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私は人であったのか

ここから三話か四話ぐらいで終わります。


*この話の後半部分がホラーな感じになっていまして、人によってはショックを受けることになるかと思います。


ご注意下さい。

起きると、十八歳になっていた。ベッドの横に置かれたデジタル時計とテレビに映るアナウンサーの髪の毛が薄くなっていたことでそれを知る。十九歳まではどうやらあと三日らしい。


二年前と大して変わりないインパクトは強いがその実それほど美味しそうでもないスイーツ特集の中から当たりを探しつつ、ベッドの横の椅子で寝る響の伸びた髪の毛を触ってみたりした。一年と十一ヶ月近くを過ごした長さがそこにあった。


とても幸せでなんか物悲しい夢を見ていた気がしたが詳しいことは思い出せない。


どんなだったかなぁ、アップルパイとか食べたいなぁと思いながら体を起こす。三年ぶりでも体型は変わらず、博士達のおかげだろうか。


なんとなく落ち着かなくて首の裏を触ってみるが角は生えていない。まだ私は人らしい。


でも、文字通りじゃなく永い眠りから覚めたような気がする。なんだか一気に自分のやってきたことがおぞましい事の様に思えた。もうすでに十八歳になり、魔女の呪縛から解かれたというのに私は今初めて自分が魔女になれば良かったんじゃないかと思っている。


よく考えれば、生き残るためとはいえ人殺しだし、その数も一人二人じゃない。


さらに言えばそれを食べた。おかしい、まるで私は化け物の様ではないか。


もう一回響の髪を触ってみる。


「はっ!咲ちゃん!」


響が飛び起き、私に抱きつく。それを腕の力で引き剥がす。


「でもなんで起きたの!?あと三日寝てれば十九歳で体を取られる事もなくなるのに!」


なんでと言われても起きるのに理由なんてあるのだろうか。でも大分長いこと寝ていたわけだからと考えれば薬を打たれてたのかと思い当たる。


いっそこのまま眠らせておいて十八歳を終わらせようと。


でも、本当にそれでいいのかと疑問に思っている。自分はただの化け物でアホ猫に貸した方が有意義なんじゃないかと少し迷っている。


「まぁ、でももう咲ちゃんの魔力は魔女のものとは違っているし大丈夫かな。鈴ちゃんがいないのが残念だよ、眠らせることには反対してたんだけどね、結局プレゼンして負けて咲ちゃんには寝ててもらうことになったけど」


鈴ちゃんとは誰だったかと首を傾げると風丸さんだよと響は苦笑いする。そんな可愛らしい名前だったとは知らなかった。まぁ知ろうともしていなかったけど。


「鈴ちゃんは大学行ってるから、後三時間ぐらいで来ると思う」


「清水さんは?」


「僕は大学行くのは辞めたよ。学校行ってても咲ちゃんの近くにいられないし、博士達が隠してたのに嗅ぎつけた奴等もいたしね。一年浪人して咲ちゃんと通えばいいし」


響が続けて、なにがあったとかどう苦労したとか褒めて欲しい犬みたいに熱心に言って来たけれど、その言葉は私の耳に入ってこなかった。


「そういえばね、咲ちゃんのよく使ってたあの肥料の魔術でサトウキビから直接砂糖を取り出す研究が……」


響に学校を辞めさせてしまった事に対して償い難いものを感じる。私を殺しに来た人を殺すのも、食べたのも今思えば恐ろしい事だけど私のために響の人生を壊してしまった事が一番怖い。


「……咲ちゃん?どうしたの、顔色悪いよ?」


「ごめん、清水さんが学校辞めなきゃいけなくして」


「……博士と真理恵さん呼ぶね、咲ちゃんが謝るなんて前代未聞だよ」


ナースコールらしきボタンをポチッと響が押すと病室に瞬間移動したかの様に真理恵先輩が現れる。博士は来ない。


「いや、頭がおかしくなったわけじゃなくて、急に罪悪感が……」


「使い魔から長時間離れた影響か、土蛇との合体が行われていないためか、魔女の術式の範疇から逃れた、という事もありえなくはないけど検査してみないとわからないね。急に普通の人間みたいなこと言い出すなんて、何かしらあったと見ていいんじゃないかな」


私が弁明しようと試みるも現れた博士に遮られる。全く外見が変わらないのがすごい不気味だ。


検査の準備と、博士と真理恵先輩がいなくなる。残された響は僕が隣にいたいからいるんだよと優しく言って頭を撫でてくれる


その優しさが私の心を抉る。友達でもない私の隣にいたい理由がどこにあるというのか。


『ねぇ、そろそろ体頂戴?せっかく起こしてあげたんだから』


突如聞こえた声に私は周りを見渡すが誰もいない、あのアホ猫の影はそこにはない。でもその声は私の声でアホ猫の口調だった、それをどう捉えたらいいのかもわからなくてとりあえずと虐殺できる君を探すがもちろん手元にはない。


「咲ちゃん!?」


響の言葉にハッとなる。私は今、声が聞こえたと言うだけで誰かを殺そうとした、殺すことが体に染みついている。最早魔女にもならないだろうし、魔女になりたくないと思う理由もないのに。


ただただ人を殺そうという動きが経験が私の中に蓄積して、起き上がって来ている。


ガリガリと乱暴に頭を搔きむしると指先に血がついた。


私は、どれだけ血を流してきたのか。どれだけの人の血を飲んだのか。


「咲ちゃん!?落ち着いて!!」


胃の中には胃液しかない。だけど吐き出してしまいたかった。


それでも吐かなかったのはこれ以上響に心配をかけていいのか、そもそも吐けたとして吐いたら余計にいけないのではないかと僅かに理性が働いた。


でも、血を見るとまた怖くなる。自分は人じゃなかったんじゃないか?


