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私は転校生に絡まれる。

朝、聴音機をやかましい満員電車で使うことはもちろんできず、サーモグラフィーも密集しすぎて意味が無い。でも昨日の人とは別でも刺されるのはごめんだったので一計を案じた。ここは亜人も少数ながら普通に生活する首都東京、学校でも普通に見せているし微妙に空間ができるのを狙って山蛇と合体する。爬虫類系は総じて嫌われやすい、私にはかなり理解しがたいが。


空間ができると迂闊に近寄りがたいのか刺されることは無かった。階段から突き落とされることも無かったのはそれでは死なないと他のところにもわかられたからだろう、とりあえずそんなわけで平和に学校に行けると思っていた。


突然だが駅から学校までは基本は歩きだ。転移魔法陣は学校からの一方通行で、一本道ながら歩いていかなければならない。


サーモグラフィにおかしな反応が出る。見た目は電柱なのに熱源がある、聴音機の反応を見れば呼吸音らしきものも捉えられた。迎え討つのは面倒だ、登校に余裕を持つ方でも無いし、遅刻は必須、人の目もあるし朝っぱらから痛い思いに会いたくは無い。


「そこの電柱に化けてる人バレてますよ」


長袖の制服の下に虐殺できるくんを右手だけつける。左手は流石に隠せないからやめた、もしかしたら関係無い人かもしれないし。突然横から女子高生に抱きつく変質者とかだったら殺してしまうわけには……いくかもしれない。


「朝っぱらから電柱に化けて女子高生でも襲う気なんですか?」


すでにギャラリーができてしまっている、これはまずい、出てきてくれないと完全に渡しが変な人だ、あの人電柱に話しかけてるよ、とか頭おかしいんじゃ無いとか言わないで欲しい。とりあえず蹴って見るか、人間の鳩尾ぐらいの高さを。


「痛っ!」


電柱が縮み、色が着き、人の姿になる。どうやら私が蹴った位置は脛だったらしく脛を抑えて涙目になっている男がそこにいた。武器らしい武器も無い、引き締まった体でも無い、多分本当に不審者の方だ。ぐりっぷしなくて良かった。


私の行動に周りから拍手が起きて、みんなに囲まれていた男は偶然学校に向かう途中に通りがかったらしい魔法科教師のアンドウ先生が闇魔術の鎖で縛って連れて行った。


俺は女子高生の髪の毛を俺の唾液で濡らしたかっただけだ襲う気は無かったと犯行を否定し別の犯行を暴露、艶のあるいい髪してるからって調子に乗るなよ舐めさせて下さいと言う男に私の女子力は髪に限ればまだ残っているのだとホクホクしながら登校すると響が私の席に座っていた。


「おはよう咲ちゃん、聞いたよ、変態男を見破ったんでしょ?それも山蛇の力?」


とりあえず響の襟首を掴んで席から引っぺがして座り金平糖を取り出して食べる。一連の動作を終えてから響に向かい直った。


「清水さんには悪いけど山蛇は関係無くて、電柱に化けてたのに電線が張ってなかったからわかっただけ」


サーモグラフィと聴音機で知りましたとはいくらなんでも言えるわけがない。私も不審者になってしまう、まぁ銃刀法違反はしているわけだが。今思えばあの魔術師が弓矢を使っていたのはそのためだったのかもしれない、職質されたらお終いだ、少なくとも奇襲はできない。


「じゃあなんで山蛇と合体してるの?」


「あ」


通りで不審者が痛そうだったわけだし、これならピット機関がとでも言えば良かったかもしれない。実際は山蛇と合体してもピット機関は使えないけど。


「満員電車に耐えるために合体してそのまま戻るの忘れてた」


「あ、やっぱり忘れていたんですね」


合体を解いた山蛇(人間バージョン、手のひらサイズ)が机の上で呆れた笑顔を見せる。教室ではあまり爬虫類感を出さない様にしてもらっているのだ、怖がられるのは地味に辛い。まぁ、それはそれで自分の姿を取らせるナルシストに見えなくも無いが。


