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Altis

 大きな大きな力が、身体の中からリティアを突き破って溢れ出そうとする。それは嵐の海のように、彼女を闇へ沈めようと、引きずりこもうとし、もがいても囚われて逃げ出せない。リティアはただ悲鳴を上げて、強く目を瞑った。


 ーー助けて、助けて、シーファ!


「リティア!お前の力だ、目を背けるな。制御しろ!」


 シーファの声が聴こえるけれど、目を開けても光に眩まされて、その姿がどこにも見えない。不安はますますリティアを食いつぶしていく。


 どうしたらいいか、わからないんです、お師匠様。


「リティア、俺の元に還ってこい!」


 そうだ、私は大魔導士シーファの唯一の弟子。

 だから、師と慕うのは、その力の源は、ひとりでいい。ーーって、言ってるでしょ!!


「いい加減に、大迷惑なのよ、アルティスーー!!」



 リティアは真っ白な空間にいた。

 いつの間にか目の前に、白いローブを着た魔導士が立っている。フードを目深に被っていて顔もわからないが、シーファにも近い長身と広い肩幅は、きっと男性。醸し出す雰囲気は、優美でーー優しい。


 知り合いではない。けれど、凄く懐かしくてーー親しい気配がする。その魔導士の、フードに隠された顔半分がクスリと笑った。


『皆が欲しがる私のチカラは、キミにはとんだ厄介者だったみたいだね』


 艶やかな低い声がリティアに届く。


「アルティス?」


 リティアの問いかけに、ローブの人物は頷いた。


「本当に?あの記念ライブツアーとかやった、変な魔導士?」

『あ、記録映像見る?凄かったんだよー、観客動員数が王立武道館で史上最高……』

「それ、今どうでもいい」

『えええ』


 リティアはずかずかと彼に近寄って行き、そのローブを掴んでーー左右にブンブン振った。


『うわ、ちょっと、やめてやめて』

「あなたのせいで、私一回振られたんだから!魔族にやられて死ぬかと思ったんだから!」


 偉大なる魔導士だかレジェンドだか知らないが、迷惑千万だ。しかしアルティスはあっけらかんと笑って、言う。


『おや、若いんだから失恋の一つや二つ……あ、睨まないで。ごめんて』


 彼の朗らかさに、リティアは気が緩んだ。潤む瞳でアルティスを睨む。


「だって!こんなチカラ、私には手に余るよ!くれるならくれるで、もっと安心安全に、アフターケアまで万全にしといてくれなきゃ!」


 八つ当たりだ。けど、正当な怒りだ。


「私みたいな未熟者が器なせいで、シーファが辛い思いをしたの!これからだって、きっとするのよ!どうしてなの、アルティス。あなたの力は人々に幸せをもたらすものでしょう?そうして欲しかったから、与えたのよね?」


 こんな、奪い合って争いの種になるような、そんなことのためのチカラの筈がない。


「私は、両親に幸せでいて欲しかった!シーファにも幸せでいて欲しいの!こんなチカラが無ければ、私がちゃんと制御できてれば!」


 リティアの言葉をただ静かに聞いていたアルティスは、やがて口元に柔らかな笑みを浮かべた。


『ああ、キミはご両親のことを知ってるんだ。キミを守るためにーーどんなことをしたか』


 ごめんね、と彼は呟いた。


『キミがそういう子だとわかっていたから、キミを選んだんだよ』


 今にも涙が零れ落ちそうな少女の頬を、両手で包み込んで。アルティスは父のように、兄のようにリティアを見つめる。


『そうだね、お詫びにキミが魔力の制御をする手助けをしてあげる。私の力がキミを壊さないように』


 アルティスの言葉に、ハッとリティアが顔を上げた。


『キミも魔力の在り方を掴めてきたようだしーー“真実の愛”の魔法を解けるまでに成長した。そろそろ頃合いだ。魔法の鍛錬は必要だけどーーお師匠様に教えを乞うといい』


 そう言ってから、彼は悪戯っぽく笑って。


『それにさ、シーファ君だって色々致したいお年頃だろう?いつまでもキミにキスも出来ない禁欲生活じゃあねぇ、哀れだし』

「な、な、なに言ってるの、セクハラオヤジ!!余計なお世話よー!!」


 伝説の魔導士のくせに、言う事が俗っぽい。リティアは真っ赤になって、彼のローブをガシガシ引っ張った。伸びるから止めて、とアルティスはリティアから服を取り戻して。

 その手が優しくリティアの頭を撫でた。


『これからもその力を狙われるのは変わらないけれど、キミとあのお師匠様なら……きっと大丈夫だ』


 優しい声で言われて。


「アルティスって……格好良いね」


 思わず呟いたリティアは、


『おや、知らなかった?私は史上最高の、大人気魔導士だよ?ああ、今のはシーファには秘密にしておいてあげる』


 彼のウインクの気配に、笑って頷いた。


 ーー還りなさい、彼の元へ。



 一瞬だけ見えたアルティスの顔は、曇りない笑顔だった。

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