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Never my Love

**

 ーー光の渦に目を奪われて。


 リティアは闇からゆるゆると目を覚ます。



 ずっと、気づかなかった。

 気づかないフリをしていた。


 子供扱いされて、苛つくのも。

 他の女に嫉妬するのも。


 護られて、苦しくて、

 だけど嬉しいのも。


 たった一人への、想いがそうさせた。


 もう、恋を知らないなんて、言えない。

 レイウスなんかじゃない。

 私が、好きなのは。


 愛を伝えたいのは。

 必要としているのは。

 必要とされたいのは。



『リティア』



 泣きたくなるほどその声が、腕が欲しいのは、


 強くて、厳しくて、優しい、


 ーー銀色の髪と青い瞳の魔法使い。





 ーーバシュッ!!!


 シーファの怒鳴り声と共に、光の渦がリティアを直撃した。


「……っ、いっ痛い!!お師匠様っ何するんですかーっ!」


 叫んだことで、彼女は呪縛が解けたと気づいた。慌ててレイウスの手を振りほどき、驚く彼の足を思い切りーー踏む!


“ダンッ!”


「痛ったあ!!」

「この、セクハラ魔族っ!」


 ついでにお師匠様直伝の、急所蹴りも追加しておく。


“ドゴッ!”


「ーーーっ!!」


 あ、魔物にも効くんだ。

 悶絶したレイウスを見て、ようやく気が済んだリティアは、シーファの元に駆け寄る。涙目のレイウスが、恨めしそうに見た。


「それ酷くない?ていうか大魔導士、いたいけな少女になんちゅう技を教えてんの?僕、人間に化けてこんな辛い思いしたの始めて」

「そりゃ、勉強になったな。生きてる実感が湧くだろう。魔法の使えない弟子だからって、舐めてると痛い目を見るってことだ」


 フン、とシーファは鼻を鳴らして、自分の弟子に視線を向ける。口元に笑みを浮かべた。


「無事で良かった」

「お、お師匠様~!」


 飛びつこうとしたリティアだがーー当の師匠に額をガシッと掴まれて阻まれた。


「痛い!」

「この馬鹿!今さら何を遠慮してるんだ!私が魔導士になったのは、お前ごときのせいではない!」

「でも」


 耐えられずに反論しようとしたリティアは、今度はシーファの腕に引き寄せられた。


ーー抱きしめられて、息が止まる。


「あんなセクハラ三昧のチャラい魔族に簡単に心を奪われやがって!人の気も知らずにーー」


 え?


 ふと大事なことを言われている気がしたのだけど。リティアは師に触れられるのが嬉しくて、それどころではなくなった。

 頬が熱い。きっと赤く染まっているに違いない。


「シーファ」


 リティアは彼を抱きしめ返そうとし、けれどシーファはハッと我に返ったように、彼女の身体を引き剥がしてしまう。リティアの顔から目を逸らして、唇を噛んだ。まるで、抱きしめた事を悔やむように。



「ーーシーファ……?」


 微かに浮かんだ動揺など、振り払うように、師は口を開く。


「とにかくあの馬鹿を退治するぞ」

「待って」


 心細げに呟くリティアからますます目を逸らすシーファの腕を、思わず掴んで引き止めた。


 お願いだから、聞いて。



「私、あなたが好きです」



シーファの目が見開かれる。



「だから、レイウスが私に何をしても、アルティスの秘石は現れない。

ーー私が心から愛しているのは、あなただけなんです、お師匠様」



 知って欲しい。叶うなら、受け入れて欲しい。

 ただ、その想いだけで。震える声で、しっかりと彼を見つめて告げた。


 シーファはただ茫然とリティアを見つめていて、だんだんとその言葉の意味を掴んで、口元を押さえた。


「……っ」


 わずかに赤く染まる、目元。


 やがてその腕が彼女を抱き締めようとしてーー拳を握りしめて止まる。



「駄目だ」



 呻くように呟かれた、答え。



「私は、お前を、愛さない」


 伏せた目はリティアを見ることはなく、シーファの身体が、彼女から離れた。


 ーー愛さない。


 今度はリティアが茫然と立ち尽くす。彼の背中に、今言われた言葉の意味を、問う間も無く。身動きも出来ない。


 ーー拒まれた。その事実だけが、リティアを打ちのめした。

 復活したらしいレイウスがあははは、と高笑いをする。


「は、大層な理性だね、大魔導士!損な性分だ!」


 その手に火球が現れ、シーファへと次々に放たれた。それを除けながら、杖を振りかざし、彼は呪文を紡ぐ。


「我は溢れし力を受ける器。月の女神の騎士、魔法の光満つる地に在りし魔導の徒。ーー目の前の敵を排する為に大いなる力を示せ、我が身に溶ける秘石。

欲するのは焼き尽くす炎、焦がす雷、切り裂く風、凍てつく氷ーー」


 略式ではない、長い詠唱をしているのは、本気でレイウスを倒すつもりらしいが、息が乱れては呪文が途切れてしまうから、そのせいで自由に動けない。もちろん、余計な言葉など挟めない。けれどリティアには、それすら自分を拒んでいるように見えて。

 レイウスは手のひらに生まれさせた炎球をシーファへ放ち、それが魔力の壁に掻き消されたのを見て、不満気に鼻を鳴らした。しかし立ち尽くすリティアを見て、口元に笑みを浮かべると、彼女へと問いかける。


「どうする?お師匠様には振られちゃったから、改めて僕のお嫁さんになる?」


 言われたリティアは衝撃に潤んだ瞳で、けれど魔物を睨みつける。


 私が悪いんだ。シーファに沢山迷惑をかけておきながら。ーー好きになって貰えるように、努力したことなんかない。だから、愛されなくても仕方ない。

 けれど、これからだ。今はただの弟子でも、お荷物でも。私はシーファの傍に居たい。彼を支えたいんだ、いつかは。


「私の心は変わらない。たとえ、シーファが私を愛さなくても」


 涙を堪えて絞り出されたリティアの言葉に、シーファが一瞬、苦しげに瞳を閉じた。



 ーーそれが、隙を生んだ。



「なら、もう要らないよ」



“ヒュンッーー”



 風を切り裂く音と共に、レイウスの手から放たれた鈍い光ーー。



“トスッ”



 ひどくアッサリと。


 魔法の矢が、リティアの胸を貫いた。


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