門番に召喚状を見せて、城から出てきた使用人に案内されて待合室に入った。

周囲には様々な身なりの者がいて、謁見の間への入室を待っていた。


 入って来た小娘と魔物らしい者を見て皆驚いていた。

待っている間も、チラチラと視線を寄越してくる。

リアと健介はもう慣れていたので、放っておいた。


 呼び出されて謁見の間に入っていくと、赤の絨毯ではなく、鮮やかな青の絨毯が敷かれていた。

日本では古来、紫が高貴な色とされていた時期もある。

青が高貴な色とされていても不思議は無い。

或は、他の意味もあるかもしれない、青なら浄化とかがありうる。

召喚された当事者ではない健介は、そんな事を考えつつ、玉座に座る王とリアの会話を聞いていた。


「良くぞ参った。シーリア。」


 挨拶もそこそこに、国王が話しかけてきた。

意外と気さくそうだ。


「今回の武闘大会は歴戦の手錬の集まる厳しい大会だ。

 そなたも士官学校では天才と名高いと聞く。

 存分に力を発揮して見せよ。」


「は!」


 とそれで謁見は終了だった。

まあ、王と学生との謁見など、こんなものだろう。

リアを武闘大会の出場者に選んだのも、面白半分に違いない。

それも一興、と言う程度だろう。


 謁見の間でも、健介は注目を集めていたが、敢えてそれを言及する者は居なかった。

王や脇に座っている宰相らしき人物なども興味深そうに見るが、それ以上の言動はなく淡々と進められたのだった。

健介としてはちょっと拍子抜けである。



 謁見の間を出ると、大会出場の手続きをする為に別の部屋へと連れて行かれた。

そこで武闘大会の詳細を知ることが出来た。


 賞金、1位金貨1000枚、2位金貨500枚、3位金貨100枚、4位金貨10枚。

総額金貨1610枚。

ヴァージル領の年間予算額は大体金貨4500枚前後。

石炭の販売で更に上昇中である。


 リアと健介はこの金の使い方に唖然とするしかない。

ちょっと高すぎるだろう・・・

金銭感覚、狂ってないか?


 しかし、さすがにリアは伯爵令嬢。


「上位に食い込めば、お父様に資金援助出来るわね。」


 思考を切り替えた。

逞しいお嬢様だ。


 確かに、今のリアなら上位に食い込む事は可能だろう。

本選の組み合わせ次第だが。


 その組み合わせは初日にくじ引きが行われるのでまだ判らない。

本選出場者の名前は判っているが実力が判らない。

要するに、何も判らない訳だ。


 判っている事と言ったら、本選出場者16名中9名は、王国軍の精鋭から選ばれた魔術戦士である事。

6名が外部参加の予選勝ち上がり組みである事。

そして、特別参加のシーリアである。


 健介は王国軍の精鋭がどの程度のものか、興味があった。

今までリアを見て来たし、士官学校の他の天才も見てきた。

その延長線上に居るであろう王国軍の精鋭。

一体どれほどのものか?

