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屍食教典儀…

注意…今回の後半部はかなりキています。自分で書いてて胸糞悪くなりました。

「初めまして水池先輩、僕は“霧木田貴士”と言います。」


 とある日、乃衣子はあの魔導書を持つかも知れないと見ていたあの少年から呼び出しを受け、二時限目の授業をサボッて屋上へ向かった。

 扉を開けると…其処にいたのは確かにあの日に見た男子生徒…と、もう一人…あのショートヘアの背の小さな女生徒が居た。

 彼が名乗った名前を聞き、乃衣子は唇を噛み締めて呪いとも言うべき“必然”に憤りを覚えた。


(霧木田貴士、御門会会長…角島牧男の孫。)


 乃衣子は深く深呼吸をして自身を落ち着かせ、平静を保った。


「何の用、あたし下級生に知り合いはいない筈なんだけど…。」


 男子生徒…霧木田貴士は幼さの残る顔立ちでニコリと笑みを作り、乃衣子に微笑みかける。


「やだな~、先日僕と実香ちゃんを見ていたじゃないですか。

僕はそれだけで充分なんです、突然ですが僕は貴女方…“クトゥルー教団”に戦線布告をします!」

「ハアッ、“戦線布告”だって!?」


 乃衣子の不安は的中所か、いきなりの最悪な展開で眼前に現れた。


「霧木田君、君…頭大丈夫?」

「頭ですか…?

いえ、もうダメです。とっくに正気なんてものは棄てましたから。」


 霧木田貴士はその中性的な顔を歪ませて下卑た笑みを刻み、乃衣子も眉をつり上げ、彼を睨む。


「あたし冗談は好かないんだ。

くだらない中二病に付き合う時間もないのよ、もう帰るわね。」


 そう言って乃衣子が踵を返そうとすると、霧木田貴士は右手を掲げ…聞き捨てならない“名”を口にした。


「出でよ、“屍食教典儀”!」


 彼から凄まじい邪気と魔力が渦巻き、その魔導書はその手に降臨し、乃衣子に確かな敵意と殺意をぶつけてきた。乃衣子は強い嫌悪と同じく敵意を霧木田ではなく魔導書に対し返した。


「お前、一体何考えてるのよ!?

それは本物の魔術師ですら手に負えない正真正銘の人喰いの魔導書なのよ!!」


 屍食教典儀…。食人、屍姦、黒魔術等の背徳的記述の多い書物で特に食人…カニバリズムに於いてあまりに冒涜的な内容でカソリック教会より発禁を受けて残った数は数冊程、その全てが危険極まりなくアメリカ、マサチューセッツ州にあるミスカトニック大学に厳重保管されている…筈であった。


「何処で…誰から手に入れた、一体何に使う気よっ!?」


 乃衣子からの問いを貴士は一笑に伏すが、まるで優位にでも立っているかの様に彼女の質問に答えた。「僕はついこの前まで数人のクラスメイトに苛められていました。担任の先生に話しても相手にしてもらえず、自殺も考えたりしました。

…でもそんな時、送り主不明のメールが来て“苛めに打ち勝つ力をくれる”と書いてあり…僕はその言葉にすがりました。

そのメールに返事を返した翌日にこの屍食教典儀が送られて…、僕はこの魔導書と契約しました。

そして、遂先日…僕を苛めた内の二人に復讐を遂げたんです。」

「そう、今朝の朝礼で言っていた事件の犯人はお前なのね、霧木田貴士!」


 貴士は笑みを絶やさず、挑発的な目で乃衣子を見据えた。乃衣子はその厭らしい視線に気持ちを揺さぶられ、今にも飛びかかりそうになる。…が、貴士の傍に付いていた実香と云う少女が彼の手首を掴んだ。


「貴士君、もう話済んだでしょ!

