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Monster in the forest_2

「リティア?聞いてる?こっちでいいの?」


 レイウスの声にハッと我に返る。いつの間にか二人は街道を外れた森の中に入っていた。木々に遮られたそこは心無しか暗く、ひっそりとしている。リティアは周りを見回した。


「え、と……どうかな。この先は湖なんだけど」

「魔法で魔物の気配を探索できない?君はシーファさんの弟子だよね」


 レイウスの疑問に、彼女は引きつった笑いを浮かべる。


「うん……でも私、魔法は使えないの」

「え!?あの大魔導士の弟子なのに?」


 驚く彼に、リティアは居心地が悪そうに再度頷く。これを言うときが一番嫌なのだが、事実だから仕方ない。


「多分……才能無くて。シーファには、まだ上手く感情をコントロール出来てないからだって言われたけど」


 幼さゆえの未熟さと言われて。けれど、そうなのだろうか。

 リティアよりも小さな魔導士見習いは何百人といる。たまにシーファに届けられる『月刊魔導士』(専門雑誌だ)を読めば、“今月の魔女っ子”の欄には10歳にも満たないような子供まで、小さな手に炎を生み出していた。


「先月の魔女っ子なんてね?生まれて三日目にはドラゴンみたいに火を吹いたっていうのよ?でも私は魔法なんて全然」


 けれどレイウスは、リティアが予想もしない台詞を述べた。


「ああ、じゃあ薬草や鉱物の知識があるとか?魔導士には必要だもんね」

「え?」


 きょとんとしたリティアに、レイウスは首を傾げる。


「……あれ、違うの?じゃあ君は、何の為に魔導士の弟子になったの?」

「……っ!」

「君は、魔法使いになりたいの?なるために何をしたの?君のお師匠様は、君を必要としているの?何も出来ないと止まったままの君で、彼は満足している?」



 ーーガン、と頭を殴られたような衝撃があった。



 レイウスの瞳が不思議な色に煌めく。それに引きずられるように、リティアは彼の言葉に囚われた。獲物を追い込むように、彼が距離を詰めたことにも気付かず。

 なおも彼は言葉を重ねーーリティアを逃がさない。


「君は、彼の後ろに庇われて、一体何をしてるの」

「何も……」


魔法が使えないからと、何をしても無駄なのだと、半分諦めていた。レイウスの言う通りだ。魔法は何も無いところから生み出す技ではない。時には媒体に宝石や、薬草が必要になるし、薬師としての副職を持つものも居る。呪文を唱えるには古代語を知らねばならないし、物や生物の構造を熟知してなければ対応もわからない。


「私は、何もしてこなかった……」


 ただシーファの側に居て、彼が何も言わないのを良いことに甘えていた。

 私は魔法が使えないのだから仕方ないと。彼のお荷物でいるのは、私の意思ではなく、両親が頼んだことなのだから仕方ないことなのだと。

 けれど、そうではない。知るための術も、時間も、シーファは用意していてくれたのに。リティアは見ようともしなかった。うすうす気がついていたのに、会って数時間のレイウスにまで自分の浅はかさに気づかれた。


「……恥ずかしい」


 何が弟子だ。学ぼうとしない者に、そんな資格は無いのに。シーファは気づいていただろうに、何も言わずただ傍に置いていてくれたのだ。

 両手を握りしめたリティアに、レイウスは困ったように微笑む。


「ごめん、そんなに深刻にならないで。悩ませるつもりじゃなかったんだ」


 リティアは首を横に振った。


「ううん、気づかせてくれてありがとう」


 泣き出しそうな声で視線を上げた彼女に、レイウスは口元を歪めて手を伸ばす。その手にリティアの頭がわずかに揺れて身を引いたが、彼の指はなおも近づいてゆく。


「君がもし魔法使いになるのをやめるつもりなら、僕のお嫁さんにならない?」

「え?」


 頬に触れた指先が、リティアを愛おしむように撫でた。初めてされるそんな行為に、彼女はただ茫然とされるがままになっていて。レイウスはリティアに囁いた。


「出会ったばかりだけど、君が僕の探していた人なんだと思うんだ」


 リティアは視線を逸らせずにレイウスを見つめる。周りの音が急に聞こえなくなった気がした。


「何を言ってるの、レイウス?」

「君のことが好きになった」


 恋を告げられているというのに、なぜかぞっとしてリティアは身体を引こうとする。けれど反対に強く引き寄せられて、彼の腕の中に閉じ込められた。もがいても、ビクともしない男の力に、ますます怖れが広がる。


「レイウス?離して」


 リティアの抵抗など聞こえないように、レイウスは嬉しそうに笑った。


「こんなところに居たんだね、僕の可愛いーーアルティスの秘石」


 ーーえ?


「アル……、何?」


 聞き慣れない言葉、けれどなぜかざわざわと不安の広がる心臓を押さえて、リティアはレイウスを見た。すると彼の黒い瞳が、赤く煌めく。


「……!あなた、魔物!?」



 ーー赤い瞳は魔物の証。



信じられない。


人間そのものの容姿、人間そのものの言動をするレイウスが魔物だとは気づかなかった。リティアの動揺に、彼は笑った。


「あれ、バレちゃった?ちゃんと魔法で偽装してきたのにな。君はいい目を持ってるね。……あるいは、それもアルティスの力?」


レイウスの言葉に、リティアはわずかに首を振る。


「知らない、何それ。アルティス?何を言ってるの」


 彼の言う意味がわからず、だけどあまり良い予感がしない。

 だって、彼の赤い瞳はリティアの中まで見通すように強い強い光を放っていて、感情を引きずり出されるような感覚がする。


怖い。知らない。

心を暴かないで。


「本当に、知らないの?……自白の術も効果ないみたいだし、本当なのかな」


 レイウスは諦めたように呟いた。どうやら彼に妖術を使われたらしい。けれどそのままリティアを放そうとはせずに、彼女は居心地悪く身をよじる。


「放してよ、放せ、ってば!」

「嫌だよ、せっかく見つけたお嫁さんだもん。可愛くて柔らかくて、見るのに飽きたら食べちゃっても美味しそう」


 なんだそれ!!感想が恐ろし過ぎる。


「あの大魔導士は何も話さなかったのか。じゃあ秘石の事も知らないよね。仕方ないな。リティアちゃん、特別に教えてあげる」


 彼は新しい楽しみを思いついたように、その口から語り始めた。

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