「咲ちゃんっておっちょこちょいだよねー。説明書もちゃんと読んで無さそうだし」


まぁ読んでいないというか説明を聞いていなくて先手を取られに取られて背中が爆発したりしたがまぁ言わなくていいか、いや、普通に言ったらダメだこれ。


「まぁそうだけどね、で、何の用?」


また畑のトラブルかそれともいつもの魔術科総出の使役獣研究か。毎日何かしら持ってくるのがこの清水 響だ。何も無くて私のところに来るなんてことは想像できない、そして大体お菓子で私を釣ろうとして来てほとんどの場合釣り上げていく。主に土屋先輩のお菓子のせいだ、仕方がないプロに限りなく近い土屋先輩の物なのだから。


「え?特にないよ?」


「……本当に?」


「本当に、友達のところに来ちゃ駄目なの?」


あれ、響は何を言っているんだろう。友達のところに行くのはもちろん悪くは無いが、それでなんで私のところに来るのだろうか。


「友達のところ行かないでなんで私の前にいるの?」


「えッ……」


響が驚いたような顔をして、山蛇がそれを何かとても気の毒なものを見たというような目で見る。何が気の毒なのだろう、もしかしてクラスにまだその友達が登校していなかったのだろうか。それで時間つぶしに顔見知りの私のところに来てたのかもしれない。


「咲さん、多分違うと思います。何を考えているのかわかりませんが咲さんの考えは違うと断言できます」


山蛇が私にも哀れみの視線を向ける。人型だと非常に表情豊かでわかりやすい、外見が私そっくり魔女そっくりで無ければなお良いのにと思うがまぁ仕方が無い、山蛇に無理してもらう意味は無いし一応整った顔ではある。


山蛇のことを考えていると響のことが次第にどうでも良くなってくる。甘いものを除けば山蛇は私の一番だ、甘いもの以上は無い、私自身もすぐ死ぬし。


「僕は咲ちゃんのこと……」


ーーキーンコーンカーンコーン


響の声にチャイムの音がカットインする。なんとこのチャイムの音は二百五十年以上の歴史があるという古の音だ。あのアホ猫の生まれる前からということになる、正直そろそろ変えてもいいと思う。


それより気になったのは近くの女子グループがあの従魔ちょっと可愛くない、三頭身でぬいぐるみみたいと言っていたことだ。デフォルメされた三頭身の山蛇は確かにモデルが誰でもそこそこの可愛さがあるだろう、うまくいけばそこから友達ができるのではあるまいか。魔術科じゃなくても大なり小なり魔術に関わっているのだろうし。


ホームルームで転校生が紹介された時、最初に思ったのは対応が早いな、だった。夏休み目前のこの機会にどこの親が好んで転校させるのか、十中八九魔女を殺したい部類の相手だろう。


風丸カゼマル リンです。中途半端な時期の天候ですがよろしくお願いします」


私もそれなりの長身だが風丸さんも中々大きい、百七十近いんじゃ無いだろうか。男子よりも女子にモテるタイプと見た。私と違って人当たりも良さそうだし人に好かれそうでもある、彼氏とかもいても何もおかしくなさそうだ、まぁとりあえずリア充爆発しろということで襲いかかって来そうならすぐにぐりっぷしよう。


「来宮さんも魔術使なんだって?よろしくね」


一時間目、二時間目、三時間目の休み時間でほぼクラスを掌握し私は怖がられているのに魔術師であることを当然の様に暴露してなお受け入れられた風丸さんが私に話しかけて来た。前の席の机の向きを変え、弁当を持参して完全に居座る気だ。


