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万魔殿に悪神、降臨す…

久し振りの更新にて新キャラ登場です。

もう何かノリノリに書いてしまいました。

 井守段慈と相棒の澤錦はクトゥルー教団の日本拠点であるMCJビルのエントランス内で澤錦はビクビクし、井守段慈は受付嬢に警察手帳を見せ付け、アポ無しで偉そうな態度をして“会長に合わせろ”と豪語していた。


「井守さ~ん、此処はヤバいッスよ~。署長にも言われたじゃないッスか~、止めましょうよ~?」


 オドオドしながら澤錦は先輩の先走りな捜査を止めようとするが、井守段慈は消極的な後輩を威圧した目で睨んだ。


「澤、テメエ馬鹿言ってんじゃねえぞ?

今回の御門会によるマーシュ財閥関連店舗への襲撃にその御門会の壊滅、そして高校生連続殺人とその学校の女教師の失踪、その全てが繋がった事件なんだ。

…だが蓋を開ければどっかしらで財閥が絡んでいやがる!

だからマーシュ財閥の奴等に直接聴くのが最短なんだろうが!」

「高校生連続殺人事件と女教師失踪事件は無関係だと思いますけど…。」

「あんだと、喧嘩なら買うぞ…澤?」


 エントランス内で騒ぐ刑事二人に周囲の視線が集まる。…特に警備員と…何故か清掃員の視線が鋭く突き刺し、段慈はそれに気付き自分の読みが当たっているのだと認識を固めた。


「んっ?」


 ふと、彼はエントランス内で二人の少女を見かけた。一人はショートボブに私服の少女。もう一人は短いショートヘアで背の低い女子高生である。


(ありゃあ、私立碧原高等学校の制服じゃねえか!

“多英”と同じ学校…。そして五人の男子高校生が殺され、一人の女教師が失踪した曰く付き。)


 段慈は二人の後を追いかけ、澤錦が彼を呼び止めた。


「ちょっ、井守さん何処行くんッスか!?」

「“事情聴取”だ。」


 そう言って段慈はスタスタと彼女達を追ってしまい、此には澤錦もキレかかった。


「ったく、勝手過ぎるぜあのオッサン!!」


 そう愚痴りながらも彼は先輩の後に付いて行くのだった。










 エントランス内の隅にある休憩所に水池乃衣子と小糸実香はいた。乃衣子は未だ傷心のグッタリしたクトゥルーを椅子に座らせて、置いてある自動販売機の前に立ち、商品を映したモニターと睨めっこを始める。


「おごるよ、実香ちゃんは何が飲みたい?」

「いえ、わたしは…。」


 実香は壁側に立って遠慮がちに呟く。


「飲んどきなよ、言葉詰まらせない様にさ?」


 乃衣子は実香にお茶の500mgのボトルを投げ寄越すが、実香は取れずに落としてしまい慌てて拾った。


「…いつから、知っていたんですか?」


 実香の質問に乃衣子は500mgのコーラを買って蓋を開けて一口飲んでから答えた。


「御門会と霧木田貴士との決着の後かな…。

人間の探偵を使ってアンタ達の関係を虱潰しに調べあげたら、貴女の中にある“闇”が浮かび上がったわ。」


 実香は上目遣いに乃衣子を睨みつける。無意識なのかも知れないがその瞳には敵意すら篭っていた。…だが乃衣子はそれに気付きながらも気に止めずに話を進めた。


「四年前、貴女の父親が経営していた会社が大きな負債を抱えて倒産した。

原因はあるヤクザからの嫌がらせと詐欺行為、そしてそのヤクザ達は御門会系列の組の者達で言ってしまえば霧木田貴士の祖父…、御門会会長角島牧男の配下と云えた。

角島牧男を恨むには充分な理由だけど、好いていた筈の霧木田貴士を憎んだのは何故なのかな?」


 乃衣子はコーラを一口飲み、口の中でシュワッとする炭酸の感触に少し笑顔を零す。実香はそんな彼女を見て少しだけ緊張が解け、霧木田貴士への思いと虐めにどう関与したのかを話し始めた。