健介でなくても興味深い所だろう。



 手続きを済ませると、王国によって確保された宿へと向かった。

豪華とは言えないが十分に良い宿で、それなりの料理が出る食堂もあった。

貴族用の宿ではなく、上層の商人用といった感じである。


 2階の廊下や室内は絨毯も敷かれており、足音に対する配慮もされている。

用意された部屋は2人部屋で結構広く、暗めで淡い色調の模様の壁紙が部屋の雰囲気を落ち着いたものにしている。


「本選初日まで、のんびりしましょう。」


 リアはベッドに大の字になっていた。

それを見て健介は苦笑する。


 磨かれた鎧を着けた、見目麗しい伯爵令嬢なのだが・・・

鎧を着けたまま、しかも無防備に大の字になるのは如何なものかと、説教したくなる健介だった。

とりあえず。


「鎧くらい脱いだらどうだ?」


 と言って置く。


 持ち運ぶのが面倒だから着て行くと、リアは鎧を着て馬車に乗っていた。

学校でも1日中鎧を着ている事が多い為、脱ぐと落ち着かないのだそうだ。

それに鎧には防音と保温の魔術付加が施されている為、鎧特有の金属音はしないし、温度も一定に保たれて快適なのだ。

この状態を例えて言うなら、冬場のコタツから出られない状態と言えなくも無い。


 リアは生返事を返して、ノロノロと起き上がって鎧を脱いだ。

鎧の下には要所にクッションが付けられた厚手の服を着ている。

リアは健介を見て含み笑いを浮かべつつ、何かを問うように片方の眉を上げる。

その態度は「見たいの?」と言っている様に見えた。

一抹の寂しさと悔しさを感じつつ、健介はリアに背を向けるのだった。




 本選初日の早朝、王都にある闘技場の脇で抽選が行われた。

遠巻きに見物人がワイワイと集まってきていた。


 16人の参加者が順にくじを引き、対戦表が埋められていく。

特別参加のシーリアは最後でくじは引かない。


 どうやら初戦は傭兵と当たる事になったようだ。


「先ずは1勝とるわ。」


 リアは気合が入っていた。


 1回戦のリアの順番は第4試合。

午前中の最後の試合だ。


 抽選が終わると、午前組みは闘技場の控え室へ向かい、午後組みは解散した。

初日は4試合ずつ、午前と午後で分けて行う。


 闘技場はほぼ円形で、直径150メートルほどの施設だ。

その中央に1辺が50メートルほどの石畳の台が設置され、その周囲には参加者が負傷で死なないよう治療の為に魔術師が待機している。

それ以外は審判役の者が1人居るだけで、闘技場の闘技場は比較的閑散としている。


 これは不正防止と参加者の安全確保の為でもある。

上位入賞の賞金額があの様な高額な為、不正行為を行う者はいる。

特に参加者に対して危害を加えようとするのは常套手段なのだ。


 控え室には警備兵が居るし、皆手錬である為、そう簡単に不正は出来ないので心配要らない。

しかし、闘技場の周囲に人が沢山居ると何か起きた時に犯人を特定し難く、対応が遅れてしまう。

その為、闘技場は最低限の人数にしているのだ。



 1試合最長30分でその後休憩が30分という繰り返し。

その間、リアは控え室で待機していたので、第1〜3試合を見る事は出来ない。

試合前は参加者保護の観点から、控え室から出る事は出来ないのだ。


 健介も魔物の為、監視者が付いていた。

すぐに仲良くなって、午前中の試合を闘技場の観覧席の端で眺めている。


「シーリア譲は天才と言われているが、どれほどの実力の持ち主なのか?」


 その監視者はまだ若い魔術戦士で、上級指揮官の大佐だという。

名はブロンクと言う。


 上級指揮官でもこういう仕事をするのかと訊いたら、実力があるから上級指揮官なのであって、実力が無い者に頼れない仕事は当然上級指揮官自ら出向く事になると言う事だった。

なるほど、健介は納得した。

ドラゴンの監視は下手な兵士には任せられないと言う事だ。

1人しか居ないのは、意味不明だが。


「あんたも上級士官学校の卒業生だろう?」


 ブロンクの探りをはぐらかすように問う。


「ああ、だが俺は天才では無い。」


 天才で無い者に天才の力は判らない。

それはそうだ。


「多分、あんたとそう変わらないと思うがな。

 シーリアは他の人間より、ちょっと成長が早いだけだと思うぞ?」


 他の人間にしてみれば、ちょっとどころでは無いから天才なのだが。

天才が一般人と発想が違うと言う事も、その成長速度が異なる為にものの見方が変わる為と考えれば、やはりそう変わらないと言える。

まあ、アインシュタインの様な、ある種の障害を持った天才は様相が異なるのだろうが。


 ブロンクは健介の意見に考え込む中、試合は進んでいった。

健介はリアに匹敵するような参加者だけをチェックしようと思っていたが、午前中の参加者にはそれらしい人物は居なかった。

確かに実力はあるようだが、意外にも注目すべき人物がいない。


(王国軍の精鋭というのも、案外大した事は無いのか?)


