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狂襲・御門会…

 あれから10日程経ち、乃衣子は学校をずっと休んでいた。貴美子と多英は心配になり、放課後に乃衣子の家を訪ねる事として教室を出ると、出入口に背の小さなショートヘアの女生徒が声をかけて来た。


「あの…、水池乃衣子…先輩は居ますでしょうか!?」


 貴美子と多英は自分達を呼び止めた女生徒に乃衣子への用を尋ねる。


「ごめんなさい、乃衣子さんは今日休みなんです。」

「要件ならアタシ等が聞いてメールで送ったげるけど…、“誰だチミは”?」


 某大物コメディアンの昔人気のあったギャグで多英が聞いて来たので女生徒は失笑し、貴美子はツボに入った様で壁におでこを押し付けて笑いを堪えていた。


「わっ、わたし…“小糸実香”と…言います。

水池…先輩に…、ほっ、本を貸していたのですが今日どうしても返してもらいたくて来ました。」


 二人は首を傾げる。乃衣子からは下級生に知り合いがいるとは一言も聞いていなかったし、当人が本を趣味にしていたなど知りもしなかったからだ。


「んじゃさ、コレから水池の“家”に行こう。

貴美子案内よろしくう!」

「ええっ、多英ちゃんちょっと待って!?」


 貴美子はこの小糸実香と言う下級生に得体の知れない不安を感じてしまっていた。彼女は外見は弄りたおしたい程に可愛らしい少女なのだが、その中にどことなく危険な闇を孕んだ影を忍ばせている様に思えたのだ。何より水池乃衣子とどの様な経緯で知り合ったのか…“彼女の正体をある程度知る”貴美子はとても気になった。

 しかし井守多英の強引さに押され、貴美子は二人を乃衣子の家へ案内する事になってしまった。

 三人は学校を出てバスに乗る事10分…停留所へ降りて歩く事4分程で六部屋のアパートに着いて102号の戸の前に立つ。


「因みに貴美子、真っ直ぐ迷わずにこの戸の前に来たが…水池に部屋には居れてもらった事は…?」


 そう多英に尋ねられた貴美子は俯いて小さな声で答えた。


「いっ、一度も…ありません…。」


 貴美子と多英は黙り込み、実香が訝しむ中で多英は貴美子に本心で貴美子に言った。


「…アンタ本当に水池に警察に突き出されなかったのは幸運だと思いな?」


 警察と聴いた実香はビクリと肩を跳ねさせ、貴美子は此また小さな声で返事をした。


「…ハイ…。」 多英が部屋の呼び鈴を押すが、返事はなく誰も居ない様であった。


「何だよ、風邪かなんかかと思ってたのに違うのか?」


 隣の貴美子に話しかける多英だが彼女の曇った表情に彼女も僅かに不安を感じ始めた。


「貴美子、もしかして水池のヤツ…何かトラブルとか抱えてるんじゃないか?」


 そう言われた貴美子の表情が更に曇り、水池の事情を聞こうとする多英だが、アパート出入口側で車両の急ブレーキの音がしたので其方を見ると停車した黒塗りのバンから二人の柄の悪い男性がサブマシンガンを持って足早に此方へ近付いて来た。

 多英は明らかにただ事ではないと悟り貴美子の手を掴み逃げようとするが、その逃げ道を小糸実香が何と拳銃を両手で握り構えて多英と貴美子に銃口を向けていた。


「小糸…、何の真似だよ!?」


 多英に睨まれ竦む実香だが道を譲るつもりはなく、しかし泣きながら二人に謝罪をした。


「ごめんなさい…、でもわたし、“わたし達”は後戻り出来ないんです!」


 二人の男は玄関と裏に別れ、サブマシンガン…MP40を構えて同時に室内に向けて乱射を始めた。突然の出来事に貴美子と多英は言葉を失い、二人抱き合う形で凍りついた。


「いやぁ、乃衣子さん…!?」


 貴美子は涙を溢れさせ、多英は息を呑み込み目の前の暴挙に足を竦ませた。


(…“親父”に連絡しないと…!)


 多英は携帯を取り出し、“警察”に連絡しようとするが彼女に気付いた玄関側の男が携帯を叩き落として地面にMP40を撃ち携帯を壊すと男は多英の顔を力一杯に殴りつけた。


「アグッ!?」

「多英ちゃん!!」


 地面に倒れ込む多英に貴美子も彼女を気遣おうとするが暴力を振るった男に捕まり、部屋の反対に回っていた男が中を通り抜け穴だらけの戸を蹴り壊して出て来た。


「中には誰もいねえ、その小娘達を連れて戻んぞ。」

「あぁ、分かった。」


 乃衣子の部屋を通り抜けた男が起き上がろうとしていた多英の胸倉を掴み無理矢理に立たせ、二人を黒塗りのバンの後部座席にやはり無理矢理に乗せ、実香もバンの後部座席に乗り込んだ。

 そして運転手が携帯で何者かに連絡を取ると、彼はフン…ッと鼻を鳴らして言った。


「おい、寺川さんがマーシュ財閥系の店舗に一斉に“カチコミ”やらかすってよ。

俺達はこのまま“工事現場”にこの餓鬼達運ぶぞ。」


 運転手の男がそう言って黒塗りのバンはその場所から走り去る。…熱りがさめた所で他のアパートの住民達は直ぐに警察に連絡を入れたが、皆怖くて部屋からは出なかった為貴美子と多英が拉致されたのを見ていた者はおらず、只銃撃の事実だけが警察に通報された。 関東一円に勢力を持つ広域暴力団御門会によるマーシュ財閥系店舗への攻撃が始まった。銀行、飲食店、観光会社と街中にあり一般客の出入りする普通の店にヤクザの猛威が向けられ、ある店はサブマシンガンによる一斉乱射。ある店には無数に手榴弾が投げ込まれ、ある店には時限爆弾。そしてある店にはロシア製のロケットランチャーが撃ち込まれ店内のみならず周囲にも多大に被害を出して多くの死傷者を出していた。

