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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死に際

男は落ちていく……


風の強い夜。

半月の夜。

その日の「駅」は大まかにはいつもと何も変わらないように見えた。

だが、男が何者かによって線路に突き落とされるなんてことは、いつも通りでは、無い。




俺は落ちていく。

このまま線路に落ちていけば確実に轢かれて死ぬ。

俺、突然の死だ。

ホームに侵入してくるのは急行の列車。

この駅には止まらないから、最高速のまま、突っ込んでくる。

でも、だからといって何か行動を起こすことなんてしない。

それは、今なにをしたところで何も変わらないから、というだけの理由では、決して無い。

自分でも不思議だが、迫り来る「死」に対して、

そこまで恐怖を抱いてはいない。

俺がここで死ぬ事にある種の諦めか、或いは満足をしているからかもしれない。

……俺の事を少し話そうか。


俺、44歳。独身。血液型はA型。誕生日は5月26日。

好きな食べ物は氷。嘘じゃない。

毎日冷凍庫で作って食べている。冷んやりしていて、口の中で溶けていくのがたまらないんだ。

……俺は、ある会社でそれなりに偉い立場にいた。

その会社はそれなりに上手くいっていて、俺もそれなりに充実した社会人生活を送っていた。

俺はそれで満足していた。

俺は必死に働いてスピード出世なんて考えていなかったし、

むしろ一生今の立場で、それなりの仕事をしていたいと思っていた。

出世すればするほど、負わなきゃいけない責任が増えるからね。


俺はそれなりの人生をそれなりに生きていて、それで満足していた。

俺より早く出世して、俺より偉くなった同僚なんか山ほどいる。俺の上司なんか俺より若い。

困る事があるといったら、俺の事を嗤う連中が少なくなかったことくらいか。


そんな俺だから馬鹿にこそされても誰かの恨みを買った覚えは無い。

突き落とされて殺される筋合いなんか、無いはずだ。

……とはいっても、こちらの知らない内に誰かに酷く嫌な思いをさせてしまった事もあるかもしれない。

でもそれは俺だけじゃなくて、恐らく全人類が否定できない可能性だから考えても仕方ないだろう。

……もしかしたら、たまたま誰かが強くぶつかっちゃっただけかもしれないね。


本音を言うと、犯人探しなんかどうだっていいんだ。

今更犯人を特定したところで、俺が助かるわけじゃない。


俺はただ、俺の自分語りを聞いて貰えさえすれば、それでいいんだ。


……近年の俺には、友達、なんて呼べる関係の人は居なかった。

俺と同年代の奴らはみんな昇進してしまったからね。

俺が友達と共に歩むことよりも、自分の生き方を優先させたことの当然の結果だろう。

俺が笑う機会なんて、自宅でスマホをいじってる時くらいになってしまった。


……でも、俺が後悔してないのは変わらない。

死にたいわけはないが、死ぬなら別に構わない。

世間一般で見て、俺の人生に価値が無かったとしても、俺は俺の人生を生きた事を認めているんだろうな。

来たる死に抵抗が無いのは、その証かもしれない。



こんな風に死ねるなら、案外「死」ってのも悪くない。



やたら長かった死に際だけど、もう終わらせよう。

列車(死神)が来る。


俺は落ちていく……







男は落ちなかった。

落ちる前に高速の鉄の塊が男の体を連れ去ったから。

男の意識と共に。


「只今、人身事故が発生致しました。原因は調査中で御座います。路線の復旧まで、お客様は列車から離れてお待ちください。お客様には、大変なご迷惑をお掛けいたしまして、誠に、申し訳、御座いません。」



文を書くのって、想像よりとても難しいものですね。

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