表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の旅  作者: mattsu
2/38

第01話 転生魔法と結果


 日が沈んだばかりの浅い夜。

近くの草原では、まだ遊んでいた子供達が急いで帰り始めていた。

屋敷の奥の部屋で、鎧戸を締め切り、ランプの明かりだけの薄暗い部屋の中。

そこで、転生の儀式が行われようとしていた。


「師よ、準備は整いました。」


 魔法陣らしき図の上に寝ている老人に、近くに立っていた中年の男が言う。


「うむ、では始めよう。」


 師と呼ばれた老人が号令を掛けた。


 老人の隣には1人の少女が寝ていた。

この転生の儀式は、老人の魂と精神をこの少女に移す為の儀式である。


 この少女も無作為に選ばれた訳ではない。

魔術の高い素質があることが判った為に、老人の生贄に選ばれたのだ。

不幸な少女である。


 儀式が終わりに差し掛かり、老人と少女の魂と精神が肉体から離れた。

そして、入れ替える瞬間、地震がこの地域を襲った。

立っているのもやっとの大きな地震だった。

だが、儀式は既に止められる状態ではなく、皆が慌てふためいている間に終わっていた。


 儀式が終わると、老人は息絶えていた。

少女は生きており、老人では無い誰かの精神と魂が乗り移っていた。

そして、少女の精神と魂もここには居ない誰かの肉体へと移動したようだった。


「この少女はどうします?」


 状況を見て取った若い男が先ほど師と話していた中年男性に聞く。


「誰の精神と魂が入ったにせよ、殺すのは忍びない。

 その子の家に帰してやろう。」


 と中年男性。


 魔法陣の周りに居る者達は皆魔術師だった。

そして、誰も気付いていなかった。

この地震によって引き起こされた、転生魔法の混乱は二者間の入れ替えではなく、不完全な三者間の入れ替えになっていた事に。





 俺は山本健介やまもとけんすけ、42歳のサラリーマンだ。

独身で会社とアパートを往復するだけの毎日。

恋人も居ない、寂しい身の上だ。

今もアパートへの帰り道、コンビニで弁当を買って歩いている所だ。

駅から徒歩13分くらいのアパートにたどり着くと、ポケットから鍵を出してドアを開けて入る。

誰も居ない部屋の中、いつも通りさっさとスーツを脱ぎ始め、下着姿で弁当を食べる。

それがいつもの習慣だ。

スーツは仕事中は良いが、家では息が詰まりそうな服だ。


 食事の後、シャワーを浴びる。

毎日同じ事の繰り返し。

違うのは仕事の内容と、歳を取っていく事だけか。


 テレビを見ながらボーっとしていると、不意に目眩がして意識が途切れた。


 気が付くと、見知った天井ではなく、天幕を見上げていた。

頭の中がザワザワと色々な情報が駆け巡る。

見知らぬ天幕ではなかった。

健介は知らなかったが、この身体は知っていた。


 身体の名前はヴァージル伯爵の娘シーリア、13歳の少女。

金髪碧眼のお嬢様である。

ヴァージル領はペステン王国の西の辺境に近い場所にある。


 シーリア(健介)の隣では美人の女性が椅子に座って、シーリアが寝ているベッドにうつ伏せに倒れるように寝たいた。

この女性はシーリアの母ミレーヌだったはず。

健介は起こさないようにベッドに起き上がる。

周囲と自分の身体を見る。


(一体何が起きている?)


 健介はテレビを見ていたのを思い出したが、その先が思い出せない。

時計らしきものもなく、時間がわからない。

窓を見ると暗かったから夜なのは判る。

そして、この体の少女シーリアの記憶も途中で途切れていた。

夕食の記憶までが有ったが、このベッドまでの記憶が無い。


(取り敢えず、寝るか。)


 健介は仕事で疲れていたので、考えるのは寝てからだと決めて再び横になった。





 シーリアは家族と話をしながら夕食を食べていた。

シーリアの自慢の父と母。

父はこの領地の民にも支持が厚く、母も美しいと評判である。

まだ子供扱いされているシーリアは、早く大人になって立派な貴族になろうと思っていた。


 そんな夕食の団欒の中、シーリアは意識を失った。


 気が付くと、見知らぬ天井を見ていた。

いやシーリアは知らなくても、この身体は知っていた。


 身体の名前はフィレイ、14歳の少女。

黒髪、青目の町娘であった。


 フィレイ(シーリア)はベッドから起き上がると、回りを確認した。

フィレイの記憶から、そこがフィレイの部屋である事がわかる。

そしてその身体も。


 シーリアは冷静だった。

貴族の令嬢として育てられたシーリアは、大抵の事では動揺しない。

この事態は動揺してもおかしく無い事態だが、取り敢えずは身に危険は無いようだったから冷静でいられた。

カーテンを開けて、窓の外を見る。

隣の家の屋根の上の方に、見知った建物の屋根の先端が見えた。

シーリアの屋敷だった。


(この現象、以前聞いた事があるわ。

 確か転生魔法だったかしら・・・)


 シーリアは自分に起きた事を考えて、推理した。

何者かが転生魔法を使った事は間違いない。

だが、シーリアは屋敷に居た。

転生魔法は遠くの者に使うものでは無いから、その何者かは魔法の儀式に失敗したのだろう。

その副作用が今の状態だと考えるのが妥当だった。

シーリアは魔術の初歩の学習もしており、この様な事は魔術師としては一般的な知識であった。


(私の身体はどうしたのかしら・・・

 まさか死んではいないでしょうね?)


 魂と精神を失った肉体は直に死んでしまう。

元の身体が生きていれば、いずれは転生魔法で戻る事も可能だ。


 シーリアはため息をついてベッドに戻る。


(ここで慌てても仕方ありませんね。

 明日、自分の身体の様子を見に行きましょう。)


 既に死んでいるか、他人の精神と魂が入っているかのどちらかでしかない。

シーリアは眠りに付いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