番外編.1 ある日の騎士のつぶやき
両想い前の二人です。
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俺、アラン・フォルニール。24歳。
魔導先進国、セインティア王国第一近衛騎士団、第三部隊騎士隊長兼王太子直属特務補佐官……えーとつまり、魔法の国の、出世頭の独身イケメン。これ本当。
去年の『女神祭』ーーあ、そっちで言うバレンタイン?では、そりゃもうあっちこっちの女の子にプレゼントを貰って困ったくらい。
ーー話が逸れたね、ごめん。
俺の上司は、『聖国の太陽』とかって異名の付いた、そりゃあもう人外に美しいキラッキラした王子、ラセイン・フォル・ディアス・セインティア様。
上っ面だけは優しく、セインティア史上でも稀なほど聡明だし、国民にも大人気な主人。怒ると超怖い。まあそれはそれで良いんだけど。
で、俺はあくまで、ラセイン様の犬なわけだ。
なのに何故か今俺は、その姉姫、『聖国の金の薔薇』と呼ばれるセアライリア王女に呼びつけられている。
「アラン、大魔導士の元へこれを届けて下さる?」
弟が弟なら、姉も推して知るべし。遺伝子バンザイ。
つまり、俺が今までの人生で出会った誰よりも美しいその女性は、これまた弟君を凌駕するキラキラ加減でおねだりをしてきた。
「要約すると、シーファんとこへパシリしろってことですよね。慎んでお断り申し上げつかまつります」
俺とあいつが犬猿の仲だと知っていて、このお姫様は無茶振りをしてくる。
俺の返答を聞いて、セアラ姫はわざとらしく溜息を吐いた。
「だって、わたくしは城の外に出られぬ籠の鳥ですのよ。あなたにしか頼めないわ」
嘘つけ。
ちょくちょく城を抜け出しては、俺が血相変えて探すのを楽しんでいるくせに。
「えーと、でもですね。わたくしめはラセイン王子の側近ですから、お側を離れるわけには」
するとセアラ姫の後ろで、ラセイン王子が視線を逸らした。
あ、嫌な予感。
「あら、ラセインは快く了解してくれましたわ」
……可愛い部下を売りやがったな、王子様め。
「しかし」
「アラン、わたくしのお願いを聞いて下さらないの?」
目の前の、ほんっと見た目だけは天からの贈り物かというくらい美しい姫君は、更に二割増しでキラッキラしてみせる。
ああ、周りの兵士やら、侍女の視線が痛い。皆セアライリア王女に心酔してる者ばかりだ。
「えー、姫様のお願いを断るとかありえなーい」
「ねー、あんなに頼んでるのにねー」
おいこら、聞こえてるぞ新人メイド共。
俺だってこの方の本性さえ知らなきゃ、無責任に『キャー姫様綺麗ー、可愛いー、この方の為に死ねるー』とか言ってたっつーの。
「ねぇ、アラン?」
セアラ姫は俺の目をジッと見つめて、更に追い打ちをかけた。
ーー、く、この顔っ。人の弱点に漬け込みやがってーーつまり、惚れた弱みってやつなんですけど!
「わ、わかりましたよ……」
「ついでに可愛いリティアの写真も撮ってきて下さいましね?ざっと300枚程度」
「初孫産まれた祖母ちゃんか」
「何かおっしゃいまして?」
「いいえ!何もっ」
「そうよねぇ」
ああ、そんな。また綺麗な微笑みを向けやがって。
いつかどっかの国の王子とか、王のところへ嫁に行っちゃう人だけれど。この笑顔を、今だけ独り占めできるなら。
結局俺は、今日もまた姫様のパシリーー。
「割に合わねー……」
今度は絶対給料上げてもらおう。
fin.