 健介は一瞬そう判断しそうになったが、リアの天才と常日頃からドラゴンの健介との模擬戦を繰り返している事実を思い返して思い止まった。

王国軍の精鋭と言えど、人に比べて反則的強さをもつドラゴンの人型と、日々模擬戦をしているリアと比べてはいけないのかもしれない。


 シーリアの天才を際立たせている一番の要因が健介自身であることに、今更気付いた健介であった。



「始まるぞ。」


 ブロンクの声に健介はリアの試合が始まった事を知る。

いつの間にか考え込んでいた健介は視線を上げると、リアが舞台に上がっている所だった。


 相手は傭兵である。

様々な戦いを経験しているであろう傭兵は、実力が格下でも油断は出来ない。


 傭兵とリアが向き合い、試合が始まった。

リアは速攻を掛けた。

試合が始まると同時に全速で傭兵に突撃する。

相手より経験が少ないリアとしては、相手に飲まれる前に決着をつける算段だろう。


 傭兵はいきなりの素早い攻撃に、全速で後退して剣を弾こうとした。

しかし、リアの速度に間に合わない。

雪崩を打つような双剣の連撃を捌き切れず、足を縺れさせて転倒した。

そこでリアは傭兵に剣を突き付けて、試合は終わった。


 ほんの数秒の出来事に、一瞬闘技場は静まり返った。

次の瞬間、闘技場は声援と拍手で煩いほどになった。

リアは顔をしかめている。


 リアの全速の初撃を受け止めるとは、なかなかの手錬と言える傭兵だった。

健介も何度か受けた事があるから判る。

アレをいきなりやられて剣で受けるなど、早々出来るものではない。


(傭兵も侮れないな)


