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クソチートの脱ボッチ計画  作者: 鹿田はもの
第一章、色々な出会い
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そのサン、出会い?

始めての戦闘から自由気ままに森を練り歩くこと一時間くらい。あれから何度かあった戦闘や慣れない環境のせいかヒキニート予備軍の私の体が弱音をあげ始めた。


疲れたならすぐ休憩にはいる。それ大事。自分に甘いのはわかってるけどこうやって生きてきたんですよ。


身近にあった大岩によじ登って腰をついた。ああ、体が生き返る。


魔法で体力回復を企て、今までそれで歩いてきたものの、体力回復は思った以上に魔力を消費するらしく、魔力ぎれを合図するのか疲労感とは別途の倦怠感が体を支配していた。


こうして休んでいるうちに、先ほどまで登っていた太陽は真上にきており、むしろ徐々に下り始めていた。


うーん、このまま行けば村とかにたどり着く前に夜になりそうだな。


しかし先ほど、立派な家とまではいかないが、細い幹を束ねて作った竪穴式住居モドキを面白半分で作り出してしまった私に問題はない。魔法で透明な防護壁も作り出せるし、虫いないし、最悪野宿となっても大丈夫だろう。


大岩の上でぼんやりと周囲を見渡す。


背の高い木々のせいで遠くまでは見渡せなかった。この道どこまで続くんだろ。


「ああ……お腹空いたなあ」


もうちょっと休憩したらそこらの木の実拾って食べよ。うん。現実世界のスーパーで売ってそうなやついっぱい落ちてるしね。


肘をついて木の実の味を想像していると、視界の端に黒いものがいるのに気づいた。敵だろうか、それとも普通の野生動物か。


首を回してそこを見やる。


「……ん? なんか今までとは違った魔物だな……」


私の一メートルほど先、大岩の上にベタッとくっついている、真っ黒でまん丸な……モチ? のようなものと目があった。


いや、目どころか口とかもないんだけど、目があった雰囲気だったんですよ。


私は大岩から飛び降りると、黒モチと対峙する。


威勢がいいらしい黒モチは、その場で数回バウンドしてから私のほうへ飛び降りてきた。


何度かの戦闘で経験値を稼いだ私は、ここの世界に来たばかりの時より動体視力や反射神経諸々が格段に進化していた。


なのでさして驚きもせず、右手をかざすと火の玉のイメージを浮かべる。


手のひらで作り出された火の玉は、ゴム鉄砲のようなスピードで飛んでいった。


黒モチにあたる。火ぐるまになった黒モチは未だ飛び跳ねている。


よし、いずれあいつも燃え尽きるだろう……また休憩するために大岩に戻るか……と考えたその時。


額に軽い衝撃が走った。めっちゃ柔らかいゴムボールが直撃したみたいな感じの。


思わず額に手を当てると、私の目の前に、倒したはずの黒モチが着地した。そして煽るようにその場で飛びはねる。こいつが私の額にぶつかって来たらしい。


えっなんで倒せてないの。なんで燃えるどころか焼けてすらいないの。


驚きつつも何とか落ち着いて次の攻撃を仕掛ける。


右手をかざし、水圧で黒モチを真っ二つにするイメージをする。


手のひらの中心の空間から噴出された水は、見事飛び跳ねる黒モチに命中した。


今度は黒モチが真っ二つになるのを見届ける。しかしまだ油断ならない。


真っ二つになった黒モチは、地面にべちょっと音をたてて落ちると、一秒後何故かむくむく動き始め、同じ空間に向かって飛んだ。ぶつかり合ったかと思えばくっつく。そして何事もなかったかのようにまた飛び跳ね始めた。


……え?なんなのこの黒モチ。どうなってんのこの黒モチ。


内心少し焦って連続攻撃を仕掛ける。


さっきより強い火力の火炎放射。黒モチは無機物なのか魔法の効力なのか火がつかず無傷。


枝で串刺し。穴だらけになりつつも最後は全てくっついて無傷。


爆発で破裂。破片が集まって来て復活。無傷。


岩で潰す。液体っぽくなって岩の下から出てきた。無傷。


破片がなくなるまで爆発。原子レベルでの再生が可能なのか復活。無傷。


「なんなんだこいつはあああ……」


軽くノイローゼになりつつ膝から崩れ落ちる。倒せない、なんでだ。私チートじゃなかったのか。


いや、うん。チートのはずなんだよ……。天気変えられるほどの魔力なんて……。


「確かにお前は桁外れ以上の魔力持ってるぞ。ただ俺がちょっと特殊なだけだって。気落ちすんなよ」


声が目の前で頭上から地面へと揺れながら聞こえた。びっくりして顔をあげるも、誰もいない。いるのは黒モチ。上下に飛び跳ねている。……上下に?


