第一話
Twitterでも予告していた、新作です。
自分の書いている他の作品との、設定や人物名が共通になっていたりします。
ただ、他の作品よりも、大分ダーク要素強めです。
燃える街並みの中、どこからか重量物が歩む音が聞こえてくる。
それは、大きな『モノ』の足音。
ゆっくり、ゆっくりと足音は近づいてくる。
「母さん…っ!……父さん……!」
少年は、見えない左目を押さえつつ呻くように声を発しながら、残った右目で辺りを見回す。
ふと、視界の端に黒い影が映る。
その瞬間、少年はまるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。
次に襲ってきたのは、本能的な死への恐怖。
死が近くにあるからこそ、感じてしまうもの。
「………いや………だ!…死にたく……ない………!」
泣きそうになりながらも、少年は声を絞り出し、必死に逃げようとする。
しかし、目の前の死そのものに、少年は立ち上がることすら出来ない。
しかし、そんな事はお構い無しに、『ソレ』は近づいてくる。
そして、わずか数メートル先に停止した『ソレ』は、その手に持つ、刀の様なものを振り上げる。
まわりの炎に照らされたそれは、人形をしており、真っ黒な外装を持っていることがわかる。
振り上げられた刃もまた、炎に照らされ、紅く輝く。
そして、一瞬の刹那を持って、刃は振り降ろされた。
恐怖に駆られ、動けない少年はその刃をただ見上げる。
声すら出ない少年の瞳には恐怖が浮かんでいた。
そして、刃が少年を貫いた。
─────────────────
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺はベットから飛び起きる。
心臓は、全力で走り回った後のように激しく心音を奏でる。
息も切れ、自分の口からは息切れの音が漏れだしていた。
「はぁ、っはぁ……夢、か……」
背中にはパジャマが汗でピタリと張り付き、少し気持ち悪く感じる。
しかし、『夢』とはさっき言ったが、実際には夢ではない。
あれは、俺──空月 湊真──自身の過去だ。
つまりは一種の回想だ。
そう分かっていても、やはり、なにか引っかかるものがある。
そして、自分はなにか大切なことを忘れているような…
と、そこまで思い当たったところで大きな音と共に寝室に誰かが入ってきた。
「いい加減起きなさいっての!」
カーテンの隙間から差し込んだ朝の光が、寝室に突入して来た人影を照らす。
それは、鳶色の髪の少女だった。
名前は天妙寺 涼華。
整った顔立ちにうっすら琥珀色の瞳。
怒っているのか、目は多少つり目になっており、ふっくらした唇を持つ口も、端の方が少し下がっている。
だが、間違いなく美少女とはいえた。
「…何よ。私の顔になんかついてるの?」
「いや、改めて見るとお前ほんと美少女だなーって」
「……は、はぁ?」
素っ頓狂な事を言われて、一瞬惚ける涼華だが、すぐに気を取り直す。
その顔には赤みがさしていた。
「あ、あなたね…それ本気で言ってる?」
「黙ってれば、が付くけどな」
「んなっ…!」
彼女は呻くように声を漏らすと、顔を真っ赤にして怒りだした。
「あ、あんたねぇ…!」
「冗談だ。」
「……はぁ。」
俺が冗談と言うと、彼女は溜息をついた。
「アンタほんとその人を弄る癖どうにかしなさいよ…」
「悪いな……んで、わざわざ起こしに来るなんて…なんかあったのか?」
「なんかあったじゃないわよ。もう登校時刻よ?」
「…え、あ、はぁ?……マジで?」
俺が問い掛けると、彼女は頷いてみせる。
「マッジかよ!!」
そう叫ぶと、俺は大急ぎで準備を始めたのだった…
─────────────────
「悪い!待たせた!」
「遅いわよ!」
俺が準備している間も、律儀に待ってくれていた涼華に謝りつつ、全速力で走る。
ここから学校までは走れば十分程度しか掛からない。
恐らく、この調子なら間に合うだろう。
二人で全速力で走ること十分。
ラッキーな事に、信号にも殆ど引っかかる事なく、一直線に来ることが出来た。
目の前には、俺達の通う『国立中央第一学園』の校門が見えている。
この『中央第一学園』は、M.C.F.──通称:モビルコンバットフレーム──と呼ばれる機動兵器を扱う人間を育成するための学校だ。
とは言っても、中高大一貫校である以外は、普通の私立や公立の学校と、各種制度自体はあまり変わらないのだが…
因みに俺は高等部に通っている。
それはさておき、校門前は既に生徒の姿はまばらになってしまってはいるが、なんとか遅刻はせずに済みそうだっただった。
