表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

私にも平和な日はある。

はぁ、と溜息を一つ吐き左腕を巾着に思いっきり突き入れて虐殺できる君を取り出し、隣の偽土屋先輩をバットを振る様に殴る。ポップコーンの様に飛んだ体はややずれて風丸さんの方に向かう。


「山蛇、お願い」


「はい、咲さん」


山蛇を呼び、握ったまま右手を巾着に入れる。手袋なので普通だと片手ではめられないのだが山蛇にはめてもらう。とりあえずは仲間割れしている風丸さんと偽土屋先輩達の戦いを銃口を向けながら見守る。


偽土屋先輩達は作動させなきゃ死ぬぞと言って風丸さんの足元に何かの魔方陣を展開し炎の陣を作った。確かに熱そうだけどそれでも風丸さんはなんでも無いという表情をしている、さっきと違い二メートル近い高さになった跋鬼も同様だ。よくよく見れば跋鬼の足元の地面がひび割れて魔方陣を消している、風丸さんは周りに水の膜の様な物を作っている様だ。


「……こんな低レベルの術式で魔女様を殺そう等思い上がりも甚だしい!」


怒ったらしい風丸さんが魔方陣を囲む魔術師の一人に蹴りを入れる。そう、魔法的な何かではなくただの蹴り。だけど喉笛を正確に突いたそれはその男を倒すには十分で、魔方陣が完全に消えると跋鬼がさっきの涙目はどこへやら凶暴な笑顔で首を掴みに行く。魔術師の筈なのに暴力的だなと思うが本当に魔術師なのかと不意に疑問に思う。


まぁいいかと思い、山蛇と合体する。今一番の脅威は風丸さんだ、他を全員無力化してくれたら殺してしまおう。学校内というのが多少問題だがまぁそこは真理恵先輩と博士に丸投げしよう。


薬指の引き金を引く。


「なんかこう、音を出さずに射抜けるものってありますか?」


『うん、まぁあるけどね。多分その子咲ちゃんの味方だと思うよ。こんなタイミングでわかりやすく転校してきたり、わざわざ掃除してくれたりしてるしね』


「じゃあ何のために私の味方をするんですか?」


そう聞くとうーん、と言ってから嘘吐いたかもと真理恵先輩は言い出した。


『咲ちゃんの味方じゃなくて魔女の味方で、その素体である咲ちゃんを守りたいんじゃないかな』


なるほど、確かにそういうことはあるかもしれない。それならまぁ納得できる、友達にはなれそうにないけれど。まぁとにかく確実なのはこういうことだろう。


「昼休み終わりそうだから私は教室に戻ってもいいですよね」


正直面倒だったので真理恵先輩が何か言う前にすぐさまイヤホンを抜き、虐殺できる君を片付ける。服は着替える必要も無さそうだしこれでもう何も心配は無い金平糖を齧りながら席で待てばいい。


教室まで向かう途中、ふと気づく。偽物なのはわかってるが、本物はどこにいるのか。まさか殺されたのではと思いあたるととふつふつと怒りが湧き上がってくる。そんなことがあっていいわけがない、確認しないと、助けに行かないと。土屋先輩を失うのは絶対にごめんだ。


とりあえず人目があるので虐殺できる君は出さないが山蛇と合体する。顔しか姿は変わらないし顔は髪でだいたいは隠れている、それに走っている私の顔を正確に見れる人なんてただの人間だとそうはいない筈だ、道路でなら交通事故になるぐらいの速度で走っているから当然だけど。


聴音機にはまだ校舎裏での喧騒が伝わってきている、まだ間に合う。


校舎裏につくと地面に投げ出された偽土屋先輩に跋鬼が爪を振り下ろそうとしているのが見えた。


「山蛇ッ」


足元の地面が隆起し、地面を蹴った私の体を前へとすごい勢いで押し出す。その速度は振り下ろす速度よりも早く、跋鬼の頭はその勢いをもろに受けて飛ばされ体もそれに追従して無様に転がっていく。私の体はエネルギーのほぼ全てをぶつけたようでその場に留まり、跋鬼の代わりに偽土屋先輩の脚を踏んでその場に留める。


飛んでいった跋鬼はもうどうでもいい、大切なのはこの偽土屋先輩がどこかにやったであろう先輩達だ。土屋先輩以外の地面に転がっている人ももよく見れば見覚えのある先輩の顔だ、あの小太りの先輩はコンビニスイーツを知り尽くしてるし、あの出っ歯眼鏡先輩はお餅系に強い、あっちのでこが広い先輩は美味しいお茶を知っているし、あっちの背が低い先輩はお取り寄せグルメに詳しい。他の先輩も皆それぞれに私にお菓子をくれる先輩達だ、決して許すまじ。


「……本物の先輩達はどこにいるの?」


左手に虐殺できる君をはめて銃口を額に突き付ける。右手の方が使いやすいけどパッと見はただの手袋だから脅しに向かない、左腕の方がわかりやすく脅威だ。言え、そう言いながらぐりぐりと押し付ける。


「あ、それなら私が……」


「ちょっと黙ってて、今こっちと話してるから」


風丸さんが何か言うのを遮って偽土屋先輩を左腕で何度か殴る。とっとと言えよと睨みつけるとやっとわずかに口を開き始めた。


「べ、別に怪我とかはさせていないんだ……」


恐る恐るという感じでたどたどしく話すその男を殺したいと何度も思ったがぐっと歯を食いしばり話を聞いたところ、先輩達はいざという時人質に使うつもりで眠りの魔術をかけられて体育倉庫に縛って置かれているらしい、跳び箱の中と言う微妙に凝った様な何も考えていない様な場所なのがどうしても気にくわない。というかそんな狭いところに押し込めて土屋先輩の手が傷ついたらどうする、私の洋菓子がどんなことになるか理解しているのだろうか?


