3
「ーーえっ!? このまま行くと僕は不幸になるの!?」
通学路にある桜の並木道、今は散ってしまい少し寂しさを感じさせる。そんな並木道で声を荒げる男が一人。ーーどうやら、誰かと電話しているらしい。
「600万!?……そんなお金ないしなぁ……。ごふ?ってあれ?声が聞こえなくなった。もしもーし?」
『…………兄さん、いい加減 詐欺に引っかかるのやめて』
「あ、ミント。また助けてくれたんだね、ありがとう」
『…………兄さんは私がいないとダメだね』
「あはは、そうみたい。いつもありがとう、ミント」
『…………別に、私がやるべきことをやっているだけ』
「そっか」
『…………うん、一限は遅刻する。そう、五十嵐先生に言っておいて』
「わかったよ」
『…………じゃあ』
「うん」
少年は電話を切ると、頼もしい妹に感謝しながら学校までの道を走り抜けた。
「バカだな」
「バカだね」
「ひどいっ!」
まるで、朝から詐欺に引っかかりそうになり、そこを妹に助けて貰って朝からルンルン! というノリで僕と飴善の元にやって来た、天然でツッコミというなんとも稀有な存在。小鳥遊セージ。ちなみにレモンと同じクラスだったりする。
朝から吐き気を催す程の爽やかスマイルを見せ付けられ、実はと先程僕が思ったことを言われれば、冒頭で述べた罵倒が出るのも無理はないと思う。だってこいつバカだし。
毎日毎日、詐欺に引っかかりそうになってその度にスーパーウーマンである妹に助けられる。兄としての威厳は皆無だが、それでうまく行っているのならいいのだろう。
「妹有能すぎ」
「それな」
「ミントは確かにすごいけど」
「武道嗜んでるんだっけ」
「警察からスカウトが来てるとか」
「まぁ、そうなんだけど。兄としてはミントに普通の女の子の生活をして欲しいわけですよ」
肩に付くか付かないかくらいの黒髪に、茶色の瞳。スカートの下にスパッツを履いていて、いつでも戦闘準備が整っているセージの双子の妹、ミント。僕は敬意を込めてセコムと呼んでいる。ちなみに、セージのことはバカ、カモ、アホ、ど天然のいずれかである。
「それは無理だと思う」
「右に同じく」
「なんでよ」
「あれが、普通の女の子になれるわけがって……うぐっ、てめっ! 怪力! なにしやがるっ!」
「…………私が普通の女の子になんだって?」
突如として現れたセコム改め、小鳥遊ミントに単細胞は首を物凄い勢いでしめられている。単細胞、お前はいいやつだったよ。合掌。
「中二いいいいい、合掌なんかしてないで助けやがれえええ!」
「ふんっ! 僕に散々罵詈雑言浴びせてきた報いだよ! 死して償え、ばあああああか」
「ガキか!……うぐっ、わかった! わかったから! さっきのは撤回するから!」
「……………わかった」
普通の女の子になれるわけがないという言葉を撤回した飴善は、セコムに解放された。
「……チッ」
「舌打ちすんじゃねぇよ」
「 死ねばよかったのに(大丈夫?)」
「ライチくん、本音と建前逆だよ」
「死ねばよかったのに(死ねばよかったのに)」
「やまなしいいいいいいい、表でやがれええええ!」
「望むところだ!」
「うるせぇ!」
一限が数学であることをすっかり忘れていた僕らは五十嵐先生に正座で授業を受けさせられたのだった。