確か声も上下に……。


「……まさか、あんた……」


黒モチをガン見するも、喋り出す気配はない。そもそも口がないこいつが喋るのか……?


「きしゃしゃ」


「あっ笑った!」


突然いたずらに成功した時のように笑った黒モチ。黒い曲面がぱっくりと半月状に開いて、刺さったら痛いどころじゃすまなさそうな牙が見えた。あったのか、口……。


「ってとこは、やっぱりさっきのあんたか。ほらどうなんだよ、喋ってみろよ」


案外優しいことを言ってくれた黒モチをつまんで引っ張る。牙は怖いが今までの戦闘で出す様子はなかった。多分こいつには戦意はないんだろう。


軽く私の腕いっぱい、つまり百六十センチちょっと引っ張っても黒モチはだんまりだった。喋るつもりはないらしい。


下に思いっきり叩きつけても空気の抜けたゴムボールのように少しバウンドしただけで変化は起きない。


「あっそ。あくまでもお前とは喋んねーぞと」


少し頭に来たので黒モチを来た道の遠くに投げ、とりあえず放置する。


手をはらっていると、自分の腹から栄養を求める音が鳴ってきた。


そういえばさっきより腹減ったし、そろそろ木の実食うか。黒モチは危害なさそうだしほっといても大丈夫でしょう。


そこらの木の実を物色していると、足元に青い木の実が置かれたのに気づいた。


「ん? 何、これくれるの」


置かれた木の実のちょっと奥に黒モチが飛び跳ねていた。特に目立ったアクションを起こさないってことは食えってことか。私のために持って来てくれたのかな。


なんだこの小動物。不覚にも可愛いと思った。


しかし一応警戒して、毒が入ってないか確かめる魔法をかける。


……ほう、毒は入ってないし、むしろ超美味しい個体だと。


黒モチに滾りつつ、拾った青い木の実に噛り付く。青い木の実はリンゴを真っ青にしたような感じで、緑ではなく本当に青色。見た目はちょっと食欲がわかないが、味は高級なシャリシャリのリンゴそのものだった。うめえ。


青リンゴと命名したそれを咀嚼していると、黒モチが急に飛んで来て肩に乗っかった。水風船みたいな重さの黒モチは、私に『早く行け』とばかりに肩で強く飛び跳ねる。


……これは仲間になるパターンなんだろうか。


「あんた仲間になりたいの?」


「きしゃしゃ!」


あ、また笑った。多分これは肯定の意だろう。


ばりばり怪しくて不死っぽいやつが仲間になるのか。うん、まあいいんじゃない? 敵より味方にしておいたほうが良さそうだし。何より可愛いし。


「んじゃよろしくね黒モチ」


急かされたので青リンゴを食べ歩きながらそんなことを言うと、黒モチは私の頬に体当たりしてきた。


「いった! 何、黒モチってのが気に入らないの」


無言で見つめてくる黒モチ。見つめてるのかどうかわかんないけど見つめられてる気がする。そしてこれはおそらく肯定の意。


「えー、じゃあ……メランは?ギリシャ語……私の世界にある国の言葉で黒って意味」


すると黒モチ……改めメランは嬉しそうに跳ねた。気に入ったらしい。


「じゃああんたは今日からメランね」


丁度食べ終わった青リンゴの芯を森の中へ投げる。自然に還るはずだから下手に持ち帰るより環境にいいんだよね。持論だけど。


ふと道の奥のほうに開けた空間が見えた。


お、あれは……。


期待に胸を躍らせ、走ってそこに向かうと強い風が身を包む。


腕で風を遮りつつ、思わずつぶった目を開けると。


「おお……!」


雄大な草原が広がっていた。


黄緑の草の匂いが鼻腔を撫でる。


深く深呼吸すれば、肺に優しい香りが広がるのを感じる。


そして。


さほど遠くない場所に、夢見ていた人里、いや、街が草原のど真ん中に展開していた。


「よっしゃあああああ! あと少しで勇者様と合流できるかもしれないぞおおお」


メランが、呆れ返ったような感じで一度だけ跳ねた。


そうだね、勇者様いない可能性もあるしね。最悪あそこ言った瞬間殺されるオチもあるだろうし。


まあいいじゃないか。これは私の人生だし、あんたは死ぬことないし。


感動などの色々なプラスの感情で疲れがすっとんだので街にかけていく。


メランも、肩から降りて私の先を飛び跳ねて行く。


まさに気分は最高潮だった。

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