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転生の旅  作者: mattsu
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第11話 ドラゴンとの戦い



 3年生の後期も順調に訓練と勉強を続け、主席をキープした。

フィレイもそうだが、シーリアの身体も天才と言うに相応しい。


 ダンジョンの到達階や戦果などの成果も公表されている為、3人は有名になっていた。

到達階自体は大した事は無いのだが、戦果が並ではなかった。

3人の戦力では殆ど逃げる必要なく戦っていたし、ハルカントを倒しているので、質、量共に圧倒的な戦果である。

魔族4人の功績は含めていない。

これはタリア達との共同戦績と言う事になっている。



 4年生の前期が始まると、チラホラと見物人がやってくる。

殆どは軍人らしいが、いかにも貴族という者や、商人らしい者もいた。

彼らはスカウトしに来た者達だった。


 軍属の魔法学校だが、必ずしも軍に入らなくても良い。

その場合は、補助されていた授業料と違約金を支払わなければならない。

だが、それを払っても欲しい人材は居る。

そう言う人材を引き抜こうとやって来ているのだ。


 商人はダイアモンドクラスには来ない。

競争率が高すぎるからだ。

殆どオークションのようなものである。

ダイアモンドクラスに来るのは、軍人と貴族だ。


 何故軍人が来るのか?

それはこの国の軍制度に問題がある。

この国の軍は王国軍と、貴族軍に別けられる。

魔術学校の卒業生は、何事もなければ王国軍へと配属される。

そこで訓練を受けた後、各貴族軍へと分配される。

しかし、有力な貴族軍以外に魔法学校の卒業生が配属される事は少ない。

配属されても、余り使えない者を押し付けられるのが落ちである。

それ故に、多少金がかかってもスカウトするのだ。


 ヴァージル伯爵の貴族軍も、魔術が使える人間は殆どいない。

その一握りが屋敷の警護をしているのだ。

それは最低限の守りとして必要だが、前線で戦える魔術の使える兵士が欲しいのは当然であろう。

だが、ヴァージル領は比較的安全な領地である。

先の大規模な盗賊団が来なければ、問題は無かった。


 そして当然の如く、シーリア、フィレイ、クリンの3人はスカウトの標的になっていた。

一応、学校側から生徒の訓練や勉強の邪魔にならないように通達されているようだが、放課後の自主訓練も見物されるとさすがに困る。

秘密の切り札の魔法の練習が出来ないからだ。

そんな訳で、今は剣の訓練と普通に知られている魔法の訓練だけ行っている。


「あの人達何とかならないのかな。」


 とクリンが困り顔だ。

人の目を一番気にする少女である。

フィと健介も気持ち良い訳ではないが。


「気にしたら負けよ。クリン。」


 と健介。


「そう、どんな状況でも戦えるようにしないとね。」


 とフィ。


 リアとフィの模擬戦が始まると、見物人から感嘆の声が上がる。

2人はそれを無視して、ギリギリまで切り結ぶ。

どちらの攻撃もまともに当れば、手足どころか胴体でも切断する威力だ。

約2分間の模擬戦。

クリンが停止の合図をすると、2人は分れる。

この短時間でギリギリまで追い込む訓練を、ほぼ毎日行っている。

無論、クリンもだ。

ただ、クリンの場合はゴーレムを使う場合と使わない場合の両方で訓練する。

今ではゴーレムの動きとクリン自身との連携は絶妙になっている。

5・6メートル程度の範囲なら、殆ど分身の様に扱えるらしい。

学校の生徒で、リアとフィ以外でまともに相手が出来る生徒はいないだろう。


「この分身攻撃をしても私が勝てないあなた達は、やっぱり化け物よ。」


 とクリンが悔しげに言っていた。



 どうやら一番人気はフィレイらしい。

貴族では無いから、身軽であるのが人気の秘密か?