もう、行こうよ!?」


 彼女は不安を露わにして貴士を見上げるが、彼は実香を一瞥して彼女の手を振り払う。


「実香ちゃんは黙っていてくれよ。

君は協力者だけど、越苗君達と同じ僕の“仇”でもあるんだ、殺さない事を有り難く思え!」


 貴士に怒声を浴びせられ、実香は俯いて口を噤む。その様子を見せられた乃衣子は反対に頭が冷え、冷静さを取り戻して踵を返し…背中を向けて話した。


「話は終わった様だからあたし帰るね。

…さっきの戦線布告は半々で聞いておくわ。でも実際にあたし達に牙を剥くなら…」


 其処でまた振り向き、乃衣子を見た実香は小さな悲鳴を上げて後退り、貴士もその悍ましく醜悪な眼孔に戦慄した。

 乃衣子の左目…海魔の邪神眼が二人を瞳に収め、彼女はこう言ったのだ。


「あたし達魔海の住人は容赦しない、あまり人外をナメるな人間!」


 流れる沈黙の中で乃衣子は二人を置いたまま屋上を後にし、貴美子の携帯にメールを送る。


…ごめん、今日早退する。それとちょっとの間学校休むね。…


 携帯を仕舞うと乃衣子は教室に鞄を置いたままで学校を出、早歩きをしながらクトゥルーに念話を送る。


《クトゥルー、状況は分かってるでしょ?》

《ウムゥ、随分と面倒な事になったのう。》

《戦線布告は兎も角、霧木田貴士から屍食教典儀を取り上げなきゃならないわ!》


 その乃衣子の言葉にクトゥルーは間を空けて念話を返す。


《乃衣子、取り上げるだけでは足りぬ。

“霧木田少年は殺さねばならん”。》


 クトゥルーの冷酷な意思に乃衣子はその場で立ち止まり、拒絶で返した。


《駄目、霧木田貴士は生かすわ!

此は角島牧男との約束よ!!》《我はその様な約束はしておらん。》

《屁理屈を言うな、あたしが約束したんだ!!》

《乃衣子、我が意思は変わらぬ。

霧木田貴士をお前の手で殺し、屍食教典儀を我に捧げよ…。》


 其処でクトゥルーの念話は途絶え、乃衣子は立ち尽くす。教団に於いて崇める神の信託は全てに優先される。尚且つ乃衣子はクトゥルーの姫巫女、彼の言葉を無視するなど出来る筈がない。


「クトゥルーの馬鹿野郎…。」


 乃衣子は俯き悔しげに歯を食い縛る…が、その“迷い”を黒く塗り潰していき…彼女は邪神姫としての“務め”を果たす事とした。










 御門会総本部…江戸時代の武家屋敷の様な本家では未だかつて有り得ない騒動が起きていた。本家を守る若衆は全員拳銃で武装し、屋敷内に侵入した黒いボロマントを纏った集団を広い応接間で包囲していた。御門会会長である角島牧男と寺川もその集団のリーダーと合い見え、額に大粒の汗を滲ませていた。


「お久し振りだね、“お祖父さん”。」


 謎の集団のリーダーは霧木田貴士で、彼は祖父である角島牧男に頼みがあってこの本家にやって来ていた。


「何の用じゃ、貴士?

お前ヤクザの儂を嫌っておったのにどういう風の吹き回しだぁ?」

「お祖父さん、僕と一緒に“戦争”…してくれない?」

「な…、何をゆうとるんじゃ!?

15の餓鬼がふざけた事抜かしてんじゃねえぞう!」


 角島に咎められた貴士は含み笑いをして右指をパチンッと鳴らした。すると貴士の左右と後ろを固めていたボロマントの者達がマントを裂いて正体を現した。 若衆は全員悲鳴を上げ、寺川…角島は目を自分の目を疑った。

 黒いボロマントの人物達は人間ではなかったのだ。犬…或いはハイエナの様な獣の頭にゴムの様で硬く厚そうな肌の身体…鋭い牙と爪に前屈みの体勢で貴士を守る様に取り囲み、もう一人の拘束した若い女性を連れて来ていた。彼女は霧木田貴士のクラスの担任教師で有川正子と云った。彼女は目で分かる程にブルブルと震え、その表情は死の恐怖に脅え切っていた。

 角島はあの日に見た半魚人の怪物達を思い出してしまう。


「貴…士、そっ、其奴等は一体…何じゃ!?」


喰屍鬼グールだよ。

とてもフレンドリーでね、直ぐに友達になれたんだ。

僕の言う事なら何でも従ってくれる友達にね。

…ねえ、お祖父さん。僕が苛めで相談した時お祖父さん言ったよね、“僕が弱いから苛められるんだ”…って。お祖父さんは此処にいる有川先生と同じで僕を見放したけど、喰屍鬼達は違う。僕を見放したりしない。

…だからね、今喰屍鬼達がどれだけ僕の言う事を聞いてくれるか、見せてあげるよ。」


 貴士は残忍な笑みを浮かべ、それを見た有川正子は恐怖に顔を歪ませて命の懇願をした。


「おね、お願い、助けて霧木田君!?

