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私は検査中でも寝れる。

白衣の男と女子大生(っぽい人)を前にして私はなんとなく、本当になんとなく沈黙した。現状は助けてくれると言うならば藁にもすがりたい、しかし、なんとも奇妙な取り合わせで、なんとなく関わり合いになりたくなかった。


「……アキラ、なんか微妙な表情されてるんだけど。サークル行っておけばよかったかも」


「本当君はよく行くよねサークルなんて、十倍近い歳の癖して女子大生ごっことかなかなか痛いものがあるよ?」


「悪い?戸籍上は十九歳。お酒も飲めないタバコも吸えないか弱い女の子よ」


「へぇー、ふーん、不老ほぼ不死の魔人がか弱いかー、死の商人がか弱いかー」


「うるさい、あんただって七十年ぐらい前殺し屋で生計立ててたでしょ?それと何も変わらないわ、生きるための行為よ」


私を置き去りにして二人は喧嘩を始める。なんだこいつらと思うが口には出さない、発端はなんだかんだで私が黙ったことだし、明らかに二十代に見えるのに七十年前とか、不老ほぼ不死とか、十倍近い歳とか色々と気になるけどそこを掘り返してもどうにもならない気がする。


今はただ見ていよう。一応私を助けるとは言ってくれているのだし、それにしてもお腹空いた。この体は他の人に比べて燃費が悪い気がする、弁当だって二倍の量で満腹キャラまっしぐらだ。


「まぁ、論点をずらすのはそれまでにしよう。多分僕達は簡単に口で説明してもそんなこと聞いていないってことが後から後からいくらでも出てくる存在、それでも信じてくれるかどうか、そこだよ全ては」


白衣の男、彰とか呼ばれていた男の眼鏡越しの視線が私を捉える。それを聞いて私が思うのは少し自惚れ癖があるのだろうかということぐらいだ。


私はどのメールでも魔女を敵に回すと宣言している、その力が凄まじいものであったことは周知の事実だし普通に優秀な魔法使いが対処てきる相手でも無いとわかるはず、なのに全ては私がこの二人を頼るかどうかだという。それはつまり、どうにかできる気でいるということだ。


「本気でどうにかできると思ってるの?相手はあの魔女、初代魔王の妻の魔女、死んでからこんな話聞いてないとか言われても責任は取れない」


不老不死とか言ってたかとか思ったけれど不死者のヴァンパイアだって死ぬのだしほぼ不死とか言ってたし弱点ぐらいはあるのだろう。


「そう思ってなかったらこんな提案するわけ無いって回答でいいかな?さっきも言ったけど問題は君がどうするかで僕達はすでに選択してるんだよ、君を研究たすけしたいって」


何か文字がおかしい様な変な感覚があったが多分嘘では無いのだろう、それなりの勝算があり、そのためにわざわざ魔力を遮断できる場所に連れて来たのだ。


軽く服装を整えてまっすぐ正面を見て頭を下げる。


「よろしくお願いします」


「うん、頑張りましょ。私も協力するからね」


女子大生っぽい人がなんだか艶やかにも見える笑顔を見せる。


「じゃ、服脱ぎましょうか」


えっ?と言うまでもなく気がつくとリボンと上着が取られている。とりあえず後ろに逃れようとするけど馬鹿みたいな力で肩を掴まれて逃げられない。


「彰は見ちゃダメよ、検査も全部私がやる。初対面の男に裸見られて嬉しいなんて女子は変態以外いないんだから」


後ろを向いて白衣の男を遠ざける様に睨む女の手がじわじわと私の胸の方に寄ってくる。それに合わせる様に吐息は荒く、激しくなる。男にも見られたく無いがこんな危険人物にも見られたくは無い、私の頭に百合の花は咲いていない、今私の目の前にあるのは強いて言えば曼珠沙華だ。


「……チェンジで」


「チェンジするとあのむさいのになります」


「キャンセルで」


「キャンセル料は体で払ってもらいます」


「そもそもお願いしてません」


「真面目なことを言うとあなたの状態を正確に把握するために一度裸になってもらわないと困る。体のどこかに魔法が施されているかもしれないし、健康状態も把握しないとどの程度まで何ができるかわからない」


確かに、言うことは理にかなっている。だが、手つきがいやらしい。あまりにいやらしい。指の動きがもはやイソギンチャクか何かの触手、関節が存在しているのか気になるレベルの動きだ。残像すら見える。