 健介は傭兵の質の高さに感心した。

生き残る為の戦いを極めようとする傭兵の強さを垣間見た思いである。




 午後の試合前の休憩時に、食事をしながらリアと午前中の試合について話をした。

監視役のブロンクはまた明日に来ると言って帰った。

リアと一緒に居る時は監視は不要と言う事らしい。


「油断しなければ、勝ちは決定的だと思うが・・・」


「そう、良かった。

 じゃあ、午後組みの人に強い人が居るかどうかね。」


 リアは少しホッとした表情で笑う。


 食事は参加者とその関係者用の食堂で比較的空いていた。

一般用の食堂は人が溢れており、順番待ちの行列が出来ている。


 午前組みの参加者の実力が、見た通りであれば準優勝は確実だが、勝負はやってみなければ判らない。



 食事を終えると、闘技場の観覧席へ向かった。

参加者と関係者用のスペースがあり、そこに腰を落ち着ける。


 その場所には午前中に勝ち残った他の3人と関係者もおり、探るような視線を送ってくる。

シーリアはダークホースと言った所だろうか。

天才とは言えまだ小娘、そう言う認識をされていた事は想像できる。


 リアは澄ましてお辞儀をして座り、健介は彼らを一瞥して、無表情でリアの後ろを守るように立った。


 なにやらヒソヒソと話をしているようだったが、試合が始まるとそちらに集中した。


 第5試合は見応えある試合だった。

試合自体は1分もせず終わっていたが。


「彼、強いわね。」


 リアが呟いた。


「ああ」


 健介もリアの後ろから相槌をうつ。

第5試合の勝者は実力を出し切らずに余裕で勝っていた。

その洗練された戦いぶりは、王国軍の精鋭の名に恥じないものだった。

要注意人物出現である。


「グレグセン」


 リアは彼の名前を覚えたようだ。



 第6試合と第7試合は、第1〜3試合同様、試合そのものは面白いが、要注意人物は居なかった。

本日最終試合の第8試合は、グレグセンと同等の者同士と思われる実力者の戦いとなった。


 それも王国軍の精鋭と傭兵の対戦という非常に面白い試合となった。

闘技場は激しい戦いに飲まれ、静まりかえっており、剣戟の音が絶えず響いていた。


 傭兵は巧みに相手の攻撃をかわしつつ、隙を突いて反撃する様に戦う。

王国軍の精鋭は滑らかな動作で素早い斬撃を放ち、傭兵の反撃も綺麗にかわしている。


 戦い方は全く違うが、力量は均衡しているように見えた。

だが、時間を掛ければ魔力量による差が出てくる。

実力が拮抗していれば、魔力の消費は激しい。

余程の自信が無い限り、時間を掛ける事はしない。

ある意味それは、チキンレースとなる。


 長期戦を避けたのは精鋭の方だった。

一旦退いてフェイントを掛けて膠着状態を抜けようとした。


 それを待っていたのかの様に傭兵は相手の懐に飛び込んだ。

精鋭兵士は咄嗟に後退して斬撃を放ち、何とか傭兵を突き放す事が出来た。

それを機に、傭兵は今までと違う戦い方に切り替えた。


「ほう」


 リアが身を乗り出す。


 今まで柔軟な受身で戦っていた傭兵は、鋭い突き主体の戦い方に変わった。

これまでと攻守を逆転させていた。

しかし、今度は明らかに傭兵が優勢だった。


 精鋭兵士は若干速度が落ちており、傭兵の突きをかわしきれず、少しずつ手傷を負っていた。

その表情に焦りも見える。


 傭兵は淡々と、しかし、確実に追い詰めていった。

傍目にも精鋭兵士は限界に近い事が判る。


 そして、精鋭兵士は降参した。


「レッソールか」


 リアが傭兵の名を覚えた。




 本選初日を終えて、宿へと帰った。

王女の誕生際の為の武闘大会である為、王都の中は何処もお祭り騒ぎである。

