第一章 3
ここからは、言語が二つ出てきます。
「 」表記は英語。
『 』表記は日本語です。
よろしくお願いします。
リンは、思わず窓を開けた。
スモークのかかった窓ガラスが邪魔だったから。
そして、確かめてから、
『おはよう。香波』
リンは、日本語でそう言った。
そこは、交差点。
信号で止まっていたが、青になり発進し、その時にリンは懐かしい顔を見た。
だから、リンは思わず、禁止されている日本語で話してしまった。
しかも、外部との接触は、厳しく制限されているのに。
「「リン!」」
ヘイクワースとアンリードは、いきなりで慌てたが。
すぐに窓を閉め、リンを窓際ではなく、二人の真ん中へ移した。
彼らが乗っているのは、セダンタイプの車だ。
二列あるシートの後部座席。
運転席にいるのも、運転席の隣にいるのもボディガード。
残りの三人は先行する車に乗っている。
幸い、窓を開けたのは気づかれたが、リンが話した声までは聞こえなかったようだ。
この車は、エンジンが付いている。
今流行の電気自動車ではないので、窓を開けると直接エンジン音が聞こえ、話し声は聞き取りにくい。
ボディガードは、
「リン。なぜ窓を開けた? そういう行為は許されてない。これ……」
「まあ、良いじゃないですか? これだけいい景色なんです。
スモークのかかってない景色を見たいと思っても、仕方ないでしょ?」
アンリードが、助手席にいる注意してきたボディガードに、一言添えた。
「もう、開けさせませんから。今回は見逃して下さい」
ヘイクワースも、アンリードと一緒に頭を下げた。
「ほら、リン。謝れよ」
アンリードがウィンクしながらリンに促すと、
「っと、ごめんなさい。もうしません」
「わかった。……今回だけだ」
ボディガードは、そう言うと前に向き直った。
「「ふーーーう」」
二人のため息の後、リンは本当に申し訳なさそうに、
「ごめんなさい。つい」
「いいけど。いきなりは、ちょっとな?」
アンリードは、仕方なさそうに小声で、それにヘイクワースも、
「ああ。でも、理由、後で聞かせてくれ」
「……、うん」
リンはうつむき加減で頷いた。
それから、車内は、静かなものだった。
そんな中、車は、とある大学の構内に入って行った。
車から降りると、特有の香りが鼻をついた。
日本で最初に桜が咲き、色鮮やかな花達が季節を飾るこの地。
まだ、桜の蕾もこれから芽吹いていくだろうと思わせる。
「う~ん。やっぱり南国って感じだねえ? そう思わない?」
そうここは、日本の南国、と言えばお分かりかな?
後は、ご想像にお任せかせするとして。
車が、大学の構内に入って来たので、駐車場にも学生の姿が見える。
アンリードは、興奮しながら車を降りた。
「ここの学生、ポイント高いぜ。いいの多いなあ」
そう言って、体の線を表すジェスチャーをして見せた。
ヘイクワースは、半ば呆れて、
「それくらいにしとけよ。どうせ、関われないんだから」
「言ったろ? だから、これくらいいいだろう」
そう言いながら、促されるまま建物へと入って行った。
案内されたのは、管理棟別館。
今日からここでシステムの見直し並びに、情報保護プログラムの再構築を任されている。
三人のプログラマーで、さっさと終わらせる予定。
もちろん、この三人、そこらにいるような並の腕前ではない。
たぶん、他に類を見ないほどの腕前の持ち主。
それは、彼らが所属する組織を見れば分かるというもの。