なんだか指の動きを見てたら眠くなってきた。不自然なほどに急に、抗い難い眠気が。


「ごめんね、起きてるときっと逃げ出しちゃうと思うから」


指の動きに合わせて何かしらの魔法を使っていたのかと気づいた時には既に遅く。私の意識は闇に溶けた。


起きると、ベッドに拘束されている。とかいうことはなかった、ただ左腕に点滴が入っていて、そして私の寝顔を観察している不審な女がいた。いや、さっきの女だけど。


とりあえず、というわけで思いっきり頭を起こして頭突き、不老ほぼ不死と言ってはいたが頭蓋骨は柔らかいらしく軽く骨が陥没する音がした。


「……ッ、痛いのよ?死にはしないけど」


私の額の形に凹んだ額がお湯にピンポン球を入れたみたいにぺこんと戻る。なかなか気持ち悪い、が、私もどちらかと言えばこっちの類だった。


「で、わざわざ眠らせたのは逃げられない様にということでしたけど、どの意味で?」


本当は、アホ猫の側だったのか、それとも殺す気だったのか、味方なのか、無理やり眠らされたらそりゃ疑いたくもなる。


「まぁ、麻酔の代わりだったってだけなんだけど……あ、金平糖いる?」


「下さい」


どこからともなく差し出された金平糖を小袋ごとひったくる。口の中で金平糖の角が溶けて消えるのと一緒に私の中のとげとげしい気持ちも溶けて消えて行く。麻酔なら仕方ない、それだけしっかりとした検査をしたということだろう。


金平糖を舐めているとアキラと呼ばれていた男の方も来てとりあえずどんな経緯でどうなっているのかと聞かれたのでアホ猫と両親のことについて色々と話した。話せる限りは全部、私が魔操士なこともアホ猫の他にもう一体使えるのがいることも説明する。


「なるほど、なるほど。つまり魔女は君を自分に近づけて、自分とほぼ同一の存在として体を奪うつもりってことかな」


「……多分、ところで、二人の名前を知らないんですが」


なんだかんだで知らない。アキラとか言っていたのは聞いたけどそれ以上は知らない。そしてあれから何日検査のために使ったのだろう、捜索願とか出されているとそれなりに面倒なのだけれど。とてもあの両親が私のために捜索願を出すとは思えないが魔女の生贄を惜しんで捜索願を出す可能性は決して低く無い。


「僕は植村ウエムラ アキラ、世間的にはもう死んでることになってるから博士って呼ぶといいよ」


「私の今の名前は名香野ナカノ 真理恵マリエとりあえず咲ちゃんと私が関わることになるだろう間は多分このままだから、真理恵先輩とか呼んでね」


なんだか突っ込みどころとかいろいろありそうな紹介な気がするがもうなんだか金平糖を口に入れているからどうでもいい。口の中が幸せだから他のことはもうどうでもいい、けど現実逃避も金平糖が無くなってきたからそろそろ終わりにしよう。この際魔人という種族については気にしないけど気にしなきゃいけない子とは気にしなきゃいけない。検査の結果とか。


「で、各種検査の結果なんだけどね。僕達は医者じゃないから全部が全部説明したりとかしないでがっつり噛み砕いて簡単に言うね」


正直専門用語だなんだと言われてもわからないからありがたい。ついでに行ってしまえば覚える気も無いし勉強する気も無い、生き残っても魔法にはあまり関わりたくないし科学にもあまり関わりたくない、一般人程度でいい。


「まず体の強度なんだけど、まぁ常人じゃないね、自己治癒力も同じで常人じゃない。おまけに死なない様にか脳と心臓が自立するタイプの魔法で保護されているね」


「知ってます」


ライフルで撃たれて皮膚に穴が開くだけの女子高生が普通の体の強度であってはいけないと思う、そしてその後が一切残らないのも同じだ。日本刀で斬りかかられても骨まで届かなかったり、全身火だるまにされたのにやっぱり綺麗な体のままだったりする、自立術式が働いたことなんてその日本刀の人に肋骨の隙間を縫って突きをされた時ぐらいだ。その人について具体的なことは例のごとく覚えていないがその戦いが暇つぶしにはなったとアホ猫が語っていた。やっぱりこれで常人だなんて言われた日にはこの世界は終わりだと思う。


「うん、だろうね。後、肉体の得意な属性や血液型、骨格なんかは魔女のそれとほぼ一致していて魔女そのものと言ってもいいぐらいだ、後、魔力の量が多い」


「それも知ってます」


あのアホ猫がいつも言っていることだ、貴重らしい生写真や何かを持ってきていかに近づいているか、いかに私が個性を失って行っているかをそれはそれは楽しそうに語る様はなかなかの不快感を覚える。今も思い出すだけでイライラする、真理恵先輩が掌に出してくれた金平糖が無ければ眉間のしわが消えなくなるところだった。金平糖美味しい。


「で、多分ここからが新情報。君の体にはさらにいくつかの自立する魔法がかけられているんだけど、解析した結果それが恋愛感情の抑制や処女膜、子宮の保護なんかなんだけど心当たりある?」


「いや、無いです」


そういえば今まで恋愛感情を持ったことは無かったなぁとか思い出したけど多分博士が言っている心当たりはその術式の影響じゃなくてそんな術式をかけておく理由だろう、正直全く見当がつかない、その術式をかけて私の処女を守りたかったことはわかるけどそれが何に繋がるのかが分からない。


「まぁ僕達もいくつか仮説はあるんだけどとりあえず有望なのは処女受胎かな。キリスト教は聖母マリアが行ったとされるものでそれが付加する魔法的な価値としては神聖さなんだよね」


