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Magic sword 2.

ーーセインティアの第一級魔導師であるセアラ姫もまた、シーファ達と同様に戦っていた。彼女なりのやり方で。

 この空間に入ったときから、密かに魔王の結界を解こうと試みていたが、逆に身体を圧迫するような力を受けてその額に汗が滲む。


 セアラが扉を破壊したといっても、魔王の結界を通り抜けられたのは彼女一人だった。フォルレインやリティアが魔王の気を引いている間に、何としてもこれを破らねばならない。

 結界の外にはセインティアの魔導師達が待機している。彼らの力も併せれば、きっと魔王であろうと退治できると確信していた。だからこそロウエルミーアは、この場に居る者達を外から隔絶しているのだろう。


「全く、大迷惑な魔王だこと……」


 セアラの手の中で、扇がミシリと音を立てる。

 シーファが杖を使うように、セアラ姫の魔力増幅装置はその扇だった。王族としての見目の良さと、機能性を考慮しての媒体なのだがーー今はその心許ない華奢さが恨めしい。


「もう少し、もって頂戴……」


 幾度目か、何種類か、もうわからないほどの魔法。


「我は月の騎士の娘、魔導の光満つる聖国の王女。地の理を歪めし魔王の術を破らん……」


 セアラは発動呪文を唱えるその身体が揺らぎそうになるのを、必死で堪える。

 が、手の中で扇が砕け散った。


 “パアンッーー”


 キラキラと輝く粒子になり、宙を舞うそれを目にしながら、


「ーー!」


 途端に身に降りかかる、魔力の強い圧力に前のめりになり、


 ああ、倒れてしまうーー。



 ーートン、と軽い衝撃。



 一瞬閉じてしまった目を開けば。

 見慣れた背中が自分の額を受け止めていることに気づく。


「ア……」

「このままで、いいですから。

術を完成させて下さい」


 近衛騎士はこちらを向かない。

 だからこそ、安心してそのまま身体を預けた。

 自分の額を彼の背に付けたまま、呪文を唱え続ける。真っ直ぐに、前を向いたままのその背で。


「最後まで、俺が護りますから。ーーセアライリア様」



 心の底では、思っている。


 ーー振り向いて、抱き締めたいと。

 ーー振り向かせて、すがりつきたいと。


 でもそうしたら、きっと二度と傍には居られない。そういう関係を、選んだのだから。


「ええ。

動いたらぶっ飛ばしますわよ」

「御意」


 ーー凛と前を向く、その強さを。

 ーー背中だけを見せる、その強さを。


 お互いの想いを、護ると決めたから。


「そうね、リティア。あなたの言う通り」


 セアラ姫は微かに微笑みを浮かべて呟く。


 彼を大事にしない人に、みすみす渡すことなどできないわ。





 ラセイン王子は自分の剣を構え、魔王を見据える。

 フォルレインの言葉では、魔王は止まらない。けれど精霊としての彼が表に現れている今は、剣の魔法が最大限に解放されている。


『ラセイン』

「ああ、わかっている」


 彼は剣の形をしながら、ラセインが生まれた瞬間から共に生きてきた相棒なのだ。柄を握り締め、その波動に意識を添える。斬るならーー今だ。


『ラセイン、あれを見ろ』


 フォルレインの声が、ラセインの意識に鋭く響く。


『首のーー真ん中に、宝玉があるのが分かるか。あれがロウエルミーアの本体だ』


 目を凝らせば魔王の首元で光るーー赤い石が見える。あれが魔王の命そのものなのだろう。


「厄介な場所ですね……シーファ、ちょっと得意技を使ってみませんか」


 王子の言葉に、大魔導士は目を見開く。


「杖無しでやらかして良いのか?ーー城の半分くらい吹っ飛ぶかもしれんが」


 ラセインがシーファに杖を使うなと言うのは、大抵は逆の意味だ。すなわち、“魔法を使うな”ということ。

 普通の魔導士なら、杖が無ければ威力は半減する。しかしシーファはその力が強すぎて暴走する。杖ーー制御装置の無い彼の術は危険だからこそ、ラセイン王子はそれを逆手にとって、シーファ自身に冷静さを保たせて自重させてきたのだ。(アランは杖を持たせることで、被害を最小に押さえようとするが)