「はぁ…はぁ……ギ、ギリギリセーフ……」
「ほんとにギリギリすぎるでしょ…」
一歩遅れて涼華も校門を抜ける。
「…間に合ったからいいだろ?」
「いや、まぁ、そうなんだけど…」
「…先行くぞ」
「ちょ、待って、私も行くから…」
そう言うと、彼女は俺の隣に陣取る。
傍から見れば、さぞかし仲のいいカップルに見えることだろう。
「…なぁ、涼華ー」
「…なに?」
「お前なんでいつも隣に来るの?」
「いや、逆に隣以外にどこに行くのよ」
と、逆に涼華は問い掛けてきた。
確かに、そう言われるとどこがいいのかわからないのだが…
「んー……俺の後ろとか?」
「あんたのせいで前が見えなくなるわ」
「じゃあ前は?」
「なんかあんたにお尻触られそうだからやだ」
「後ろはともかく、前の理由おかしいだろ」
別にお前の尻に興味はないぞ───という言葉が出そうになるが、直感的に言わない方がいい気がしたので、心の奥底にとどめておくことにした。
そんな会話をしているうちに、俺達は昇降口に差し掛かっていた。
そこで靴を履き替えて、階段に向かう。
俺達の学校の校舎は四階建てになっており、俺達のクラスは北校舎の3階にある2―Cだ。
今いるのが西校舎なので、隣の校舎ということになる。
俺達は、3階まで上がったあと、北校舎と西校舎の連絡通路に向かって歩く。
ちなみに余談だが、この学校には他にもいくつか校舎が存在する。
まぁ、それはおいおい話すことにしておこう。
しばらくすると、2―Cの教室が見えてくる。
廊下でも数人の生徒が雑談していたので、まだ時間的にもセーフだろう。
そのまま教室の前にいる知り合いの何人かと挨拶を交わし、金属製のドアを開き教室に入る。
これまた挨拶を交わしながら、自分の席に向かう。
そして自分の席に座ると、後ろから声をかけられる。
「今日も夫婦で登校か?」
「…なーにが夫婦だよ、浦瀬」
後ろから朝一番でいじってきたのは、俺の友人であり、一番の悪友の浦瀬 拓哉。
ちょくちょく俺のことをいじってくる。
しかもこの浦瀬という少年。まぁまぁなイケメンなのだ。
整った顔立ちはもちろん、性格も優しいときた。
彼女はいないそうだが、まぁーモテるモテる。
因みに別に羨ましくはない。
「まぁ、それはいいとしてさ…実は、ちょっと小耳に挟んだんだけどさ……」
「…なんだよ」
「……北学の連中が実地訓練中に壊滅したらしいぞ」
「……壊滅だって?」
『北学』というのは、北海道にある『北方第二学園』の事だ。
そして、北学はMCF部隊の練度が高いことで有名だ。
昨年度の学園対抗戦では全国八校のうちの、ベスト4に輝くなど、輝かしい成績を残している。
ついたあだ名が『オホーツクの暴鯨』。
パワーだけで押し切ることが多かったので、そうなったらしい。
実際、パワーだけで押し切れるほど強かったのだが。
しかし、その北学が壊滅したとなると…
「どこがやったんだ…」
「噂だと…オラーシェ連邦軍が関わってるだとか言われてるが…」
オラーシェ連邦と言えば、この国…扶桑国よりか北にある大国だ。
しかし、流石に戦争になりかねないような真似をするとは…
「…仮にオラーシェ連邦だったとして、なんで学生を撃ったんだ…?」
「さぁな…でも、もう一つビックネームが上がってる」
一度肩を竦めて分からないという表情をしたあと、再び拓哉は語り出した。
「…これは北学にいる友達から聞いたんだが…」
「が?」
「…『エルゼベート』級の『ヴェクター』が目撃されたそうだ」
「…『エルゼベート級ヴェクター』だって!?」
「バカッ!声が大きい!」
一瞬、クラスの目が俺に集まるが、拓哉が「なんでもないから!」と、注目を解く。
「…声が大きい」
「…悪ぃ」
半目で睨んでくる拓哉に謝りつつ、話を聞く。
「んでも、エルゼベート級ってまた…大物だな…」
「だろ?」
「でも、まだそんなんが残ってたのか…二年前の『北方四島制圧作戦』で、もう小型しか残ってないはずだろ」
「そうなんだけどな…」
うーん…と、二人で頭を抱えていると、突然頭をぶっ叩かれた。
「お前ら…今の聞いていたか?」
身も凍るような冷たい声が聞こえる。
恐る恐る顔を声の方へ向けると、そこには、我がクラスの担任こと、宮原 聖美が鬼のような表情で、立っていた。
「「…すいませんでした」」
俺達は、すぐさま謝っていた。
視界の端では、涼華が声を殺して大爆笑していた。
その後めちゃめちゃ怒られた。
如何でしたでしょうか。
これから黒くなったり、白くなったりしていきますよー!