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第二章 10

「!!」


 それを見たリンの表情が、今までとは一変。

 緊張と、何とも言えない恐怖? に覆われていた。


「な、なに、よ……」


 リンのその表情を見て、捜査官は、ますますリンの体を抑える手に力を込めた。


「正直に認めれば、何もしないんだよ、リン。

 認めなければどうなるか、知ってるだろう?」


 机にうつぶせにされ、そのリンの顔の前に注射器を見せて言う捜査官。


 それに、異様に怯えるリン。


「な、なんにもしてない。IDなんて知らない……。

 本当だって! やめて!!」


 捜査官は、今にもリンに注射しようとした。


 まさに、その時、


「電源、切って!!」


 リンの大きな叫び声が、部屋中にこだまするほどだった。


 そして、いきなり、コンピューターや部屋の照明を含むすべての電源が、落ちた。


 照明が消えたといっても、

 まだ、昼間で窓のあるこの部屋は明るく、動きを妨げる暗闇は存在しない。


 しかし、電源が切られて、部屋にいた全員に動揺が走った。


 全員に。


 もちろん、リンも例外なく。


 皆が呆けている。

 何が起きたのか、把握できていなかった。


 捜査官に隙が出来、リンはそのまま机から床に滑り落ちた。

 抜け出た、のではなく、力のない体が、そのまま滑って床に落ちたのだ。


 その中で、真っ先に気がついたのは、捜査官だった。


「……リン。お前だな! 

 また、お前の仕業だな?」


 床に座り込んでいたリンに。

 捜査官が激しく迫った。


「ごめんなさい。ごめんなさい。わざとじゃない……。

 わざとじゃないの! ごめんなさい」


 床で頭を抱えて謝るリン。

 その手を振りほどき、無理矢理襟首を掴みあげる捜査官。


「わざとじゃない、だと! 

 わざとじゃないなら、なんでこんなことをする? 

 残念だが、これで、逃げられるとでも思っているのか?」

 

 そう言って、机の上にあおむけにリンを寝かし、

「こんなことして、ただで済むと思っているのか!」 


「ごめんなさい。ごめんなさい。

 …………でも、……まだ、生きてたんだ?」


「なに?! なんだと!」


 リンは謝りながら、ふと、思いついた。


「……まだ、生きてたんだ。六年前、私が組んだモノが」


 リンの言葉にその場にいた誰もが、耳を疑った。


 しかし、捜査官は、

「ど、どうした?」


「ふ~ん。そうか、三年前に発覚したのに、まだ、見つけられてないんだ? 

 ……ふ~ん」


 何か言いたそうにする。


「だから、なんだ?」


「認めるんだ。……三年かかって、いまだに生きてるなんて……」


「だからなんだ? 

 それがどうした? 

 運営システムに直接関係ないものは、後回しにする。それだけだ」


「最高!! 

 それになんか、怪しい。あれ程息巻いて? 

 すぐに削除されるかと思っていたら、いまだに見つけられず、野放し? 

 ここのプログラマー達も情けないわね? 

 それで、今も生き続ける。……最高に嬉しい!」


 リンが今の状況を把握しているかは非常に怪しいが、とても上気している。


 そこに、まさしく、現実がどっと押し寄せてきた。


「リン! 

 そこまでだ。もういい」


 リンを押さえつけた腕に力を込めると、隣の捜査官がリンの腕を抑え、

 上気したリンをあざ笑うかのように、強引に注射した。


「! 何するの!」


 注射をしたのを確かめてから、捜査官は手を離した。

 すると、リンは座り込んだ。


 しばらくして捜査官は、時計を見た。


「そろそろか」

 そう言った捜査官をしり目に、リンの表情はあっという間に恐怖へと変わっていった。


「なに、するのよ! こん、な……」


 そして、恐怖が、強烈な痛みを伴って、体中を襲った。


「アッ! クッ……ゥ」

 リンが言葉を失い、表情からかなりの苦痛を伺えた。


 リンは床にいるが、それが異常なのは明らかで、

 体を折り曲げ、息が荒く焦点も会わなくなっている。


 そして、呻く声は明らかに今までとは違っていた。


 それを見た捜査官は、冷たく言い放つ。

「リン! 

 このシステムも含めて、色々話を聞こうか?」


「……し、知らない。本当に、知らないの」


 さっきまでとは、打って変わって、弱気な声を出すリン。

  それに圧し掛かるように、


「知らない。か? 

 それも、いつまで言えるか見ものだな」


 そう言いながら、痛みに叫ぶリンを両脇から抱えて、

 取調室のある地下へと連行した。


 ここから、少しずつリンの仕組んだものについて進んでいきます。

 よろしくお願いします。

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