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Magic sword 1.

 ラセイン王子が薙ぎ払うように剣を振ると、今度は稲妻が走る。シーファが自分の魔法を追加し、その光を増幅させて魔王へと放った。魔王はそれを片手で受け止める。握りつぶすように力を込めると、光は音を立てて破裂した。


「ーーは、少しは楽しめそうじゃな」


 自分の焼けた手のひらを見つめ、ロウエルミーアは嗤う。


「胸クソ悪い魔族だな」


 シーファが呟き、ラセイン王子が頷いた。


「言葉が悪いですよ、シーファ。けれど同感ですね」


 魔王が緩やかに伸ばした手に、アランが反応した。小さな声でリティアに問う。


「リティアさん、ここからあそこまで俺を飛ばせる?」

「ーー大丈夫です」


 リティアはしっかりと頷いた。

 もう何も出来ないなんて言えない。自分の力が役に立つなら。何だってやってみせる。


 魔王がその手に炎を現した。こちらへと火の雨を降らせる。


「ーー我は望む、強き盾を!」


 シーファが呪文を唱え、それを防いだ。熱と煙に視界が遮られた瞬間ーー


「ーーお返し、ですよ」


 声がしたのは魔王のすぐ側ーーリティアの魔法で跳躍したアランが、剣を振りかざした。魔王は彼に手をかざし、魔法の火球を放つがーー


「護りの盾よ!」


 セアラ姫の防護魔法が彼を護る。

 力を込めたその一撃が、魔王をとらえーー、アランの剣はロウエルミーアの肩を深く切り裂いた。


「ーー!」


 魔王の血は流れることはなく、痛みを感じる様子もないが、その目には怒りが浮かぶ。


「わらわの肌に傷を……」

「あっれ?腕一本くらいは貰うつもりだったんですがねぇ」


 ひらりと床に着地して呟くアランに、シーファが冷たい目を向ける。


「だからお前はツメが甘いと言うんだ。まさか女の姿だから手加減したというつもりではあるまいな?」


 違う違う、と手を振る彼にラセイン王子が鋭く問う。


「手応えは」

 短い主君の問いに、騎士は魔王を見上げた。


「ちゃんと、実体ですよ。妖術でも幻覚でも無いし、痛みは無くともダメージはあるようです。こちらの攻撃で魔力は多少減ってる」

「わたくしもそう見えたわ。あそこに浮いているお馬鹿さんも無敵というわけでは無いようですわね。先程から首を守っているの。力の源があるのではないかしら」


 セアラ姫が補足し、リティアは彼らの洞察力に感心しながらも、ふと何かの気配を感じてそれを探す。何だろう、ずっと見られているような、呼ばれているような。魔王が現れた時からずっと、感じていた、何かを伝えようとするそれ。

 キョロキョロと挙動不審な弟子に、シーファが腕を伸ばしてその身体を捕まえた。


「おい、どうした」

「えと……ああ、あれです。フォルレイン!」


 リティアの呼びかけに一同はギョッと彼女を見た。ラセイン王子がその剣を示す。


「リティアさん?フォルレインが何か」


 リティアは彼の持つその刀身に触れて。それから師を見上げた。



「お師匠様、キスして下さい」



 弟子の少女の言葉に。言われた師は唖然として聞き返す。


「……は?何を言っている、こんなときに」

「とか言いつつ、顔ゆるんでるよ。エロ魔導士」


 すかさずアランがツッコミを入れた。


「何をいちゃついておる。わらわはムカついておるのだが」


 魔王は宙で肩を押さえたまま、ブツブツと呟くが、すぐに攻撃するつもりは無いのか、こちらの様子を伺っている。


「お師匠様ーーんもう!」


 リティアは構わずシーファの首元を掴んだ。引き寄せてーー唇を触れさせる。


「!」


 驚きに目を見開いたシーファが、反射的に彼女を抱き締めようとしてーー、


 “パアッーー”


 しかしアルティスの秘石が現れると、リティアはサッと離れてしまった。


「……デスヨネー……」


 遠い目をするお師匠様に、悪気の無い弟子は怪訝な目を向ける。


「なんですか?」

「いや、お前……たくましくなったなあと思って」


 なぜか残念そうなシーファと、後ろで笑いをこらえるセアラ姫と、遠慮なく爆笑するアランに。首を傾げつつも、リティアは秘石を持った手をラセイン王子の剣に重ねる。


『銀の魔導士の弟子、何を』


 王子とリティアだけに聴こえる声。


「フォルレイン、あなたあの魔王を知ってるんでしょう」


 彼女の問いかけに、剣が大きく震えた。赤い光が溢れ出すーーと、リティアが手にしたアルティスの秘石から放たれた虹色の光が、それを包むように広がって。

 

