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クソチートの脱ボッチ計画  作者: 鹿田はもの
第二章、思い出の街セルベール
14/55

そのジュウサン、巻き込まれる

「ところでサエ」


傷口を抉られたためか復帰できずにいると、ツァックが伏せる私の顔を覗いて来た。ビビった。


ちなみにアーニャはお店の仕事に戻りました。


「こんなとこで一人、女のお前がほっつき歩いてていいのか」


顔をあげてツァックを見ると、別にからかっている様子はなく、むしろ本当に心配してくれているようだった。


「いいのかって、独り身だし……」


ほぼ白目になりながら言うと、ツァックはずいと私の顔に顔を近づける。


えっなんで急にシリアス。もしやイベント的なアレ……?


そして周りを気にしながら小声で話し始めた。


「あのな、最近な、ここらに……出るんだよ」


で、出る……?


真面目な顔になってツァックに目線で続きを促した。


「夜な夜な真っ赤な〈何か〉が街を徘徊してるって噂で酒場は持ちきり。死人も3人出た」


「しにっ……」


思わず声を上げるとツァックは慌てて私の口を抑えた。ツァックの手からお酒の匂いがする。


「しーっ! 真っ赤なやつは正体不明なんだ、もしここに居て目を付けられたらそうするんだよっ」


それもそうだ、と落ち着けば、ツァックは手を離した。


「俺も一回その死体に出くわしちゃったんだけど、それがまあ……グロくて」


思い出して顔を真っ青にするツァックの様子から、相当残酷なものだったのだと伺える。


やめてよ夜中トイレ行けなくなるじゃん……。死体に遭遇したくない……。


「で、でも昼間は大丈夫なんでしょ?」


冷や汗を浮かべる私の質問に、ツァックは顔に影を作った。


「それが、そうでもない。昨日昼の街に赤い何かが現れたって噂が立ってる。俺も怪我人がそこを何かに取り憑かれたかのように走り去って行くの見たから、事実だと思う」


「こっわ……過度なグロはご遠慮したいところだ……」


私のがドン引いていると、ツァックは呆れたような顔になる。何故呆れる。


「お前箱入り娘か何か。普通自分の命の心配するだろ」


手をひらひらさせるツァック。解せぬ。


もし私が箱入り娘だったらそのまま箱入り貫き通すね。ビバヒキニート。


「怪我とかは置いといて私死なないと思うからノープロブレム」


「そう言って余裕かましてた奴らが全員死んでるけどな」


痛いとこ突かれて黙る。


「いや、ほら、私魔力ケタ違いだし……」


震える声でそう言えば、ツァックは腕を組んでため息をついた。


呆れてらっしゃいますね、はい……。


「いいか、お前の魔力の大きさはわからんが、いくら凄い魔法と魔力があっても、それを使う奴が現場慣れしてないと意味ないんだぞ」


ごもっともです、としか言えず、額に手を当てる。森でちょっと経験値稼いだからって完全に舐めてました。はい。


こりゃ宿でジッとしてるしかねえな、と考えていると、ツァックが何かを思い出したように拳を手のひらに当てた。


「そうだ、お前と昨日一緒にいたあのにーちゃんにどうにかしてもらえないの?」


ああ、確かにレシュさんなら連続殺人犯なんて瞬殺しそうな気がするけど。


でも無理なんですよねー。


「レシュさん……あの人たちはもう旅立ったらしいから無理だよ」


「もう旅立ったの?!」


驚いた様子で身を乗り出したツァック。


そう言えば雑談で、急ぎの用事があるから一刻も早く北に向かわないといけない、とか言ってたな。でも確かに急ぎすぎだよね。モーレとか疲れちゃうでしょうに。


「いっそのことツァックが狩ってくれば?」


「そんな『お昼パスタにすれば?』みたいなノリで言われても」


ツァックが首の後ろをかいていると、急にテーブルにクッキーが盛られた小皿が荒々しく置かれる。


置いた主を見てみれば、仕事中のアーニャがツァックを見て怪しく笑っていた。


「そんなんだからいつまでたっても親父さんに認められないのよ。ここは男としてカッコイイところ見せるべきじゃない?」


そしてすぐさま私の方に営業スマイルを向けると「これサービスの試作品クッキーです、よかったら食べてください」と付け足す。


あ、ツァックが仕事しないのに対してめっちゃ怒ってるな。


そんな事を思うくらい明らかな皮肉だったのだが、ツァックには通じなかったようで。


「そうだな、俺が何とかしないとな」


何故だか急にやる気になった様子のツァック。アーニャも私も目を丸くした。


「実は俺、こう見えてあの武器屋の親父を剣で負かしたことがあるんだよ」


ツァックの暴露にアーニャは固まる。武器屋の親父を見たことない私はどう反応すればいいかわからなかった。


数秒間固まったアーニャは、次第にワナワナと震え始めた。


「武器屋の親父って、確かここら一帯で結構有名な戦士よね」


「えっ?!」


アーニャの整った唇から放たれたその言葉を受け、ツァックのほうを向く。


本人は照れたように頭の後ろをかいていた。


「いやあ、昔ちょっと剣をかじっててさ。その時師範に『お前の才能はありえないレベル』って言われちゃって」


まあ酒場経営が俺の夢だったから止める師範無視して辞めちゃったけど。何てぬかすツァックに、アーニャはいよいよブチギレたようで。一瞬で詰め寄ると、ツァックの首を絞め始めた。


ツァックの断末魔の叫びのような悲鳴を聞き流しながら、クッキーに手を付けた。美味しい。私クッキー大好物なんだよね、特にこういう素朴な味の、添加物無添加みたいなやつ。


私が小皿のクッキーを半分以上食べ終わったころに、ツァックとアーニャの喧騒は収まった。二人とも息を荒くしている。


ただ何故か二人ともこちらを見てるのはなんでだろう。何で冷や汗を浮かべてこっち見てるんだろう。


「なあ、サエ」


「何」


「今晩、俺と一緒に赤いヤツ退治について来てください……」


「……は?」

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