『人なわけないじゃない、魔族だもの』


違う、魔族じゃない。私は違う。


『じゃあ、あなたは何?人じゃない、魔族じゃない、あなたはだぁれ?』


私は誰?


『あなたは咲。その意味知ってる?』


そうだ、私は咲だ。ちゃんとした、人としての名前もある。大丈夫、私は、私は咲。わたしは、さく、わたしは、咲く。来宮、きのみや、さく。


『咲は元々口を細めて笑う様。花が開く笑と間違われたのよ。私にいずれ取り込まれる哀れなあなたを笑う、私のための名前で、嗤われる、あなたのための名前よ』


わた、わたし?わ、わたしは?咲?わた?わ?わたしって?わたしわた?わ?わた、わた?笑われ?わ、わたし?わ?咲?わたしは咲?わた、し?わ、た?嗤わ?れる?わ?わたし?わた、わたし?わたしは?わ?わたし?わ、た?わたし?わたしの?わた?わ、わ、わた?笑わ、わた?なま、え?さ、く?わた?嗤?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わた、わ?わたし?わ、た?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、わたし?わた、咲?わた、し、笑わ?わた、わたし?わ、わたしは?咲?わた?わ?わたしって?わたしわた?わ?わた、笑わ?わた?笑われ?わ、わたし?わ?咲?わたしは咲?わた、し?わ、た?嗤わ?れる?わ?わたし?わ、たし?わたしは?わ?わたし?わ、た?わたし?の?わた?わたしわた?わ?わた、笑わ?わた?笑われ?わ、わたし?わ?咲?わたしは咲?わた、し?わ、た?嗤わ?れる?わ?わたし?わ、たし?わたしは?わ?わたし?わ、た?わたし?の?わた?わ、わ、わた?笑わ、わた?なま、え?たし?さ、く?わた?嗤?われ?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わた、わ?わたし?わ、た?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、わたし?わ、わ、わた?笑わ、わた?なま、え?たし?さ、く?わた?嗤?われ?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わた、わ?わたし?わ、た?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、わたし?わた、咲?わた、し、笑わ?れ?わた、わたし?わ、わたしは?咲?わた?わ?わたしって?わた?わ?わた、わた?笑われ?わ、わたし?わ?咲?わたしは咲?わた、し?わ、た?嗤わ?れ?わ?わたし?わた、笑?われ?わたし?わたしは?わ?わたし?わ、た?わたし?わたしの?わた?わ、た?笑わ、わた?なま、え?さ、く?わた?嗤?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わた、わ?わたし?わ、た?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、の?わた、し、のなま?なま、え?わたし?わた、咲?わた、し、笑わ?わた、わたし?わ、わたしは?咲?わた?わ?わたしって?わたしわた?わ?わた、わた?笑われ?わ、わたし?わ?嗤わ?れる?咲?わたしは咲?わた、し?わ、た?嗤わ?れる?わ?わたし?わた、わたし?わたしは?わ?わたし?わ、た?わたし?わたしの?わた?わ、わ、わた?笑わ、わた?なま、え?さ、く?笑?わた?嗤?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わた、わ、笑わ?わたし?わ、た?笑?わ?われ?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、わたし?わた、咲?わた、し、笑わ?嗤わ?嗤、われ、る?た、ため?ため?た?た、ため?たた、た、ため?わた?わ?わ、わ、わ、わ、わ、わ?わ、たし、笑?わたし、嗤わ?わた、め?なま?な?なま、え?さ、咲?


『笑いた』


笑わ、わた?わ、わたし?なま、え?わた?さ、く?笑?わた?嗤?わたし?わたし?わ、た、し?わ?咲?わ、たし?わた、しの?わた?なま、え?咲?わた、わ、笑わ?わたし?わ、た?笑?わ?われ?わたし、は?わた?わた、し?笑、わ?わた、笑われ?わた、わたし?わた、咲?わた、し、笑わ?嗤わ?嗤、われ、る?た、ため?ため?た?た、ため?わ?わた?ため?わた?わ?


『笑いた』


嗤わ?れ?わ?わたし?わたし?わたしは?わ?わたし?わ、た?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?わ、笑わ?わたし?われ?わたし、は?わた?わた、し?わたし?わたしの?わた?わ、た?笑わ、わた?なま、え?さ、く?わた?嗤?わたし?わ、た、し?咲?わ、たし?わた、しのなま、え?咲?


『⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎の花が』


わた、咲?わた、し、笑わ?わた、わたし?わ、わたしは?咲?わた?わ?わたしって?わたしわた?わ?わた、笑わ?わた?笑われ?わ、わたし?わ?咲?わたしは咲?わた、し?わた?嗤わ?れ?わた?わ?わた?し?


『嗤った』


わた?わたし?わ?さ?わた?って?笑?わ?わた?し?わた、な?わ、た?わた?わ、たし?嗤、われ?わ?わた?わたし?わ?さ?わた?わた?わたし、さ?咲?わ?


『咲った』


わたし?わ、た?わた?なま?わた、し?わ、たし?笑?わた、わ?わたし?わ、た?咲?わた、わ?わ、た?わ?


『⚫︎⚫︎、⚫︎⚫︎、⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎』


わた、わ?た?さく?さ、く?わた?わ、た?わた?な?ま、え?


『どの華、観ても』


わ?わた?わた、し?わ、た?わ、たし?


『もう枯れた』


わ、た?わ。わ。わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ。


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