With love
窓から差し込む赤い光が消え、暗く沈んで行く空とは裏腹に。
熱くなっていく身体に、リティアは息を吐く。
彼女の服を開きながら、火をつけるようにあちこちにキスを落とすシーファの顔が見られずに、視線を逸らせば。顔の横に落としていた手にも、彼の唇が触れた。
「……っ」
至近距離でそのままちらりと流し目を向けられて、その色気に息が詰まる。
「や」
赤くなる顔を隠したくて、その手を引くけれど、シーファがやんわりと、けれどしっかり掴んでそうさせない。
「隠すな」
「意地悪しないでください……」
消え入りそうな声で伝えても、彼は愉しげに微笑んで。
「真っ赤だな」
「どうせ、ガキだって言うんでしょう……」
羞恥に潤んだ瞳でリティアが拗ねれば、なだめるようにその頬にキスが落ちてきた。
「……ガキのままだったら、こんなにお前に溺れずに済んだのにな」
熱のこもった声でそう言われて。驚いて彼を見上げれば、その唇を塞がれた。
「ん、っ……ん」
どんどんと激しくなるそれに、リティアは息継ぎもできず、思わず漏れた吐息の合間にやっと呼吸する。
「お、師匠、さま、苦し……死にますって!」
「それは困るな」
唇を離したシーファは真顔で呟いた。その隙にリティアが首を起こして逃げるように上へ頭をずらし、ふと自分の身体を見下ろして、もうほぼ何も纏っていないことに気づくと、小さく悲鳴を上げる。
お、お師匠様、早業……っ!
そういえば彼女は薄手のフレイム・フレイアの衣裳のままだったのだ。ドレスなどより余程脱がしやすかったに違いない。恥ずかしさのあまり、隠そうとすればそれもまた、彼に止められて。
「ーーレイウスには見せたくせに。私の前で隠すのか」
シーファが彼女の鎖骨にカリ、と軽く歯を立てた。リティアは卒倒寸前だ。
「テオです!ノーカウントです!」
こんな“男”の顔をしたシーファは初めてで。
こんな独占欲の塊だなんて知らなくて。
やだ、もう恥ずかしくて涙が出そう。
というか、アルティスの秘石出そう。
私ばっかり、焦って、余裕なくて。
リティアの気持ちに気づいたのか、彼は自らの服も脱ぎ捨てた。
「っ……」
細身でもしっかりと鍛え上げられたその体躯は美しくて。羞恥も忘れて見とれてしまう。作り物のように綺麗な銀の魔導士ーーその心臓が、本当に動いているのか確かめたくて。
思わず手を伸ばしてシーファの胸に触れーー
ああ、本当に、生きてる。
身を起こしてそこにキスをすれば。初めて彼が動揺した顔をした。
「……お前は本当に、たまに凄いことをするな」
「ーーえ!?あ、あの」
は、と我に返って、リティアが慌てて離れようとするが、シーファはその身体を抱き締めた。素肌の触れる感触に、恥ずかしくて、でも安心して。
もっと、近づきたい。
もっと、知りたい。
リティアもしっかりと、抱き締め返す。
「シーファ、何か私に魔法をかけた?」
「また惚れ直したか?」
リティアの無言の肯定に、彼は口元だけで笑って。
「ーー悪いが。そんな余裕、無い」
熱を込めたキスが落ちて来た。
*
それからはもう、どれほどの時間が経ったのかも思い出せないほど。
激情に任せてリティアを求めるシーファに応えて。リティアもまた、夢中で彼を求めた。
身体を辿って痕を残す唇も、少し強く肌に食い込む指先も、強い光で見つめる瞳も、すべてが言葉と同じくらいに想いが込もっていて。
「お、師匠、さま」
どうしようもない快楽に、荒い息をつきながら彼女が呼べば。
「……んな時に、そんな色気のない呼び方するな、馬鹿弟子……」
「あ、シーファだって、馬鹿弟子って、きゃあ!」
反論しかけたリティアにお仕置きをするように、シーファが彼女の太腿に噛み付く。しかしそのまま赤く残った歯形をペロリと舐められて、別の悲鳴が上がりそうになった。
「シ、シーファの馬鹿、エロ魔導士!」
真っ赤に染まったリティアの泣き顔に、彼は眉を上げた。
「心外だ。男は皆エロいものだ。お前が今まで免疫が無さ過ぎたんだろうが。……まあ、半分は私のせいでもあるが」
「は?」
視線を逸らされて呟かれた言葉に、引っかかりを覚え、リティアが聞き返す。師は気まずそうに答えた。
「お前にちょっかいを掛けようとした阿呆共を、ちょっくらカエルに……」
「カエル大量発生事件はあなたの仕業ですか!!」
数ヶ月ほど前から、町でちょくちょく発生していた珍事件を思い出して、リティアは叫んだ。そう言えばリティアが買い出しに行く度に、タイミングよく発生していたような気がする。というか、セインティア城に来てからも、ちょくちょく見かけた気がする。
「いやつい。なんとなく。私が我慢しているというのに、他の男がほいほい近づくのが面白くなくて」
「……あなたって人は」
冷静そうに見えて、激情家で。興味がなさそうに見えて、独占欲が強くて。冷酷そうに見えて、誰よりも大切にしてくれて。
「もう……大好きです」
リティアが零してしまった言葉に。シーファは深く微笑んだ。彼女の脚を掴む手を滑らせ、熱の中に埋めてゆく。その指先にまた翻弄されて、リティアは仰け反った。
「……あ、やぁっ……!」
けれど今度はそれだけで終わらず、彼の身体が更に彼女に近づきーー
「ああ、私もだ。
ーー俺も、お前を愛してる」
その微笑みと共に与えられた痛みは。
ただただ、幸せなものだった。