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それは冒涜的な邂逅…

この回…後半はちょいとした暴走回です。

 マーシュ財閥日本支部…クトゥルー教団日本拠点であるMCJビル会長室に乃衣子は居た。最近は学校を休んでいたのでハイドラに呼ばれて財閥会長としての仕事を頼まれたのである。要はハイドラが容認した件の書類に判子を押すだけの作業である。

 乃衣子は一枚の書類を見てみるがハッキリ言って文章の内容は全く解らなかった。


「英語イタリア語フランス語中国語…、頭が回るわ…。」


 乃衣子はハイドラに教えられた箇所に判子を押していくが、机の両脇に置かれた50cm程の高さもある書類の山を見て乃衣子は眉間に皺を寄せた。


「今日中に終わる気がしないんだけど…っ!」


 ドンドンと机を叩いて八つ当たりをする乃衣子。其処へ扉の向こうをコンコンとノックの音がし、乃衣子は「どうぞ。」と声をかけて招き入れた。入って来たのは新たな書類を抱えた眼鏡にシャキッとしたレディスーツ姿のハイドラであった。


「乃衣子様、この書類にも今日中に判子をお願い致します。」

「ハイドラは“鬼”よね!」

「鬼ではなく“邪神”で御座います。」


 今日は機嫌が良い様でハイドラはあまり見せない笑顔で乃衣子に笑いかける。


「この書類ってみんな業績の伸びない会社への梃入れ関係が殆どよね?」

「はい、特に“EU”は私達マーシュ財閥関連の企業に対し危機感を持っている様でヨーロッパからの閉め出しを目論んでいる様です。」


 財閥としては見過ごせない状況だが、この件に関してはヨーロッパ各国支部の手腕に委ねる事としている。…しかしその内、一国だけ…懸念すべき国があった。


「乃衣子様、此方に目をお通し下さい。」


 ハイドラに一枚の書類を渡され言う通りに読むと、乃衣子は眉毛をつり上げて険しい表情となった。


「メキシコ支部がテロリストに襲われたの!?」

「はい、昨日のメキシコ時間14:30頃で御座います。

現在人質男女計四名が捕らわれていますが解放は絶望的でしょう。」

「何で助けられないのよ!?」

「メキシコのテロリストは中南米麻薬カルテルと繋がりを持っています。恐らくは“ヤクザの一件に絡んだ者達”からの依頼でマーシュ財閥のメキシコ支部を襲撃したのでしょう。

人質を浚ったのは身代金目的ではなく“見せしめ”の処刑をする為です。

奴等は人質を残忍な方法で殺し、残酷に目立つ場所に死体を捨てて晒します。

気の毒ではありますが警察はおろか、軍にも救出は不可能です。」 ハイドラの話に乃衣子は怒りを露わにし、机を両手で“バン”と叩き書類の山を崩した。


「ハイドラ、テロリスト共の目星は付いてるの?」

「ある程度は…、しかしテロリスト共はマフィアに囲われていて詳しい拠点までは掴めておりません。」


 乃衣子は思考し、席を離れてハイドラの傍らに立つ。


「メキシコに行くわ、手早くお願い!」

「畏まりました、明日までに用意が整います。」


 乃衣子はハイドラの即返された返事に笑みを見せ、会長室より出て行った。










 梶宮貴美子と小糸実香はかつて水池乃衣子が住んでいたアパート跡地にいた。アパートは乃衣子の部屋が御門会によって襲撃された数日後に住民を退去させて平地となっていた。その全ての金はやはりマーシュ財閥より出され、この土地は財閥の物となっていた。この敷地内に二人は入り、メールに書いていた通りに乃衣子を待っていた。


「あれ、貴美子。

それに…小糸実香、アンタまで何でいるのよ?」


 貴美子と実香は声の主…ジャージ姿の井守多英に向き直った。


「多英ちゃん…、多英ちゃんにも乃衣子さんからメール来たの!?」

「あぁ…、まあ、アイツからメールを寄越して来たんだから…来ない訳にはいかんっしょ。」


 苦笑いしながら多英が敷地内に入り、三人となる。平地であるアパート跡地を見、多英は実香を睨みながら近付いた。


「小糸、アンタにも乃衣子からメール来たの?」


 実香は多英の迫力に圧され、彼女から視線を反らしながら俯きながら無言で頷く。


「多英ちゃん、実香さんは悪くはありません!

