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第一章  19

                16


 レイミアンは、まだ作業中の二人の元に行き、


「リンは本部に返す。残りの作業は二人で終わらせろ!」


「本部だって? リンは何をしたんだよ」

 アンリードは、レイミアンに詰め寄ったが、


「お前達には関係ない。今は作業に集中しろ」


「出来るわけないだろ! リンが何したんだよ。

  さっきリンが逃げようとしたとか何とか言ってたよな。

 あれ、どうなったんだよ。

 リンは逃げようなんてしてなかっただろ?」


 レイミアンは返事をせず、そのまま部屋を出て行った。

 目的は、例の学生に会いに行くためだ。


 学生の一人から連絡が来て、どうしても会いたい。

 伝えたいことがある。と、いう内容だった。


 テラスに行くと、二人の学生がいた。


 レイミアンは、ジェインを連れ立っていた。

 通訳がいないと、話にならないからだ。


 学生は、レイミアン達の姿を見ると、立ち上がり会釈をした。


『すみません。どうしても話したいことがあって』


 ジェインは同時通訳をしている。


「いや、それで、何かな? 用事は」


『はい。あの、……』

 学生の一人が言いよどむと、もう一人が痺れを切らしたように、


『すみません。

 さっきのリンさんのことで、ちょっと言い足りなかったので。聞いて下さい』


 レイミアンは、まさしく好都合と思い、

「こちらも聞きたいことがあります。ちょうど良かった」

 そう言うと、学生は話し出した。


『私は相田(あいだ)といいます。

 リンさんとは、昔、同じ学校に通っていました』


「むかし? 同じ学校というと……」

『高校です。一年生の半年だけでしたけど』


「半年? どうして」

『退学されて、それでどうしてるのか、気になってたんですけど連絡できなくて。

 ……なのに、ここで見かけて。

 どうしても会いたかったんですけど、会えなくて、……』


「退学ね。リンの方から姿を消した。か」


『そしたら、友達が協力してくれて、会わせてやるって。

 それで、利沙がトイレに行くタイミングで……』


「利沙、だって?」


『あっ、すみません。今はリンさんでしたよね。

 すみません。つい。

 一緒だった頃は、利沙って呼んでて』


「リンと友達だった。

 それで、それがどうして? 

 トイレがどうって、どういうことかな? 

 それと、何を聞かせてくれるんだい。

 何か言いたかったんだろう? 私達に」


『はい。あの、……僕達が、強引に来てくれって頼んだんです』


 香波の隣にいた弘が、二人の会話に加わった。

 言った後弘はうつむいてしまった。


「君達が? 何をしたんだ」

 レイミアンの鋭い視線に耐えられなかった。


 それでも、弘は思い切って、

『僕達が、どうしても会いたいからって、来てもらったんです』


「来てもらった。リンが納得してか?」

『いえ、あの、その辺りはちょっと……。

 ただ、分かってくれて、……それであの場所で話してたんです』


「リンは、君達に脅されたと言っている。

 それは確かか?」


『脅した。って、それは、……。

 ただ、あまり進んでってわけじゃないのは確かだと思う』


「そうか。で、リンは君達に何を話したのかな?」


『話してくれたのは、たった一つだけです。

 リンって呼ばれてる。それだけ』


「他には、何か言ってなかった?」

『いいえ、何も。何も話せないって。そう言ってました。だから……』


「では、何か頼まれたりは、しなかった?」

『頼み? いいえ……、何も』


『それが何かあるんですか? 

 ……頼みって、例えば、どんな?』


 香波と弘が重ねて聞くと、

「いや、それなら関係ない。

 他には、何かあるか。言いたいこと」


『できれば、もう一度リンさんと話をさせて下さい。

 今回のこと、謝りたくて。お願いします』


 香波は、レイミアンに頭を下げた。


「その件については、申し訳ないが叶えられない。

 リンは優秀なプログラマーで、貴重でね。そうそう部外者に会わせるわけには、いかない」


『少しでいいんです。お願いします』


「伝言なら、受け付けるよ」

『そんな。……』


「申し訳ない。話が済んだようだから、私達は行く。

 もう近寄らないでくれ」


『なら……、ここにすごいプログラマーがいるって、言いまわってやる。

 なんでもできるすごい奴だって! 

 そうしたら、ここの学生、山ほど押し寄せるだろうな? 

 ボディガードが足りるかどうか。だって、みんなそういうのを目指してるんだから』


 弘が明らかに挑発するように、レイミアンに言った。


「君達は、そんなこと言って……」


『いいよ、会わせてくれたら何もしない。

 ちょっとでいいんだ。……会わせてほしい』


 レイミアンは、仕方なく、 


「分かった。前向きに検討しよう。

 ただ、結果は希望に添えないかもしれない。いいね?」


『いいよ。それなら。でも、……いい結果を待ってる』


 そう言うと、レイミアンはすっと立ち上がって行ってしまった。

 その後ろ姿を見て、


『弘。すごいね。あんなこと、良く……。

 でも、ありがとう』


 弘は、椅子から滑り落ちた。

『どうしたの。弘、大丈夫?』


 そう言って香波は弘の手を取り、改めて椅子に座らせた。

 それを見て、香波は吹き出した。


『もしかして、今になって怯えてるの? 

 あんな威勢のいいこと言っておいて?』


『悪かったな。仕方ないだろう、あの迫力だぜ。かなり焦った。

 でも、感謝しろよ。会える可能性は残ったんだから。

 でも、……やっぱり、だめだろうな』


 弘のまだ震えの残る手に、軽くキスをして。


『ありがとう。助かった』

『いいよ。分かってくれたなら』


 なんだか、甘い雰囲気が二人の間に漂っていた。


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