蟠りと疑心…
今回はページを少なくしました。
碧原高校校舎の屋上で水池乃衣子と井守多英は対峙していた。貴美子は多英を宥めようと二人に割り入って彼女を抑えている。乃衣子は貴美子も知っていた“人間ではない事実”を多英に伝え、まだ二人が知らないこの世界の真実を告げた。それはこの地球に君臨しているのが人間だけではない事、そしてこの世界で“邪神”と呼ばれる存在が幾つもいて自分はその邪神の尖兵なのだと…。そして霧木田貴士と小糸実香に御門会…、貴美子と多英はその小競り合いに巻き込まれたのだと教えた。
…だが多英は不満を露わにして乃衣子の胸倉を両手で掴み上げ、手摺と金網の冊に押し付けた。
「アタシが聞いてんのは“そんな事”じゃねえんだよ!!
お前は…アタシと貴美子を“囮”にしたのかって聞いてんだよ!?」
「多英ちゃん、そこまで!
お願いですから…そこまでにして下さい!?」
囮にしてしまったのは事実ではあるが、それは言わばハイドラの独断による奸計であり乃衣子は直後まで知らされなかった。しかし彼女はそれを言い訳するつもりはなく、口を噤み俯いた。
「何で黙るんだよ…、言い訳もないのかよ水池乃衣子!?」
俯いて顔を隠す乃衣子を責める多英は悔しげに声を荒げ彼女の反応を待つ。…が、乃衣子は顔を上げずに小さな声でたった一言を呟いた。
「ゴメン……。」
しかし多英はそれを耳にしたのと同時に右手を振り上げ、“パンッ”と乃衣子の左頬を叩いた。貴美子はビックリして固まってしまい、乃衣子は叩かれた“痛み”に耐えながらやはり口を噤む。
「アタシはそんな言葉が欲しいんじゃねえんだ…。」
そう言い残して多英は校舎内へ戻った。後に残され項垂れる二人だったが…、多英に叩かれた頬を抑えながら乃衣子は立ち上がり、ボソリと呟いた。
「やっぱり、二人の友達でいるの…、無理かも知れない。」
「えっ!?」
貴美子が聞き返そうとするが、乃衣子は逃げる様に貴美子を背にして校舎内に入って行ってしまった。…独りだけ残された貴美子は目尻に涙を溜め、その場に座り込み泣き出すのだった。
霧木田貴士の起こした事件は警察では一切の謎のままとなり、広域暴力団御門会の無差別と思われていた襲撃事件も襲われた店舗が皆マーシュ財閥関連としか分からず、そのマーシュ財閥も一切協力をせず口を閉ざし、其れ所か各所轄に圧力がかかりマーシュ財閥はあくまで被害者で御門会の暴走は国家に対するテロ行為と見做されて逮捕された組員達の半数以上が国家反逆罪による再逮捕となった。 そして高校生連続殺人事件も彼等が拠点としていた場所に霧木田貴士と二人の男子高校生の死体が見つかった事から此も御門会による残忍な殺人事件とされた。そして女性高校教師が行方不明である事もまた御門会の仕業とされ、コチラは“形だけでも捜査が行われていた”。
「こんな捜査内容、納得がいきません!
大体全部が全部、御門会による犯罪なんて誰が信用しますか!?」
所轄で高校生連続猟奇殺人事件を追っていた井守段慈が大声を上げて警察署長に猛抗議をし、署長は耳を押さえ身を椅子に持たれさせて井守段慈から距離を取る。
「しっ、仕方ないだろう!
御門会が集まっていた建築現場には碧原高校の生徒三人の惨殺死体があったんだからな!」
「しかし、御門会が何の為に高校生を殺すんですか、奴等は利益にならない殺しはしない!?」
しかしその理由を署長は行方不明の女教師…有川正子と繋げる。
「生徒達は有川正子が行方不明になった事件に御門会が絡んでいる事を知って消されたのだよ。」
「有川正子が行方不明になったのは前の二人が惨殺死体で見つかった後だ!
それに御門会と有川正子の繋がりは…、三人がどうやってその秘密を知ったんですか!?
全く憶測にもならない!」
さすがに署長は口籠もり、怨めしげに段慈を上目遣いに睨んだ。
「そ…っ、それを調べるのが君の役目であろうが!!
有川正子の足取りをシッカリ調査するんだよ!!」
結局署長の逆ギレで終わり、井守段慈は署を追い出される様にコンビを組む男性刑事…澤錦と一緒に捜索に向かった。
水池乃衣子と井守多英の仲違いは意外にもクラス内の空気にも波紋を寄せていた。 乃衣子はあの日からまた学校を休み、多英と貴美子も口数が少なくなり…その様子に周囲も不安とも心配ともつかない気持ちで息苦しい空気を醸し出してしまい、同級生達は関わらずも三人を見守っていた…。
放課後、事件による部活の規制も解除されており多英は部活に出、貴美子は帰宅部なので真っ直ぐ帰る事にした。
階段を下りて下駄箱まで行くと、貴美子を見つめた下級生の少女が一人…其処に立っていた。
「小糸…さん?」
小さな背にショートヘアの少女…そしてあの残忍な事件を引き起こした少年“霧木田貴士”の傍らにいた小糸実香であった。