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第一章  7

                 5 


 夜はどうするか。


 それは、学校の近くにあるホテルに寝泊まりする。

 もちろん、移動はボディガード付き。


 ホテルでは、各々が自分に割り当てられた作業の続きや翌日の準備をしていた。


 一人でしたり、どこかの部屋に集まったりしながら、日々の予定を消化していた。


 徐々に全貌が見えてくると、その作業の進み具合も早まっていた。


「ここまできた。あと、もう少し」


 そんな思いで行っているが、これを終えると、久しぶりに休みがもらえる手筈になっている。


「帰れば休み」

 そう思っているからか、もう少しなのに、行き詰ってしまった。


「なんか、終わらない。

 ……アン、やっぱり手を抜いてるでしょ。ちゃんとして!」


「手なんか抜いてません。リンこそ、ちゃんとしろ!」


「いい加減にしろ、二人とも!」


 アンリードとリン。

 アンリードとヘイクワース。

 ヘイクワースとリン。


 この言い合いがしばしば見られるようになり、

 作業自体が暗礁に乗り上げてしまった。


「……私、ちょっと出てくる」


「リン!」


「大丈夫。すぐに帰ってくる。ありがとう、ヘイクワース」


「ああ、落ち着いたら帰って来い」


 そして、リンはボディガードと共に、部屋を出た。


 すでに、何度も来ていた所。

 別に案内されなくても行けるのだが、

 そういう訳にもいかず二人で向かっていると、

 夕方の陽射しが校内まで入ってきていた。


 その中に、南国の海の香りが混じっているのに気づき、

 ふと外を見ると、眼下に浜辺が広がっていた。


「そういえば、ここって海洋研究してるんだった。

 確か、ここってプライベートビーチになってるんだよね。


 ……ねえ? 

 ここのビーチに行きたいんだけど、いい?」


 最後は、ボディガードに確認するように話し、


「いいですよ。確認してみます。

 今日、という訳にはいかないかもしれませんが」


「ほんと? いいの? 

 いいよ、いつでも。嬉しい! 三人で行きたいからね?」


 笑顔ではしゃいでいる。


 さっきまで喧嘩していたとは思えない表情だった。

 その後、トイレを済ませて元の部屋に戻ると、ビーチの話で盛り上がっていた。


 もちろん三人で。

 と、言いたいが、約一名はそうでもなさそうだった。



 ところで、リンのこの行動を見ていた者がいた。

 正確には者達だが。


 ちょうどリンがビーチの話をしていた場所は、

 学生達がくつろげるように広いテラスになっていて、テーブルや椅子がセットされていた。


 リン達が作業している管理棟の別館から一番近いのが、

 管理棟本館ではなくこの校舎だった。


 渡り廊下でつながった建物同士なので、行き来はしやすかった。

 そして、その渡り廊下が広いテラスのようになっている。


 両サイドはガラス張りで、景色が見えるようになっていたのだが、

 学生達には不評だった。


 理由は、想像つく方もいるだろう。


 ここは南国。


 陽射しは強い。

 今のように夕方でも、真夏は耐え難いものがある。


 一体誰が何の目的で、ガラスで覆うなんてしたのかは不明だが、

 ごく限られた季節しかここに学生のくつろぐ姿は見られない。


 それが丁度、今頃だった。

 春先の今頃までがいい季節だった。


 ここには!



 その場に、例の管理棟に荷物を運んできた学生達のグループがあった。


『なあ、あれ。あの子じゃないか? 

 システム書き換えに来てる』


『えっ。あ、あの子?』

 不思議そうに聞く女の子達に、


『例のシステムの書き換えに来てる、そのうちの唯一の女だよ』

 指差しながら男子が教えている。


『そうだな。

 ボディガード様も付いてるし。

 でも、ここってそんなに危険か? 

 ボディガードがないと歩けないのかよ。ここは!』


『落ち着け、孝春(たかはる)

 だいたいこの時間に来るよな、あの子。俺、何回か見たぞ』


『私も見た。

 一人のとこはないけど。いつも誰かと一緒』


百合(ゆり)も見てたのか? 

 でも、あの子、日本人だと思うんだけどね?』


『私もそう思う。

 なんとなくだけど、……しぐさがね。

 弥生とも話してたんだよね、弥生?』


『うん。でも、本当はどうなんだろ。

 どう思う?』


『そうだろうな。

 どうであれ、関係ないだろ? (さとし)どう思う?』


『そうだな、でも、っていうか、だから気になるんだよ。

 それに、どう見ても俺等の年くらいだろ?

 (ひろし)だって気になるだろ?』


『気になるっていうより、何言ってるんだ?

 どう見ても俺等には関係ないだろ。

 何回かあの部屋に入ろうとしたけど、追い返されたし、

 全く相手にしてくれないんだぜ』


『そうなんだよ。

 何回行っても、相手にされないと言うより、邪魔者扱い。

 あれはないだろ?』


『何言ってんの? 弘も聡も。

 どうであれ、無視されてそれでいいの?』


『百合。言いたいことは分かるが、相手しない方がいい。

 どうせ、すぐいなくなるんだから』


『そうそう、仕事が終わったら、それでお終い。

 そうだろう? 

 ……どうした、香波?』


 孝春が、さっきから一点を見たまま動かない香波に気づき声をかけた。


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