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転生の旅  作者: mattsu
13/38

第12話 スカウト



 5日掛けてダンジョンを脱出し、地上に出ると夜だった。

ドラゴンのランのお陰で、雑魚の魔物は寄って来ないから助かった。

しかし、ランにも気配を消す事を覚えさせなければなるまい。


 ダンジョン入り口を警備している兵士は、ランを見るとびっくりした。

ランの正体は知らないだろうが、魔物である事は眼を見れば判る。

兵士達が身構えるのを、健介達が事情を説明して落ち着かせた。


 3人は冷めかけた温い湯に浸かって身体を洗う。

ランも男性側の風呂に行かせて、身体を洗わせた。

ちゃんと身体を洗えるか心配した3人だったが、まさか女風呂に入れる訳にも行かない。

だが、一応汚れは落ちているようだったので、良しとした。


 宿舎の部屋に戻って、さっさと寝ることにする。

ランは健介とフィの部屋に予備の毛布に包ませて寝かせる事にした。

ランは人目に付くと攻撃されるかもしれないから、部屋の外と言う訳には行かない。



 翌日、荷物の中のお宝を金に替え、殲滅証明部位を提出した。


「ちょっとお聞きしたいのですが。

 ドラゴンを連れ帰ったんですが、これは戦績になるんですか?」


 と健介が学校の職員に聞く。

職員は目を見張ってランを見て、慌てて引っ込んだ。


「ちょっとまってて。」


 職員はそう言って、バタバタと殲滅証明部位の引渡し所から出て行った。

3人は顔を見合わせて笑った。

ランは何やってるんだと不思議そうな顔をしている。


 しばらくして校長と共に帰ってきた。


「ほう、これは珍しい。

 ドラゴンが人に化けた姿か。

 このドラゴンを倒したのかね?」


 と校長。


「倒したと言うか、もう少しで倒せると言う所まで追い詰めました。」


 とフィ。


「そうか、それでドラゴンが君たちを主と認めたわけだな?

 ならば、ドラゴンも戦績に入れて良いだろう。

 そのドラゴンは君達の側にいられるよう、通達を出しておこう。」


 と校長は言って、戻って行った。

さすが校長、この程度では動じないらしい。



 休みが終わって後期が始まると学校中に噂が広まり、ダイアモンドクラスにいるランを一目見ようと生徒が押し寄せてきた。

一応、ランは必ずシーリア、フィレイ、クリンの3人の内の誰かの側に居る事が義務付けられていた。


 戦績とダンジョンの記録も更新され、断突の1位である3人の記録は目立っていた。

それ以前に、学生がドラゴンを下僕にするというのは、やはり前代未聞であるらしい。

スカウトの人達の中には、慌てて何処かに連絡を取りに行く者もいた。



 後期が始まって1ヶ月、スカウトの誘いを保留にしつつ、今後の事をフィと話し合った。


「これでヴァージル伯爵家の面目は保たれたわね。」


 と健介は少し安心したように言う。

一応言いだしっぺだから、気にはしていた。


「それどころか有名になって、評判が上がってるわよ。

 この前の盗賊団騒ぎでも、盗賊団をほぼ壊滅させたしね。」


 とフィ。


「これからだけど、例のモノを手に入れる為には、それなりの立場にならないと駄目よね?」


 と健介。


「ええ、この学校にも例のモノはあるみたいだけど、私達には在り処も教えてくれないわ。

 盗もうにも盗めないし、下手すると家名に傷が付くから、窃盗と言う手段は取りたくないわね。」


 とフィ。


「と言う事は、今後はそれなりの立場になれる、将来の展望が望める方向と言う事になるわね。」


 と健介。

伯爵令嬢と言う立場の健介は何処にもいかなくても、ある程度の将来の展望はあるのだが・・・


「そうね。

 スカウトは色々あるけど、そう言う意味では望み薄だわ。

 このまま軍に入る方がマシだともう。」


 とフィ。


「ふ〜、難しいわね。」


 と健介。


 そこに話を聞いていたランが口を挟む。


「一体何の話をしているのだ?

