忍び寄る死の影…
間が空いてしまいスミマセン。
三話目更新です。
授業を抜け出した乃衣子は屋上の貯水タンクの上で寝転んでいた。漫画などではサボるにはベターな場所ではあるが、実際は立ち入り禁止の場所なので本来なら生徒はおろか、教師も殆ど来る事はないので乃衣子にとっては恰好のサボリ場所であった。
「…しかし、やっぱり暑い…。」
そんな事を言いながら脳裏には梶宮貴美子の顔が余ぎり、彼女を無視し続けている事が少し苦しくなっていた。
「何で…、あたしなんかに声かけてくるのよ…?」
暫し梶宮貴美子の対策を考えはするが、あまり良い案が浮かばず…乃衣子は暑さを我慢しながら仰向けになって居眠りをした。
本日の授業も終わり、帰り支度をする乃衣子の異変に気付いた貴美子は午後の授業からずっとその肌を凝視していた。
(やっぱりスッゴい焼けてる!
まさか…日焼けサロンにでも行ってたの!?)
その視線に気付いていた褐色肌の(貯水タンクの上で日焼けした)乃衣子は“ギッ”と貴美子を睨んで威嚇をし、終始無言のまま教室を出て乱暴に戸を閉めた。
「あっ!?」
すると喜美子は何を思ったのか自分も帰り支度を急ぎ、教室を出て彼女の後を追った。
そして帰り道…。両側をブロック壁が続く軽自動車が交わせない程の細い道を帰路を歩く水池乃衣子…、そして少し離れて長い黒髪を揺らしながら乃衣子の後を追う貴美子の姿があった。
(もう、何で付いて来るのよ!?)
乃衣子の苛立ちもピークに達し急に駆け足になり次の角を曲がる。貴美子はバレていないとでも思っているのか、やはりその後を追って同じく角を曲がると、物の見事に待ち伏せをしていた乃衣子と鉢合わせをしてしまった。
「アンタ、一体あたしに何の用があるのよ!?」
水池乃衣子は明らかに怒っており、梶宮貴美子はあからさまに狼狽えていた。怒らせるつもりなどないのに、しかし乃衣子は眉をつり上げて貴美子の目をジッと睨んでいる。
貴美子は意を決し、自分の気持ちを彼女にぶつける事にした。
「水池さん、わたし…、
ずっと貴女の事見て来ました!」
貴美子の告白に乃衣子は眉間を寄せる。彼女が自分を長い間ストーキングしていたのは知っていたからだ。
「…で?」
乃衣子は声を低くして聞き返し、貴美子はその迫力にたじろぐが…もう一度気持ちを固め、乃衣子と向かい合った。「その…、わたし…、
水池さんと…
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みっ、水池さんと“結婚”したいんです!!」
暫し、時が止まった…。
梶宮貴美子は唇を半開きにして青醒め、土壇場に弱い自分を呪う。
(どっ、どうすれば“友達になりたい”が“結婚したい”になるのよ~!?
わたしのバカ~!!)
あまりの恥ずかしさに両手で顔を隠す貴美子。そして一切の口を閉ざした水池乃衣子の顔を恐る恐る両手を開けた隙間から覗いたその時、後ろで車両のブレーキの音がして…突然顔色を変えた乃衣子が彼女に右手を伸ばして襟を掴み自分の後方へと引っ張り投げ飛ばした。貴美子はゴロンと一回転をして地面に落ちた衝撃に顔をしかめ乃衣子の背を見た刹那…、“パスパスパスパス…ッ”と空気の抜けた様な音が幾つもし、乃衣子が背中から倒れ込んだ。
「水池さんっ!?」
乃衣子に駆け寄る貴美子であったが、その無残な姿に絶句し…両手で口元を被った。顔面に何発も銃弾を受けて誰だったのか身元が分からない程に破壊されていた。胸元にも数発の鉛玉を喰らい、先ず生きてはいないと確信せざるを得なかった。
貴美子はその場にしゃがみ込んでしまい、涙を目尻に溜めて泣いた。
しかし車両…バンより降りて来た二人の男が近寄り、一人が貴美子の側頭部に拳銃を突きつけ、もう一人が乃衣子の死体を担ぎバンに運び込んだ。貴美子は恐怖で声も出ず、男の突きつける銃口がバンを差して二度程振った。貴美子はそのジェスチャーが理解出来ず凍りついていたが男は苛立ちを見せて今度は貴美子の側頭部に銃口を押し付けた。
「サッサと車に乗れ!」
小さくも荒げた声と痛い程に押し付けられた拳銃に貴美子は脅え…男の指示に従い車両に乗り、男達のバンは貴美子と乃衣子の死体を乗せて走り去る。そしてその一部始終を空より監視している“モノ”がいた。其奴は全身が真っ黒で角を生やし、顔は“のっぺらぼう”…大きな蝙蝠の様な羽を持った悪魔の様な姿でバンを追っていた。 そしてもう一人…その魔物…“夜魔”を“千里眼”にて監視していた“者”がいた。“彼女”は先程の出来事があった場所とは全く違う場所に停車中のベンツの後部座席から乃衣子達の状況も“視ていた”。「アレだけ注意を促したと言うのに、“邪神姫”ともあろう御方が何て不甲斐ない!
…“我々”は手を貸したりは致しませんよ、乃衣子様。」
その妖艶でレディースーツを着極した美しい女性は運転手に車を出すよう命令し、彼女を乗せたベンツもまた走り去ったのだった。