そのヨン、悲劇
みなさんこんにちは。私は今全力で走っています。え、何故かって?
いやあね、ちょっと一話前を思い返して見てください。
私、青リンゴの芯、投げましたよね?
それがどうやら茂みの影にいたオオカミ型の魔物に当たってしまったようで。クリティカルヒット。
で、その後気づかぬまま街を見つけはしゃいで駆け出すと後ろから殺気感じたんですよね。
恐る恐る振り向いたら案の定。
で、現在、草原のど真ん中でそのオオカミ型の魔物に追いかけられております。
「うわあああなんでこんな時に限って街の門閉まってんだちくしょおおお」
街の近くに来てみれば、街の門は硬く閉ざされていた。どんなに強く叩いても、鉄でできた門は振動を向こう側に届けてくれない。
ってことで街迂回ルート決定。メランは疲れた様子もなく恐るべきスピードでぴょこぴょこついてくる。
えー、せっかくのクソチートなのになんで魔物を倒さないかと言うと。
倒せないんだよ。
いや、魔力量的には蚊を潰す程度の敵なんだけどさ。
立ち止まって魔法使ってる間に美味しく頂かれちゃう。それぐらいの速さなんです。
そのため今は、魔法で足の速さとか持久力をあげてなんとか逃げていると言うワケ。
ああああ助けて助けてこれじゃあいつか魔力切れて勇者様に出会うことなく死んじゃうやばいまずい。
この状況の打開策を頭の中で必死に模索していると一つの妙案が浮かんだ。
思いついたら即実行。
私はそばを超高速で飛び跳ねていたメランを鷲掴みにすると、後方に向かって投げた。
声にならない叫びをあげてメランはオオカミに突っ込む。眉間をやられたオオカミは一瞬怯んだ。すると何故かメランは今までにないくらい急いでその場から退散。私に襲われた時はあんな余裕ぶってたのに、何故?
だけどそんな疑問は今は必要ない。メランが作ってくれたーー正しくは作らせたーー隙を狙って火炎系の魔法を繰り出す。
「ぎゃああああお!」
断末魔の叫びをあげながら、オオカミは黒い瘴気となった。
ああ、助かった……。
未だ高鳴る胸を落ち着かせようと顔をあげると。
……全然助かってないじゃん。
森の出口あたりで、7匹くらいのオオカミの群れが私を睨んでおりました。
待て待て待ておいこれふざけてんだろ!
なんだ、今までの厚遇はこれの慰めみたいなもんですか神様。
顔を引きつらせて逃げの姿勢をとる。うわあ、あの群れよく見たらさっきのオオカミより体格でかいのいっぱいいるじゃん……。
一か八か、逃げるしかない。決して後ろを振り向かないと深く心に決め、逃げるため全力で走り出した。
数分後。
「なんで追いついてるんですかぁ?!」
軽くブチギレながらそう叫んだ。あの誓い通り一回も後ろは向いてないが、真後ろにある息遣いで距離がわかる。そして絶体絶命なのも。
「メランンンン!そんなとこでぴょこぴょこしてないでこっちきて助けろお前マジで!」
五十メートルほど離れたところに黒い粒がぴょこぴょこ飛び跳ねているのがわかる。あいつ魔物の怖さのあまり私を見捨てる気だ!
「てっめーぜってー許さねーからなトリモチめがああああああ」
女子らしからぬ言葉を草原中に響くかのような声でシャウトする。メランは未だ気まずそうにぴょこぴょこしてるだけだった。
「うわあああああ誰か助けて死ぬ死ぬ」
そう叫びながら走る。しかしいくら待っても助けは来ない。
もう涙目になって、私はある決心をした。
「この際どうにでもなれ、でも死ぬなら無抵抗で死ぬより少しでも抗って死にたい!」
足を強く踏み込んで後ろを向く。突然の停止にオオカミたちはすぐに対応できなかったようだ。
急いで右手を一番近くにいた真後ろのオオカミに向ける。
なるべく動きを少なくするためその場でくるっとターンをした。
それが仇となったのかもしれない。
……私はさっきまで豪雨だったという重大なことを忘れていた。
それすなわち、地面がぬかるんでいることを忘れていたということ。
なので。
ズルッ
「あ」
本日二度目の転倒、頂きました。