 光の中から人のような姿が現れた。

 青と水色の不思議な光で紡がれたような髪を持つ、金色の瞳の。揺らぐ光と水に映る姿のように、幻想的な美丈夫だ。しかし人間ではない証に、その身体は剣の先に溶けている。


「ーーフォルレイン、君がその姿を現すとはね」


 ラセイン王子は自分の剣のその姿を知っていたようだ。

 リティアの魔力の影響か、今はこの場の皆に彼の姿が見えるようになっていて、初めて見る魔法剣の精霊に、アランやシーファ、セアラ姫までもが驚いた顔をしている。


『見ていただろう。あの娘が無理矢理にひっぱり出したのだ。ラセイン以外に私のこの姿を見せるのは月の女神だけかと思っていたが、さすがあの馬鹿魔導士の宿る娘だ』


 リティアは呆れ顔の精霊に頭を下げて。


「ごめんなさい。でもあなたなら、魔王をどうにか出来るんじゃないかと思って」


 少女の真っ直ぐな瞳に、精霊は気まずげに宙を見上げた。 その先の魔王がーー彼らの様子に気づいた。フォルレインを見つける。


「そなたーー、青の聖騎士の精霊ではないか。500年ぶりくらいかの、相変わらず良い男じゃな」

『お前はアルティスを追い回していなかったか?ロウエルミーア』


 精霊の声に、ロウエルミーアはフンと鼻を鳴らした。


「アルティスはダメじゃ。散々甘い言葉を吐いて、わらわから魔法を盗み学んで、あげくーーわらわを振る時に何と言ったか覚えておるか?

“僕、今んとこ自分が一番好きなんだよねー。君と同じタイプ。はい、無理”」


 それを聞いたリティアが頭を抱える。アルティス、ホントに何をやってるのもう!

 お調子者の魔導士が沈黙しているのは、とことん自分に都合が悪いかららしい。聞いていたアランが口を開く。


「……いっそ清々しいほど正直な答えですね。つうか、魔王タラシこんで逃げるとか、どこまで自由人だよ」

「阿呆だな」


 シーファも呆れた顔をしているが、彼の中にもアルティスの力があることを思い出し、複雑な気分になる。リティアはなんだか微妙だ。

 うーん、魔王可哀想になってきた。アルティスってば、あちこちでアレコレやらかしてきてるんだもん。


「それでわらわは考えを改めたのじゃ。この力で欲しいものを手にいれれば良いとな」


 中空の魔王はクルリとまわりーーその姿を次々と変えていく。今までに変身してきた娘達の姿に。


『そのどれも、お前の真実の姿ではないではないか。お前自身を求めた者は居たか?』


 フォルレインが哀れみを込めて言う。


『お前のその力は、まがいものだ。だからこそ、私の守護する王子も、その従者も、銀の魔導士もーーお前のものにはならぬ』


 フォルレインの言葉に、ロウエルミーアが目を細めた。怒りを込めて言葉を落とす。


「戯れ言を」


 その手に火球を作り出す。


「おい、何とかするどころかますます機嫌を損ねたぞ」


 シーファが杖を構え直して、防御呪文を唱えた。次々と飛んでくる火球を防ぎ、水球をぶつけて相殺する。


「ーー迷惑変態魔導士はこういうときこそ出番だろうが。サボりやがって」


 彼の言葉に律儀に返すフォルレイン。


『いやこの場合、余計事態が悪化するのではないか?せっかく引っ込んでいるのなら、それはそれで』

「まあリティアに恨みの矛先が向いても困るしな」


 チラリと弟子を見て、彼は苦笑いした。けれどその表情がどこか固い。目の前に迫った火球を、魔法が間に合わずに杖で叩き落とした。


「お師匠様……」


 リティアはその背に庇われて、彼の魔法でもロウエルミーアの術を受け続けるのはキツいのだと気づく。ふざけた目的であっても魔王は魔王なのだ。たまらずに少女は魔族へと叫ぶ。


「ロウエルミーア、やめて!」

「ならばお前の恋人をわらわに差し出すのじゃ、アルティスの愛し子よ。

そうしたらお前と王女は無傷で帰してやろう?」


 勝手な言葉に、リティアは首を横に振る。


「そんなこと出来ない。あなたはシーファを、ラセイン王子を、アランさんを大切にしてくれないもの!私はシーファの心を大事にしてくれない人に、彼を渡す気なんてない!」


 背中を向けたままだというのに、シーファが微笑んだのが分かった。



「ーー本当に、お前は……」



 彼は強い光と共に、魔法の防護壁を作り出しーー


「可愛いな、馬鹿弟子」


 振り返ってリティアに口づけた。

 彼女がその瞳の色を見る前に、彼はまた魔王へと向き直る。もう一度構えた杖の先がかすかにーーひび割れた。


「シーファ……」


「心配するな」


 リティアは彼の負担を感じて、秘石を強く握りしめた。彼の後ろを出て、その隣に立つ。


「リティア……?」


 シーファの杖に、一緒に手を添えた。


「私は、あなたに庇われるんじゃなく、隣で支えるようになりたいんです。今はーーまだ全然だけど」


 秘石がキラキラと輝き、その力が杖に流れ込む。水球が勢いを増して、氷に変わった。


 “ジュッーー”


 炎を蒸発させて魔王に迫る。それを彼女もまた魔法で防ぎ、そのために攻撃が途切れた。



「ーー馬鹿弟子」


 シーファがリティアの身体を抱え込むように、杖を持ち直した。


「はい、お師匠様」



「ーー愛してる」



 後ろから、こめかみに落とされたキスに。



「はい、私も。

ーー愛してます、お師匠様」

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