大通りには夜になっても露店が並び、良い匂いの屋台料理が並んでいた。


 宿の食堂では本選初日の話題で持ちきりだった。


 リアと健介が食堂に入ると、注目を集めて静まり返ったが。

2人で静かに食事をして、部屋に戻った。


 良い宿なのだが、食堂は一般に開放されていた。

ちょっと裕福な者なら入れるくらいの食堂であり、品が悪い訳ではないが、噂好きが集まる場所だ。


「ふう、これじゃゆっくり食事も出来やしない。」


 リアが不満をこぼすしてベッドに横になった。


「後4日だ、我慢しろ。」


 健介は苦笑して諭す。

リアは健介と2人きりになると愚痴をこぼす傾向にある。

エンドーラとクリンが居ると、先にどちらかが愚痴をこぼすからと考える事も出来るが。


 一休みしてから、大衆浴場へと向かった。

王都だけあって、一般向けの大型浴場があるのだ。

しかし、健介は入れないので、外で待つ事になる。

魔物だから仕方ない。


 リアがさっぱりしてから宿に戻ると、さっさと寝る事にした。

怪我をしても午後に回復して翌日の試合に影響を与えない為、試合は午前中に行われる。

午前と午後の試合があるのは初日だけだ。




 翌日、闘技場へ行くとリアはそのまま控え室へ、健介はブロンクを伴って昨日と同じ場所に陣取って試合を見物する。


「グレグセンというの、強いな?」


 ブロンクから情報が聞けるかどうか試してみる。


「情報は渡さないよ?」


 聞けなかった。

別に期待していた訳でもないが、ちょっと悔しい。



 2回戦第1試合、これは激戦ではあったが、リアの相手としては不足と言う事が判る試合内容だった。

明日の相手はこの試合の勝者だから、今日の試合に勝てば、2位は確実だろう。

決勝戦でグレグセンが来るかレッソールが来るか・・・


 第2試合、リアの試合だ。

試合開始後、リアは相手の出方を待った。

相手はリアが速攻を掛けると思っていたようで、開始と同時に身構えていた。


 観客席に失笑が響く。


 相手は羞恥に赤面して打って出た。

リアは淡々と攻撃をかわし、少し隙を見せて相手が切り込んでくる瞬間に合わせて、その剣を弾き飛ばした。


 剣を失った相手は、リアに剣を突き付けられて降参した。


 観客席に声援と野次が半々で響いていた。



 試合を終えたリアと合流して、参加者用の観覧スペースへと向かう。


「明日も似た様な相手だ、決勝でグレグセンかレッソールのどちらかが来るから、良く見て置け。」


 健介が報告と注意をする。

 第3試合と第4試合が、それぞれグレグセンとレッソールの試合だ。

リアもそのつもりである。


 しかし、第3試合と第4試合はどちらもグレグセンとレッソールの実力を見れるような試合ではなかった。

相手が弱すぎた。


「参考にならないわ。」


 リアがぼやく。

相手もリアの事は良く知らないだろうから、条件は同じだ。

試合を見れただけでも有利と言える。



 本日の試合が終わって、昼食を取った後は、お祭りを見て回る事にした。

初日は試合を見て夕方になってしまったが、今日は午後から丸々時間がある。


 露店の食べ物で食事をしながら、リアは珍しくアクセサリーなどを見て回っていた。

女の子だから当たり前の事なのだろうが、少し前まではアクセサリーなど見ている余裕は無かった。

あの目的の為に只管努力してきたのだから。

その目的が達成され、今は心置きなくお洒落も出来る。

健介に女の子のお洒落は判らないが。


 リアはフィ、クリン、エンドーラのお土産としてアクセサリーを買ったようだった。

健介はリアの側に居て、リアに近寄って来ようとする男共を追い払っていた。


(悪い虫は近寄らせん!)