「私が使えるのは肥料を作る魔術だけだから魔術師なんて大層なもんじゃないよ」


「でも魔操士なんでしょ?」


まぁね、と曖昧な肯定をすると目の前で弁当を広げ始めた。中身の女子力のなんと高いことか、どう見ても冷凍食品が無い、しかも凛々しい外見に反して可愛らしい、タコさんウインナーに海苔で表情がつけるだなんて繊細な作業まで、これがリア充(リアルを充実させる者)か。女子力で完全に敗北している。


「あんまり見られると恥ずかしいな、転校してくるからってちょっと頑張りすぎちゃったんだ」


ここで変に失敗しちゃったからとか言うと嫌味にも聞こえるが頑張りすぎたと言われればそこに嫌みさは無い、むしろ頑張りすぎちゃったのかというほほえましさだけが残る。ボーイッシュな感じに見合わない素直で純朴な感じ、私なんかが妬むことすらおこがましい圧倒的な女子力。


一方の私は家で作ってきた点は同じだが博士から渡された人骨パウダー入りサンドイッチだ。ちなみに具に甘いものは無い、わたしは甘党だけど食事と甘いものは別にするのは当然のことだ。甘いものは完全な嗜好品、言ってしまえば無駄の極致、だからこそ味に見た目に香りに集中できる。栄養バランスなどは何も考えないで食べることができる。


「ふーん……」


以下にも興味無いと言う顔を作ってサンドイッチにかぶりつく。既製品の照り焼きハムとレタスを挟んだだけの手のかからなさが素晴らしいサンドイッチだ、ここにスクランブルエッグとマヨネーズを挟むとさらに美味しいのはまず間違いないが面倒だからやめといた。パンは食べると喉が渇くのでお茶を飲む、冷たいお茶が喉に潤いを与えてくれる。普通にほうじ茶の方がおいしい気はするがまぁいい。


そんな私を見てどう会話をしようかと風丸さんが悩んでいるのがわかる、だがそんなものだ。ここで私のお粗末な弁当に話を持ってくると嫌味に見える、しかしわざわざ押しかけて何も話せないのは気まずい。私はそう簡単に仲良くなって無防備なところを見せる気はない、魔術の話もできない様に肥料を作る魔術しかできないと念も押した。


「実は私、使役士なんだよね。だから魔操士にも興味があってさ、色々聞いてもいい?」


会話の種を潰したと思ったがまだあったらしい、いや、考えれば勉強のこととか学校のこととか探せばいくらでもあったか。私が土屋先輩のお店に通っているのはみんな周知の事実だから下世話なコイバナに近いこともあり得なくは無かった。他人から見るとお菓子目当てに見せて先輩を追いかけていると捉えられているらしい、でも私には当然のごとく恋愛感情は無い。


「聞いてもいいけど私は使役士の魔法も使えないし魔操士の才能があっても何もできないから」


そこはかとなく聞かれたく無いという感じの悪い空気を出す。学校生活は楽しみたい、だけどあまりに眩しすぎるし私を殺す気だろう相手と仲良くする理由は無い。


「そうなんだ、でも使役獣っているだけで可愛いよね」


そう言って風丸さんは机の上に札を出して召喚する。魔操士は魔力だけで呼べるが使役士は魔方陣がいると聞いたことはある。なんか札が使役獣に変わった様に見えたのは気のせいだろう。


しかしこれはオーガの類だろうか、かなり小さいし一つ目なのも気になるが着物をちょんと着ていて確かに可愛らしい、私も山蛇を呼んでみるか。そう思って山蛇を呼ぶ、魔力を通じて人型で来る様言い含めることも忘れない。


「おや、これはこれは久しぶりですね。今の名前はなんと言うんですか?」


山蛇が言うと一つ目鬼はなぜか押し黙って風丸さんの腕の後ろに隠れた。山蛇をちらりと見るとしょうがない子ですねという様な顔をしている。私の顔だけど山蛇だと表情豊かで可愛らしい。


