第一章 11
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『友延利沙さん?』
トイレで用を済ませたリンが、個室から出てくると、そう声をかけられて、
「えっ?」
思わず振り返ったリンの前に、面識のない学生がいて、
もう一度、
『友延利沙さんだよね? だったら、これから、ちょっと来てほしいんだ』
そう言って、彼女は、リンの手を引っ張った。
「何?」
リンは、無視して出て行こうとしたが、進路をふさがれ、
「通して下さい! 急いでいるので」
無理にでも通ろうとすると、
彼女は、ちょうど入口とは反対側の腰高にある窓に向かって、
『ちょっと来て』
すると、男が二人入ってきた。
リンの二の腕を掴み、
『友延さん。来てもらいたいんだ。会わせたい奴がいる』
「イヤです。手を離して、ここから出して!」
それも無視して、強引に出て行こうとするが、
『悪いが、英語は分からないんだ。
日本語で言ってよ。それに大声はなし!』
『来いって。悪いようにはしないから。
早くしないと、外にいるボディガードに気づかれる』
それにも応じようとしないでいると、男の一人が、
『すぐすむから。ちょっと話すだけだよ』
リンが声を上げようとすると、その口を手で塞いだ。
『とにかく、ここから出よう』
リンを強引に窓の方へ促し、
『ここから出て。用事はすぐすむから、そうしたら戻ってくれていい』
そう言いながら、小さなナイフを背中に押し当てた。
それを見た二人の学生は、
『『なに? なんでそんなもの持ってる』の?』
『いいだろ? 早くしろ!』
そう言って、リンと三人の学生は、窓から出て行った。