 何処かの頑固親父の様な事を思いつつ、銀色の瞳で睨みを利かせる健介だった。


 ちなみに、王都にドラゴンが来ている事はそれほど知れていないので、大っぴらに威圧感を解放する事が出来ない。

人工島近くの町よりも、遥かに人口密度が高い為、騒ぎになるとパニックを引き起こしそうなので、睨むだけにしておいた。



 夕方に宿に戻った。


「・・・これは・・・」


 健介はリアが土産に買ったアクセサリーを手にとって絶句していた。

昼間は悪い虫を追い払っていたので、何を買ったのか知らなかったのだ。


 それは呪われたアイテムと言うのに相応しい色と形状をしていた。

確かに、アクセサリーの露店にはそんな物があった、見た記憶にあったが、まさかリアが買って来るとは。

何と言うか、芋虫と言うか蛭と言うかウミウシと言うか、そんな感じのものだ。

黒っぽい紫という色調も何と言うか・・・


「どうしたの?」


 リアが絶句している健介を見て何事かと問う。


「いや、これはグ・・・」


「ぐ?」


 リアは首をかしげる。


「いや、なんでもない。」


 健介は敢えて指摘しない事にした。

リアが楽しそうにしているのだから、それをぶち壊してはいけない。

今はまだ。


 リアにこんな弱点があったとは、人間何かしら弱点はあるものだと、しみじみ思うのであった。

とりあえず、このアクセサリーを受取るフィ、クリン、エンドーラの反応が今から楽しみだ。


「はいこれ。」


 リアが買ってきたアクセサリーの1つを健介に突き出す。


「なに?」


「これはミコトの分、大事にしてね?」


 リアがニッコリ微笑む。

健介は呪われたアイテムを手に入れた。




 翌日、第3回戦の日。

昨日と同じように、闘技場へと向かった。


 第1試合、リアは難なく勝利した。

相手も勝負は見えているとばかり、やる気を無くてしていた。

闘技場は野次の嵐になった。


「やる気が無いなら棄権すればいいのよ。」


 リアはぶつくさ言っていた。



 第2試合は注目の試合だ。

観客席もそれと知っていて、静まり返っている。

グレグセンとレッソールの試合である。


 試合開始と同時に、両者とも突撃して剣をぶつけ合った。

これまでの試合に無い気合の入れようだ。

互いに正念場と思っているのだろう。


 レッソールは以前の試合とはまた違う剣技を披露していた。

多才な男である。

恐らくこれが本来の彼の剣筋なのだろう。

攻守バランスの良い剣技である。


 グレグセンは以前レッソールが見せた攻撃主体の剣技に似た剣技であった。

だが、攻防一体の剣技となっていて、隙が無い様に見える。

相手の攻撃に合わせて受け流しながら攻撃しているのだ。


 全体としてはグレグセンが少し押しているように見えた。

そして、リアと健介は唸っていた。

どちらも明らかにリアと健介よりも技量は上である。


 レッソールはジリジリと下がっているが、淀みなく攻撃と防御を繰り返している。

グレグセンも淡々と攻撃している。


 この試合ではレッソールが戦況を変えた。

グレグセンの攻防一体の攻撃が出来ない強打を叩きつけて足止めした。

そこから、レッソールは強打の斬撃を撃ちまくった。

一見、見境無く暴れているように見えるが、グレグセンは反撃出来ないで居た。

レッソールはグレグセンの剣技の弱点を見抜いたのだ。


 だが、強打の斬撃は1撃1撃に時間がかかり剣を合わされてしまう為、有効打には至らない。

レッソールの斬撃の軌跡は、巧みに受け流す事が出来ない場所に放たれているため、グレグセンも剣を合わせるしかない。

今度はグレグセンがジリジリと後退している。


 このままレッソールがグレグセンを追い込むと思われたが、一転、レッソールが一気に後退して棄権した。

魔力切れ寸前と言う事らしい。

傭兵らしい引き際だった。


 明日の対戦相手が決まった。

グレグセンである。



 試合が終わると、リアと健介はすぐに宿へ戻った。

作戦会議である。


 グレグセンの剣技の弱点は判ったが、リアの武器はそれを突ける物ではない。

そして剣技の技量は相手が上。


「どうしたものか」


 健介は試合を思い返して、リアの勝算を考える。

リアもベッドに座って考えている。


「1つだけ有利な点があるとすれば、リアの速度だ。」


 健介が指摘する。

グレグセンよりもリアの方が若干速い。

いつもリアを見ている健介だけが気付ける程度の速度差だが、僅かな速度差でも実力が肉薄していれば勝敗を分ける要因になる。

普段よりも魔力を使って身体強化を強めれば、短時間でも五分以上の戦いが出来ると健介は考える。

相手も同じ事をしてくればまた不利になるが、それまでの間に勝機が見出せるかもしれない。

『戦は勝機』とも言うし。


「速度かぁ」


 リアは目を閉じて考えてみる。

自分の最大の速度でグレグセンと戦えるかどうか。


「良くて五分かな?」


 リアが自信なさげに言った。

技量の差の壁は厚い。


 とりあえず、リアはイメージトレーニングをして明日に備える事にした。

下手な対策を練るより、イメージトレーニングで動きを覚えた方が良い。



 健介もグレグセンとレッソールの剣の技量には唸るものがあった。

ドラゴンと言えど、人間より上回っていると断言出来るのは、身体能力と魔力である。

そもそもドラゴンは剣を使わないから、剣技で劣るのも仕方ない。

リアと身体を入れ替えたあの時点から、徐々にリアの剣技が健介を上回って行った。


 健介は凡人である為、天才のリアに引き離されている。

それどころか、クリンとエンドーラにも負い付かれている。

クリンとエンドーラに引き離されていないのは、一重に模擬戦の練習量と濃さが原因だ。

リアをはじめ、クリンとエンドーラもだが、リアに匹敵する才能を持つ先輩生徒達とも模擬戦をしているのだから、嫌でも上達する。


 健介の場合は、剣の技量が多少劣っても、他の性能の差で強引に勝てるのだ。

しかし、リアは人間である。

技量の差を埋めるには、長い年月の訓練しかない。




 翌日の闘技場で、決勝の試合が行われようとしていた。

上級士官学校からの特別参加者シーリア対上級指揮官准将グレグセン。

決勝であり、異例の組み合わせであり、美女とごついオッサンの戦いであり、色々な意味で注目を集めていた。


 2人が舞台に上がり、試合が開始された。

リアは今回は速攻で行く事にした。

受身で勝てる相手ではない。


 リアの突撃をグレグセンは軽く受け流した。

グレグセンのカウンター気味の反撃を双剣の片方で受け流し、もう一方で反撃する。

それは体捌きでかわされた。


 リアは徐々に速度を上げた。

身体強化の魔力を増やし、魔力制御に耐えられるギリギリまであげる。

しかし、その状態では10分と持たない。


 そこまでして、ようやく五分を超える戦いに持ち込めた。

徐々にリアが押している。


(今の内に勝機を!)