突然だが魔術と言うものは正直よくわかってないがいくつかの属性があり、肉体には適性がある。魔女の得意なのは闇と氷、私も肉体としては闇と氷に適性がある、でも得意な属性は山蛇の影響で土、というか土魔術しか使えない。でもやろうと思えばできないことは無い、無駄に魔力はあって、豊穣神である山蛇は土の属性だけじゃなく他の属性にも通ずる。山蛇の補佐があれば例えば鋭利な草の刃を作ることもできないわけじゃない。


そんな訳で私の手の中には稲のような細長い葉の剣がある。そしてそれで偽土屋先輩の首を斬り落とす、他の偽先輩共も同じように作業的に切り落としていく。それを見て跋鬼が震えて風丸さんの後ろに隠れようとしているがサイズ的にそれは無理な相談だ、というかこの状況の一端は間違いなく風丸さんと跋鬼が握っている。


「え、えげつねぇ……」


「数多の命を奪うのは跋だったころのあなたの得意分野でしょう?」


山蛇に言われて跋鬼が黙る、風丸さんは風丸さんで話そうかどうか迷っているような感じだ。私には話すことが無いのでとりあえず巾着に全員回収して山蛇に血の付いた土を地面の奥深くに、元の様な状態を再現してもらって体育倉庫に急ぐ、学校で事件とかなったらめんどくさいし学校生活を楽しめない。


ささっと急いで体育倉庫に行ってざっくりと縛っていた縄を切って回収する。どこまで覚えているか知らないけどとりあえずは何もしない、私との関連を言われていたらその時はその時だ、普通に気づかれない様に攫われていたことを祈る。変に記憶を弄る魔法とか薬品とかを使う結果にはしたくない。


なんとかチャイムが鳴る前に教室に戻り合体を解いて机に授業の準備をする。風丸さんから何とも言えない視線を感じたが無視しておいた、ろくなことにならない事だけは考えなくてもわかることだし、どうせ五時間目と六時間目の間の休み時間か放課後にでも話し掛けてくるだろうと思った。


そんなこんなで授業が終わり、さぁ帰ろうという時になって風丸さんに話し掛けられた。


「よかったら一緒に帰らない?」


そう言われてもやっぱりめんどくさい、せっかくの金曜日である。お菓子を食べながら明日明後日に巡るお店を雑誌を見ながら考える至福の時間がどれだけ潰されるかと考えると憂鬱で仕方がない。


「咲ちゃん、土屋先輩が……誰?」


悪くないタイミングで響が入ってくる、大体土屋先輩達は私を気にしない。雑誌は常に持ち歩いているし何ら問題なく学校で見てから帰ればいいだけだ、しかもお菓子ももらえる。普段は普通科の人達に避けられたくないから嫌だが今日のそれは救世主の様にすら思える。


「転校生の風丸さん、ところで何?土屋先輩がどうしたの?」


「土屋先輩が山蛇の力を借りたいって……」


「土屋先輩の頼みなら仕方ないね、ごめんね風丸さん。早く連れてって清水さん」


よかったこれで逃げ遂せたと喜び勇んで先輩達のところへ駆けつけるといつも通りの元気な先輩達がいた、ただお菓子の量がいつもよりも少ない、というか特に土屋先輩のお菓子が無い。そのことを変に思って先輩の方を見ると曖昧に笑って目を逸らされた。


それでもなお見ているとゴメンと言われ、話を聞いてみるとみんな眠らされてお菓子を取られて体育倉庫に気が付いたらいたと言われた、つまりあの偽物達のせいということなのだろうムカツクし気に入らない、どんな目に合わせてやろうかと思ったけどすでに殺していたし今後あれが私の胃袋を満たすわけだ。満腹なんて感じた覚えが久しくないけれど。


まぁ当初の目的は達成したので何故か妙に優しく、私好みのお菓子を手元に持ってきてくれる響と明日行くところを考えていたらなぜか一緒に行くことになった。色々響おすすめの店もあると言っていたのでまぁ問題は無いだろう、今までの傾向だと魔女を倒すとか言ってるのは正義ぶってることが多いしあんまり関係ない人を巻き込もうとはしない筈だ。


この日は帰りの電車で明日のことを考えながら金平糖を舐めていたら帰宅ラッシュに乗じて刺されたぐらいで昨日に比べたら比較的平和に終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