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クソチートの脱ボッチ計画  作者: 鹿田はもの
第二章、思い出の街セルベール
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そのジュウニ、出会い2

「オイ、大丈夫か」


 よろよろと過去ゾーンから遠ざかり、近くにあった適当な店に入ってドリンクを飲むこと数十分。


 机の上に跳び出てきたメランがそう言って顔を覗いてきた。


「うん……まあ、なんとか」


 机に顔をつっぷし、呼吸を整える。よし、なんとか大丈夫そうだ。


「ソーカ。無理すんなヨ。辛かったら俺に言えよ」


 優しくそう言って、メランは別に買ったドリンクに口をつけた。ゴクゴクと喉(?)を鳴らしている。すげーな、どこに収まってんのそれ。まさか収納庫に入れてるわけじゃないだろうな。制服も濡れてないよな?


 ていうかなんだよこの優しい黒モチ。お母さんみたい。イケメンの本体さん結婚しよ。それかお兄さんになって。


一息ついてから、薄々気になっていたことに触れた。


「ねえメラン、もしかしてこのドリンク」


私は手中の木製コップの中に入ってる、緑色の液体を見つめる。


次は理科の実験よろしく手で仰いで匂いを嗅ぐ。


うーん。


 さっきから薄々感じていた嫌な予感が確証を得始めた。温まった体に冷や汗が流れる。


「………………お酒?」


「それ以外に何があるんだよ」


うおーやっちまったああ飲んじまったああああ!


手元のドリンクもといお酒をメランに押し付ける。口を腕で抑えて冷静になるよう自分に告げる。ああ、ああ……。


「メランこれあげるから私がこれ飲んだことは内緒に」


不可抗力だからセーフ! 不可抗力だからセーフ!


でも、仮にこの世界で未成年が飲酒可能だとしても、肝臓とか何かに影響出ないのか?! わあめっちゃ心配!


しかしそんな私の心配とは裏腹に、メランは首(?)を傾げた。


「何でだ、別に薬とかは入ってないぞ」


「いや、あのですね、アルコールとかプリン体とかよくわからないけど、そういうのは子どもの体に良くないーー」


私が必死に言葉を紡いでいると、急にメランは何かに気づいて腰の袋に落下していった。うおっ、ビビった。何だ、どうした。


「東の国とは違って、ここらの酒はむしろ体にいいんだ。親が子どもに無理やり飲ませるくらいさ」


突然後ろからかかった声に驚いて勢い良く振り向くと、何だかこの街にずっと住んでいますって感じのイケメンくんがいた。思わず声を詰まらせる。太陽の光を反射する金髪はキラキラと輝いていて、南国の海のようなその目はポジティブな感情を湛えている。少し太めな眉はきりりと上がっていて、なんというか、眼福。


直後納得もした。ああ、だからメランは急に私の腰の袋に飛び込んだのか。知らない人に見られたら大騒ぎですもんね。


「悪いな、友達と魔法交信中だったか?」


そう謝ったイケメンくんは何故か私の目の前に座る。えっ、初対面でこんな打ち解けられんの。見た目からしてどっかのお店の人みたいだし、コミュ力はあるのか……いいな……。


「い、いや、今切ったから。それより、あの……君は」


初対面の人にあんた呼ばわりは出来ないため、一応君と呼んでみる。相手はさして気にしなかったようで、机に肘をついて答えた。


「俺はこの店の店員のツァックだよ。お前が酒について何にも知らないから教えてやろうと思って」


は、はぁ、と言えば、ツァックは急に目を輝かせてお酒について語り出す。


「いいか、この国での主流な酒はお前が今飲んでるサンスチスって呼ばれる酒でな、ここより西方の、花と白の国サンスチーナの国花、国で最も美しいと言われるサンスティアの花の蜜ーー」


ゴンッ


冒頭一文で聞くことを諦めた私が右から左へと聞き流していると、急にツァックの後ろに影が差したことに驚いた。そしてそれとほぼノンタイムでツァックの脳天に何かが振り下ろされる。


若干目を見開いてまじまじと見ると、可愛らしい、私とツァックと同い年くらいの女の子が拳を握りしめて立っていた。気の強そうなつり上がった夜空色の目はツァックを睨みつけ、紫色のパンジーのような髪は短く切り揃えられている。ボブカットってやつ?


