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クソチートの脱ボッチ計画  作者: 鹿田はもの
第一章、色々な出会い
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そのゴ、出会い!

お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん、今までありがとう。空凪紗枝、ただ今を持ってあなた方より一足先へ天国へ行きます。


目の前のオオカミの動きが完全にスローモーションに見えた。私へ向かってくる鋭利すぎる牙は、重機で動いてるかのようにノロい。しかしそれに比例するかのように、私の体もえらく重かった。これでは魔法も使えない。


頭の中に走馬灯が駆け巡る。転んだ幼い私を拙い動きで必死に立たせようとする兄。それを見守る両親。


それを始めとして他の記憶も一気に駆け巡った。


そして記憶は現在へと追いつく。


オオカミの牙は私の肉を今に食いちぎらんとするところだった。


不思議と恐怖は感じなかった。


あとは痛みに耐えて死ぬだけか。


全て諦め、目を閉じようとした時。


「諦めるな!」


その声とともに一筋の矢が飛んできた。


それは私に噛み付くオオカミの文字通り目の前を通り過ぎる。


急なことに驚いたオオカミは、勢いで私を食いちぎりはせずにキャンと泣いて後ずさった。


そのおかげで一瞬の逃げ場ができる。


今だ。今しかない。


生存本能だけで私は魔法を発動させる。


一蹴りで遠くに跳躍できる魔法。


オオカミを倒す魔法を使う手もあったかもしれないが、今の私には"逃げる"という三文字しか頭になかった。


魔法で、地面がめり込むほどの強さで跳躍すると、私を助けてくれたであろう人たちがオオカミに向かって行った。一人ではなかったようだ。軽く二十人ほどいる。


戦闘慣れしているのか、その人たちはオオカミに屈することなく、適切な対処をしていく。速い。強い。すげえ。


数十メートル離れた場所で一人突っ立って感心していると、後頭部におなじみの衝撃がはしった。


「……メラン」


私の頭に直撃したその体を鷲掴みにしてやると、メランは手中で暴れた。


「これぐらいで許してやるよ」


一人逃げたことをいつまでも引きずる私はねちっこい女でしょうか。


まあいいや、と再びオオカミの群れのほうに視線をやると……。


全滅してました。オオカミ。


私を助けてくれた人たちがこちらへ向かってくる。あ、あ、どうしようめっちゃ緊張する。


あの人たちは誰なんだろう。もしや勇者御一行? にしては人が多すぎるか。


じゃあ騎士団……にしては服装がバラバラだし緩い感じ。


おそらく革命軍か義勇軍ってところだろう。


とりあえず正体不明の未確認生命体なメランは拳の中に隠しておいた。


魔法で視力をあげて彼らを観察する。


先頭を歩く男性はまだ若く、私と同じくらいかちょっと年上程度。リーダー格っぽい。リーダーにしては若すぎるけど。さっきの声の主だろうか。


瞳は澄んだ緑色で、髪の毛は濃いめの赤っぽい茶色、そして長めの短髪。ちょっと怖いけどめっちゃ整った顔立ち。背も高めだしイケメン確定。


あまりにもイケメンだったもので緊張はさらに高まった。魔法を解除して視力を元に戻す。小数点以下の視力だから顔見て混乱することはないでしょう。ボヤけありがとう。


イケメンは私との距離が縮まると話しかけて来た。


「おい、大丈夫か?」


やや高めの青少年らしい声。


私は自然に姿勢をよくして対応した。


「あ、あの、助けてくださり、ありがとうございました」


頭を下げるとイケメンは「当然のことをしたまでだ。頭をあげてくれ」と笑ってくれた。


「そうだよ! 困ってる人、ましてや女の子を助けるためにボクらはいるんだから」


イケメンの後ろから、十歳くらいのボクっ子茶髪ロリ……少女が顔を出す。


「本当にありがとう。死ぬところだった。……ああ、私は……空凪紗枝です。ファーストネームが紗枝で、ファミリーネームが空凪」


「へえ、変わった名前なんだね。着てる服も変わってるし。髪の毛も目も黒いし、なんだか……不思議な人」


あ、と言って私は今の私を客観的に見てみる。


制服に日本人の名前、そして黒髪黒目。ここの世界の人からしたら全部ほぼ見たことも聞いたこともない風体だろう。


かなり恥ずかしくなる。あとで服着替えよう……。


「そうそう、ボクはモーレ! あとこっちのちょっと怖そうなのがレシュだよ」


「モーレ」


「ごめんって」


モーレがレシュさんを指差し『ちょっと怖そうな』と紹介するとレシュさんは顔を引きつらせて謝らせた。気にしているらしい。


「モーレに、レシュさん。よし覚えました。それと、レシュさん、……あの、あまり気にしないほうがいいんじゃないですかね。私、レシュさんの顔すごくカッコいいと思いますよ」


ここ数年で磨き上げた人付き合いスキルを最大限に活用する。こんな時のためにと磨き上げててよかった……。数年前の私だったらどうなっていたことか。よし、このまま最高で仲間入り、最低でも勇者様の情報を聞き出してやる。


レシュさんは嬉しそうに微笑んだ。


「そうか。さんきゅ」


ああああなんだこのちょっぴり無口系イケメン! 私を萌え死にさせるつもりか!


「ところでレシュさんとモーレの……だけでなくみなさんとのご関係は」


私は周囲を見渡した。私たちを中心に集まる全員で二十人くらいの人たちは、子どもから大人まで老若男女問わずおり、そのほぼ全員から戦闘能力を伺えた。


「ボクとレシュはなんだろね。血の繋がってない兄妹みたいなもんだよ。そしてボクらは……なんて言ったらいいの、レシュ」


ほう。血の繋がってない兄妹。可愛いな、おい。


にしてもなぜ自分らの身分で悩むんだろう。


話をふられたレシュさんは少し考えてから口を開く。


「革命軍、と言ってもアレだし義勇軍、って言ってもなんか違うし……」


ようは軍なんですね。


「とりあえず、"魔物から市民を護ってその上敵国の腐った政治を殴り倒そうとしてる軍"って名乗っておこうかな」


「なげえよ」


レシュさんと二人でそうツッコミ入れると、モーレは愛らしくてへぺろした。


えっ……なんだこの犯罪級に可愛いてへぺろは……。

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