「貴士君は優しかったです…。

会社が倒産した時もずっとわたしの傍に居てくれて嬉しかった。…でも、一年前にお父さんを陥れた人達が貴士君のお祖父さんの組の人達だと知った時、彼の優しさに苛立ちを覚えました。何も知らずに“許せない”なんて豪語しても特に何もしてくれない、ヤクザのお祖父さんとは縁を切っていたのは知っていたけど…、口先だけで何も知ろうとはしてくれなかった…。

わたしの貴士君への好意は裏返る様に憎悪に変わって行き、高校生になって…、わたしは貴士君と仲の悪い越苗君達にメアドを変えて貴士君が陰口を叩いていると言う内容を送り、…越苗君達は思った通りに貴士君を虐め始めました。」


 霧木田貴士が学校で虐められていた発端を作り出したのは小糸実香であった。数年前に父親を貶めたのが御門会傘下のヤクザ達で霧木田貴士はそのヤクザの親分を祖父に持ち、当人は事情を知らずに彼女の傍に居た。

 実香の憎しみは貴士への八つ当たりとなり、彼女の思惑通りに霧木田貴士は虐めを受ける事となったのである。…しかし因果応報とはよく言ったもので、越苗達虐めグループは貴士の幼馴染みである彼女を捕まえて彼の前で輪姦した。それは彼にとって身が引き裂かれる様な思いだったかも知れなかった。


「実香は…、霧木田貴士が持っていた魔導書がどういう経緯で彼の手に流れて来たのか…知ってる?」


 乃衣子に聞かれた実香であったが、彼女は首を横に振った。


「いいえ、わたしが強姦された何日後にはもう持っていてそれから彼の態度は“いっぺん”しました。」


 乃衣子は実香は自分が陵辱行為をされた事をあまり気に止めていないかの様な素振りが気になったが、今は誰が何の為に霧木田貴士に魔導書…“屍食教典儀”を送りつけたのかが知りたかった。危険な魔導書なれど、あれはその筋ではとても貴重且つ価値ある書物なのだ。しかし今はもう人の手が届く様な場所にはない。彼女達の神であるクトゥルーがその手で護っている。


「結局、“黒幕”の手掛かりはなしか…。」


 乃衣子がそう愚痴を零すと、二人の前に此方も二人の背広姿の男性が現れた。井守段慈と澤柳である。乃衣子は少し怪訝な表情を取るが、特に嫌がる素振りは見せず、反対に澤柳を見た途端に危険な目付きとなりニヤリと笑みを浮かべた。


「珍しいね~、こんな企業ビルに女子高生が二人もいるなんて…。社会見学かい?」


 意味深に尋ねて来る段慈に対し、乃衣子は震える実香を後ろへやり、彼の質問に答えた。


「いいえ、このビルは“わたしの家”の様な物なんです。…“刑事”さん。」


 まだ此方の身分も明かしていないのに言い当てられた井守段慈は険しい顔になって乃衣子を睨んだ。


「もしかして…、コイツは“ビンゴ”…なのかな?」

「えぇ、そちらの勘の鋭さには感服しますよ刑事さん。

それに…、まさか“手掛かり”を連れて来てくれるなんて、教団から“ルルイエの指輪”をプレゼントしたいくらいです。」

「“手掛かり”?…何の事だ?」


 段慈は首を傾げるのだが、突如乃衣子に手を掴まれて相棒の澤錦と引き離されてしまった。


「お、おい、何のつもりだ!?」


 井守段慈は実香の傍らに寄せられ、訳も解らず後ろから乃衣子の肩を掴むが、気付くと何時の間にかこの休憩所の通路と云う通路がこのビルのあの目の間が離れた“清掃員達”で埋め尽くされていた。只、乃衣子と実香…そして段慈の背後だけ清掃員達が道を開けており、それはまるで避難通路の様に段慈には思えた。