無論、実力も美貌も兼ね備えている。


 ついで、クリン。

ちょっと戦力は落ちるがそれは他の2人が強すぎるだけ、クリンはゴーレム使いとして使い勝手が良い。

護衛の囮や楯として使えるし、護衛任務には最適といえる。


 最後にシーリアと言う事になる。

シーリアは伯爵家令嬢で、クリンは男爵家令嬢。

クリンに比べると敷居が高いと思われるのも無理は無い。

双剣使いと言う異色の戦力である事も、微妙に引く要素であるようだ。



 3人は一応、後期になるまではどこに行くか考えないと言う事にした。

4年の最後の長期休暇でダンジョンに入る予定だったから、余計な雑念を入れたくなかった。

来るスカウトの人達を、そう言って丁重に引き取ってもらって、再びダンジョンに入る準備をしている。


 日々の授業と自主訓練の毎日が過ぎていく。

健介達の訓練時間は他の生徒達に比べて長い。

自主訓練を含めての事だが、やはり、実力の差を広げているのはこのせいだろう。

ダイアモンドクラス内では普通だったクリンも、今では頭1つ抜きん出ているのだから。



 前期の試験を何とか主席をキープして終え、最終調整に入る。

前回中途半端に終わった地下25階の探索から始めるが、その前に数日は地下13階前後で留まる事にしていた。

切り札の魔法の訓練をするつもりだった。


 3人はダンジョンに入って予定通り、1日掛けて地下13階にやって来た。


「ここはいつ来ても何も無いね。」


 とクリン。


 この階には泉と苔むした地面くらいしかない。


「だからここに来たんでしょ。

 今日は休んで、明日から特訓よ。」


 と健介。




 翌日、朝から魔術の訓練を始めた。

粒子魔法の改良版である。

粒子魔法にもう1つ魔法を追加した。

以前の分解光線は直に感を取り戻せたが、一番の狙いはもう1つの方だ。


「結合魔法?」


 とフィが首をかしげる。


「ええ、上手く行けば分解よりも強力な魔法になるわ。」


 と健介。

分解を極限まで突き詰めればその方が強力なのだが、強力すぎてダンジョン内でそんな魔法は使えない。

結合によって核融合を起こす方が威力としてはちょうど良いだろう。

核融合エネルギーを使った攻撃が最強の手札となる。

大抵の魔物は分解光線で倒せるはずだが、この核融合は破壊の仕方が異なるから使い勝手が違う武器となる。


 健介が広場の隅に苔を置いて、その苔に魔法を掛ける。

苔の中にある水素が核融合を起こし、瞬時に爆発した。

水蒸気爆発だろう。


「うわ、爆発した。」


 とクリン。

爆発した周囲は蒸気と煙が漂っている。


「あれだけなの?」


 とフィは不満げな顔で見てくる。


「あれだけって、あれがどれだけか判ってないでしょ?」


 と健介がにんまり笑う。

健介は十分な威力に満足していた。

もう少し威力を落とさなければならない程だ。


「どういう意味?」


 とフィ。


 その質問には答えずに、先ほどの苔の塊よりも大きな塊を、同じ場所に置いた。


「もっと離れて、シールド全力にして見てなさい。」


 健介は苔に核融合の魔法を掛けた。

先程よりも格段に大きい爆発が生じて、爆風が3人を包む。

ダンジョンの周囲が揺れていた。


「どう?」


 と健介。

フィとクリンは顔を見合わせ、唖然としていた。


「実はね、今のでも威力を落としているのよ。」


 と健介。


「あれで?」


 とクリン。


「ええ、全力で融合させると、私達が危ないから。」


 と健介。


「融合って何なの?」


 とフィは不安げだ。


「説明するのはちょっと難しいわね。

 簡単に言うと、この苔や魔物、そして、私達人間も目に見えない、凄く小さな粒で出来ているの。

 その粒同士を1つの粒にするのが核融合という現象なの。

 この核融合が起きると、爆発的にエネルギーが発生するの。

 その結果があれ。

 でも、あれでも核融合を起す粒はかなり制限しているの。」


 と健介が簡単に説明する。

フィとクリンは首をかしげている。


「その内ちゃんと説明してあげる。」


 と健介。



 その後も融合魔法の訓練をして、ちょうど良い威力と魔力消費量を探った。

2日の内で、何度か他のチームが脇を通っていった。


「それじゃ、そろそろ行きますか。」


 と健介。

完全ではないが、十分な手応えを得ていた。

苔であれだけの威力である。

魔物の身体に使ったら、どれだけの威力を発揮するのか、余り考えたくは無い。



 3人は地下25階へと下りて行った。

前回の魔物との遭遇現場は血の後が少し残っているだけだった。

魔族の死体は魔物にでも食われたのだろう。


 あの時、魔族が居たと言う事は、ダンジョンの奥には魔族が居ると言う事だろう。

一応、そう言う情報は学校側から得ていたが、やはり自分の目で見ると実感するものだ。


 探査魔法を使いながら細心の注意を払って探索して、階下へと降りていく。

地下34階に着くまでは、大した障害もなく順調に進んでいた。

そこである意味、運命の出会いを果たした。


 地下34階は地下13階と似た空間だった。

巨大な空間のフロア。

大きく異なる点が1つ。

ドラゴンが居座っていたことだ。


「ちょっとこれは・・・」


 健介が階段の陰に隠れて、巨大なドラゴンを見て呟く。


 ドラゴンは全長14・5メートルはある。

人間を丸呑み出来る程の大きな頭と顎、鋭い爪を持った大きな腕と足。

鞭のようにしなやかで、打たれれば即死するであろう棘のある太い尻尾。

そして、高い知性と魔術。

さすがに3人は足を止めざる得なかった。


「作戦を立てましょう。」


 と健介が言って地下33階へと戻る。


「魔物最強のドラゴンです!」


 とクリンが興奮している。


「落ち着きなさい。」


 とフィがクリンの頭を撫でる。


「もう、子供じゃないんだから!」


 とクリンが膨れる。


「クリン、大人にならないと、仲間はずれにするわよ。」


 と健介がニンマリしてみる。


「わ、わかったわよ。」


 とクリンが大人しくなった。


「さて、あのドラゴンに対してどう戦うか?

