第一章 21
暴力的な表現があります。
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「リン。せっかく移ったばかりで悪いんだが、まだ聞きたいことがあるんでね。
ベーシャル、こっちに連れて来い」
リンは、今移ったばかりのベッドから無理矢理起こされ、
今のリンには不安定な椅子に座らされた。
もちろん、手錠はつけられたまま。
やっと、座っているリンにお構いなく、
レイミアンが、リンのうつむいた顔を上に向かせた。
「リン。お前、学生に何を言った?
リンって呼んでくれって、そう言ったそうだな?
あの子は知り合いだって? 高校生の時の」
「! ……」
「そうか。確かなんだな。知り合いか。
だったら、懐かしくて色々話しても仕方ないよな?
思い出話、別れてから今までの様子。何を話した?
確か相田香波だったかな?」
リンは、表情がただ事ではなかった。
体が辛いことを忘れてしまう程。
「香波は関係ない!」
「ほう? 元気あるじゃないか。
思ったより回復したのか。そんなに時間は経ってなかったのに。
それなら、これから色々話してもらおうか?
彼等との関係を!」
「! ……何もないのに?」
「それならそれでいい。
では聞こう。久しぶりに会った友達はどうだった。
懐かしかっただろう。高校以来だったらもう何年になる?
そんな友達がこんな所で、しかも覚えてくれていたんだ。
どんな気持ちになった。嬉しかっただろう。
なんでも話したくなったんじゃないか?」
レイミアンの最後の方は、声が大きくなり、リンにかなりの圧迫感を与えた。
それに、リンが懐かしいと思ったのは、否定できない事実にほかならなかった。
「……だからって、何も話さない。それくらい分かってる。
……信じて、本当に何も話してない。……本当なの」
必死に訴えたが、レイミアンには伝わっていない。
「信じろって。リンをか?
それは無理だ。信じられない。
何より、逃げようとした理由が分かった、懐かしい友達に会いたかった。
それとも、友達に手引きしてもらったか?」
「どうしたらいいの?
何もしてない。って、どうしたら分かってくれるの?」
リンは、自分が信じてもらってないことは、理解している。
しかし、それがこんなに、もどかしいものだとは、それまであまり考えないようにしていた。
否、受け流していた。
こんなもんだと。
それが今になって、信じてもらえていないという事実が、
こんなに重たいとは、思いもよらなかった。
「リン、そんなことはどうでもいい。
それより、彼らと会って、何したかったんだ。
逃げ出して、その後どうするつもりだった?
情報売ってみるか?
お前の持つ情報は、そこら辺にいる人間にはたいしたことなくても、その筋には絶大の価値がある。
どうだ、間違ってないだろう?」
リンは、何も言わない。反応もしない。
ただ、レイミアンを睨み付けたまま、それだけだった。
それには、レイミアンも、
「本当にリンは、生き方が下手だな。
本当のことを言えば何とかしてやれるが、このまま黙り込んだらただじゃすまない。
それを知っていて、何も話さないつもりなら、こっちもそれに従わなければならないだろう」
「ベーシャル、リンを立たせろ」
まだ、足元のしっかりしていないリンを立たせて、
レイミアンは、いきなりそして何の躊躇もなく膝を蹴り上げた。
「うぅっ……」
リンが崩れ落ちそうになると、それを掴みあげて、もう一度。
リンは、もう自分では体を支えきれなくなると、
ベーシャルに手伝わせ、リンはいい様に、なされるがままだった。
レイミアンが一息つくころには、リンの息は弱っていたが、意識は保ったままだった。
「リン。何かを守ろうとしてるのか?
だとしても、今は話すべきだと思うぞ」
穏やかに言うレイミアン。
「…………」
「リン!」
「そこまで言うのに、……なんで聞いてくれない? レイミアン」
「聞きたいが、状況は間違っていない。
それに、俺達はリンの力を知らない。
もし何かあっても、今は見つけることさえできない。
それほどお前の技術は優れてる。それに情報量も並みじゃない。
そんなリンが、何か企んでいるとは信じたくないが、不思議でもない。
だから、俺達の知らない何かがあるとすれば、それはそれで問題なんだよ」
「……だったら、私は裏切るようなこと……考えてない」
床に倒れこんだリンは、レイミアンを見上げた。
「もういい。リンは本部に戻される。そういう結論だ」
「……本部? なんで、何もしてないよ。本当に何も。
……信じて。レイミアン」
「すまない。これ以上出来ない。誤解かどうか、それは本部で判断される」
リンにとって、これは好ましくない。
「なんで、……」
レイミアンは、外から呼ばれる声で部屋を出て行った。
リンの状況は、一方的に悪い方へと傾いていく。さてこの後は、何が待っているというのか。
更新のペースはゆっくりですが、よろしくお願いします。