「いってぇな……!」


女の子はツァックに「黙りなさいこのポンコツ」と、汚物を見るかのような目で見下して吐き捨てると、別人のように、私のほうに凄く可愛い笑顔を向けた。無論、作り笑顔。


「申し訳ありませんお客さん、このお酒馬鹿、お酒に疎い方を見つけては無駄な知識をベラベラと話すやつなんです。優雅な時間をお邪魔して本当にごめんなさい」


そう謝る態度は大変よろしいのだが、どうも、ツァックを是が非でも押さえつけようとする左腕の迫力に潰れてしまう。


やべえ、超怖い。


ツァックも声すら出せないようにねじ伏せられており、目の前に地獄が広がっているかのような表情をしていた。……可哀想に、毎度毎度こんな感じのやりとりをしているのか。


「ああいえ、大丈夫ですよ、私雑学大好きですし」


あまりにもツァックが哀れに思えてきたのでフォローを入れる。


嬉しそうにしたツァックは、黙ってればいいものを「ほらな! 言ったろ」なんて余計なことを抜かすもんだから、女の子にさっきの倍くらい冷たい一瞥をもらっていた。


さすがのツァック、黙る。


「本当ごめんなさいね、後でねじ伏せておくので」


黒く染まり始めた営業スマイル全開の女の子に「もうねじ伏せてますよね」何て言うことはできず。「あっはい」としか答えられなかった。辛い。


「あ、そうそう、私、このお店でウエイトレスやってます、アーニャって言います」


アーニャはぺこりと頭を下げた。釣られて私も頭を下げる。


「アーニャって可愛い名前ですね」


「ありがとうございます」


名前を褒めると純粋に照れたアーニャは、きっと普通の年相応の女の子なんだろう。ツァックとの絡みを除いて。


二人に名乗ってもらったからにはこちらも名乗るのが礼儀だろう、と判断した私も名乗ることにした。


「紗枝って言います。一人旅してる途中でここに寄りまして」


一人旅って言ってもまだ街から出てないんだけどね。冒険と言ったらあの森くらいだろうか……。


「え、一人旅?」


アーニャがそう言い、何故か同時に頭上にクエスチョンマークを浮かべる二人に、私もクエスチョンマークを浮かべる。


「サエさ、昨日二十人くらいの集団でこの道通ってなかったか?」


やっと左腕の束縛から逃れたツァックに言われ、店の前の道を見てみる。ああ、確かに、来たような、来てないような。


「サエさん今と違う服装だったけど、私たちよりほんの少しだけ年上っぽいイケメンなお兄さんと一緒に居ましたよね」


人差し指を上に向けてアーニャは言った。


ほんの少しだけ年上っぽいイケメンなお兄さんとはレシュさんのことだろう。うわ、目立ってましたか私。


「あの人は恩人ですよ。この街の外で助けてもらったんです」


「へー、つまんねーの」


今度はアーニャと一緒にツァックを睨むと、ツァックは小さく悲鳴をあげて俯いた。


「あのノリで仲間に入らなかったんですか?」


尋ねるアーニャに無知の恐怖を感じた。私は昨日の記憶を蘇らせ、斜め下の虚空を眺める。


「ちょっとしたトラブルがありまして、はぐれました」


よっぽど負のオーラが出ていたのか、アーニャは何かを察したように「そ、そうなんですか……」と目をそらした。


ああ、すごい惨めな気分……。私はこっそり、袋の上からメランを握りつぶしておいた。

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