「ちょっと待って下さい、処女受胎って言われても私は乗っ取られるのであってあのアホ猫を身ごもるわけじゃないですよね?」


大体どうやって身籠ると言うのか、できない気はしないでも無くは無いけれど。今のアホ猫は猫だ。人間の体の中に猫が存在するなんてことができるのだろうか、そしてできたとしてそれは受胎ということになるのか。まぁあのアホ猫ならできそうな気がしてしまうのだけれど。


「そうね、あなたの体に魔女の意識があって、その憑代が子宮に存在するのであれば処女でありながら子宮に人格のあるものを持っている。ってことになってそれを魔法的な象徴の一つとして扱うことは可能……よね?」


「まぁ、とりあえず。子宮に意識だけでも持ってこれれば魔法を使うための歯車としては問題なく機能するってこと。そして処女受胎によって魔女は魔なる存在から神聖さを獲得して聖女になろうとしているんじゃないだろうかって仮説をぼく達は立てているってことだけ覚えておけばいいかな?」


「……つまりアホ猫のやることを阻止するのに私の子宮を体から摘出して土に返してしまえばいいってことですか?」


良くわからないけど私が処女であることが必要で、子供を宿せる場所である子宮が必要なら子宮を壊してしまえばもう阻止できてしまうような気がする。こういうことをあっさり考えることができてしまうあたりもう私の感覚は普通の女子ではなくなってしまっているような気がする。


「それは違うかな、処女受胎は僕は付加価値だと思う。復活するための必要条件とは考えがたい、キリスト教をベースにした魔法を使うつもりだろうことは確かだと思うけどね。十八歳になったらということだし」


「十八歳だとなんでキリスト教に?」


真理恵先輩に追加の金平糖をねだりつつ、聞いてみる。宗教とか正直ほとんど興味が無いのでさっぱりわからない、真理恵先輩が掌に出してくれた金平糖の数もちょうど十八個だった。


「キリスト教の数字で有名なのが二つある。獣の数字、キリスト教の信徒を大勢虐殺した暴君ネロを表すともいわれる六百六十六、そして三位一体等神の世界や神そのものを示す三。十八はそのどちらとも縁がある」


金平糖を舐めて糖分を脳に送ってもその両方が十八と縁があるということにピンと来ない、三の倍数なことはわかるけど六百六十六は十八の倍数だったりするのだろうか。でも倍数というだけでは円があるというには薄い気もする、案外魔法がそう言うところで適当だと考えることもできるけど。


「六百六十六はアラビア数字で書けば666で六が三つ、足せば十八になる。そしてその十八は(3+3)×3、聖なる数字である三だけの計算式から作られる数字であり、三つの三から作られる数字、十八自体には意味が無いけど神聖さの後押しにも邪悪さの後押しにも使える。君が処女を失ったらその罪を獣の数字で強化して悪魔の力でも手に入れるつもりかもね」


やっぱりよくわからないけど私がこのままならアホ猫は聖女になって私が子宮を潰したりすると一段上の魔女として復活するということだろうか、どっちにしてもアホ猫にはある程度有利に働いてしまうから私が苦痛を感じることになる分やらない方がいい、ということだろうか。


確かにあのアホ猫への嫌がらせのために女子を止めるようなことは避けたい。高校生の青春時代にアイドルでも無いのに恋愛できない様にされていたりライフルで狙撃されたりただでさえ私の女子っぽさは首の皮一枚繋がっているかどうかという状態だ。多分甘いものが好きというところだけで女子らしさは繋がっている。


女子らしさと言えば服装とかはどうなっているだろう、私の髪は癖毛で寝癖も酷い方だ。小一時間でも昼寝すると頭はもふぁっと毛玉のようになってしまう、今まさにそうなっていそうで怖い。


「他にも慣習的な物とかも考えられるけど……」


「彰、咲ちゃん学生だしそろそろ……」


真理恵先輩が空っぽになった私の掌にねだられるまでも無くコロコロと金平糖を置く。一つとって口に入れると軽く頭を撫でられるのだがこれってもしかして私のことを猫か何かの様に見ていないだろうか、とても餌付けされている気分だ。金平糖がもらえるならいいけど。


「……あー、そうだね、もうかなりいい時間だよね。今日のところは帰って、今度はあの駅の一個前の駅で降りてくれれば適当に拉致するから」


あ、はい。拉致なんですねとか思ったけどもうどうでもいい、私に変に教えてもアホ猫が付いてくるかもしれないしそれは本意ではないだろう。アホ猫がいないタイミングでさらうのが一番確実で一番いいのだ、抵抗されるのをむしろ楽しむような性格ではあるのだけれど。


「とりあえずじゃあ、来た時と別ルートで近くまで送るから」


入ってもらうよと博士が水晶玉を取り出す。またあの中に入ることになるのかと少し眉根を寄せたが、すぐにカウンターのように真理恵先輩に金平糖の小袋が渡されたので良しとした。

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