 リアは今の状態が長続きしない事は承知の上だ。

以前ドラゴンを倒した時のように、一瞬の勝機があれば良い。

双剣を振りながら、相手の隙を見逃さないよう集中した。



 グレグセンは正直驚いていた。

目の前のシーリアと言う女性は、なかなかに手強い。

さすが上級士官学校で天才と言われているだけある。


 グレグセンにしてみれば技はまだ荒削りと言えた。

しかし、身体強化をして補うその才能。


 グレグセンも今、本気で防戦をしていた。

まだ少し余裕はあるが、反撃出来る程では無い。

しかし、このまま待てば、相手は自然に敗北するのは見えている。

恐らく8分前後、長くて15分は持つまい。

これまでの戦闘経験から、そう推測する。


(それまで待てば良い。)


 グレグセンは女性を叩き伏せるより、魔力切れで戦闘不能になるように仕向ける事にした。



 5分が経過していた。

リアは疲労を感じつつあった。

予想よりも疲労するのが早い。


 グレグセンに隙は無い。

双剣をどんなに叩きつけても、付け入る隙が作り出せない。


(焦るな)


 リアは自分に言い聞かせる。

相手の隙を突くのであって、相手に隙を見せてはいけない。


 リアは可能な限りの最大の速度を維持して、攻撃を続けていた。




 グレグセンは感心している。

これだけの長い間、シーリアは隙を見せない。

こちらの隙を作る事が出来ずに焦っているだろうに、シーリアも隙を見せない。

大した精神力だ。


(部下に見習わせたいものだ。)


 グレグセンは部下を愚痴る。

それだけ余裕がある。


 シーリアは見るからに疲労している。

魔力切れの前に疲労で倒れるかもしれない。


(もう少しだな。)


 グレグセンはそのまま待つ事にした。



 7分経過していた。

リアは急速に疲労が身体を支配して来るのを感じていた。

これまで限界まで身体強化を引き上げて戦った事は無かった。

魔族8人と戦った時でさえ、3分程度で終わっていたのだ。


(身体が重い・・・)


 リアは歯を食いしばって、剣を振った。

だが、もはや足元もふらつき、まともに剣も振れていない。

疲労から一瞬、集中が途切れた。

後はもう、あっという間だった。

急速に身体から力が抜け、意識も遠のいていった。




 リアが気付いた時、白い部屋の天井を見上げていた。

匂いと雰囲気から、医療室である事が判った。


「気付いたか。」


 健介がリアの顔を覗き込む。


「負けちゃった?」


「ああ。

 いい勝負だった。」


「そっか。」


 リアの初めての敗北らしい敗北であった。

完全に上を行かれた。


「気にする事は無い。

 相手はリアより20年は長く訓練しているからな。

 リアなら2・3年で勝てるさ。」


 健介が予測を言う。

リアの才能と素質なら、グレグセンでもそれくらいで勝てるはずだと。

今回、それだけの片鱗を見せた。


「俺はそんなに年寄りじゃない。

 まだ20代だ。」


 健介の後ろからグレグセンが憮然と言う。


「何だ、居たのか?」


 健介はニヤリと笑ってグレグセンを見る。

グレグセンもニヤリと笑い返してきた。


「調子はどうかね?」


「ええ、もう大丈夫です。」


「そうか。

 あまり無茶をするものではない。

 私と戦った傭兵を見ただろう?

