影華
三月一日
胡散臭い行商人から、華を押し付けられた。何でも名前が決まっていないらしい。不気味な真っ黒の華だ。
その華を俺は影華と名付けた。
影。エイ、カゲとも読む。華。カ、ハナなんて読み方が一般的だ。
しかし、それらの読み方は使わない。この華の名前は、”影華”だ。
その不気味な華はこちらを向いている。これからこいつを世話していくのか。少し面倒だな。
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三月十五日
あの行商人、何者なのだろう。植物を研究している知人に渡しても、世紀の大発見だとか言ってはしゃぐだけだった。
あろうことに、奴めは影華を解剖しようとしたのだ。全く、俺のものに手を出すんじゃない。
......あれ、俺はそんなに影華に執着していただろうか?
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四月五日
影華。美しい華。美しい彼女。そのミステリアスな容姿、美しい姿、雰囲気。
美しい。今日も欠かさず水をやり、彼女が欲しいと言ったものを与え、彼女と共に眠る。
俺は彼女に一生を捧げる決意をした。
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五月十六日
彼女に初めてを捧げた。初めての彼女は可愛らしく、頬を赤らめて俺の体に密着してきた。
毎日欠かさず世話をしたお陰か、彼女はすっかり成長した大人の体になって俺の部屋で準備万端に待ち構えていた。
ああ、俺は幸せだ。
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六月٣٤日
彼女とデートをした。初めて服を着た彼女は可愛らしく、俺はしばらく”アレ”を隠すので精一杯だった。
街へ出ると、雨が降ってきて彼女の花弁が少し萎れた。そんな彼女も可愛かった。しかし、彼女はすごく恥ずかしがっていたので家へと戻った。
デートを邪魔しやがって、雨め。
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全く。俺は異常なんかじゃない。人の彼女にケチをつけるなど、あいつらには何の権利があるのだ。
「お前は花とデートをしている、正気じゃない」?
何が悪い。影華はこんなに可愛いんだ。影華が愛せるなら俺は正気じゃなくたっていい。
日記を書いていると、影華が少し膨れた。俺は影華を可愛がるため、ジョウロ片手に植木鉢へと近づいた。
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6月الظل الوحشالظل الوحشالظل الوحشالظل الوحشالظل 日
影華との結婚を真剣に考えている。知人からは冗談だろと言われたが、俺は本気だ。
植物学者のあいつは俺を精神科へ連れて行こうとした。俺は腹を立てて、あいつとの縁を切ってやった。
近所の人たちも何故か俺を気味悪がって避けてしまい、俺は友人と呼べる人が居なくなってしまった。
しかし、影華と結婚出来るなら安い。
来月結婚式を挙げよう。
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七月十八日
晴れて影華と結婚した。式場はどこも許可してくれなかったので、ひっそりとした物ではあったが俺は確かに影華と口づけを交わした。
影華は目を潤ませて、俺を見てきた。俺は耐えられずもう一度口付けをして、その式は幕を閉じた。
近隣住民が俺を煙たがっている気がする。気のせいだろう、俺はこんなに幸せな生活をしているのだから。
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九月二日
今まで俺は何をしていた!? そして、何を育てていたんだ?
奴と結婚するだなんて、正気の沙汰じゃない!
俺は知ってしまったんだ、奴の正体を、奴の正体は......
[血がべったりとついていて読めない]
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September 15
ギロリ。彼女の目と血がべったり付いた茎がこちらを向く。
どうやら今度の世話役も、彼女の正体に気がついてしまったようだ。
おっかない。理想の恋というのは、こんなにも遠いものなのだな。
次の被害者は誰だろうか。他人事のように言ったが、これを売っている私はすっとぼけられないな。
これを見ている誰かにでも、忠告をしておくとしよう。
怪しい商売と魅力的な女性にはご注意を。
追記、次はアジアへと出向く事になった。極東の島国だ。誰が買ってくれるかな。