わたしには何も出来なかったのよ、だって証拠がなくてクラスの子達はみんな口を閉ざしてしまってどうしようもなかったの!!

…でも此からなら大丈夫だから、先生も霧木田君の為に頑張るから、だから…お願い、殺さないで、殺さないでええっ!?」


 有川正子は必死に、涙を滝の様に流しながら一世一代の大懇願を年下で自分の生徒である霧木田貴士にしたのだ。屈辱などと考える余裕もなく…。

 しかし貴士は無表情に正子の顔を見つめ…こう言った。


「先生…、“遺言終わりました”?」


 有川正子は喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げ、喰屍鬼達がゲラゲラと嗤い、貴士も愉快げに嗤った。有川正子の泣き声と貴士と喰屍鬼の嗤い声が混声合唱となり屋敷中に響き、角島牧男には孫の嗤い顔があの喰屍鬼と云う化け物と同じ顔に見えてしまい…目眩を起こしかけていた。

 そしてその場にいる者達の前で地獄の宴が始まった。


「みんな、お腹空いてるよね。

その女…食べちゃっていいよ。」


 貴士の許しを得た喰屍鬼達が有川正子に群がり、その鋭い牙で腕を食み、脚を食み、肩、乳、腹、腰、陰部を引き裂いた。


「イヤアアアアアアアアアッ、アアアアアアアアアッ、アアア…、あああ、ぁあぁぁぁぁぁ………。」


 有川正子の断末魔が消え、喰屍鬼達が彼女の臓腑を頬張り…其処には有川正子の骨と綺麗な生首だけが残った。喰屍鬼達が周りの人間の反応が面白くてワザと残したのだ。その凄惨な光景にヤクザ達は泣き出す者、嘔吐する者、逃げ出す者と分かれ…寺川は嘔吐する者達となり胃の中の物を胃液共々みんな吐き出した。 只独り、角島牧男だけが悲しげに孫の貴士をジッと見つめる。


「貴士…、お前がそんなになってしまったのは…、

儂の、せいなのか…?」


 貴士は初めて見る疲れた様に肩を落とし祖父に少しだけ…後ろめたさを感じた。


「…お祖父さんだけのせいじゃないさ。

結局、“血筋”なんだ。

僕もお祖父さんと同類と云うだけ…。

でもね、同類と言うなら今此処にいるみんながそうだよ。

誰もが拳銃を持っているのに誰も彼女を助けようとしなかった。

喰屍鬼はね、銃で撃たれて死んじゃう怪物なんだよ。…なのに誰一人として撃たなかった、何故かな?

答えは簡単、みんな見たかったんだ。人が怪物に生きながら喰われる様を!

泣いた人も吐いた人も逃げ出した人もみんな、この女が悲鳴を上げながら四肢を食い千切られ、肉を剥ぎ取られ、臓物を貪られる光景を見たかったんだよ!

お祖父さんですら、その瞬間を…望んだ…。」


 貴士の手にはいつの間にか屍食教典儀が持たれ、喰屍鬼達が彼の下に跪く。そしてその場に居たヤクザ達…寺川と角島も貴士に対して片膝を付いた。


「仇の女を生贄にし、屍食教典儀による服従の“儀式”は成立した。

此より僕はお前達の主だ、今日より御門会は僕の物だ!

僕は残りの復讐を遂げる。そして“水池乃衣子”を殺し、本当の意味で屍食教典儀を僕の所有物にするんだ!!」


 その日より御門会は狂走とも言うべき外道ならぬ魔道の道を走り抜く事となる。霧木田貴士は屍食教典儀を貸し与えてくれた“あのヒト”に深く感謝をし、有川正子の生首を手に取ってその唇にキスをした。

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