 何か案はある?」


 と健介。


「素早く近付いて、魔法でバーンと。」


 とクリン。

ダンジョンに慣れてドラゴンを見たせいか、妙にテンションが高い。


「私の案は、こうよ。

 ドラゴンの弱点は・・・」


「無視した〜」


 クリンの意見を無視して説明を始めた健介にクリンがしがみ付く。


「クリン、あなたは戦略家には向いていないわね。

 要人警護とかの仕事が良いと思うわ。」


 と健介。

クリンは膨れたまま健介から離れた。


「それで、ドラゴンの弱点はあの巨体よ。

 ドラゴンにとっては狭いダンジョン。

 飛ぶことも出来ないから、ハルカントの様に足を潰せば勝機が出来るわ。」


 と健介。


「でも、今回は近付くのも大変そうよ。」


 とフィ。


「それは考えがあるわ。

 これを使うの。」


 健介は木の札を取り出した。

防壁の魔法が封じられた札だ。


「それで一時的に動きを止める訳ね。」


 フィも納得したようだ。


「うん。

 それとこれ。」


 健介は別の札を出す。

幻影の魔法が封じられた札だ。


「いくら防壁で攻撃を封じても、こちらが攻撃す時には防壁から出ないといけないから。

 この幻影魔法でドラゴンをかく乱させるわ。」


 と健介。


「閃光じゃ駄目なの?」


 とクリン。


「ドラゴン相手に閃光は止めたほうが良いと思うわ。

 ドラゴンが闇雲に暴れ出したら、手が付けられないから、

 幻影を追ってくれた方が良いのよ。」


 と健介。


 3人は更に細かい打ち合わせをして、荷物を地下33階に隠してドラゴンのいる地下34階へ降りていった。

戦いは初めから壮絶だった。


 札を投げて防壁を展開するのとドラゴンが迫ってくるのがほぼ同時だった。

辛うじて防壁が間に合って、ドラゴンが激しく激突し、防壁が一瞬歪んだ。


 ドラゴンが衝突の衝撃に怯んでいるうちに、ドラゴンの反対側へと走り防壁を展開する。

その間に幻影を放つ。


 ドラゴンが攻撃を再開し、幻影に魔法やブレスを放ち、豪腕を振るう。

その合間を縫って、ドラゴンの足元へと走りよって、剣を突き刺す。


「なんて硬いの!」


 とフィが離脱して攻撃をかわしながら言う。

健介も高速で突っ込んで、双剣を振るが硬い鱗に阻まれて、深く切れない。


「同じ所に、何度も剣を叩きつけるのよ!」


 健介も攻撃をかわしながら、離脱して叫ぶ。


 2人が退くとクリンが浅く突撃して札を投げて戻ってくる。

そして。

ドラゴンの足元で爆発する。

ドラゴンは炎ではダメージを与えられないが、爆破の衝撃でダメージを与える事は出来る。


 ドラゴンは攻撃しながら後退した。


「攻撃やめ!