 全く理解出来んのだが。」


 健介とフィは顔を見合わせて、健介が頷く。


「ラン、これから言う事は他言無用よ。

 クリンにもね。」


 とフィはランに確認してから説明する。

ランは頷いた。


「私とリアは転生魔法の魔道書を探しているの。」


 とフィ。


「転生魔法?

 また何でそんなものを?」


 とランは首をかしげる。

ドラゴンの癖に人間らしい仕草だ。


「まあ、それは色々あってね。

 悪用するつもりは無いのよ。

 それはともかく、転生魔法の魔道書を手に入れるために、これからどうしようかと話し合っていたの。

 あれは禁書だから、学校や宮殿の図書館に秘蔵されているのだけど、それを見る為にはどうしたらよいのかとね。」


 とフィ。


「そうか。

 その魔道書なら以前見た事がある。

 興味深い内容だったな。」


 とラン。


「その魔道書はどこに?」


 と健介。


「さあ、ダンジョンの中で見かけただけだ。

 読んだ後は持ち主に返したからな。」


 とラン。


「持ち主って?」


 とフィ。


「魔族だよ。」


 とラン。


 結局は方針が決まらず、時間が過ぎていった。


 そんなある日に見慣れない軍服を着たスカウトが来た。

健介とフィが昼休みの間に呼ばれて、勧誘された。

彼らは王国軍の超エリート部隊を育成する、王国軍上級士官学校の関係者だった。

通常の士官は普通の人や、魔術を使えても普通クラス程度の者がなる。

その配下は少数の魔術戦士と通常の一般兵が配属される。


 だが、この王国軍上級士官学校を卒業生は、健介やフィ等のように特別優秀な魔術戦士が士官になり、その配下も魔術戦士が中心となる。

故に、その部隊は王国軍最強の部隊であり、王国軍上級士官学校は超エリートコースと言える。

これまでよりもレベルの高い魔術の知識が得られる可能性が高い。

少なくとも、このまま魔術学校を卒業して軍に配属されるよりは、例の魔道書を得るチャンスは高くなるはずだった。


 健介とフィは見詰め合って、フィが頷いた。


「判りました。

 ですが、2つ条件があります。

 1つは私達のドラゴンには手を出さないこと。」


 と健介は条件を出す。


「それは、無論だ。

 ドラゴンは君達の手足だと考えている。

 手足を切るような愚かな真似はしない。」


 と士官学校関係者。

健介とフィは頷く。


「もう1つは、クリンも一緒に入れる事。」


 と健介。


「クリン?

 君達のチームの世話係とか、お荷物とか言われている子だろう?」


 と士官学校関係者。

クリンは2人よりも実力が劣る故に、陰でその様に言われている。

しかし、その殆どはただの嫉妬から来るものであり、クリンの実力が本物である事は2人が良く知っていた。


「一体誰が言っているのか知りませんが、それは間違いです。

 クリンは私達が認めた優秀なパートナーです。

 クリンを入れないのなら私達も行きません。」


 と健介は士官学校関係者を睨む。

健介はクリンをバカにされて腹が立っていたと言うより、スカウトが噂を信じて軽率な判断をした事が腹立たしかった。

隣からもフィの怒気が感じられるが、こっちは単純にクリンがバカにされた事を怒っているようだ。


「わ、わかった。

 それは配慮しておこう。

 それでは、うちに来てくれるのだね?」


 と士官学校関係者は冷や汗を流している。

少し怯えた様子を見ると、実戦経験が無いのだろうか?


「ええ、先ほどの条件が飲まれれば、ですが。」


 と健介が念を押した。



 士官学校関係者との会合を終わらせた後、クリンにその事を伝えておいた。


「王国軍上級士官学校って超エリートの学校じゃないですか?!

 そこに私も行くの?」


 とクリンは驚いていた。


「まだ決定では無いわ。

 そう言う話があったって事。」


 と健介。


「でも、決まったと思って良いと思うわ。」


 とフィは自信満々だが、まだ少しいらいらしてた。


「で、でも、私はあなた達2人のおまけだと思われてない?」


 とクリンが哀しげに言う。


「まあ、向うはそう思っているかもね。」


 と健介は笑う。


「でも、そんな事関係ないでしょ?

