King of magic kingdom
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深々と頭を垂れる臣下達の間を悠々と通り、近づいてくるその二人に、リティアはただ圧倒された。
堂々とした体躯、ラセイン王子にそっくりな、けれど年齢を重ねた重厚さと色気に満ちた鋭い容貌。蜂蜜色の波打つ髪に、ラピスの瞳のリライオ・フォル・ディアス・セインティアーーセインティア国王。
セアラ姫に良く似た、けれど優雅さと優しさを深め、母の慈愛で柔らかに微笑む美しい容姿。白金の流れる滝のような髪に、アクアマリンの瞳のイリアレティア・エルデ・セインティア王妃。
ただでさえラセイン王子とセアライリア王女だけでも素晴らしく美しいというのに。キラキラどころではない。王室一家が揃っている姿は、なんだかもう現実とは思えず、まるで夢のようだ。……眩し過ぎて目が痛い。
「絵本の精霊みたい……」
ポツリと呟いたリティアに、アランがぼそりと呟いた。
「見た目はそりゃそうなんですけど。……気をつけて」
え?と聞き返す間もなく、王と王妃が傍までやって来た。アランは走り寄って来た侍女や兵士たちにセアラ姫を任せると、その場で膝をつき、王に礼をする。シーファがリティアを自分の背後にやり、その彼は胸に手を当てて優雅に礼をする。
リティアは師のそんな様子を初めて見たために、びっくりして立ち尽くした。けれどよく考えれば、シーファも王都の魔導士協会で学んだ身なのだ。宮廷作法が身に付いているのは当然だった。リティアは我に返って、慌てて頭を下げる。
「お帰りなさいませ、父上」
ラセイン王子が王に声を掛けると。
「ああ。留守の間、よくぞ代わりを務めてくれた」
王は艶やかな低い声で息子を労いーーその瞳がひざまづく臣下を見やった。
「と言いたいところだが。魔族やら他国の王などを、やすやすと城に入れたのは失態だったな、フォルニール」
言われたアランは更に深く畏まる。
「申し訳ありません、陛下」
「あのっ……」
リティアは思わず声を上げてしまう。
アランのせいではないと、伝えたかった。
もとは全てリティアとシーファと、アルティスの秘石が巻き起こした騒動なのだ。けれど師は黙っていろと言わんばかりに、リティアの口を押さえる。
彼女の声に反応した王は、リティアを見てーーそれからシーファを見つめた。その迫力に、少女は怯んで師のローブを掴む。 とーー。
「破壊神と悪名高き大魔導士シーファ。それにアルティスの秘石を宿した未登録の弟子か」
王の言葉に、ビクリと震える弟子の手を包んで。シーファが口を開いた。
「そんな呼び名で呼ばれる覚えは無いぞ、クソオヤジ。あなたは相変わらず、化け物レベルの美しさだな、セインティア王。麗しき王妃様はともかく、男の若作りは見苦しい」
……。
……。
今、何て言ったの?
リティアはぽかんと口を開きーーそして次の瞬間真っ青になった。
「お、お、お師匠様!!何てことを!」
よりにもよって、王様に!この国で一番偉い人に暴言吐いた!!
心無しか居並ぶ臣下たちも茫然としているように見える。
セインティア国民は皆、美しく絶大な統率力を持つ王家に心酔している。
そんなロイヤルファミリー大好きな皆様の前で!こんなにキラキラした方々の前で!何を言っちゃってるんですか、シーファ!!死刑とか死刑とか死刑になったら!どうするんですかあぁあ!!!
打ち首を想像してぶるぶる震える弟子の少女の前でーー
「はははは!」
王が笑い出した。
「相変わらず口が悪いな、そなたは。しかし少しはマシな顔つきになったではないかーー生意気小僧」
「あらまあ本当ね、背が伸びたのではなくて?あの可愛らしいシーファが、大きくなって」
その隣で百合の花のような王妃が微笑み、シーファは彼女に優雅に礼をする。
「恐れながらイリアレティア様。私はとっくに成人しております。いつまでも子供ではありませんよ」
「おい、私の妻を口説くな」
その手を取り、挨拶の唇を落とす魔導士に、王が口を挟んだ。王妃は夫に微笑む。
「あら、シーファにはちゃあんと、素敵な恋人が出来たのよね?」
シーファは笑顔でーーしかしその目は笑ってはいないがーー問う。
「……そんな話をどこから?」
しかし答えは分かり切っている。つ、と視線が近衛騎士を見下ろした。
「プライバシーの侵害だ」
その足が彼の頭に振り下ろされる寸前に、アランは飛び退いて難を逃れる。
「うおやべ、仕方ないじゃん!!そこの王様がなんか愉快なネタを提供しないと、来年のボーナスカットだって」
「人の恋路を娯楽扱いするな」
二人のやりとりに、王妃はニコニコと微笑み、王子は頭を抱えーー王はニヤニヤと笑っている。リティアは混乱したままだ。……とりあえずセアラ姫やラセイン王子だけでなく、国王夫妻ともシーファは親しいらしい。
「で、銀の魔導士の弟子は面白い力を持つらしいな」
重厚な声に、二人はハッと振り返る。ラセイン王子が窺うように父に問うた。
「何故、それを」
「地獄耳なものでな」
アランの先ほどの発言もしっかり聞いていたらしい。王はこの城に住まう精霊を全て従えているのだ。そこから彼の耳に入らないはずが無かった。一気に緊張の色を浮かべる王子とその従者に、リティアは戸惑いながら師を見上げた。
けれど頷いてくれるはずの彼は、じっと王を見たままで。その横顔に不安を感じる。
王はリティアをまっすぐに見た。
「銀の魔導士の弟子にして、アルティスの秘石の宿主。砂漠の失われた姫君であり、魔族の浄化者。実に興味深い娘よ。リティエルシア・レイノール・リネ・フレイム・フレイア」
ーーえ?
少女は驚きに目を見開く。 無邪気にも首を傾げて。
「え、私のフルネームってそんなのなんですか?」
「え、そこ!?つうか知らなかったんですか?」
アランが我慢できずに突っ込んで、頭を抱えた。
「ド天然……いいのこのレベル。ねえ、シーファ、いいのこれ」
「うるさいアラン。可愛い生き物だと思えば許せる馬鹿さ加減だろうが」
シーファはすがりついてくる悪友をうるさげに蹴った。
なんだかひどい事言われてる。リティアはぶぅ、と頬を膨らませて、その向こうで、ラセイン王子が苦笑した。
「あらまあ、可愛いわねえ」
お妃様はさすがにセアラ姫の母親だ。構わずにころころと笑う。王は楽しげに少女を見てーーけれど、鋭い瞳で言った。
「どうだ、リティアとやら。
ラセインのーー青の聖国王子の嫁になる気はあるか?」