 下がって!」


 健介が叫ぶ。


 ドラゴンと3人の間に30メートルほどの空間が空く。

その両脇は魔法の防壁があるから、そのまま突撃すればこちらが避けるスペースが無くて不利になる。

ドラゴンはそれを狙ってジワジワ後退したようだ。

こうなると防壁が邪魔である。


 ドラゴンの後ろには回れない。

尻尾があるから、下手に後ろには行けない。


 しばらく睨み合いが続いたが、先に動いたのはドラゴンだ。

ブレスを吐いた。

防壁の間を炎が充満し、3人に熱風を吹きつける。

炎によって一瞬視界が奪われた隙に、ドラゴンが炎を突き破って突進してきた。

さすが知能の高いドラゴン、炎を煙幕代わりにしたのだ。


 3人は咄嗟に左右へ回避する。

フィが左、クリンと健介が右へ。

ドラゴンはクリンと健介に向かって追撃するように突進し、なぎ払う様に豪腕の爪を振るった。


 健介は回避行動ついでに、ドラゴンへと向かって足へ切りつけて防壁の裏へと逃げ込む。

クリンは跳躍して爪を回避した。

フィがドラゴンの後ろから魔法を使おうとしていたが、尻尾で攻撃されて上手く行かない。


 ドラゴンと3人は少しの間、激しい格闘戦を繰り広げた。

3人の魔術強化された身体での高速格闘戦はドラゴンにも通用したが、長時間続ける事は出来ない。

肉体的にも精神的にも大きな負担になる。


「閃光!」


 健介は叫んで札を投げる。

ドラゴンの眼前で光が爆発し、一瞬フロア全体が光に包まれた。


「撤退!」


 健介はドラゴンが防御姿勢をしている内に叫んで階段へと走った。

クリンは階段の近くにいたので先に上がり、フィが健介の後に続いた。



「やばかったね。」


 とクリン。

3人とも息が荒い。


「さすがドラゴンと言った所だわ。

 あれほど硬いとは思わなかった。」


 とフィが剣を見ている。

刃こぼれがある訳ではないが、有効なダメージを与えられなかった。


「ドラゴンを少し甘く見ていたわ。

 作戦自体は悪くなかったけど、あの硬い鱗。

 厄介だわ。」


 と健介。


「せめて魔法が使える隙があればね。」


 とクリン。


 ドラゴンはその巨体に似合わず、動きが早い。

それ以上に魔法と同時に豪腕やブレスでの攻撃が繰り出されてくる。

故に、こちらが魔法を使う余裕がない。

高速移動しながらでは魔法は使えない。


 人間が使う魔法は儀式魔法は別として、身体強化など以外は数秒から数十秒の時間が掛かる。

その間の隙があればドラゴンに殺されてしまう。


「もう閃光は使えないわね。

 次に逃げる時は、閃光を囮に氷結と防壁で動きを止めるわよ。」


 と健介。

知能の高いドラゴン相手に同じ手が使えると思ってはいけない。

先に逃げ道を確保しておくのが、健介のやり方だ。

生き延びれば次がある。


「今日は休みましょう。

 へとへとだわ。」


 とクリン。

健介とフィは頷いて、荷物を隠した場所へと歩き出した。


 命を掛けたドラゴンとの実戦。

訓練以上の実力を、訓練以上の時間発揮していた3人は疲労が激しかった。

魔力にはまだ余裕があるのが救いである。


 荷物を掘り出して周囲に強力な多重結界を張り、3人は毛布に包まって眠りに付いた。



 3人は目を覚ますと、運動をして身体を解した。

食事をしながら、対策を練る。


「とにかく、相手の動きを止める為に足を潰す必要があるわ。

