第二章 18
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約二年半。
リンは地下室で取り調べを受けた。
しかし、後半はほとんど取り調べは行われなかった。
地下室から出られたのは、チームに合流する三か月ほど前。
その後は、個室が与えられた。
そして、チームの一人として活動する許可おりた。
が、この時すでに、リンは今までとは全く変わっていた。
以前は人との関わりをある程度はしていた。
たとえば、休み時間に語り合ったり、仕事中も話し合ったりと。
しかし、今は全く人と関わろうとしなかった。
いや、あえて避けていた。
声をかけられても相手にせず、それで嫌われるように。
側に人が寄ってこないように。
そう意識して、他人から逃げていた。
しかし、今回。
香波との事件があり、一か月後チームに復帰してからは、リンの考え通りには運ばなかった。
それは、コルテラだった。
コルテラが、親身になってリンに関わって来た。
もちろん、リンは最初相手にしなかったが、
あまりにも気遣ってくれて、リンは自然と付き合うようになってきた。
付き合うといっても恋愛関係という訳ではない。
ただ、仕事仲間という程度。
そして、それをきっかけとして、スタッフとの関係も良くなっていく。
リンの担当者は、
リンの実力には最初から驚かされたが、それに人間性もついてくると、
なんとなく評価は上がっていった。
リンの担当者であるレックの評価も、当然ながら上がった。
そこまでは良かった。
しかし、これがきっかけで、レックとリンの関係は近づいていた。
近づくといっても、あくまでも仕事上。
プライベートとは関係ない。
しかし、それを良く思わなかったのが、レックと恋愛関係にあったルーシーだった。
ルーシーは同じワーティ・チームのサーシャの担当だった。
成果の上がらなくなったサーシャと同様、面白くなかった。
そんな時、リンが不利にならないかと考え、
信頼性を損なわせるためにある方法を思いついた。
以前、ハッカーにはその位置を確認するために、
GPSのような機能を持つIDチップを体に植め込まれているというのを偶然聞いた。
本当に偶然で、これを聞いた時は、気にはならなかった。
と、いうか同情した。
本当に監視されているのだと。
それがこの機会に、とんでもない考えとなって浮かび上がって来た。
それは、この機能をリンのIDチップが無効になるように、
システムにアクセスする方法だった。
幸い、内部関係者のパスワードを何度かクリアすれば、
監視システムにはアクセスできる。
簡単に言うなら、
ルーシーは監視者としてそのシステムには簡単にアクセスできる立場にいた。
それを行使しただけ。
リンのチップの監視データーを書き換え、それを実行した。
まるで、リンが不正にアクセスしたと装うことも忘れずに。
IIMCに雇われている。
それくらい簡単にできる技術を持っていた。
それを完了させた数分後に、捜査官が部屋に入って来たのには、びっくりした。
こんなに早く?
まさか自分だとばれた?
一度は驚いたが、すぐに自分ではなく、リンに近づいたのを見て、安心した。
ただし、リンに対して捜査官の取った手段には、改めて驚かされた。
あんなにひどい……。
しかし、後悔しても時すでに遅く、リンは強制的に連れて行かれてしまった。
その後、全く情報が入って来なかったが、ルーシーにとって気分が良かった。
落ち込んでいるレックを慰めたり、リンがいないので会話する機会も増えた。
それが嬉しかった。
レックにとっては、心休まるように気遣ってくれるので、前以上に親密になっていた。
ルーシーにとって、リンは邪魔だった。
レックの興味を自分に戻せて喜んでいた。
そして、それが崩壊する時がきた。
IIMCの技術部では、リンがメインシステムに侵入した痕跡を探していた。
リンのパソコンを調べていたが、不審に入力された履歴を見つけられず、
他のハッカーのパソコンからも、それらしい物はない。
どこから侵入されたのか、詳しく調べていくと、
同じチームのスタッフのパスワードが頻繁に検出され、
そのパソコンから、監視システムを書き換えた入力履歴が、確認できた。
改めて、ワーティ・チームに捜査官が入って来た。
この時、ルーシーには、全く危機感はなく、
捜査官に声をかけられて初めて、驚いてのけ反ってしまった。
「なんで? わたし?」
と、明らかな動揺。
捜査官は丁寧に、ハッカーに対する時とは似ても似つかない態度で、
「来て下さい。確認したいので、ルーシーさん」
それに、何も発することなく静かについて行くルーシー。
それを見るレック達。
「ルーシー、どうして……」
その後ルーシーは、IIMCから除名後、解雇された。
不正にシステムに侵入しただけでなく、書き換えまで行っている。
これは、どんな理由があろうと許されない。
もちろん、レックとの関係も清算された。




