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I’ll be there for you -side B-

 アランは城内に与えられている自室にて旅支度を整えていた。

 シーファとリティアの魔物退治は何故かすんなりと王に認められ、しかしお目付役が必要だとのことで、提案者のラセイン王子とアランが同行することになったのだ。


「ったく、あの方本気で次期国王の自覚あんのかな。危険な事にホイホイ首突っ込んじゃうんだからもー。魔物退治なんて、我ら家臣に命じてくれれば良いのに」


 ぼやきながらも、内心はわかっている。

 ラセイン王子は自らの力も証明しようとしているのだ。王に対しても、国民に対しても。民が忠誠を誓う存在、命を捧げる存在としてふさわしくあろうと。


「……んとに、良くできた人だよ」


 それに比べて、俺は。

 アランは自嘲する。


 王は彼の迷いを見抜いていた。いつか手を伸ばしてしまいそうな自分に釘を刺したのか、それとも。密かに思う事さえ、もう許されないのか。


「だとしたら、俺は……」


 握りしめた拳を見つめた時、背後で扉を叩く音がした。


「はい」


 部屋を横切って、その扉に手をかける。それを開ければーー

 

 金色の巻き毛、白い肌の美女。金色の長い睫毛が影を落とすアクアマリンの瞳がこちらを見上げる。


「っ、セアラ姫?」


 今まさに胸にあった相手がそこに立っていて、アランは驚きのあまり立ち尽くした。けれど、我に返る。ここは従者の部屋だ。


「何故こんなところへ!呼んで頂ければ俺が参ります」

「ええ……」


 彼女は戸惑いを浮かべて、言葉を探すように視線を揺らす。それがいつもより無防備に見えて、なんだか落ち着かない。そして彼女が口を開いた。


「アラン、あなた北の魔物退治に行くんですって?」


 耳の早い王女だ。王子の近衛騎士は礼をとって頷く。


「ええ。必ずラセイン様をお守り致します」


 しかしアランの言葉にも、彼女の顔は晴れない。


「北の魔物には今まで何回か討伐隊を出しているのよ。けれどことごとく敵わなかったと聞くわ」


 姫はその手に持っていたものを彼に差し出した。鎖の先に紋章の描かれた水晶が下がっているーーペンダントだ。


「わたくしの治癒魔法を閉じ込めたものよ。何かあれば使って」


 アランはそれを受け取ろうと手を出しーー彼女に微笑んだ。

 なんだ、弟君を心配しているのか。


「わかりました。ラセイン様に何かあったなら使わせて頂きます」

「違うわ」


 彼の言葉に、セアラが首を横に振る。


「あなたによ」


「ーーっ」


 不意打ちの、その言葉に。アランは思わず言葉に詰まる。

 ーー何て事を。


「……セアラ、さま……」


 何て可愛いことをしてくれるんだ。人がせっかく、諦めようとしてやったのに。どうしてこう、こんなタイミングで。

 ああ。諦められるのか、本当に。


「ーーセアライリア様」


 王女の手のひらごと、ペンダントを包み込み、アランは一歩前に出る。

 今までは絶対に、踏み込まなかった距離に。

 セアラが顔をこわばらせて、けれど拒否もせずに彼を見つめる。


 ーーせめて逃げてくれたら。もう追わないのに。


 アランは眩暈を起こしそうな自分を抑え込んだ。

 その手を上げれば、容易く抱きしめてしまえそうな、距離で。

 セアラ姫のこめかみに唇を触れさせてしまいそうに近づいて。


「ーー無事に帰ったら、望みを一つだけ聞いて頂けますか」


 真剣な目で。囁く騎士に。



「ーーごめんですわ」



 王女は言い放った。

 ーーいつもの微笑みを浮かべて。


「アラン、世間でそういうの何て言うかご存知?死亡フラグ、ですわ。『それが彼の最期の言葉だった』ってやつよ。わたくし、そんなのはごめんですわ」


「は?え?」


 彼女の早口に、一瞬意味を図りかねてーーけれど、彼に掴まれたままだった姫の指先が逃げることもなく、微かに力を込められたことに気づく。


「ラセインに何かあるわけがありませんわ。あの子は強いもの」

「そ、そうですね」


 アランのほうが戸惑いを浮かべる前で、セアラ姫が微笑んだ。


「それに、あなたが全力で護ってくれるでしょう。ーー信じているわ」

「ーーっ」


 何よりも。確かな想い。

 ああ、そうだった。


 アランは微笑み返してーー王女の前にひざまずいた。掴んでいた手から緩やかに力を抜いて、その甲に口付ける。


「誓います。この身に替えても、あなたの弟君を護り抜くと。ーーそして、ここへ帰ると」


 俺たちの形は、これでいい。ーー今は。

 せめて、捨てられないこの想いが、主君の進む道の妨げにならぬよう。


「死亡フラグなんてボッキリ折ってみせますよ。ーー我が姫、セアライリア様」


近衛騎士の言葉に、金の薔薇が微笑みを咲かせたーー。

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