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悪役令嬢と人食い辺境伯  作者: 清水薬子
『人食い』辺境伯
12/12

第11話 領地見学1

初投稿です

「今日は領地を見てまわるんだが、良ければ君も来ないか?」とカインに誘われ、馬車に揺られる事数十分。辿り着いたのは孤児院を兼ねた神殿だった。


「カイン様だ〜!」

「「「おはようございます!」」」


 カインはきゃいきゃいとはしゃぎ回る子供達を一人一人持ち上げながらクルクルと回る。


「おはよう! 一週間見ない間にまた成長したなあ!」

「カイン様、この人だあれ? およめさん?」


 おさげ髪の女の子が私を見上げながら首を傾げる。他の子供達もようやく私が目に入ったようで大きい目を好奇心に輝かせている。


「「お よ め さ ん ⁉︎」」


 女の子が『およめさん』と言った途端、他の女の子も私を見つめ始めた。異世界であっても色恋沙汰に関心を持つ子供というのはいるものなんだな、と妙に感心してしまった。


「そうだぞ! 俺のお嫁さんのルチアだ。みんな、よろしくな!」

「お嫁さんだ〜!」

「ね〜ね〜! ちゅーしたの〜?」


 カインを取り囲んでいた女の子が私にジリジリとにじり寄ってきた。タチの悪い女の子が下世話な質問を飛ばしてくる。


 多分素直に答えても誤魔化してもこの子達は追及の手を緩めることはないだろう。逃すまいとする包囲網はさながらゴシップを狙う記者の足捌きである。


「ハハハッ! 子供にタジタジだな!」


 困り果てているとカインが腹を抱えて笑っていた。笑い過ぎて涙まで溢している。

 ぐぬぬ、他人事だと思って……ッ!


「恋のABCはどこまで進んだの〜?」


 ついに痺れを切らした子供が私の手を掴んで左右に振り始めた。相変わらずカインは笑い転げている。体を折り曲げている彼を見ているうちに悪戯心が湧き上がってきた。

 ちょっとだけ意向返しをしてもいいだろう。


「そういうことはまだしてないね〜」

「なんで〜?」

「カイン様はシャイだからだよ〜」


 満面の笑みで子供達に教えてあげると子供達はクルリと振り返ってカインを見る。いきなり標的になった彼は焦った様子で私の顔を見る。


「ルチアッ⁉︎」

「今日も空が青いですね〜」


 カインの呼びかけを無視して空を仰ぐ。子供のワイワイ騒ぐ声がBGMとなって彼の声が掻き消される。

 いやぁ〜、いい気味ですね。


「こらこら、カイン様を困らせてはいけませんよ」


 神殿の奥から出てきた男性が出て来た。白のシャツに黒のガウンを羽織り、風に赤いストラが揺れる。彼は穏やかな微笑を浮かべながら子供たちに神殿に戻るように促すとカインに挨拶をした。


「ああ、助かりました。おはようございます、ミハイル牧師」

「おはようございます、カイン様。おや、そちらの女性は……?」


 ミハイルと呼ばれた男性は私の存在に気づくと軽く会釈をする。私も自己紹介を兼ねてカーテシーをする。


「申し遅れました。私はルチア・フォン・クロウハイツ公爵家の者です」

「これはどうもご丁寧にありがとうございます。この神殿で子供達の世話を任されているミハイルと申します。先程は子供たちが失礼いたしました」


 牧師というだけあって物腰も柔らかく、丁寧な印象を受ける。一定の信頼を得ているらしく、子供達も彼の言うことに従っていた。


「彼女が昨日話した俺の婚約者だ。俺の代理でもここを訪れる事があると思う。その時は宜しく頼む」

「なるほど、貴女が件の婚約者様というわけですね。カイン様のご家族となる方であれば、我々も喜んでお力になります」


 こうもあっぴろげに婚約者と紹介されると気恥ずかしさを通り越して何も感じなくなって来た。


 ミハイルはニコニコしながらカインと私を見比べると満足げに何度も頷く。どうやら彼もカイン信者の一人だ。


「私はミサの為にこの辺りで失礼しますが、ご自由に神殿内部を見学してください」

「そうさせてもらうよ。わざわざありがとう、ミハイル牧師」


 いえいえ、と謙遜しながらミハイルは神殿に戻っていった。その背中を見送るとカインがふうとため息をついた。


「カイン様、どうしてこちらの神殿へ?」

「ん? ああ、ここの子供達は成人を迎えたら俺の城で働くことになっているんだ。全員というわけではないが、それでも半数は俺の元に務める」


 神殿の窓枠から子供達が歌を歌っているのが見えた。どうやらミサで教義の話をモチーフとした寸劇をするらしい。


 カインはごそごそと胸元のポケットから小さな封筒を取り出すと、神殿の柱に取り付けられた箱にそれを入れた。寄付を募るような内容の立札が建てられていた。


「こうでもしないと頭の硬いミハイルは受け取らないんだ。……内緒だぞ」


 カインは私の視線に気づくと気恥ずかしそうに笑いながら唇の前に人差し指を立てる。


「それじゃあ、神殿の中でも見学しようか」


 彼は私の背中に手を回すと、神殿内部に向かって歩き出した。


「は、はいぃぃぃ…………」

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