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クソチートの脱ボッチ計画  作者: 鹿田はもの
第二章、思い出の街セルベール
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そのジュウヨン、赤いローブの殺人鬼

あれから飛ぶように話が進んで数時間。


私は今、フクロウがどこかで鳴いてるのが聞こえるほど静かな、それでいて道の奥のほうがよく見えないほど暗い街の中一人孤独に立っています。


「きしゃしゃ、にしても災難だったな。まさかお前を巻き込んでまで退治しようとするとは」


肩に乗るメランが笑ってそう言った。彼は元々真っ黒だから闇夜に溶け込んで、この至近距離でもよく見えない。


「巻き込まれたの、魔力うんぬん言ったのがダメだったのかね……」


つい数時間前の、アーニャに首を締められていたツァックは、噂の赤いやつを倒すとその場で約束してしまったそうで。


さすがに一人は危険だということで、戦えないアーニャはさておき、魔力はあると抜かした私が目を付けられたんです。


そんで今日の夜十二時に店の前の通りに来いと言われ、今に至ると。


一人肩を落として周囲を見渡す。もう約束の時間なのにツァックが来ない。


あんな事件が多発したせいか、人の通りも全くない。こんなんじゃきっと赤いやつも残念がって帰るでしょ。私が居なければの話だけど。


ん?


……ちょっと待って、冷静に考えてみれば、今私超危険じゃね?


真夜中に一人でこんなとこ突っ立ってたら明らかに目ぇつけられるでしょ。赤いやつに。


そう自覚した途端、顔から血の気が引いた。セルベールの魔力にあてられて、今までボーッとしてたから気づかなかったんだ……どうしよう。


すぐここから逃げようかと考えたが、思いとどまった。下手に動いたほうが危険だね。ここならツァックが来る予定だし、万が一なにかあってもメラン投げときゃなんとかなるし。


「……ナアお前今変なこと考えたろ」


「さーせん」


訝しげにこちらを見るメランに適当に謝っておく。


この作戦は変更しないつもりですとは言わないでおいた。優しい私。


「お前反省してないだろ。つか真面目な話、極悪人間ならともかく、魔物の攻撃じゃいくら不死の俺でも死ぬからそれはヤメロな?」


「検討しておきます」


ばれていたか、と小さく舌打ちする。無駄に頭と勘がいいんだよなこいつ。


「マア、それはさておき……あのツァックとかいうやつ、一応警戒しとけよ?」


突然告げられた勧告。私は腑に落ちず片眉をあげた。


「なんで」


「あいつが赤いやつの可能性がないってわけじゃねえだロ。むしろ怪しいくらいだ。出会ったばっかで関係のないお前を巻き込んだんだからな。ただの馬鹿ってだけかもしれないけど」