 警視庁は各所轄の警察署に警察官への拳銃武装を命令し、動ける完全武装した機動隊を全て出動させて御門会への強制鎮圧に踏み切った。此により関東各地はまるでバイオレンス映画の場面が眼前に現れたかの様な激しい銃撃戦が始まっていた。










 マーシュ財閥日本支部であり、クトゥルー教団日本拠点でもあるMCJビル。25階もあり、屋上はヘリポートにもなっている高層ビル…最上階の会議室に水池乃衣子とクトゥルー、ハイドラはいた。

 既に財閥系各店舗への襲撃情報は入って来ており、そして警察も知らない御門会による梶宮貴美子と井守多英の拉致行為も人外による情報網に引っかかっていた。


「ハイドラッ、何であの二人に護衛をつけなかった!!!?

あたしの関係者である貴美子と井守が狙われるのは分かっていた筈でしょ!?」


 乃衣子はテーブル向かいの椅子に座る美女…ハイドラに怒声を上げる。


「監視は付けておりました。だからこそ敵の現在の居場所も突き止める事が出来たのです。」

「霧木田貴士を探し殺すのはあたしの役目の筈だ!」

「…ですから、探す手間が省けたと言っております。

この数日間、ずっと探し続けたのですから次の手を打ったまでです。」


 ハイドラのこの一言に乃衣子は一つの確信を持った。


「ハイドラ、アンタ貴美子達を御門会の餌になる様に仕向けたわね!!」


 乃衣子が憤怒の形相で左の邪神眼を現しハイドラを睨めつけた。此にはハイドラも狼狽え立ち上がる。


「乃衣子様、私は…貴女様のお力になろうと…っ!!」


 しかし乃衣子は聞く耳を持たず、腐敗の邪眼を発動させる。…だがその力は傍らで二人の争いを見ていたクトゥルーによって制止され、乃衣子はクトゥルーに一喝された。


《止めんか乃衣子っ、貴様は同胞にその“瞳”を向けるのか!?

其れだけは決して赦さぬぞ乃衣子!!》


 普段、小さい姿で飄々としていようとやはり邪神である。怒りに満ちた乃衣子の力の制御権を完全に抑え、一時的に彼女を“只の人間”に戻してしまった。


「クトゥルー…、もうアイツ等はあたしにとって…。」


 今にも泣きそうな乃衣子にハイドラも表情を曇らせ、室内に重い空気が流れる…が、クトゥルーは乃衣子をもう一度一喝した。


《ならばこんな所でハイドラを責めたり泣いたりなどしておる暇などないであろうが、違うか乃衣子!?》 クトゥルーは戒めを解いて乃衣子の内にあるルルイエ異本に己が力を流して二度邪神姫の力を与えた。乃衣子は目尻の涙を右腕で拭い、戦意を戻してクトゥルーを見つめた。


《良い“目”だ、深きもの共やショゴスではそんな輝かしい眼光は宿せぬ。

我やハイドラであってもな…。》


 クトゥルーは触手を嬉しそうに揺らめかせ、乃衣子は視線をハイドラに向けた。


「ハイドラ、今回はどうあってもあたしは納得しない!

もう二度とあの二人を故意に巻き込む様な真似はしないでっ!!」


 そう言い残して乃衣子は会議室を出て行った。…ハイドラは完全に気落ちし、珍しく主であるクトゥルーに愚痴を零した。


「私は…、乃衣子様の身をいつも案じております。

高校に入られて直ぐにあの方に“悪意を持って付きまとっていた輩”も私が“始末”致しました!

…なのに乃衣子様より怒りを買い、今回もまた良かれと思い、乃衣子様の手を煩わせないが為に…あの娘達を御門会に……。」

《ハイドラ、お前は今一度“人であった頃の記憶”を思い出すべきなのかも知れぬな。

乃衣子のみではなく…、あの娘に関わる者達に目を向けてみよ?》


 ハイドラは主の言葉を神託として受け止めるが、既に人間であった頃の記憶などなく…クトゥルーの言葉の真意を何処に求めて良いのか解らなかった。










 乃衣子は十階程のビルの屋上に降り立ち、その場所から見えるビルの建築現場を睨む。ハイドラの情報では霧木田貴士は彼処に居り、御門会の本陣もあの現場に集結しているとの事だった。「出ろ、“DEEP ONES”!!」


 乃衣子はルルイエ異本の力を使い、足下に深海の入口を出現させ、其処から六体の魚と蛙を混ぜ合わせた様な怪物…“深きもの”を喚び出した。

 恐らく建築現場にいる敵を全滅させるなら乃衣子だけで充分なのだが、梶宮貴美子と井守多英を助けるならばやはり手が足りない。そして滅多に使わないがルルイエ異本に多く記されているのは召喚魔術であり、“海魔の召喚”は最も得意とする分野である。

 乃衣子を中心に六体の深きもの共はその魚眼で建築現場を見据え、喉袋をグルグルと鳴らす。


「目的は人質の救出と敵の殲滅よ。」


 乃衣子に返事をする様に深きもの共は頷いてゲッゲッと鳴いた。乃衣子の左目が蛸の様な瞳…邪神眼となり、霧木田貴士と御門会の待つ戦地へと向かうのだった。

今回でやっと組織対組織の系図が書けました。御門会を出した時はマーシュ財閥の傘下に入れる予定でしたが恐らく最初の敵となる霧木田貴士と御門会会長の角島を親類にしたら物語が造りやすいと考え実行しました。

次回で決着予定です。

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