「ちょっと~、何でソッチ行っちゃうンスか~井守さ~ん!?」


 情けなく段慈を呼ぶ澤錦だが、乃衣子はオロオロする彼をまるで危険視する様に見据えて話しかけた。


「もうお芝居は終わりにしたら、もうその“躯”が“操り人形”だって事はバレているのよ!」


 乃衣子の言葉を聞いた段慈は何が起きているのか一切理解出来ていなかった。周囲は不気味な清掃員達に囲まれていて、先程まで一緒に捜査をしていた相棒が女子高生に操り人形と罵られている。そしてその相棒である筈の澤錦は…、先程までの狼狽を止めて立ち尽くし…嗤っていた。


「サワ…、お前……!?」


 段慈も気付いてしまった。先程まで一緒にいた“あの男”が澤錦ではない事に、ならば…、彼は一体何者なのだろうか。


「あ~ぁあ、だから此処へは行きたくなかったのに…。一目見られてバレてしまったわ。

もう、井守さんってば強引なんだから…、ウフフフ…。」


 澤錦は女性の様な言葉遣いになり、表情も妖艶さを醸し出して余裕の態度を示した。反対に乃衣子の顔から笑みが消えて完全に敵意を露わにした形相を取る。


「お前は誰、刑事の“躯”を使って何を調べていたの!?」


 乃衣子が声を張り上げて問い質すと澤錦であった者は嘲笑を浮かべたままで答えた。


「マーシュ財閥…、いえ、“クトゥルー教団”“ダゴン秘密教団”の組織形成と戦力…、そして邪神姫である水池乃衣子の力の全て…!」


 急に澤錦の髪の毛が伸びて金髪のブロンドヘアに変わり、その躯付きも肩幅が狭まり、両胸が膨らみ、腰が括れて手足が細くなってとても妖艶で美しい金髪の美女へと変わってしまった。小糸実香と井守段慈は目を丸くしたまま澤錦であった筈の美女を凝視した。

 乃衣子は身体の内にあるルルイエ異本が反応して騒ぐので胸元を握り締めて耐え、澤錦であった女を更に睨みつけてもう一度名を聞いた。


「アンタ…、本当に何者なの!?」


 女は愉快そうに含み笑いをし、その妖しい瞳に乃衣子を映す。


「いいわよ、教えてあげる。私の名前はキザイア…、“キザイア・メイスン”。改めて初めまして、魔海の邪神姫…水池乃衣子。」


 キザイア・メイスン…、這い寄る混沌と云われる邪神ニャルラトホテップと契約した信者にして幼き命を悪しき邪神に捧げ続けた悍ましき魔女である。


《ほう、邪悪なる魔女の家系であるメイスン家の当主が直々に出向いて来たのか。

随分と大胆よのう。》


 傷心から立ち直ったのか、何時の間にかクトゥルーは隅の椅子から乃衣子の背中に移動していた。段慈はまたも突然に現れたクトゥルーを見ては青醒めて後退る。…だが、彼はまだ相棒である澤錦がどうなってしまったのかを聞いていなかった。


「さっ…サワ、は…、どうしちまったんだ?

お前等サワに何をしたんだ!?」


 此にキザイア・メイスンは嘲笑を浮かべたままで答えた。


「フフッ彼なら随分前に“死んだ”わよ。

私が情報を得る為に誘き出して殺して…この躯を貰ったの。

意外と“使い道”あるのよ、ベッドの上では私をとても悦ばせてくれるの。騎乗位で私の腰に爪を立てて離してくれなくてね…。何度も膣内に射精されたわ!」


 卑猥な言動とは裏腹に何と残忍な嗤い顔は乃衣子達を充分過ぎる程に不快にさせた。そしてその躯はキザイアの姿からまた男…澤錦に戻り、声もまた彼の物に戻る。…と、突然右手先を頸動脈にめり込ませ首を貫いた。

