第一章 16
乱暴な表現が出てきます。ご注意下さい。
なお、話の筋、設定上必要なので書いています。ご容赦を。
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まず、話したのは、レイミアンだった。
「リン。まず確認したい。どこに行こうとしたんだ?」
床にうずくまったリンに、立ったままのレイミアンは強く迫った。
すると、リンは不思議そうな表情で、
「? 何。どこに行く?」
「こっちが聞いてる。答えろ!」
レイミアンは、リンの襟首を掴みあげ、壁に押し付けた。
リンは、突然、しかも力任せのその行為で、一瞬呻いた。
「……何のことか分からない。私はどこにも行かない」
なんとか言うと、それでも、レイミアンが信じるわけがない。
「正直に言え。自分でトイレから姿を消したんだろう?
だったら、どこに行こうとした?
何をしようとしたんだ」
「何もしてない。自分から出てもいない。連れて行かれたの!」
リンの言葉に、
「話は聞いている。お前がトイレから姿を消し、彼ら学生と会った。
そこで色々話したらしいな? 一体何を話した。
しかも、日本語を使ったらしいが、何を話し何をしたかったんだ?」
レイミアンは、リンを掴んでいる手に力を込める。
すると、リンの足は宙に浮き、リンは余計に呻き声をあげた。
「し、知らない。……何のことか分からない」
「本当のことを話せ。それ以外聞く気はない。何がしたかったんだ!」
リンは、ますます顔色が悪くなっていく。
「知らない。本当に私は何もしてない。連れて行かれたんだから」
なんとかいうも、全く相手にされず、こう言われた。
「本当のことだけを言え! そうすれば何もしない。
それでも言う気がないなら、こっちも手段は問わない」
そう言うとレイミアンは、右膝をリンの腹部に蹴り上げた。
その瞬間リンは体を二つに折り曲げて床に沈んだ。
「逃げようとしたなら、そう言え!
逃げられると思っていたのか? 我々から。
……随分見くびられたもんだ」
床に膝を抱えるようにうずくまり、呻いているリンを、無理矢理引き起こし、
「いい加減。自分の立場をわきまえろ。
それで、何を話した! 学生相手に何を話したんだ!」
呻き声の合間に、
「……何も、話してなんかない。本当に、話してない」
「言いたくないのか? 何を、……情報でも漏らしたんじゃないだろうな?」
リンの体を揺さぶって無理矢理話させようとするが、リンは呻くだけで、
「何も、言ってない。本当に。……信じて」
レイミアンは、リンの体を壁に叩きつけ、
「いい加減に話せ。それまではこのままだ。
一旦ホテルに連れて行け。そこで続きを聞く」
後半は、ベーシャルとマクレンに指示をだし、レイミアンは出て行った。
リンは、脱力し埃だらけの体のまま、二人に抱えられホテルへと向かった。
リンが運ばれていく様子を、管理室のガラス越しに見たアンリードとヘイクワースは、
ただ事ではないと気づき、入って来たばかりのレイミアンに、
「あの、リンに何があったんですか? リン、何かしたんですか?」
「関係ない。お前達は、自分の仕事をしろ!
それとも、お前達は何か知っているのか?
リンが逃げようとたくらんでいた。それについて何か知っているのか?」
「「リンが、逃げる?」」
二人の声が重なった。思ってもみない内容を聞いて。
「どうした? 心当たりがあるのか?」
そう聞かれてアンリードは、
「そんなこと絶対にない。
そりゃ、ここはリンの母国かもしれないけど、でも、逃げるなんてこと、絶対しない」
「どうしてそう言いきれる?
母国だって言うんなら、逃げられると思うんじゃないか?」
レイミアンは、二人に意味ありげに言う。
すると、今度はいつも冷静なヘイクワースが、珍しくアンリードを押さえて、
「リンは、そんなことしない。
この仕事が終わったら休みがもらえるって喜んでいたんだ。花屋に行くんだって!
リンにとって初めての休み。やっともらえるって。あんなに喜んでいたのに……」
「それで? それがなんだ。
逃げたかったなんて、言う訳ないだろう? 同じ状況にいるお前達に本音を言うとでも?」
「そ、そんな。……でも、リンは絶対そんなことはしない。リンは……」
「リンが何だって? これから調べれば分かる。
それより本当に何も聞いてなかったのか? 知っていたのなら、
言った方がいい。どうだ? リンは何か言っていたか」
「「知らない! 知るわけないだろう」」
「リンは、どうなるんですか? リンは、今どうしてるんですか?」
「それは、これから調べてからだ」
「……調べて、どうするんですか? リンは、……」
「これからだよ。何もかも」
詰め寄る二人にあっさり言っただけで、支度を整えるとホテルに向かって出発した。
残された二人の作業は、全く進まなかった。