 アレを見習う事を勧めるよ。」


 グレグセンは傭兵の生き残る戦い方を薦めた。

死に急いぐ様な戦いはするなと。


「はい。

 気を付けます。」


 リアは素直に頷いた。


「ではな。

 君が上級指揮官になったら、同僚だな?」


 グレグセンはそう言って笑いながら立ち去った。

それを見送ってから健介も言う。


「俺もグレグセンの意見には賛成だ。

 生き残れ。

 生きていれば俺が助けに行く。」


「うん。」


 リアは嬉しそうに笑い、それから泣いた。


 リアが目覚めたのは夜中だった。

リアはまだ動けなかったので、そのまま医療室に泊まった。




 翌朝、疲労を回復したリアと共に3位決定戦を見に行った。

3位は案の定、レッソールに決まった。



 午後に表彰式が行われた。

1位のグレグセン、2位のシーリア、3位のレッソールまでが表彰される。

4位は賞金は出るが表彰はされない。


 国王がそれぞれにメダルと賞金の目録を手渡した。

グレグセン、シーリア、レッソール、それぞれの時に観客席から声援が送られてくる。

シーリアの時が一番大きい声援だった。


「シーリアちゃ〜ん!」


 という野太い声援も聞こえる。

一躍アイドルである。


 リアは挨拶を終えると、気恥ずかしくてそそくさと闘技場を後にした。

そして、賞金目録を持って城へと向かう。


 賞金の金貨500枚を、王国の支払い証書にして貰った。

この支払い証書とは、所謂小切手の事だ。

王都でのみ換金出来ると言う不便さはあるが、盗まれても支払い対象者か支払い元にしか金が渡らない。

リアはその証書をヴァージル領の父ヘインツ宛ににして送った。


 金貨500枚の現物を送るのは危険すぎるし、この様な大金は王都で支払い証書を使って決済する事が多い。

例えば各領地間で取引する際に、多額の金が動く場合などだ。

ヴァージル領の石炭の他領への販売も、王都で支払い証書経由で行っているかもしれない。

ヘインツならうまく使うだろう。



 リアは宿に帰って荷物を纏めると、すぐに帰る事にした。


「何だ、もう帰るのか?」


「うん、もう用は済んだし。」


 リアは少しそわそわしている。

変な注目を浴びてしまっているのが耐えられないらしい。

いつもの注目とは違うので、落ち着かないのだ。

そうでなくてもリアは淡白だから、程度の差こそあれ早く帰ることだろう。


 リアと健介は馬車を手配して、王都を逃げるように去った。


 城からパーティーの招待状を持った使者が宿に来たのだが、既に出発した後だった。

使者が王に報告すると


「忙しいのう。」


 と言っただけで、ほぼ無視された。

武闘大会で準優勝したとは言え、まだ学生だ。

政治に引き込む様な人物とは見做されていないのだ。




 学校に戻って、夜、宿舎のリア達の部屋に集まった。


「お土産があるの。」


 リアが荷物からアクセサリーを取り出す。

例のアクセサリーをフィ、クリン、エンドーラに渡した。


「ありがと」


 フィは普通に受取った。


「・・・」


 クリンとエンドーラは無言で何とも言えない表情を浮かべていた。


「リア?

 私達を呪うつもりですの?」


 エンドーラが訊いて見る。


「え?

 可愛いでしょ?」


 リアは訳判らないと言う風に首をかしげる。

クリンとエンドーラは顔を見合わせた。

そして、何か納得したように頷きあった。


 エンドーラは徐にリアの肩に手を置いた。


「今度こういう物を買う時は、誰か他の人に選んで頂きなさい。」


 エンドーラは心からの忠告をするのだった。


 リアはクリンとエンドーラから、リアが選んだアクセサリが如何に悪趣味かを説明されて赤面した。

そして、部屋の隅で笑っているラン(健介)に気付いて睨むのだった。


「謀ったわね?」


「何のことやら。

 このアクセサリは仰せの通り、大事にするよ?」


 健介はアクセサリを見せる。

リアはアクセサリを取り戻そうとしたが、健介はすぐに懐に入れた。

リアは恥ずかしくてアクセサリを回収したいらしいが、呪いのアイテムはそう簡単に引き剥がせないのである。


 クリンとエンドーラも、リアの反応を見てアクセサリを仕舞い込んだ。

さすがシーリアチーム、素晴らしいチームワークである。


「むう、今に見てなさい。」


 リアは悔しそうに言うのだった。

ちなみにフィもこっそり隠したが、リアの命令で没収されてしまった。

やはり盟約には逆らえないらしい。

可哀相に、フィはアクセサリを気に入っていたらしいのに。



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