 相手がどう思おうが、私達は仲間なんだから。

 クリンは私とリアが認めた仲間なのよ。

 もっと自信を持ちなさい。」


 とフィ。


「うん。

 ありがとう。」


 とクリンは照れるように微笑んだ。



 それから1週間後に、士官学校関係者が再び現れて3人を呼び出した。


「シーリア、フィレイ、クリンの3名の王国軍上級士官学校への入学が許可されました。

 こちらが入学許可証です。

 魔術学校の卒業後、1ヶ月以内に王国軍上級士官学校へ登校して下さい。」


 と士官学校関係者がテーブルにそれぞれの許可証をおく。

3人はそれを手に取った。


「そして、こちらは支度金となります。

 こちらに最低限用意して頂くもののリストがあります。

 購入して学校へ届けるか、当日持って来てください。」


 と士官学校関係者がテーブルに3つの袋を置いた。

中には金貨が10枚入っていた。

金貨は1枚で、平民なら2・3年暮らせる程の価値がある。

大金である。


「魔術学校と軍の手続き他は全てこちらで行いますので、ご心配無用です。」


 と士官学校関係者が締めくくった。



 士官学校関係者との会合を終わらせると、クリンは喜んでいた。


「お父様に報告しなくちゃ。」


 とクリンはにこやかだ。


「ああ、私も報告しておかないと。」


 と健介。


「私も手紙出しておこう。」


 とフィ。



 進路が決定するとスカウトの勧誘もなくなり、静かな日々を送れるようになった。

相変わらず放課後の自主訓練は続いている。

魔術学校よりも、エリートの集う学校と有名な上級士官学校である。

どんな猛者がいるのか判らない為、油断は出来ない。


 特にクリンは気合が入っていた。

それに付き合って、フィと健介も訓練をしている。


「ねえ、新しい鎧でも買わない?