 動けないドラゴンなら、こちらも余裕が出来る。」


 と健介。

1撃でドラゴンを倒す事が出来ない以上、それが一番の方法だった。


「と言う事は、あの硬い鱗をどうにかしないとね。」


 とフィ。


「多少強引にでも、魔法を使えるようにしないと駄目かな?」


 とクリン。


「2人で完全にドラゴンの注意を引き付ける事が出来る?」


 と健介。


「無理ね。」


 とフィが即答する。

それが出来ればとっくにやっている。


「なら、剣で足を潰す事になるけど、鱗をどうにかするか、剣の威力を上げるかだね。」


 と健介。


「どっちも難しいね。

 鱗はどうにもならないし、剣は既に威力を上げているから。」


 とフィ。


「地道に攻撃するのは、耐久力と持久力の差でこちらが不利だよ。」


 とクリン。


「となれば、魔法を使える隙が出来るまで、剣で戦って耐える。

 それしかないかな。」


 と健介。


「それしかないわね。」


 とフィ。


「頑張りましょう。」


 とクリン。


 3人ともまだ戦意は衰えていなかった。

ドラゴンとまともに戦えた事が自信に繋がり、逆に戦意を高めていた。

それ故、とにかくやってみようと言うノリだった。


 3人は荷物を隠して、階段を下りて行った。

ドラゴンは待ち構えていた。

3人が戻ってくるのが判っていたのだろう。


 3人は防壁を作って逃げ場所を確保し、幻影魔法を掛けてドラゴンとの戦闘を開始した。

ドラゴンの方も前回の傷は癒したようで、完全な仕切りなおしとなっている。


 相変わらず素早い動きでの豪腕の攻撃と、魔法攻撃、ブレス攻撃が同時に2つ繰り出され、3人は回避に忙しい。

足だけでなく、攻撃できる場所は攻撃しているが、やはり硬い鱗に阻まれて深い傷を負わせる事が難しい。


 3人は防壁をうまく使い、休み休み戦い続けた。

ドラゴンは疲れ知らずで戦い続けている。

だがそれでも、ドラゴンの動きを覚えて前回よりは楽に戦えていた。

そして、ついに魔法を使えるチャンスがやって来た。


 ドラゴン動きを覚えたのが功を奏したのだ。


 健介がブレス直後のドラゴンの頭部に剣を突き刺した。

ドラゴンは咄嗟に回避してダメージを軽減したが、その時、足元でクリンの投げた爆炎札が爆発してドラゴンは勢い余って転倒した。

フィは健介がドラゴンの頭部に向かった時には魔法の準備をしていた。

クリンの動きを見ていたのだ。

ドラゴンが転倒して起き上がるほんの数秒の間、それが勝負の分かれ目だった。


 フィの指先から分解光線が発射され、ドラゴンの後ろの片足の付け根に当る。

さすがに巨大なドラゴンを貫通しなかったが、ドラゴンの片足の付け根は骨まで分解されて、役に立たなくなっていた。

これでドラゴンは移動が出来なくなり、3人に有利な状況が作れた。

魔法を使う隙も生まれやすくなる。


「チャンスよ!」


 と健介。


 ドラゴンは方膝を付くような体制で3人を迎撃するが、下半身が動けない為に全体として動きが鈍い。

健介は隙を突いて分解光線をドラゴンの頭部へと向けた。

それはドラゴンが咄嗟に上げた豪腕に遮られ、豪腕が肘の辺りから塵と化した。

ドラゴンは豪腕を失ってバランスを崩し、後ろへ倒れた。

直に起き上がって3人に向き直る。


 それを機に3人は魔法を使おうとした。


「待て!