あー、それは私も考えていた。ついさっき、ここに来る途中に。


でも帰ってもどちらにしろ殺されると察したので意を決してやって来ました。


まああのツァックのことだ。ただ単に馬鹿なだけだったんでしょう。


しかし不安は払拭されるどころか着実に肥大を続け。


メランに泣きつこうかと思ったその時、何かに気づいたメランは私の腰袋に飛び込んで行った。


メランが隠れたと言うことは……。


「おーい、遅れて悪いな!」


後方から聞きなれた声が聞こえた。振り返るとシンプルな剣を携えたツァックらしき人影がが走ってきているのが見える。やはりツァックだったか。


「今まで何してたのさ」


私はツァックと合流すると、こんな夜道に放置した彼に、苛立ち半分にそう聞いた。


「悪いな、剣が見当たらなかったんだよ」


そう言って持っていた剣を振るうツァック。戦線に身を置くレシュさんほどではないが、確かな安心感を憶えた。


こいつならなんかやってくれそう。そう思うよ。これがフラグじゃなけりゃいいんだけど。


「よし、じゃあそろそろ行くか!」


「アーニャは?」


「家で寝てるよ。あいつ弱いし、危ないことさせたくないから」


そうさらりと言って歩き出したツァックに、私はあることを確信した。歩み寄って肩に手を置く。


「うわっ、なんだよびびったな」


ビクついたツァックに構わず、私は口を開いた。


「あんた、アーニャにホの字だろ」


私のにやけながらのその質問に、ツァックは一瞬の間を要した。そしてやっとその質問を理解したかと思えば、顔を茹でダコのように真っ赤に染める。


夜なのにはっきりとわかるくらいの顔色に、思わず笑った。


「俺はっ、俺はっ」


目を回しながら必死に弁明しようとするツァックが大変可愛らしい。私はハハハと笑いながらツァックの背中を叩いた。


「まあ精々頑張りたまえ。世の中恋愛したくても出来ない人たちがいるんだから」


例をあげるとすれば私です。


「だからぁっ、って危ねえ!」


言い返そうとしたツァックが顔を赤くしたまま、突然私の後ろを見て叫んだ。そのまま私の後ろに一瞬で来たかと思えば、いつの間にか抜いていた剣を掲げる。


カキィン


その場に響いた金属音。リアルなその音に思わず鳥肌になりつつ、私もツァックのほうへ振り向いた。


「お前だな、最近人を殺してる赤いやつってのは!」


叫ぶツァックは、淡く光る赤いローブに身を包んだ大柄の誰かと、剣バーサス短剣でつばぜり合いをしていた。


うわっ出た、赤いやつ!


やつは想像していたのより、立ち振る舞いや仕草から人間らしさが伺えなかった。人間じゃないのかもしれない。


さて、早くツァックをお助けしないと……。……。


こういう時ってどうしたらいいんだ。


偉く冷静にそう思った自分の頭が逆に怖かった。


とりあえず、と私は後ろに下がる。


今冷静なのかテンパってるのかわかんないから、下手に魔法を使ったらツァックも巻き込んでしまいそうだったから。邪魔になったらアレだし。


すぐ先で響く大量の金属音。視力的な問題と光量のなさ的な問題からよく見えない。私は魔法で視力をよくし暗闇にも対応させた。


見えた。激しく打ち合うツァックと赤いやつ。体格からすりゃ明らかにツァックが不利だが、頼もしいことに見事やりあっている。互角の戦いだ。コレ多分私のさじ加減で勝敗が別れるな。


しかしまだ魔法は使わない。相手のことをよく観察していなかったから。


赤いやつをまじまじと見てみる。深くかぶった赤いフードの中に、何か黒いものが……、って、んん?!


「ツァック! そいつ、中身がないよ」


やつの攻撃を流したツァックにそう叫ぶ。あいつには、ないのだ。中身が。


いつぞやのウサギの魔物を覚えているだろうか。そのウサギも中身が黒い瘴気みたいなのだったよね。それです。それみたいなのがローブの下に収まってるんです。


「はあ?! ないって、どういう意味だ!」


やつの攻撃を綺麗に交わしながら叫んだツァック。馬鹿だからか集中していないからかはたまたあまり魔物を見たことがないのか、イマイチよくわかっていないようだ。


「私もよくわからんが、多分そいつ人間じゃない」


人間じゃないとしたら、魔物……違う可能性もあり得るが。


ふと私は一番恐ろしいことが脳裏によぎる。


いや、まさか……でも、この無機物な雰囲気……。


「マジかよ、じゃあ俺はどうすればいい! こいつ倒したらいいのか」


「とりあえず倒しておいて」


「了解!」


無論、倒されたら困る。しかし今のツァックに殺すなと言えば、手加減をして下手したら殺られてしまうだろう。


とりあえず私は目を瞑る。


こいつが、赤いローブのこいつが、もしーー操られた人形だったら。


その最悪の事態に備え、索敵魔法を応用した魔法で、周囲の魔力の気配を探る。この力であれば、操り人形をこんなアクティブに動かせるほどの大きな魔法を使っている者の居場所がわかるだろう。


一秒も経たずに見つけたその存在の近さと新たな魔法反応に驚き、急いでその方向に魔法防壁を展開させた。


ドォン


「うわっ」


ビビりすぎて逆に小さな悲鳴しか出なかった。


でも魔法防壁を展開させた直後に、魔法の黒っぽい火の玉が高速で飛んできたら誰でもビビると思う。


危ねえ危ねえ……危うく赤いのを操るやつに不意打ちで殺されるところだった……。


「どうした!」


ツァックが異変に気付いてこちらを向いたような気がした。彼のほうを見る間も無く、魔法が次々と飛ばされて来る。ツァックに向かって私は叫んだ。


「ツァックはそっちの相手してて。こっちは私がやる」


立ち上る砂煙の向こうを、千里眼的な魔法で見る。そこには人の影があった。


杖を振りながら、道を少しずつこちらに向かって歩いて進んでいる。


こいつだな、赤いやつを操って一般人を三人も殺した連続殺人鬼は。


もっと千里眼的な魔法を強めて、暗くてよく見えなかったその顔を見た。


「……嘘だろ」


そう呟いて、見間違いじゃないかと思いもう一度顔を見てみる。


やつは、邪悪な信念を抱えた意志の強い瞳を向けて、こちらに向かって不気味に微笑んできた。……どうやら、操られている様子ではないらしい。


驚きからーーこの世の全ての音が消えたような気がした。

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