 この学校の鎧で士官学校に行くのはちょっと嫌でしょ。」


 と健介。


「鎧?」


 とフィ。


「そうですわね。

 ちょっと胸がきつくなって来ましたし。」


 とクリン。


「それと剣も新調して、新しい魔術付加を掛けようと思うのよ。」


 と健介。


「へえ、どんなの?」


 とフィ。


「ランとの戦いで、ドラゴンの鱗の硬さに苦しめられたでしょ?」


 と健介はランを見ると、ランがニヤッと笑った。


「それを教訓に、新しい魔術付加の構成模様を考えてたのよ。」


 と健介。


「なるほど、じゃあ、今度のはドラゴンの鱗も軽く突き通せるわけね?」


 とクリン。


「ええ、若干魔力を食われるけど、今のより威力は格段に上がるわ。」


 と健介。

ランは今度は嫌そうな顔をした。


 支給された支度金を使わなくても、ダンジョンでの戦利品を売った金が、金貨で43枚ほどあった。

ダンジョンでの戦利品で稼ぐ生徒も居るが、ここまで稼いだ生徒も珍しいとの事。


 購入予定の武具の相場は

鎧は大体銀貨200〜1400枚ほど。

剣は大体銀貨100〜2000枚ほど。

金貨1枚で銀貨1000枚の価値があるから、贅沢を言わなければ余裕で買える。


「それじゃ、試験休みにでも町に出て買いましょう。」


 と健介。

休みにならないと、学校の敷地からは出られない。



 後期の試験は約2ヵ月後。

その2週間ほど後に卒業式がある。

卒業式から1ヶ月以内に上級士官学校へと行かなければならない。

魔術学校は卒業式から10日以内に退去しなければならない。

試験後から卒業までの間に、剣と鎧を新調して魔術付加する訳だ。

遅くても、卒業式から10日以内で終わらせれば良い。



 試験までの間も何の問題もなく、淡々と過した。

試験はいつも通りこなし、終わると早速、町へと繰り出した。

魔術学校の近くには、それなりに大きい町がある。


 ランは帽子を目深に被らせて、伊達眼鏡を掛けさせて目立たないようにさせて連れて来た。


「初めて見るけど、結構賑わっているわね。」


 とクリン。


「そうね、いつもは通り過ぎるだけだからね。」


 と健介。

ランはものめずらしげに、町をキョロキョロ見ている。

健介は何処の田舎者だと突っ込みたかった。


 町の人に聞いて、武器を売っている店を教えてもらった。

その店に行くと、露店のように剣が何本も並べられていた。

3人で剣を手にとって確かめる。


「ちょっと、私の方は駄目ね。

 良いのがない。」


 と健介。


「私もいまいちかな。」


 とフィ。


「私も今の剣と余り変わらない気がします。」


 とクリン。


「ねえ、もっと良い剣は無いの?」


 と健介は店の主人に聞く。


「ここにある物より良いのといったら、町外れにある鍛冶屋のものしかないな。

 だが、あそこは基本的に受注生産みたいだからな。」


 と主人。


「判ったわ。ありがとう。」


 と健介。


 とりあえず、その鍛冶屋へと行ってみる事にした。

人ごみの中を歩くこと30分ほど、その鍛冶屋は町外れの寂れた場所にあった。


 鍛冶屋の店らしき場所に、いくつかの剣があったのでそれを見てみる。


「あ、これなかなか良いよ。

 クリン、これどう?」


 とフィ。


「ああ、重さのバランスが良いですね。

 しっくりきます。」


 とクリン。


「その剣は売約済みだ。」


 と初老の男性が出てきた。

鍛冶屋の親方らしい。


「あ、すいません。」


 とクリンが剣を戻す。


「親方さん、剣が欲しいんですけど。」


 と健介。


「今は売れるものは無い。

 欲しいなら新しく剣を打ってやるが。」


 と親方。


「剣を1本打つのにどれくらいの日数が掛かります?」


 と健介。


「大体2・3日って所だな。」


 と親方。

3人分で9日。

厳しい日数だが、卒業後も少し居残れば問題は無い。

3人で話し合って、新しく剣を打って貰う事にした。


「それじゃ、私達3人の剣をお願いします。

 私は双剣です。」


 と健介。


「私は片刃の剣で。」


 とフィ。


「あ、え、えと、普通の剣で。」


 とクリン。


「それじゃ、お前さんらの剣を見せてもらおうか。」


 と親方。

3人は親方に自分の剣を渡して見せる。

親方は剣を丹念に見ていた。


「うむ、打ち終わったら連絡する。

 どこへ連絡すれば良い?」


 と親方。


「魔術学校の学生シーリアへお願いします。」


 と健介。


「一応、前金を受取っておきたいんだが?」


 と親方。


「ええ、構いません。」


 と健介。


「1人銀貨200枚だ。」


 と親方。


 3人は金袋を見て頭を抱えた。

金貨を両替していなかったのだ。

仕方ないので。


「親方、前金はこれで。」


 と健介は金貨を1枚渡す。


「どういうつもりだ?」


 と親方。


「それで3人分の前金としてください。

 剣が出来たら、足りない分は払います。

 余ったら、何かおまけして下さい。」


 と健介がにっこり笑って愛想を振りまく。

親方は唸った。


「まあ良いだろう。

 連絡したら取りに来な。」


 と親方。



 3人は鍛冶屋を後にして、両替屋へと向かった。

3人それぞれが金貨1枚を銀貨に替えてた。

銀貨500枚が入った袋2つの重たい袋を持って防具屋へと向かった。

この流通通貨は厄介である。


 防具屋では、革鎧や鎖鎧、胸当て等が置いてあるが、それは飾りだった。

考えてみれば判るが、鎧は身体に合わせて作らなければならない。

衣服の様にフリーサイズなどないのだ。


 3人は店員に身体のサイズを測られる。


「何か恥ずかしい。」


 とクリン。


「この程度で恥ずかしがるんじゃないの。」


 とフィ。


 次に鎧の形状や素材などを質問される。


「う〜ん、私は鎖鎧を板金で補強した防御力と運動性を確保したものが良いわね。

 素材は鋼でお願い。

 表側のデザインは、王国軍でも問題ない落ち着いたものにして。」


 と健介。


「私も彼女と同じものにして。」


 とフィがにっこり笑う。


「えと、わ、私もそれで。」


 とクリン。


「あなた達、他人任せで良いの?」


 と健介が苦笑する。


「いいじゃない、お揃いの鎧よ。

 チームなんだから、それで良いのよ。」


 とフィ。


「そう、お揃いなのよ。」


 とクリン。


「ええと、宜しいでしょうか?

