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Secret talk

 帰りは休養がてら、どうせならより王都に近い北の港まで行こうという王子の提案で、一行はゆったりと船旅を楽しんでいた。

 夜も更けた船室では、なぜかシーファ、アラン、ラセインと男性陣三人の飲み会が開催されており。


「いやホントにさあ、正直死んだと思ったよね!俺もシーファも」


 アランが杯になみなみと酒を注ぎながら言う。


「心配しましたよ、シーファ」


 ラセインがそれをさらりと横取りしながら友人に語りかけた。


「この私が簡単にやられる訳がなかろう」


 その横でシーファがクッションにもたれかかった。髪をかきあげようとして、空振りした手が何となく愉快でアランが笑う。もう三人ともかなりのペースで飲んでいるが、ほんのり目元が赤いものの、全く表情には現れていない。ただ多少口数も増え、テンションが高めだ。ーー特にアランが。


「いやーばっさりやったもんだよね。なんか初めて会った頃のお前思い出すわー。そんな感じだったよな、髪型。ちょー生意気でさあ、綺麗だけど可愛く無いのなんのって」

「……あれは子供の頃だろうが」


 アランの懐かしむような顔に、苦々しくシーファが答える。ラセイン王子がそれを眺めながら、ふと口にした。


「……でも、本当に大丈夫ですか?元々アルティスのかけらは強大な魔力だったかもしれませんが、急に失うなんて」


 銀の魔導士が髪を切ってしまったことへの王子の危惧に、近衛騎士が首を傾げる。


「え、そもそもどんな感じ?」


 魔法の使えない彼には概念がイマイチ理解しづらい。ただ何となく、前より魔力が少ないな、と感じることは出来るが。


「そうだな、今までのシーファを例えるならこうだ」


 王子は手元にあった、大きめの杯いっぱいに酒を満たす。


「大きな器に一杯の魔力。これを疲労したりすると魔力は減るが」


 一気に飲み干した。

 あああ、そんな飲み方しちゃ駄目っすよ王子!というアランは放っておいて。空になったところに、もう一度同じように酒を注いで杯を満たした。


「休養をとって身体を休ませれば、魔力も回復する」


 杯が魔導士、酒が魔力というわけだ。


「けれど、今のシーファは、杯そのものを半分サイズにしてしまったようなものだ。器自体が小さくなってしまえば、いくら魔力を満たしても限界がある」


 隣にあった小さなグラスに、大きな杯の中身を移し替えると、杯半分ほどしか入らない。その小さな杯を示せば、アランは「さすが我が王子!!分かりやすい解説で」などと、パチパチ手を叩いた。


「でもいいんじゃないっすか。どうせ半分になってもウチの魔導師達より大ジョッキなんでしょ。むしろ破壊神から迷惑野郎レベルに、良い意味でランクダウンしてくれるんじゃないですか」


 んね~?と首を傾げてくるのがなんとなくムカついて、シーファは彼を蹴りとばす。


「痛い!」

「うるさい、酔っぱらい!」


 アランは職務上、あまり普段から酔ったりはしない。どうせ今だって、王子の身に危険が迫ればいつも通りに剣を振るうことなど容易いはずだ。このテンションの高さはわざととしか思えない。 厨房に頼んで用意してもらったつまみを口に放り込んで、魔導士は杯を傾ける。


「……後悔は無い。ちょっと歩きにくいのもじきに慣れる。別に悪いことばかりじゃないしな」

「あ、わかった。リティアさん押し倒した時に邪魔にならな……もごっ!」

「アラン、下品」


 にやにやするアランの口に、主君が串焼きを突っ込んだ。ーー3本。

 ふごふごしながら「あっ、これウマ」などと言う騎士に、王子はあきれ顔で溜息をついて、思い出したように呟く。


「でもリティアさん、まだ罪悪感でいっぱいみたいですよね。叱られた子犬みたくなってましたし」


 しゅんとして、夕飯もそこそこに部屋に戻って行った弟子の少女を思い出す。


「シーファが居なくなった時もですけど、さっきのも少し可哀想で見ていられませんでした」


 彼の言葉に、アランもうんうんと頷いて。シーファはリティアの困ったような顔を思い出す。


「そうだな……気にするなと言っても無理か」


 ただでさえ気にしやすい少女だ。他の騎士達の手前、けなげに明るく振る舞ってはいたがーーバレバレだった。


「まあ仕方ないことかもしれませんがね。彼女には立て続けに色々なことがあり過ぎたでしょうし……でもちゃんと前を向いていましたよ」


 ラセインに打ち明けられた、彼女の決意を伝えれば、師は「そうか」と深く微笑んだ。やはり彼は気づいていたのかと、ラセインは口元を緩めて。酒の高揚もあってふと、友人をからかってみたくなる。


「リティアさんはどんどん大人になるし、綺麗になりますね。月の女神より先に会っていたら、僕が婚約していたかもしれません」

「なんだ、やらんぞ。あれは三歳から俺のだ。お前は女神を迎えて、さっさと王になってしまえ」


 口調が崩れ、少しだけ早口になった彼に、おやと眉を上げる。


「三歳からって?」

「菓子を与えたら『シーたんのおよめしゃんになる』と熱烈なプロポーズを受けた。義父母公認でファーストキスも受取済みだ。だからあれは俺のだってのに、当の本人は魔物にあちこちホイホイ触らせやがって、ムカつくったらない」


 子供の頃から変わらない、本音を話す時の彼の癖。

 今は彼らがほとんど見ることも無い、そんなムキになる姿もほほえましくて、ラセインはアランと顔を見合わせてクスクスと笑ってしまって。ーー否、アランは爆笑していたが。そんな二人を見て、魔導士は舌打ちして手元の酒を飲み干した。

 けれどこの友人達との時間は心地よかった。

 リティアに出会わなければ、魔導士にならなければ、得られなかったであろうものだ。そういうものをもたらしてくれた彼女に感謝しこそすれーー罪悪感など持たせたくは無いのに。


 魔導士になどなりたくなかった、と。好きでなった訳ではない、と。

 以前に言ったのは本当の気持ちだ。

 けれど、それはリティアを受け入れることも出来ず、彼女の魔力が溢れるのを恐れていたあの頃までで。

 今はーーもう魔導の道にしか生きられない自分を知っている。リティアを護る力なら、なんだって構わないということも。


「どうしたら、わかってくれるのだろうな」


 呟きはしっかりと、友の耳に拾われてしまって。アランがシーファの杯を横から取り上げる。


「だからさあ。リティアさんの為ならぜーんぜん平気、ついでにもう身体も本調子ですって教えてあげなよ。なんならベッドで!だあいじょうぶ、邪魔しないし、覗かないからあ!」


 またしてもやや品のない冗談に走る従者を止めるかと、ラセイン王子を見れば、彼は極上の笑顔で杯を優雅に掲げて、それはそれは上品に微笑んだ。


「そうですね。その髪なら邪魔にならないでしょうし」

「……お前達、完全に酔ってるだろう……」

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