「この子は魃鬼バツキって呼んでるんだ、真名を呼ぶわけにはいかないから」


その名前を聞いて山蛇が少し笑った後、とても本質を捉えた名前ですねと言った。中々に感じが悪いがまぁ可愛いからいいか。


「笑うな!俺だってそんな名前に納得してるわけじゃ無いんだぞ!」


涙目で魃鬼が言うが迫力は皆無だ、むしろ可愛い。ほっぺたがマシュマロみたいで可愛い美味しそう、甘そう。食べたい。


「でも元々ヒデリガミでその後ぐれて鬼に堕ちたんですからまんまじゃないですか。良い名前だと思いますよとても」


山蛇が言うと跋鬼がぐぬぬと涙目で唸る。出さない方が良かったかもしれないと今更ながら思ったが涙目も中々に可愛いのでよしとした。


まぁそんな光景を見ながら私も風丸さんもあっさりと完食する。そして私はデザートタイム、今日のメニューは苺大福だ。季節としてはもう終わっている苺、今日コンビニに行ったら二個入りが一つあったので買ってみた。多分今年これがラストだろう、もしかしたら十二月に食べるかもしれないが。


苺のところまで届けと大きく口を開けて一口食べる。コンビニながらに中々のクオリティ、値段を考えれば見事の一言に尽きる。さぁもう一口と行く前にお茶を飲む。また新鮮な感動を得るためだ。


ふと気づくと残り一個を跋鬼が物欲しそうに見ている。うん、これは取られない内に食べた方が良さそうだ。残り部分を一口で食べ、咀嚼し飲みこむと余韻を残したままもう一個にかぶりつく、跋鬼は気にしない、涙目の方が可愛いと気づいてしまった以上泣かせに行くしか無い。うん、涙の粒が大きいのは単眼特有だな。泣き落としも様になりそうだ。


「仮にも元神としての自覚が無い様ですね、他の物を欲しがり貰えないと涙目になる」


山蛇は呆れたと溜息を吐く、これはこれでレアな表情だ。いくら憎い魔女の顔でも小さければ可愛い、中身が山蛇だから可愛いのかもしれない。普段はかなり紳士的だからこそのギャップ。


そんな状況に満足しながら金平糖を舐め出すと不意に教室の扉がガラリと開いた、いや、開くこと自体は昼休みなので珍しくも無いが来た人物は珍しかった。


「来宮!ちょっといいか?」


長身で程よく引き締まった肉体、無駄な筋肉の無い見た目でむさい感じがしない理想的な洋菓子店の店主の肉体美、あの手が私を魅了するお菓子を作り出すのだ。


鞄から金平糖の小袋を二袋取り出し、巾着をポケットに入れて立ち上がる。弁当は金平糖を食べる前に片付けた。


「どうしたんですか土屋先輩……?」


近づく前にふと気づく異常。土屋先輩からお菓子の匂いがしない、普段の土屋先輩は偶然風呂上がりに遭遇した時ですらお菓子の匂いが僅かに付いていた、というのにこれは違う。


「ちょっと話したいことがあるんだ、一緒に来てくれないか?」


あー、なるほど。土屋先輩に化けた刺客か、このまま後者裏とか連れて行かれて襲われるベタなやつだ。


仕方ないので着いて行く、予想通り普段の土屋先輩を真似てか粗さが目立つお菓子トークをしつつ校舎裏に誘導される。わざわざ遠回りしているのは何かの準備があるのだろうか、先に用意してから呼びに来い。そう思いながら金平糖を口に放り込む。イヤホンはもうポケットの中の携帯聴音機から虐殺できる君に付け替えた。ついでに言えばポケットに手を突っ込むふりしてすぐにつけられる様にした。


私にもわかる粗雑な感じから察するにこの偽土屋先輩はごぼうおじさんぐらいの実力だろう。あの二人もよくよく考えればやってたことは三ごぼうおじさんか四ごぼうおじさんぐらいの実力だったのかもしれない。


色々迂回した挙句校舎裏に着くと、そこには風丸さんと跋鬼が立っていて今まさに戦闘中の様だった。なんか、こう面倒くさい予感がする。

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