 鎧3つを作るのに、大体8日掛かると思います。

 料金は1つ銀貨850枚、前金で1つ銀貨300枚です。」


 と店員。

3人は前金を支払った。


「出来あがったらお知らせしますので、連絡先を教えてください。」


 と店員。


「魔術学校の生徒シーリアです。」


 と健介。


 3人は防具屋を出た。


 健介は他に買い物があると、2人を連れて魔法屋へと向かった。

魔法屋には魔術に用いる様々な道具などが売っている。

売っている道具類は、主に儀式魔法に使うものだ。

健介がそこで買ったのは、魔術付加用の触媒である。


「それは何?」


 とクリン。


「魔術付加に使う触媒よ。」


 と健介。


「え?

 また彫るんじゃないの?」


 とクリンは金槌を打つ動作をする。


「いいえ、今回は鎧が鎖鎧でしょ?

 鎖の輪の1本1本を彫るの?」


 と健介。


「ああ、それは勘弁して欲しいかも。」


 とクリン。


「今回は自動書記の魔法と組み合わせて、この触媒を使って魔力と共に刻み込むのよ。」


 と健介。


「リアったら、魔術付加で店を開けるんじゃない?」


 とクリン。


 単純な魔術付加自体はそれ程難しいものではない。

だが、付加する魔術が複数で複雑になれば、当然難易度は格段に上がる。

自動書記と組み合わせることが出来るのは、それなりに腕の立つ魔術師で無ければ出来ない。

しかも、込める魔力の事を考えると、魔術師の魔力は大きい方が良い。

実際、自動書記と魔術付加を組み合わせてる使える魔術師はそれなりにいる。

だが、魔力が少なくて強力な魔法具を作れない場合が多いのだ。

その点、シーリアの魔力は十二分に高い。


 ちなみに、最後の魔力測定の結果は。

シーリアが2800、フィレイが3400、クリンが2100だった。

クリンも急速に成長している。

それだけの素質があり、リアとフィに扱かれていた為だろう。



 学校へ戻って訓練をしながら待っていると、9日後に鍛冶屋と防具屋から連絡が来た。

3人は町へと急いで向かう。

まずは防具屋へ行く。


「試着してみて下さい。

 問題があれば、微調整します。」


 店員と鍛冶屋らしい男が並んでいる。

3人は試着室に入り、学校支給の鎧を脱いで新しい鎧を身に付けた。


 試着室から出て動き回る。


「ちょっと肘の辺りが引っかかってる感じなんだけど。」


 と健介。

鍛冶屋が肘の辺りを見て、巨大なペンチのようなもので肘の板金を動かしている。


「これでどう?」


 と鍛冶屋。

健介は肘を動かし、腕全体を動かしてみる。


「うん、良いみたい。」


 と健介。


 3人はそうやって鎧の不具合を調整した。

残りの金を払って、新しい鎧を着たまま防具屋を出た。

古い鎧は、新しい鎧を入れる予定だった袋に入れて、ランに持たせて居る。


 クリンは新しい鎧が動きやすくて、少しはしゃいでいる。

以前の鎧よりは少し重いのだが、金を掛けて動きやすい機動力を重視した鎧である。

フィも新しい鎧には満足しているようだ。



 その後、剣を受取りに町外れの鍛治屋へと向かう。


「親方〜!」


 鍛冶屋の店の前で、健介が呼ぶ。

少しして。


「おう、来たな。

 用意できてるぞ。」


 と親方は3人の剣を抱えて持ってきた。

3人は各々の剣を手にとって、出来を確かめる。


「うん、いいね。」


 と健介。

今までの双剣も悪くなかったが、新しい双剣はより重量バランスが良く腕に馴染む。

刀身の反り具合も以前よりも少なくなり、より刀っぽくなっている。


「こっちも良いわよ。」


 とフィ。

フィの新しい片刃の剣は若干反りが入り、直剣と刀の中間な感じだ。


「ああ、ぜんぜん違うよ〜」


 とクリンは目をキラキラさせて喜んでいる。

クリンの剣は両刃の直剣だ。

剣の幅は普通の剣よりは細めで刀身のバランスが良く、振りに力を込めやすい。

刃の角度も柄から剣先に掛けて微妙に変化しており、切り付け易く刺し易い。

今まで使っていた学校支給の無骨な剣に比べると、雲泥の差である。


