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第一章  8


                6


『香波? どうした、なんかびっくりした顔してるぞ』


 立ち尽くしたままでいる香波は、トイレから出てきた女を凝視していた。


『……利沙(りさ)? ……なんでここに?』


 香波の消え入りそうな言葉に、

『香波? 知り合いなの、あの子と?』


 百合は、香波の顔を覗き込むように尋ねた。

 そうでもしないと、香波はこっちを見ているとは思えなかった。


『か・な・み。あの子知ってるの? 誰なのよ』 


『…………』


『香波。あの子、誰?』

『あっ。ゆり? えっ? 何?』


『香波。しっかりしなさい。

 どうしたの? 変よ。

 それに、あの子知り合いなの?』


『そうだよ、香波。あの連中を知ってるのか?』


 弘を中心に、みんなで香波に詰め寄った。


『ち、ちょっと待って。えっと……、連中って?』


『香波、お前何か知ってるのか?』


『…………』


『ちょっと待ちなさい。いきなり聞いても答えられないでしょ。

 ちょっと落ち着こう』


 百合の言葉に、ちょっと冷静になった弘は、香波を椅子に促した。


『そうだな。香波、ここ座れよ』

『……うん。ありがとう』 

『はい。お水。飲んで』


 すすめられたペットボトルの水に口をつけ、ため息を一つつくと、

 テーブルに着いたメンバーを見て、


『ごめん。落ち着いた。ありがとう』


 それを待っていたかのように、聡は、感情を抑えるように口に出した。


『それで、何知ってるんだ?』

 それに同調したのは、そこにいた全員だった。


 みんなで、食い入るように香波を見つめている。

 香波は、それを確かめて静かに話し出した。


『先に言うけど、本当に私の知ってる人と同じか、それとも人違いかもしれない。

 そう思って聞いて。いい?』


『わかった。それって、リサっていう人?』


『……そう、その子は、私が知ってるその子は、友延(とものぶ)利沙っていうの』


 それから、香波は静かに話し出した。

 それを、メンバーは、固唾をのんで聞いていた。


『私が、利沙と会ったのは、高校一年の時。同じクラスだった。

 でも、一緒にいたのは半年ほどで、利沙は退学したの。

 それからは会ってなくて、どうしたのかなって思ってたんだけど……』


『さっきのが、その利沙って子なのか?』


『そう。利沙だと思う。

 ちゃんと見た訳じゃない。でも、利沙だと思う』


『でも、なんで退学したんだ? 

 理由ってなんだよ。高校やめるって』


『それは、たぶん、少年院に入ったのが原因だって噂があったの。

 事件起こしたって』


『事件? それに少年院って、……何したんだよ』


『私も詳しく知ってるわけじゃないんだけど、

 でも、少年院に入ってたのは事実だったって、後で聞いたの。

 その原因は、利沙の特技らしいって』


『特技って?』


『利沙って、中学の時ハッキングして捕まったんだって、

 それも、優秀すぎて警察からも認められてた。

 そんな利沙が、宝石店の強盗をした。……防犯システムを乗っ取って強盗させたって。

 ……初めてじゃないし、保護観察中に起こして、少年院に入ったって。

 ……それで退学したんだろうって言われて。

 それからは、ずっと会ってなかった。なのに、どうして……』


『ハッカーか。それも優秀な。

 ……だとしたら、引き抜かれてIIMCに入ったのかもしれない。

 今来てるの、あの世界的に有名なIIMC(国際情報管理センター)だろ? 

 そういう所って、優秀な人材を欲しがるもんだろう? 

 だったら、……』


 うつむいた香波に、孝春が声をかけた。


『……香波。その利沙って子と同一人物なら、一回でも話したいと思わないか?』

『えっ? でも、……会えないよ』


『理由はある。

 昔の知り合いなんだ。チャレンジしてみようぜ。

 もう一回と言わず、何回も。それに早い方がいい。

 仕事が済めば帰るのだとしたら、いつまでいるか分からないし、

 今度いつ会えるかなんて、……ないかもしれないだろう?

 IIMCだぜ、どうにかして口をきいてもらえたりして、な?』


『そうだな。今ならまだ管理棟にいるんじゃないか?』

『善は急げ。ほら、行くぞ』


 そういって、メンバー全員で管理棟に向かったが、やはり、相手にしてもらえなかった。


『知り合いかもしれないんです。話をさせて下さい。お願いします』

 何度か試したが、同じだった。


『こうなったら、強硬手段に出よう』

 孝春は、そう言うと、とんでもない計画を口にした。


『待ち伏せしよう』

 そう言って、詳しく話し出した。


 最初は引き気味だったメンバー達も、なんとなく面白そうだと乗って来た。


 その中にあって、香波は、

『もういいよ。そんなにしなくても、それに、何かあったらどうするの?

 ねえ、もういいから』


 止めようとしても、全く相手にされなかった。


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