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Once apon a time

「その昔、とっても力の強い魔導士がいたんだ。それは神に仕える魔導士アルティス」


 子供にお伽噺を聞かせるように、レイウスは芝居めかして言葉を紡ぐ。


「アルティスはそれはもう美しくて賢くて、人も魔物も魅力しまくり、魔導士就任10周年には記念全国ツアーライブを」

「あの、そこらへんはいいから、簡潔に教えて貰える?」

 どんな魔導士だ、それは。


 リティアの白い目にレイウスは肩をすくめて、じゃあざっくりいくよ、などと言う。


「彼は長い長い時間を生きたけれど、ついに死期を間近に迎えて、自分の魔力のすべてを一つの宝玉に託した。それがアルティスの秘石。持つ者に強大な力を与えるそうだよ」


 レイウスはきらきらと瞳を輝かせた。まるで、珍しいおもちゃが欲しくてたまらない子供だ。


「アルティスの秘石は、しばし歴史の中に現れては消え、そしてそれをーー君が身体に宿して生まれた」


 ……え?


「らしい」


 ……は?


「つまり、アルティスの秘石は君の中だ」


 そんな、まさか。


「……っぽい」

「何よその“らしい”とか、“っぽい”とか!!どこ情報なのよ!さっきからはっきりしないなあっ!あんた無責任で噂好きなタダの馬鹿じゃないのっ!」


 リティアは頭を抱えたくなりながら、彼の言葉を否定する。そんな信憑性のかけらもない話に、なぜ付き合わされねばならないのか。


「もー何言ってんの!だいたい身体の中ってどうやって……」

「石と言っても魔力の塊だよ。最初は大魔導士シーファがアルティスの器かと思ったんだけど……」


 そこでふとレイウスは言葉を止めた。


「いや……もしそうなら……」


 彼が視線を移ろわせた隙に、リティアは思いっきりレイウスの足を踏みつけた。


「えいっ!」

「痛っ!!」


 驚いて力を緩めた彼の手を振り払って、その腕から抜け出す。


「何するんだよ、リティア。乱暴だなあ」

「お師匠様の教えなの。悪い男には容赦するなって!」

「なにそれ。やっぱりあの魔導士、そういうこと?独占欲丸出しじゃないか」


 足を押さえながらぶつぶつ言うレイウスから距離を取って、リティアは腰に下げていた銀の短剣を構える。対魔物での護身術はシーファに習ってはいたが、実践したことはほとんど無い。魔物で、剣を下げているこの相手にどこまで通用するかーー。しかしレイウスは面白そうに笑った。


「アルティスの器たる君には強い魔力がある。なのに魔法が使えないのは一体何故だと思う?」


 ーーこの魔物の言葉を聞いてはいけない。

 咄嗟にそう感じたが、耳を塞ぐことも出来ない。


「君のお師匠様が、君の魔力を封印したからだよ。アルティスの秘石ごとね」

「嘘だ」


 反射的に返したが、目の前の魔物はいっそ優しいほどに微笑む。


「君からは確かにアルティスの気配がする。でもとても弱くて、君に触れてやっと感知できたほどの微弱な気配だ。そしてシーファからよく似た気配がする。シーファがアルティスの魔力に触れた証だ」


 レイウスの言葉は毒のように、リティアの中に染み込んでゆく。


「可哀想なリティア。魔法が使えずに肩身の狭い思いをしているのは、自分が師と慕っている者のせいだとも知らず。彼の期待に応えたいと一生懸命やっていたのにね。彼は君の無駄な努力をーー嘲笑っていたのかな」


「シーファはそんな人じゃない!!」


 リティアは思わず叫んだ。


「何も、何も知らないくせにーー!」


「君だって知らないじゃないか。シーファのこと」

「……っ!」


 さらりと投げられた言葉は、リティアの思考を止めさせた。


「君という弟子がいながら、魔導『師』と名乗らないのは何故?『魔導士』達の最高位である『魔導師』、シーファにはそれだけの魔力があるのに。

セインティアの魔導師は登録制だ。君の弟子入りは、公式には認められていないんじゃないの?君は、シーファに必要とされてる?答えられないよね」


 くらりと感じた眩暈は、また何か妖術を使われているのだろうか。目の前の魔物からは、ひどく甘い香りがする。


「僕なら、君を愛してあげる。文字通り、骨までね。君は魔物を惹きつける、極上のーー」

 

 餌だよ。


 声にならなかった言葉も、彼女の耳に確かに届いた。何も言えず、立ち尽くしたままの無防備なリティア。レイウスはクスクスと笑って、彼女に手を伸ばしてーー



「なにがジェントルマンだ、この大嘘つき野郎」


凛とした声と共に、レイウスの指先をかすめて稲妻が走る。


「うわ熱っ!」


 思わずレイウスは手をひっこめた。指先が赤く灼けたのを、フウフウと息を吹きかけて冷ます。


「お前は恩人からセクハラ野郎に格下げだ。決定」


 木々の間から杖を構えたシーファが現れた。その顔はとてつもなく不機嫌で、油断無くレイウスを睨みつけている。


「お仕置きタイムだ、馬鹿者め。ーー炎よ、我の敵を焼き尽くせ」


 彼が杖を振ると轟音と共に炎の渦が現れ、レイウス目掛けて放たれた。


「うわ、ちょっとそんなドデカイ技使っちゃう?大魔導士様は大変ご立腹なようで!」


 魔物はそれを紙一重で避けて、鼻で笑う。


「僕と遊んでていいのかな!自分の弟子に釈明でもしたら?」

「釈明?」


 その言葉に、訝しげなシーファの目がリティアに向けられた。

 ーー茫然と立ち尽くしたままの弟子。


「何やってる、馬鹿弟子!」


 師の怒声に、ビクリと身を震わせて弟子は顔を上げたが、その目は怯えたままで動こうとしない。


「リティアーー?」

「……っ、シーファ……」


 さすがに様子のおかしい彼女に、シーファが眉根を寄せる。その隙を逃さず、レイウスは身を翻した。


「またね、リティア。愛してるよ、マイハニー」

「はあ!?っ、と待て!クソ野郎!」


 レイウスの言葉に目を剥いたのは師のほうで、あっという間に見えなくなった彼に、シーファは舌打ちし、毒づいた。


「次会ったら殺す。潰す。つうか、額が地にめり込むまで踏んでやる」

「……お師匠様、怖いです」



 後に残ったのは苛立たしげな魔導士と、少女だけーー。

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