「親方、良い仕事してるね。」


 と健介が微笑む。


「満足してくれたなら、残りの代金を払ってもらおうか。」


 と親方も笑って言う。


「おいくら?」


 と健介。


「残りは、双剣が銀貨340枚。

 片刃の剣が250枚。

 両刃の剣が260枚。」


 と親方。


「随分掛かったのね。」


 と健介は銀貨を数える。


「ああ、お前さんらの剣は元々そう悪い物じゃなかったからな。

 それよりも良い剣を打つとなると、良い鋼を使わなきゃならん。

 良い鋼を鍛えるのには、大量の燃料も必要になる。

 無論、俺の腕の値段もある。」


 と親方はニヤッと笑う。

ヴァージル領の鍛冶屋で買った剣は、それなりに良い剣だったらしい。


「そう言う事なら仕方ないわね。」


 と健介は数えた銀貨を親方に渡す。

他の2人も銀貨を数えて親方に渡した。


 親方が金額を確かめるのを待ってから、鍛冶屋を後にした。



 学校に帰って次の日、魔術付加を開始した。

自動書記と魔術付加を組み合わせる場合、魔力を込めると魔力の消費が激しいので、1日に魔術付加する剣は2本が限界だ。


「新しい魔術付加は、今までと同じ強化、軽量化、電撃、防錆の4つの他に、

 強化に対して増幅魔法を発動させるようにするの。」


 と健介が説明した。

魔術付加した双剣に試しに魔力を込めて電撃を刀身に溜め、更に剣の握りの根元にある印を触ると剣がかすかに光った。


「この印を触って魔力を流すと、剣の強化魔法が増幅魔法でさらに強化される。

 一応、一度魔力を流すと、5分間増幅されるようになってる。

 余り長時間設定すると、魔力の消費が大きくなるからね。」


 と健介。

2人はそれを見て頷く。


「これで良い?」


 と健介。


「うん、それでいい。」


 とフィ。

クリンもコクコク頷く。


 次の日に、フィとクリンの剣に魔術付加を行った。

1年前よりも魔力を増したリアの魔術付加は、普通の強化だけでも威力は増している。

その強化の上に更に増幅を行ったら、ドラゴンの鱗も易々と貫くだろう。


 更に次の日。

鎧への魔術付加を行う。

鎧は構成物質が多いので、1日1つ魔術付加するのがやっとだ。


「鎧への魔術付加も改良してるよ。

 強化、軽量化、防錆の他に、防音と保温を追加した。」


 と健介。


「防音と保温?」


 とクリン。


「そう。

 防音は鎧が出すガチャガチャ言う音を出さないこと。

 保温は外気が20度±40度前後まで、温度変化を防ぐ事が出来る。」


 と健介。


「何か地味ね。」


 とクリン。


「まあ、そう言わない。

 この追加の魔術付与の有り難さは、直に判るから。」


 と健介。




 卒業式の日に、全ての魔術付加を終える事が出来た。

卒業式では、主席の挨拶としてシーリアが挨拶をした。

卒業式が終わると、8割方の生徒がその日の内に魔術学校を去って行った。


「ちょっと寂しくなったね。」


 とクリン。


「そうね。

 でも、直に新入生が来て騒がしくなるわよ。」


 とフィ。


「その前に、私達も出発するけどね。」


 と健介。


 残っている生徒は迎えを待っている者か、移動前に時間を潰している者だ。

3人も後者である。


「剣と鎧の準備も出来たし、明日には出発しようか?」


 と健介。

2人が頷く。


「クリン、次ぎ会うときは士官学校だね。」


 と健介。


「うん。

 遅れちゃ駄目よ?」


 とクリン。


「それはあなたでしょう?

 クリン。」


 とフィが笑って言う。


「私、遅刻はしないもん。」


 とクリンが膨れた。


「私達は最終日の2・3日前には近くの町に行くから、一緒に士官学校へ行く?」


 と健介。


「うん。

 一緒に行く。」


 とクリン。


「リア、クリンを甘やかさないの。」


 とフィが苦笑する。


「まあ良いじゃないの。

 今回だけよ。」


 と健介。



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