 何だかんだと、一番シーファの理性を信頼しているのはラセインかもしれない。

 そんな彼がーー杖無しでの魔法を望むのは初めてのことで。


「ラセイン、私を信頼し過ぎではないか?」


 シーファのからかいを含んだ問いに、王子は苦笑する。


「……そこはリティアさんとフォルレインになんとかしてもらいましょうか」

「へ!?」


 いきなりの指名に、リティアは驚いて声を上げた。


「お、お師匠様の魔法を私が防ぐんですか?」


 いきなりの大役に、先ほどの威勢の良さなどどこへやら、すっかり腰が引けて、リティアは泣きそうな顔をする。

 今まで散々目にしてきた師の魔法だ。しかも失敗したら美しいフォルディアス城が吹っ飛ぶとなれば、泣きたくもなる。



「リティア」


 シーファの声に、少女は顔を上げた。

 ーー不敵な笑みと、優しい瞳。


「私は誰だ?」

「……大魔導士シーファです」

「ではお前は?」

「……あなたの唯一の弟子です」


 師の声は弟子を導く。ただ、穏やかに。


「ならば、できるな?」


 応えろと、あなたがそう言うのなら。


「ーーはい」


 私は頷いてしまう。魔法に掛かったみたいに。


「いい子だ、馬鹿弟子」


 その余裕さが悔しくてーー嬉しくて。


「子供扱い、しないで下さい」


 リティアが師から目を離せないままにそう言えば。シーファは軽く目を見開いてーー笑った。


「そうだな。お前は良い女だよな、リティア。何せこの大魔導士を惚れさせたくらいだ」


「ズルいです、お師匠様」


 そう言われたら、なんだって出来ちゃうの。




 目を閉じて、深呼吸。


 ーーゆっくりと、対象を見据えて。

 そうしたらもう、目を離してはいけない。

 今まで散々お師匠様に叩き込まれて来た基本だ。


 リティアはシーファに後ろから抱き締められるように抱え込まれたまま、彼の杖に共に手を添えて。


「我は溢れし力を受ける器。月の女神の騎士、魔法の光満つる地に在りし魔導の徒」

「我は銀の魔導士シーファの唯一の弟子にして、偉大なるアルティスの秘石の器」


 まるで一つの歌のように、旋律を重ね、調和させて。けれど反対の呪文を唱えだす。


「我が媒体を贄に、破壊の力を示せ。ーー対象は、魅惑の魔王ロウエルミーア」

「彼の媒体を贄に、護りの力を示せ。ーー対象は、青の聖国フォルディアス城」


 二人の手の中で、シーファの杖が輝いた。


“ピシリーー”


 今までに無いくらいの大きな音をたてて、亀裂が入る。



「何をしておる!」


 今までと比べものにならない程、大きな魔力の動く気配に、ロウエルミーアは動揺を浮かべた。


「お前達はアルティスの力の、ただの欠片ではないのか!こんなーーこんな強大な魔力など、わらわは知らぬ」


 シーファはニヤリと口元で笑う。


「知らなかったか、魔王?私は大魔導士なのだ。あの馬鹿魔導士の力など、とっくにこの身の、ただの一部に過ぎない。ーーこれは私自身と、リティアの力だ」


 白い杖は見る見るうちに光の固まりとなりーー


“パアンッーー!!”


 派手に砕け散った。


「お仕置きタイムだ、馬鹿者め!」


 その破片は幾多もの輝く矢となり、魔王へ向かって鋭く放たれる。


「耐え、護れ!」


 同じ瞬間に、リティアの魔法が発動し、広間を包み込んだ。


「何を!!」


 魔王に降り注ぐ雨のような光の矢は、ロウエルミーアの魔法障壁を突き抜けてーー爆発した。いくつもいくつも、連鎖するように。それは空間そのものを破壊しそうなほどの勢いだが、リティアの魔法がそれを許さない。全て魔王へと向かって行く。


「あああ!」


 初めて発する、魔王の苦痛まじりの悲鳴ーーしかしその焼けただれた肌も構わずに、ロウエルミーアが両手に火球を生み出した。


「許さぬ。人の身でわらわに楯突こうなどと」


 魔王の言葉に。リティアが彼女を見つめーー口を開いた。



「ならば何故、あなたは人の姿をしているの?」



 ロウエルミーアは目を見開いた。はっきりと動揺の走った顔を、隠すように首を振る。


「ーーうるさい……!」


 ひときわ大きな光の矢を打ち払ったその向こうにーーフォルレインを構えたラセイン王子が居た。


「魔王、覚悟」

『ロウエルミーア、眠るが良い』


 魔法の輝きを纏ったその剣を。光の軌跡を描いて彼が振り下ろした先はーー魔族の命。


「……っ、青の王子……!」


 魔王の首に光る宝玉を、魔法剣がまっぷたつに切り砕いた。

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