だからもう許してあげて…!?」

「アタシだって解っているつもりさ、コイツも被害者だって。

だけど理屈じゃねえだろ、小糸実香はアタシと貴美子を騙して水池を誘き出す餌に…っ!?」


 ふと…、多英は後ろに車両の停車する音を聴いた。貴美子と実香も同じく耳にしてあの日この場所でヤクザ達に拉致された記憶を思い出し三人同時に振り向いた。 …止まったのは黒いベンツで後部座席から降りたのは見開いた目の間が魚の様に離れた不気味な黒服の男…、そして座席より飛び降りた不思議な生物であった。その胴体は怪獣の様であったが子供程の大きさで背中より蝙蝠の羽根が見え隠れし、その大きな頭はぶよぶよした蛸にとても似ていた。

 三人はその異形に絶句し、近付いてくる“ソレ”に畏怖を感じて後退った。


《逃げずともよい、別に取って食おうと云う訳ではないのだからな。》


 突然脳内に響いた野太い声に三人は更に驚き、実香に於いては腰を抜かして尻餅を付く。…彼女は自分達の目の前の小さな異形の正体を知っていて恐怖していたのだ。


「くっ、クトゥルフ…、

“邪神…クトゥルフ”!?」


 貴美子と多英は実香が口走った名前にピンと気はしなかったが、彼女の尋常ではない怯え方を見て二人で彼女を抱え起こし逃げようとした。


《待て、乃衣子に会いに来たのだろう?

このまま逃げ出したならお前達は二度と乃衣子の傍には居れなくなるぞ?》


 その“テレパシー”に貴美子と多英は強く反応して足を止めた。


「何で、乃衣子さんを知っているんですか!?」

「…そう言やあ、水池が言ってた邪神の名前って…!?」


 多英は実香が口にした名と乃衣子が前に教えてくれた邪神の名前が似ている事に気付いた。


(いや、水池の方は確か…“クトゥルー”だった筈!?)


 多英の心を読んでか読まずか小さな異形はまたテレパシーを送って来た。


《この地球ではクトゥルフ、或いはクトゥルーなどと呼ばれておる。乃衣子からは後者で呼ばれておるぞ。》 更に邪神、クトゥルフを名乗った異形はまたも驚きの事実をテレパシーで送りつけて来た。


《因みにお前達を乃衣子の携帯を使って呼び出したのは我だ。》

『ええーーーーっ!?』


 此には思わず三人は別の意味で声を上げてしまう。邪神が携帯を扱うなど想像も考えようもなかったからだ。絶句しながらコチコチに凍りついた女子高生達を通り過ぎた自称邪神クトゥルフは敷地内の端っこに短い足で歩を進めるとまたもやテレパシーで話しかけて来た。


《お前達を乃衣子の元へ連れて行ってやるが少々待っておれ、ちょっと前に隠しておいた“我が宝”を掘り出さねばならぬでな。》


 三人は無言でジッと自称邪神の行動を見つめるが、小さな邪神が敷地内の端っこより掘り出した箱を見て多英と貴美子はその中身に興味を持ってしまう。多英は背中に貴美子を連れて小さな自称クトゥルフに近付くが実香はやはり怖い様で立ち尽くしたままで様子を見続けた。近付く二人に気付いた小さな邪神は特に咎める事なくそのお菓子の銅箱に入れられ…綺麗にラッピングされた“ソレ”を出した。


《ほう、お前達この“本”に興味を持ったのか?

“女子高生”共にもこの写真集の良さが解るのだな。》


 テレパシーの声は何処か嬉しげに弾み、ラッピングを三本の爪を生やした小さな手で丁寧に剥がす。その表紙にはスクール水着にハイソックスを穿いた女子高生程の少女が艶めかしいポーズを撮った一枚があり、此に過剰反応をしたのは井守多英であった。


「まっ、まさか“コレ”は、

“スク水ハイソ娘写真集”!!

発売当初から全国の書店売り上げランク1位を譲らず最高1ヶ月間トップの座を守った幻の“バイブル”!!

しかし写真のモデルが女子高生から小学生までと低年齢な上に際どいアングルから発禁を喰らい店頭からエロ本置き場に送られてしまった悲劇の聖書!

こっ、コレは…とても見たい、愛でたい、崇めたい!!」


 貴美子は親友の突然の直立と変貌に頭の中が真っ白となり、拳を握り立ち上がった多英を中腰のままで見上げた。


「たっ、多英ちゃん…!?」


 すると今度は小さな邪神が無数の触手を震わせて“ブオオオーッ!”と力強く吼えた。


《何と、まさか乃衣子の友に我が“同胞はらからが居ったとは…何という運命の巡り合わせだ!!》

「クッテルさまあっ!」

《そんな呼び方は初めてだが、構わん!

存分に拝み崇めるが良い!!》


 邪神クトゥルフと井守多英はその写真集を開くとニヤニヤと笑むだけでなくエヘエヘと笑い声まで洩らし出す。

 この名状し難くも冒涜的な光景に貴美子と実香は畏怖は何処へやら消え去り、呆れ顔になり大きな溜め息を吐いてしまっていた。

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