第二章 3
会話には二種類の言語が出てきます。
「 」……は英語
『 』……は日本語
としています。よろしくお願いします。
2
香波はIIMCに就職していた。
入って来たのは、二ヶ月前だった。
入ってからずっと人を探していた。
リンと名乗る利沙がいることは分かっているのに、なかなか会えずにいた。
研修もあったが、施設内のどこにも、休み時間の食堂でも、姿を見つけられなかった。
いつまでも見つけられずにいて、スタッフである先輩に尋ねると、
技術部のチームに所属している可能性があるので、
そこで聞いてみてはどうかとアドバイスを受けた。
尋ねに行った時に相手をしてくれたのが、
リンの担当チームのリーダーであるワーティだった。
そこで初めて、リンがスタッフではなくハッカーであり、
食堂は別であると教えてもらった。
しかし、ここで大きな勘違いというか、思い違いをしていた。
スタッフとハッカーの違いが、香波には分かっていなかった。
違いどころか、ハッカーもスタッフの一部で、
その中でも特に優秀な集団なのだと、そう思っていた。
利沙なら当然だ。
と。
まさか、犯罪者だからだとは、頭から考えもしなかった。
そのため、香波はハッカー側の食堂を覘いた時、不思議に思っていた。
優秀なスタッフの割に、雑然としていたし統制された感じがしなかったからだ。
食堂の雰囲気が全く違っていた。
それには、少し抵抗があった。
リンを呼んでもらって、二人とも廊下に出ると、
香波はそのまま広場に向かって歩いていた。
その出口まで来た時、リンは立ち止まったが、
香波が『行こう』と誘うと、その後を付いて行った。
今日は、陽射しがまぶしい。
風も乾いた暖かいもので、吹かれていると気持ちいい。
「ここって、こんなに広かったんだ」
『えっ、知らなかったの?
私ここに来てすぐ案内してもらって、すぐに好きになったよ。
陽射しが気持ちいいもの。
ただね……、殺風景なんだよ、もう少し季節の花とかあったらいいのにね?』
「! …… そうだね。でも、そこまで手が回らないでしょ。
ここって、色々しなくちゃならないみたいだし……」
一つのベンチに、二人で座りながら話していた。
『そうか、そうだね。…………ごめんね。
利沙。……あのね、私どうしても会いたくて。
利沙に会いたくて、ここに入る目標にして頑張ったの。だから、あの……』
「おめでとう。カナミ」
リンは、心から祝福した。
『あ、ありがとう。
……あの、二人の時くらい、日本語で話してくれない?
ここは誰もいないし、利沙と久しぶりに会ったし……、懐かしくて。
……本当はもっと早く会いたかったけど、ずっと研修とかでなかなか休み時間がなくて。
今日やっと昼休みが、みんなと同じ時間になって、もう我慢できなかった。
だから、……日本語で話して? 利沙』
「それって、命(令?)」
そう言いかけて、リンは言葉をのんだ。
スタッフの命令なら仕方ない。
英語のみしか話してはいけないはずだが、香波がそれを知らないとは思えない。
それに、香波は自分に会いにここまで来た。
その香波の笑顔での頼み。
それを断るのに、ためらいを感じた。
『……いいよ。分かった。
でも、香波頑張ったんだね。
ここ入るの、結構大変なんでしょう? 競争率高いって聞いたし』
『それなりに大変だったけど、
でも、利沙に会うためなら、なんでもできるって思ったの』
香波が大学を卒業して、語学学校に通って、IIMCに入るためにどれだけ頑張ったか。
それは、今のリンには、想像に難い。
『そう、頑張ったんだね』
『そう。だって利沙に会いたくて!
……あれから三年。利沙に日本で会ってから三年。
ずっと気になってた。
あの時、……私のせいでひどい目に合わせたでしょう?
だから、……利沙が元気そうで良かった。本当に、……』
香波はリンに抱き付いて来た。
『そんなことないよ。でも、ありがとう、香波。私は大丈夫。
それより、一人暮らししてるんでしょう。一人で寂しくない?
それに良く許してくれたね。家族とか、恋人とか』
『ああ、いいの。
私がしたいって言ったら、家族は、そんなに反対されなかったし。
恋人って、それは、……いいの。ちゃんと分かってくれたから。
それに大学の時から一人暮らしだったし。
今は寮に入ってるからかな、そんなに寂しいっていう感じはしないのよね。
……利沙も時々遊びに来てよ。ちょうど山を下りた所の町にあるから。
いい町よ、静かだけど、優しい人達ばかりだから。
……あ、利沙の方が良く知ってるよね。ここには長くいるんだし。
ねえ、良かったら、今度案内してくれる?』
『(知ってるよ。ビルやジェシカやトニーも、本当にいい人だもの)
それは、……出来ないかな』
『あ、忙しいか。
ごめん、私まだ来たばかりでよく分からないから、ごめん。
……無理な時は、はっきり言ってね』
相変わらず笑顔の香波が、手を合わせて謝るしぐさに、
リンはどう対応しようか迷っていた。
『うん。そうだね。
……香波もこれから大変だよ。ここ、けっこう厳しいから』
『知ってる。
でも、私もやるよ。利沙に教えてもらった技術を生かして』
いい顔してる香波は、いかにも「頑張ります」といった表情をリンに向けた。
リンは一層、戸惑いが募ってきた。
事実を知った香波が、今の自分をどう思うだろうか。
『そう……、お互い頑張ろうね』
そんな話をしているうちに、休み時間がなくなっていった。
『そろそろ行かないとね』
リンは、まだ少し残っている時間のうちに戻りたかった。
スタッフの香波と違い、少しでも遅れようものなら、どんな制裁を受けるか。
……考えたくもない。
『そうだね。行こうか。……ねえ、また会ってくれる?』
香波が不安そうに聞いてくる。
『いいよ、空いてる時なら、いつでも』
笑顔で返すと、香波は嬉しそうに微笑んだ。
『よかった。心配だったんだ。迷惑だったかなって』
『そんなことないよ。香波に会えて、嬉しかった』
読みづらくなって、すみません。