 人間達よ、私の負けだ!」


 とドラゴンから声が聞こえた。

ドラゴンは顎を地面につけて降伏の意を表していた。



 3人は用心して距離を開けたまま話す。


「負けと言われても、あなたを生かしておく理由があるかしら?」


 と健介。

ドラゴンを倒せば、それだけで実力を示し名声を高める事が出来る。

逃がしても得は無いし、この戦闘の苦労が台無しである。


「お前たちを我が主とし、盟約を交わそう。」


 とドラゴン。


 ドラゴンは魔物最強の種族であるが、盟約の種族とも言われている。

悪魔は契約によって力と代償を交換するが、ドラゴンは盟約によって主従関係を結ぶ。

そんな話があった。

だが、ドラゴンが盟約を結ぶ事は極めて稀であり、英雄譚でしか聞いた事は無い。


「へえ、私達のような小娘と盟約を交わすの?」


 とフィ。


「小娘だからだ。

 お前達にはまだ未来があり、まだ強くなる。

 ここで死ぬのも詰まらんし、お前達の行く末を見て見たい。」


 とドラゴン。


「そう、それでどうするの?」


 と健介。


「我が名を明かし、盟約の印とする。

 我が名はランズーヴェレート、お前たちを主としその命に従おう。」


 とドラゴン。

3人は顔を見合わせて苦笑した。


「いいわ、ランズーヴェレート、あなたの主になりましょう。」


 と健介が言って、フィとクリンにも促す。


「これで盟約の儀式は終わった。

 主よ、私は人に変身する。」


 とドラゴンは言って、人間に変身した。

銀髪に銀の瞳、白い肌の長身の美青年だ。

190センチはある。

だが、片腕がなく、片足も付け根からもげそうだ。


「じっとしてなさい、治療してあげる。」


 と健介は治癒魔法をドラゴンに掛ける。


「ねえ、この子なんて呼ぼうか?

 ランズーヴェレートって他の人に知られちゃ駄目でしょ?

 ランでいいかな?」


 と健介の後ろでクリンがフィに話している。


「そうね、気取っても仕方ないし、良いんじゃないかな。」


 とフィ。

これでドラゴンはランと呼ばれる事になった。

女っぽい呼び名だが、美青年だからそれ程違和感がない。


「クリン、フィ、無駄口叩いてないで荷物もって来て。」


 と健介が治癒魔法を掛け続けながら言う。

治癒魔法はそれ程苦手ではないが、ドラゴンのダメージは大きく、なかなか治癒が終わらない。

ドラゴンのランは興味深そうに健介を見ている。


「主よ、1日あれば自分で回復できる。」


 とランが健介に言う。


「良いから黙ってなさい。」


 と健介。

どの道、ここで休んでいく事になる。

休んでいる間も、全員が5体満足である方が良い。

機動力は重要だ。



 2時間弱の間に治療が終わり、荷物を持ってきたフィとクリンが野営の準備を終わらせていた。

地下34階のドラゴンのフロアで眠りに付く。

昨日に引き続き、かなり疲労していた3人は結界の中でぐっすりと眠った。

ランはその3人を面白そうに見つめていた。


 3人が目覚めて出発の準備をする。


「ところで、ラン。

 その格好で戦えるの?」


 と健介。

ランは全裸に腰に毛布を巻きつけただけの姿だ。


「ああ、この姿でもドラゴンだ。

 多少の制約はあるが、そうだな、ハルカントくらいの強さに落ちたと思ってくれれば良い。」


 とラン。

3人は納得して、階下へと下りて行った。



 それから15日掛けて、地下53階まで降りていた。

ランが仲間となって戦力が上がった為、探索の速度が上がっていた。

ランは言ったとおり、ハルカント以上の実力を示していた。

3人とは、1対1では勝てないほど強い。

人の姿をしていてもドラゴンだった。


「そろそろ帰らないといけないわね。」


 と健介。

長期休暇の終了までに帰るにはそろそろ引き返す必要がある。

それに、そろそろ風呂が恋しい。

女の子だし。


「上々の記録でしょう。

 荷物も重いし、引き返しましょう。」


 とフィ。


「そうです。

 荷物重いです。」


 とクリン。


 ランに荷物を持たせても、まだ重い荷物に悩まされていた。

半分は魔物を倒した殲滅証明部位、半分はお宝。


「それじゃ、帰って少しのんびりしましょう。」


 4人はダンジョンを上って行った。



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