 実香と段慈はその惨状に絶句するが、澤錦の表情は未だ嘲笑をその顔にへばりつかせていた。


「私はもうお暇するけど、“豪華な置き土産”を差し上げるわ。

とても珍しいモノよ。受け取ってねクトゥルフ様、そして水池乃衣子様。」


 そう言うと澤錦は左手で自分の天辺の髪の毛をひっ掴み、首を貫いた右手で傷口を開いて自分の首を引き千切った。実香はその場で悲鳴を上げて卒倒し、彼女を受け止めた段慈もかわいがっていた筈の後輩の悍ましい姿に足を踏ん張るのが精一杯であった。


「う…、ウソだサワ……、お前が死んでたなんて…、誰が信用すんだよ…!?」


 段慈の悲しい呟きは乃衣子の耳に届くが、今はその澤錦の首の千切れた躯から沸き立つ瘴気がどんどん膨れ上がる事に確かな危機を感じていた。


「“ダゴンとハイドラの末裔”よ、井守刑事と実香を安全な場所へ連れて行って。」


 清掃員として紛れ込んでいた“深きもの”と人間の混血…深きものに成り切れなかった“末裔”達は魔海の邪神姫である乃衣子の指示で二人を連れてその場を離れる。そして澤錦の躯は背広を引き裂いて膨れ上がり休憩所を破壊、乃衣子はクトゥルーを背負って休憩所から逃げてエントランス内へと飛び出した。

 そして彼女を追ってビル内を崩しながら約5m近くある肥満体が現れ、その大きな掌を向けた。


《邪神姫ヨ、貴様ハコノ“いごー・ろなく”が喰ライ尽クシテヤル!!》


 その両掌には裂けた様な大きな口があった。キザイアは澤錦の首のない躯に悪そのものを司る邪神を召喚したのである。

 乃衣子は首のない巨人を見上げ表情を引き吊らせ、背中にしがみついていたクトゥルーは彼女の僅かな恐怖を読み取った。


《怖いか、乃衣子?》

「流石にね…、神性相手は“初めて”だから。」


 そう、乃衣子は邪神姫となってクトゥルーと同じ邪神を相手に戦うのは此が初めてなのである。今まではノーデンス等の敵対神が送りつけた奉仕種族ばかりで霧木田貴士の時の巨人ガグが一番サイズの大きな敵であった。…しかし今回の敵は仮にも邪神を名乗る神性、邪神の恐ろしさはその身を持って知っているつもりでいた。


《畏れるな、今は我が居る。

目を背けるな、乃衣子…お前は決して悪神なんぞには負けぬ。お前は我と繋がっておるのだからっ!》


 クトゥルーの激励は乃衣子を奮い立たせ、彼女はその左目を邪神眼に変えて一度深呼吸をしてゆっくりと気持ちを平静に落ち着かせた。


「フゥ…、ありがとうクトゥルー。

…なら、邪神と悪神のドチラが強いか、あの“デブ”のブヨブヨした躯にきっちりと教えてやろう!!」


 エントランス内はクトゥルーの力により異空間へと変異し、乃衣子の体は左目のみならず彼方此方に斑の表皮が現れてその周囲に瘴気を噴出させた。掌は深きものの様に水掻きと鋭い爪を覗かせ、何と背中のクトゥルーが乃衣子と融合していき、触手が巻き付いてまるで鎧の如くその身を覆い隠し更なる異形へと変貌していった。クトゥルーの背にあった小さな蝙蝠の様な羽根がバサッと大きくなり乃衣子は異空間の空を舞う。


「さあ始めようか、デブ野郎!!」

次回、邪神イゴーロナク戦でどれだけ邪神同士のイカレタ闘いが書けるか…、正直不安です。

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